怜は後継者ではなくなったが、元々呑み込みが早く、何をやらせてもすぐに覚えていた。
19歳の時、表向きはアルバイトで雇用していたが、社長である慎二の口添えで一つのプロジェクトを任せてみた。 するとそのプロジェクトが成功し、会社に大きな利益をもたらした。 怜の実力が確かだった為、20歳の成人の日、潰れかけの子会社を任せてみたところそこでも成果をあげて立派な会社に育て上げた。 そうした怜の努力は周りに認められ、長井家の本家にも怜は認められた。 体が弱かった妹の凛も5年間の治療のおかげで体調が良くなり、今では齢15歳で怜を陰ながら補佐していた。 凛の得意分野はIT系だった為、学校に通いながら自宅で作業ができた。 本当にこの兄妹は天才といえる。 友莉子にとって自慢の子供達だった。 それでも友莉子は怜を跡継ぎにしてあげられなかった事をとても後悔しており、凛の体も良くなったので、二人に独立を提案した。 二人の足かせになるのなら、養子縁組を解消しても良いと言った程だ。 しかし二人は友莉子に泣きついてきた。「捨てないで母さん」
「私、お母さんがいないとお勉強できない」 「そうだよ母さん。僕達が仕事や勉強できないと母さん困るだろ」 「お母さんと一緒がいい~」 「僕も凛も母さんがいないと生きていけないんだ!」そう。この二人は友莉子にとても懐いていた。
怜は何をもってしても凛と友莉子が優先。 凛も怜と友莉子が優先となっていた。 慎二が仕事で朝まで帰ってこない日は三人で横並びになり寝る事もよくあった。 もちろん友莉子が真ん中で、両隣には兄妹が友莉子の腕にしがみついて寝る。 当時赤ん坊だった翔が泣き出すと、友莉子より怜や凛が世話をしに行き、大変だと思っていた子育ても二人のおかげでだいぶ楽ができた。 友莉子にとって、二人は我が子同然の存在だった。 そんな二人が6年前に慎二から梓を紹介された時、嫌悪感を露わにしていた。 二人は元々慎二には懐いておらず、また慎二も二人を嫌っており、最低限のコミュニケーションしかとってこなかった。 双方が喧嘩をした時の仲裁役はもちろん友莉子だった。 慎二から「俺とあの二人、どっちが大切なんだ!」っと何度言われたかわからない。 兄妹も友莉子にべったりとくっついていたが、慎二は二人から友莉子を奪い取り1ヶ月の間家から離れ、別荘で友莉子を強く抱きしめ「愛している。俺だけを見て...」と泣きながら告白をし続け独占した。もしかしたら六年前に梓が帰国したあの日から、慎二が梓と心を通わせ始めたのかもしれない。
その証拠に慎二は今まで大切な用事があっても必ず連絡し、早く帰れる時はすぐに帰ってきて友莉子を膝の上に乗せずっと抱きしめたりしていたのに、連絡はあるが、家に帰らない日が続くようになった。そして二年前、怜と凛が急遽海外に行くことになってしまった。怜は海外事業で、凛は留学へ。
そして同じ年に慎二は翔を連れて梓と頻繁に会うようになった。 友莉子は一気に一人になってしまい、心が寂しくなった。 更に追い打ちをかけるように、梓が自分と慎二の情事の動画を友莉子に送りつけてくるようになった。「見て。実は5年前から慎二は私と一緒にこんな事をしているのよ」
「慎二って情熱的よね。一度始まると中々寝かせてくれないんだもの」 「あなたの時はどうだったの?」 「あぁ…でももう忘れたかしら?」 「今のあなたは一人で惨めね」 「慎二はあなたより私を愛してるって!子供もたくさん作ろうって!」 「あなたはいつ彼と離婚してくれるの?いい加減慎二を解放してあげて!」友莉子は送られてきた動画にくぎ付けだった。
それは激しく行為をしている動画。 そこかしこに使用済みのコンドームが散乱し、梓の声も甘く、慎二の掠れた声も色気を帯びていた。 そう。友莉子はこの時初めて慎二の裏切りに気づかされたのだった。 更にこの動画を送られてきた数日後には、慎二は梓と梓の娘だという彩葉(いろは)を連れて帰ってきて言った。「友莉子、悪いがしばらくの間、梓と梓の娘の彩葉(いろは)ちゃんを家に置いてやってくれないか?」
友莉子は彩葉を見て絶望した。
彩葉はあまりにも慎二と梓に似ていた。 自然と彩葉が2人の子供である事を悟った。 極めつけは翔が3歳なのに対し彩葉は2歳。 妊娠は十月十日。 早産などあるが、年齢はあまり変わらない。 つまり慎二は少なくても梓が帰ってきてから1年後には関係をもったという事だ。 そしてこの時すでに翔は梓に懐いており、母親である友莉子より梓と一緒にいる事を好み、彩葉とも仲がとても良かった。 極めつけは毎晩家中に響く梓の嬌声。 一階のリビングにある慎二の書斎では毎晩淫らな行為が行われていたのだ。 梓が来て半月の間、友莉子は毎晩布団を頭まで被り、涙を流して耐えた。 そして耐え抜き、やっと朝が来ると友莉子は睡眠不足で頭が回っていない状態で全員分の食事を作り始める。 朝食を人数分並べ終わった時、友莉子が席に着く前に四人が先に食べ始め、食べ終わった後は全て友莉子に任せ、慎二は仕事へ、梓は翔と彩葉をつれて幼稚園へ送迎してから仕事に行く。 誰も友莉子を気遣う事は無かった。まるで友莉子がこの家の中で異物かのように感じた。
梓達がやってきてから1ヶ月が経った頃、友莉子は精神的にも体力的にも限界を迎えた。
普段はお手伝いさんや慎二の補佐役など1人、2人いるはずだが、その日はたまたま誰もおらず友莉子だけとなった。 友莉子は慎二の書斎に入り、梓と愛し合っていたソファをみた。 今、そのソファは何事もなかったかのようにそこにある。 その次に目を向けたのは、机の上に立てられてる慎二と梓の結婚写真。 動画の中でその写真は床に落ち、写真立てが割れていた。そしてその上には使用済みのコンドームが何個かのっていた。 しかし今は綺麗になり、元の形を保っている。 友莉子はそっと書斎を後にした。――愛、子供、不倫、隠し子…愛…愛…
――愛ってなんだっけ…友莉子は窓の外に視線を向け、慎二と出会う前の自分を思い出していた。
あの時は楽しかった。 事故で母が亡くなり父が重症を負い、いまなお目が覚めない状態ではあるけど、周りには同じ趣味をもった仲間がいて、何より自分が好きな【歌う】事ができていた。 歌った動画をネットにアップロードし、収入を得ることができていた。 大学入学前に大手事務所から誘いがあった。 しかしギターを担当していたメンバーが4年間海外へ留学する為、帰国後に所属する事になっていた。 しかし慎二と付き合うようになり、結婚を前提となった時、友莉子は夢を諦める事になった。 慎二は友莉子が不特定多数の人物に見られるのを酷く嫌ったからだ。 友莉子はそれが慎二の嫉妬であり独占欲である事を理解していたし、自分も慎二の事を深く愛していたので諦める事ができた。だから歌うことはやめた。 だが、音楽から完全に離れる事ができなかったので、慎二に隠れて曲を作る事にした。 いつか慎二が理解してくれてこの曲を歌える日が来る事を願いながら。 だけど今の自分はどうだろう。 毎日夫と子供、更には愛人と隠し子に時間を割いているだけだ。「もしも私が慎二の告白を受け入れなければ…」
「もしも慎二と出会わなければ…」――そうすれば私はまだ歌っていたのかな…
そこで友莉子の意識が途切れた。
「……さん」 「か……さ…ん」 「母さん!!!」友莉子は思い出の中に浸っていたが、怜の呼びかけに意識が現実に戻った。 そして目の前の少年から青年に育った怜をじっくりと見つめ、やがて笑顔を見せる。「ごめんなさい。昔の事を思い出していて…」 「昔の事?」 「えぇ…あなたが家に来たばかりの頃、部屋を何回も間違えてしまったり、外から帰ってこれなかったり…お化けが出るって夜中に私の布団に入ってきたり...フフッ…」 「母さん!その話はやめてくれよ!」友莉子は本当は2年前、怜達が海外へ行った時の事を思い出していたが、怜達は自分の事になるとかなり無茶をするので、彼らが居なかった時の事は怜や凛には伝えないように心に決めていた。「それより...いつ帰ってきたの?連絡ぐらいくれたら、空港まで迎えに行ったのに…」 「母さんを驚かせたくて、こっそりきたんだ!」 「驚いた?」怜は悪戯が成功した子供のように、無邪気な笑顔を浮かべた。 友莉子はそんな怜を愛おしく感じた。――この子のこんな表情は変わらないわね。可愛い...そんな事を考えていると、怜の手が友莉子の目元に触れた。「母さん...ごめん...そんなに驚かせてしまった?」 「えっ...?」友莉子が怜の指の上にのってる水滴に目を見張った。 そして自分でも触れてみると、涙がとめどなく溢れてきていた。「あれ?どうして...?こんなに嬉しいのに...なんで涙が...」友莉子は手の甲で涙を拭っているが、とめどなく出てくる涙の量が多く、間に合っていない。 怜はそんな友莉子を見ていると、心が苦しくなった。 そしてそっと友莉子を抱きしめる。「母さん...ごめん...ごめん...」――母さんを1人にしてごめん...。友莉子
再び友莉子が目を覚ました時、見知らぬ天井が目に入った。ふと横を見ると慎二が友莉子の手を強く握りながら疲れた様子で眠っていた。その目の下には濃い隈ができてる。友莉子は慎二に握られている手を意識した時、嬉しさより先にこう思ってしまった。――気持ちが悪い。やっとの事で慎二から手が抜けそうになった時、更に強い力で握られた。「友莉子!目を覚ましたんだね!!良かった…本当に良かった…」慎二は涙をとめどなく流しながら友莉子の右手を両手で包み込み、自身の額に当てた。「家に忘れ物をして帰ったら、倒れている君がいたんだ」「頭から血を流してて...呼びかけても...呼びかけても返事がなくて...君に万が一の事があったら俺は生きていけない...」慎二は友莉子を愛おしそうに...そして本当に友莉子がいないと生きていけないと思わせる程の悲壮感を漂わせている。そんな慎二を友莉子は冷たく見つめていた。ようやく慎二が落ち着きを取り戻した頃、病室に担当医と看護師が入ってきた。「長井さん。頭は恐らく倒れられた時に切れただけだと思いますが、念の為、詳しい検査をしましょう。」「それと長井さんには持病もなく、今回の検査ではどこも異常が見受けられませんでした。今回倒れられたのは恐らく心理的負担…まぁストレスですね。そして寝不足のせいかもしれません。」医師は目元を緩めてゆっくりと伝える。「長井さんには入院が必要なので、入院中はゆっくり休んで、体力を回復するのに務めてください」「わかりました」担当医の説明が終わると同時に、看護師も点滴を変え終わり、2人で病室を後にした。病室に静寂が訪れた。その静寂を最初に破ったのは友莉子だった。「ねぇ慎二…」「何?」友莉子は窓の外を見ながら一言一言確実に伝えられるようにゆっくりと言葉を紡いだ。「私達……」「離婚しましょう…」
怜は後継者ではなくなったが、元々呑み込みが早く、何をやらせてもすぐに覚えていた。 19歳の時、表向きはアルバイトで雇用していたが、社長である慎二の口添えで一つのプロジェクトを任せてみた。 するとそのプロジェクトが成功し、会社に大きな利益をもたらした。 怜の実力が確かだった為、20歳の成人の日、潰れかけの子会社を任せてみたところそこでも成果をあげて立派な会社に育て上げた。 そうした怜の努力は周りに認められ、長井家の本家にも怜は認められた。 体が弱かった妹の凛も5年間の治療のおかげで体調が良くなり、今では齢15歳で怜を陰ながら補佐していた。 凛の得意分野はIT系だった為、学校に通いながら自宅で作業ができた。 本当にこの兄妹は天才といえる。 友莉子にとって自慢の子供達だった。 それでも友莉子は怜を跡継ぎにしてあげられなかった事をとても後悔しており、凛の体も良くなったので、二人に独立を提案した。 二人の足かせになるのなら、養子縁組を解消しても良いと言った程だ。 しかし二人は友莉子に泣きついてきた。「捨てないで母さん」 「私、お母さんがいないとお勉強できない」 「そうだよ母さん。僕達が仕事や勉強できないと母さん困るだろ」 「お母さんと一緒がいい~」 「僕も凛も母さんがいないと生きていけないんだ!」そう。この二人は友莉子にとても懐いていた。 怜は何をもってしても凛と友莉子が優先。 凛も怜と友莉子が優先となっていた。 慎二が仕事で朝まで帰ってこない日は三人で横並びになり寝る事もよくあった。 もちろん友莉子が真ん中で、両隣には兄妹が友莉子の腕にしがみついて寝る。 当時赤ん坊だった翔が泣き出すと、友莉子より怜や凛が世話をしに行き、大変だと思っていた子育ても二人のおかげでだいぶ楽ができた。 友莉子にとって、二人は我が子同然の存在だった。 そんな二人が6年前に慎二から梓を紹介された時、嫌悪感を露わにしていた。 二人は元々慎二には懐いておらず、また慎二も二人を嫌っており、最低限のコミュニケーションしかとってこな
***** 友莉子は重たい体を無理矢理起こして、身支度を始めた。 そして洋服を着て一階にゆっくり降りている最中に、ドアが開く音がして足を止めた。 ――帰ってきたのかな… 友莉子は逡巡した。 今あの二人に会えば問い詰めてしまいそうだからだ。 それにまだ決断するには、あの二人の存在は友莉子にとって大きすぎる。 だけど大きすぎるが為に、一度傷つくと立ち直れなくなる。 友莉子は足音を立てずに自室に引き返そうとした時、背後から嬉しそうな声をかけられた。 「ただいま、母さん。」 友莉子が振り向くと、そこにはスーツを完璧に着こなし太陽のような笑顔を浮かべる青年、長井 怜(ながい れい)が立っていた。 「…怜…あなただったのね…お帰りなさい」 友莉子は怜だと認識した途端に緊張で強張らせていた表情から一変して、優しく包み込むような笑顔を見せた。 その表情の変わりように怜は眉を寄せたが、気にせずゆっくりと友莉子に近づき抱擁した。 「…はぁ…本当にただいま。母さん…会いたかった…」 「もぅ!子供じゃないんだから甘えないの!」 怜は友莉子より頭一つ分ほど身長が高かったが、友莉子の肩に頭をのせて自分の臭いをつけるかのように頭を擦り続けた。 怜は慎二と友莉子が九年前に引き取った養子だ。 結婚一年目で子供ができなかった友莉子は慎二の義母、時子に必要以上に責められた。 会うたびに子供が出来ない事を罵られ、無能呼ばわりされていた。 それを知った慎二が祖母のふみ江の許可を取り、後継者候補にする為に孤児院から養子を引き取る事になった。 それが当時十四歳の怜だった。 怜は体の弱い妹、凛《りん》をとても大事にしており、早く治療をしてくれて大切に育ててくれる養子先がくる事を日々願っていた。 そしてようやく来たのが友莉子達だった。 怜は身なりでとても裕福そうな家だと判断し、そして何より友莉子の容姿に惹かれた。 二人の会話を聞いていると、慎二は友莉子には優しかったが、近づいてきた子供達に手を差し出そうとはしなかった。 ただ仮面のような笑顔を貼りつけているだけだった。 反対に友莉子は子供を抱っこしたり、服に子供の鼻水や涎がついても笑顔でその子の頭を撫でていた。 怜はとても悩んだ。 確かに友莉子はとても良い人だろう。それは
鳥の囀りが眠っていた友莉子の意識を少しずつ覚醒させる。――…夢…昔の夢。友莉子は慎二と出会った頃の夢を見ていた。「はぁ…何が一生よ…本当…嘘つき…」結婚してから10年…本当に色々な事があった。慎二の継母には出自が卑しいというので嫌われており、毎年新年や慎二の祖父のお墓参りの時は神経を使い、嫌がらせにも耐えている。幸いな事に、祖母や双子の弟妹には好かれているので、それほど居心地が悪いわけではない。慎二の父親は形式的な挨拶以外、友莉子には無関心でいる。ある出来事がきっかけで、夢を諦める事になってしまったが後悔はしていなかった。それは全部、慎二と共に生きる為だったから。翔が生まれてからは夫婦生活は大変だったけどとても幸せだった。しかし六年前、慎二の幼馴染の流連梓(りゅうれんあずさ)が海外から帰国した時、この生活が徐々に壊れ始めた。――慎二は梓さんの事が好きなの…よね…梓が帰国してからの慎二は、梓が生活における何よりの優先事項になっていた。どんなに忙しくても梓が寂しいと言えば、家からすぐに出て行き一日中戻らない。帰国したすぐ後に歓迎パーティーをすると言って、お金を何億とつぎ込みクルーズ船で行い花火を上げたりとそれはとても豪華な歓迎パーティだったそうだ。梓が友莉子の事を嫌っている為、歓迎パーティには来るなと言われ、そして当時一歳だった翔まで連れていかれた。友莉子一人が家に残った。友莉子が風邪を引き苦しんでいる時、梓もまた風邪を引き、慎二は翔を連れて梓の看病に行った。――それに…友莉子が一番傷ついたのは半年前の出来事だった。梓から夜の港に呼び出されてこう言われた。「そろそろ慎二から離れてくれないかしら?もちろん翔君は大切に育ててあげるから…」「何を言っているの…」「フフ。だって慎二は今も昔も私が好きなんだもの…翔君だって、貴方より私が好きだって。あなたが邪魔なの。私は慎二をずっと愛していたのに、帰ってきたら貴方がいたのよ…本当に腹立たしいったらないわ!」「私は!!!!」友莉子が反論しようとした所で、梓は友莉子の後ろに何かを見て目を光らせてこう続けた。「そうだ…賭けましょう。慎二は私と貴方のどちらを優先するか…そしてどちらの言い分を信じるか…」梓の口元が怪しい笑みを浮かべた瞬間に叫び始めた。「きゃ~~!!友莉子さんや
沢山の桜が舞い散る桜並木道を友莉子がゆっくり歩いている。一歩一歩踏みしめ、これから四年間の大学での学びに心を躍らせる。そして友莉子を見た周りの人は友莉子に心惹かれていた。友莉子は腰まである銀色の髪に瞳の色がオッドアイという目立つ容姿をしていた。また容姿だけではなく、友莉子が纏う優しい雰囲気も人を魅了している。彼女の両親は白蓮国によく生まれる黒髪黒目という容姿をしており、友莉子だけが違った。しかし母方の親戚は外国の血筋が混ざっているので、稀に生まれる特徴的な容姿なのだそうだ。幸い、この容姿で虐められることもなく両親に愛されて育ってきた友莉子だったが、15歳の時、両親が交通事故に合い母はこの世を去った。父は運良く命を繋いだが、植物状態となっている。事故が起きた後、母方とは絶縁状態だった為、父方の祖父母に育てられた。友莉子は祖父母に負担をかけないように、そして父の治療費を少しでも稼ぐためにインターネットで自分が作った歌を流して少しずつ稼いだ。昔から歌うのが好きだったので、趣味もかねてというのも継続する力になった。そうして細々と活動しているうちに、16歳の春、バンド仲間ができた。そこからはネットでの人気が高まり収入がかなりよく、治療費や生活費だけではなく大学に行ける費用も稼げた。そんな経緯で入学できた大学は友莉子にとって楽しみの場所になるのは必然だ。バンド仲間もそれぞれの道に進んだが、これからも一緒にバンド活動をし、ゆくゆくは顔を出してメジャーデビューをしたいと夢を語っていた。実際、事務所からの誘いもあった為、皆は大学生活に慣れたら本気で考えるつもりでいた。それに一人は本格的に海外へ音楽を学びにいってしまった為、メジャーデビューの話を受けるにしても彼が帰ってきてからになる。入学してから暫くが経ち、大学生活にもようやく慣れてきた頃、友莉子の前に赤いバラを両手いっぱいにして立ちふさがった青年がいた。彼は二年先輩の長井信二。世界第三位の大企業の御曹司であり、その容姿も優れていた為、学校中の女生徒が彼に好意を抱いていた。更にはどの女性にもなびかない難攻不落の城塞で、女生徒の告白を断る時も冷淡に突き放すように断る事で有名だった。彼に告白して撃沈した女生徒は涙を流して去り、翌日からは彼に近づかないようにするくらいだ。噂だとかなり酷い振られ