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003.過去2

Author: 小嵩 名雪
last update Last Updated: 2025-10-02 23:57:09

鳥の囀りが眠っていた友莉子の意識を少しずつ覚醒させる。

――…夢…

昔の夢。

友莉子は慎二と出会った頃の夢を見ていた。

「はぁ…何が一生よ…本当…嘘つき…」

結婚してから10年…本当に色々な事があった。

慎二の継母には出自が卑しいというので嫌われており、毎年新年や慎二の祖父のお墓参りの時は神経を使い、嫌がらせにも耐えている。

幸いな事に、祖母や双子の弟妹には好かれているので、それほど居心地が悪いわけではない。

慎二の父親は形式的な挨拶以外、友莉子には無関心でいる。

ある出来事がきっかけで、夢を諦める事になってしまったが後悔はしていなかった。

それは全部、慎二と共に生きる為だったから。

翔が生まれてからは夫婦生活は大変だったけどとても幸せだった。

しかし六年前、慎二の幼馴染の流連梓(りゅうれんあずさ)が海外から帰国した時、この生活が徐々に壊れ始めた。

――慎二は梓さんの事が好きなの…よね…

梓が帰国してからの慎二は、梓が生活における何よりの優先事項になっていた。

どんなに忙しくても梓が寂しいと言えば、家からすぐに出て行き一日中戻らない。

帰国したすぐ後に歓迎パーティーをすると言って、お金を何億とつぎ込みクルーズ船で行い花火を上げたりとそれはとても豪華な歓迎パーティだったそうだ。

梓が友莉子の事を嫌っている為、歓迎パーティには来るなと言われ、そして当時一歳だった翔まで連れていかれた。

友莉子一人が家に残った。

友莉子が風邪を引き苦しんでいる時、梓もまた風邪を引き、慎二は翔を連れて梓の看病に行った。

――それに…

友莉子が一番傷ついたのは半年前の出来事だった。

梓から夜の港に呼び出されてこう言われた。

「そろそろ慎二から離れてくれないかしら?もちろん翔君は大切に育ててあげるから…」

「何を言っているの…」

「フフ。だって慎二は今も昔も私が好きなんだもの…翔君だって、貴方より私が好きだって。あなたが邪魔なの。

私は慎二をずっと愛していたのに、帰ってきたら貴方がいたのよ…本当に腹立たしいったらないわ!」

「私は!!!!」

友莉子が反論しようとした所で、梓は友莉子の後ろに何かを見て目を光らせてこう続けた。

「そうだ…賭けましょう。慎二は私と貴方のどちらを優先するか…そしてどちらの言い分を信じるか…」

梓の口元が怪しい笑みを浮かべた瞬間に叫び始めた。

「きゃ~~!!友莉子さんやめて!!!」

その瞬間、梓はわざと海に落ち、落ちる瞬間に友莉子の袖を強く引き一緒に暗闇の中、海へと落とした。

友莉子は昔、川で溺れそうになった事があった。

それからというもの水が苦手になり、プールでさえもあまり近づきたくなかった。

そんな友莉子がいきなり海に落ちてしまった為、パニックに陥っていた。

暗く冷たい海水の中、服が重たくなり藻掻いても藻掻いても沈んでいく恐怖。

ふと目を開けると、少し離れた所に梓がいた。

そしてそんな梓を慎二が大切そうに引き上げていったのを見た。

友莉子はその光景を見て絶望した。

選ばれたのは自分ではなく梓で、自分が泳げないのも、水が怖いのも全て知っていてそれでも慎二は梓を助けた。

友莉子はそこで意識を手放した。

友莉子が目を覚ますと、最初に視界に入ってきたのは見慣れない天井だった。

視線を少し横に向けると、点滴があり、その管は自分の腕に繋がっているようだった。

「こ…こ…は…」

友莉子は声をだそうと口を動かしたが、声が思ったように出なかった。

そんな時ドアが開く音が聞こえ、足音が耳に入った。

「あっ!パパ!!ママが起きてるよ!」

最初に聞こえたのは聞きなれた自分の息子の声で、友莉子は安心した。

――生きている…。

しかし安心したのもつかの間、息子が声を荒げた。

「ママ酷いよ!!梓お姉さんをあんな冷たい海に落とすなんて!

梓お姉さんに何かあったら僕、ママの事嫌いになるからね!!ちゃんと梓お姉さんに謝ってよ!」

「な…ん…で……」

――なんで…私は翔にこんな事言われているの…

――なんで私が梓さんに何かした事になっているの…なんで…私が海に落ちないといけなかったの…

友莉子は声にならない声を心の中で叫んでいた。

ふと慎二の方を見ると視線が合った。

しかしその目には軽蔑と失望の色が浮かんでいるように見える。

友莉子の目から涙が一つ、また一つと流れて止まらなくなった。

そんな母親の姿に驚いた翔は、焦りながら言葉を紡ぐ。

「こっ!ここで泣いたって許さないからね!体調が良くなったら絶対に梓お姉さんに謝ってよね!

ママが梓お姉さんを落とした所、見てたんだから!!」

翔は友莉子が梓を海に落とした所を見たと言った。

呼び出されなければ決して近づく事がない【海】にだ。

「は…はは…」

友莉子の口から乾いた声が漏れた。

そして友莉子はどこにそんな力があったのか、点滴の管を思いっきり引き抜きゆっくりと起き上がり叫ぶ。

「…ふ…ざけるな…ふざけるな…ふざけるなぁぁぁぁ~~~!!!」

心の痛みを、そして家族が自分を心配せずに真っ先に他人の心配とやってもいない事の謝罪を要求してきた。

こんな馬鹿な事があってたまるかと、怒りを爆発させていた。

翔はいつも優しく、自分がどんなに悪い事をしても大声を出す事がなかった母親の初めての怒鳴り声に驚いて尻もちをつき、目には恐怖で涙を浮かべている。

慎二も友莉子が叫ぶのを初めて見て驚いていた。

そして目線をベットに移すと赤い血がじわりじわりと広がっているのを確認し、ひとまず友莉子を落ち着かせる事を優先した。

「友莉子、落ち着くんだ。まずは体調を整えるんだ。君は二日間、目を覚まさなかったんだ。急に動くと体に良くない。それと腕を上にあげるんだ。」

友莉子は無我夢中で暴れ、慎二の顔や体を力いっぱい殴ったり引っかいたりしていた。

そんな母親の姿を目の当たりにして、翔は恐怖で震えていた。

「翔。パパはママを落ち着かせるから、そこのボタンを押して、看護師さんを呼んでくれ。大丈夫だ。ママはちょっと混乱しているだけだから」

翔はゆっくりと立ち上がって、慎二に言われた通りにナースコールを押した。

ナースコールが三回鳴った後、「はい。いかがされましたか?」っと女性の落ち着いた声が聞こえると、翔は叫んだ。

「助けて!!ママが!ママが!!パパを殺しちゃうよ!!!」

翔は混乱と目の前に飛び散ってくる友莉子の血に恐怖しながらナースコールを強く握り「助けて!」っとずっと叫んでいた。

すぐに看護師と医者が病室に到着したが、病室の雰囲気に一瞬ひるんだ。

ナースコールを強く握りしめ小さく丸まっている幼い少年と、男性に羽交い絞めされている涙を流す女性。

そしてその女性の腕から滴る血が、シーツを赤く染めていた。

そんな中、一人の看護師が翔に声をかけた。

「僕。もう大丈夫だから…ゆっくりそれを離して、お姉さんと廊下に行きましょうね」

翔は差し出された看護師の手をゆっくり取り、抱っこされながら廊下に連れていかれた。

そして慎二に羽交い絞めにされ、押さえられていた友莉子は力尽きたのか、体から力が抜け、眠りに落ちた。

そんな様子を見ていた担当医がホッと息を吐いた。

「長井さん。奥様はまだ絶対安静なんですよ。どうしてこんな事になったんですか…」

「…すみません…」

慎二はその場にいた医師や看護師から冷たい視線を向けられた。

何故ならここで働く人達は知っていた。

自分の妻が目を覚まさないのにあまり見舞いにも来ず、同じ日に運ばれた【流蓮梓】という女性の元へ子供と一緒に入り浸っているという事を。

看護師の一人が友莉子に点滴し直そうと作業をしながら「最低ね」っと小声で呟いた。

病室は静かだったので、その場にいた全員の耳にその言葉が届き、担当医が「コホン」と咳払いをした。

そして慎二に向き合い尋ねた。

担当医は先程より語気を強めて尋ねる。

「旦那様…なんですよね?なぜこんな事に?」

「…申し訳ございません…」

慎二は俯きながら言い訳もせず、ただ「すみません」と伝えるだけだった。

担当医はそんな慎二に呆れ、わざと大きなため息をした後、「出て行ってください」っと冷たく伝えた。

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