鳥の囀りが眠っていた友莉子の意識を少しずつ覚醒させる。
――…夢…
昔の夢。
友莉子は慎二と出会った頃の夢を見ていた。「はぁ…何が一生よ…本当…嘘つき…」
結婚してから10年…本当に色々な事があった。
慎二の継母には出自が卑しいというので嫌われており、毎年新年や慎二の祖父のお墓参りの時は神経を使い、嫌がらせにも耐えている。 幸いな事に、祖母や双子の弟妹には好かれているので、それほど居心地が悪いわけではない。 慎二の父親は形式的な挨拶以外、友莉子には無関心でいる。 ある出来事がきっかけで、夢を諦める事になってしまったが後悔はしていなかった。 それは全部、慎二と共に生きる為だったから。 翔が生まれてからは夫婦生活は大変だったけどとても幸せだった。 しかし六年前、慎二の幼馴染の流連梓(りゅうれんあずさ)が海外から帰国した時、この生活が徐々に壊れ始めた。――慎二は梓さんの事が好きなの…よね…
梓が帰国してからの慎二は、梓が生活における何よりの優先事項になっていた。
どんなに忙しくても梓が寂しいと言えば、家からすぐに出て行き一日中戻らない。 帰国したすぐ後に歓迎パーティーをすると言って、お金を何億とつぎ込みクルーズ船で行い花火を上げたりとそれはとても豪華な歓迎パーティだったそうだ。 梓が友莉子の事を嫌っている為、歓迎パーティには来るなと言われ、そして当時一歳だった翔まで連れていかれた。 友莉子一人が家に残った。 友莉子が風邪を引き苦しんでいる時、梓もまた風邪を引き、慎二は翔を連れて梓の看病に行った。――それに…
友莉子が一番傷ついたのは半年前の出来事だった。
梓から夜の港に呼び出されてこう言われた。「そろそろ慎二から離れてくれないかしら?もちろん翔君は大切に育ててあげるから…」
「何を言っているの…」 「フフ。だって慎二は今も昔も私が好きなんだもの…翔君だって、貴方より私が好きだって。あなたが邪魔なの。 私は慎二をずっと愛していたのに、帰ってきたら貴方がいたのよ…本当に腹立たしいったらないわ!」 「私は!!!!」友莉子が反論しようとした所で、梓は友莉子の後ろに何かを見て目を光らせてこう続けた。
「そうだ…賭けましょう。慎二は私と貴方のどちらを優先するか…そしてどちらの言い分を信じるか…」
梓の口元が怪しい笑みを浮かべた瞬間に叫び始めた。
「きゃ~~!!友莉子さんやめて!!!」
その瞬間、梓はわざと海に落ち、落ちる瞬間に友莉子の袖を強く引き一緒に暗闇の中、海へと落とした。
友莉子は昔、川で溺れそうになった事があった。 それからというもの水が苦手になり、プールでさえもあまり近づきたくなかった。 そんな友莉子がいきなり海に落ちてしまった為、パニックに陥っていた。 暗く冷たい海水の中、服が重たくなり藻掻いても藻掻いても沈んでいく恐怖。 ふと目を開けると、少し離れた所に梓がいた。 そしてそんな梓を慎二が大切そうに引き上げていったのを見た。 友莉子はその光景を見て絶望した。 選ばれたのは自分ではなく梓で、自分が泳げないのも、水が怖いのも全て知っていてそれでも慎二は梓を助けた。 友莉子はそこで意識を手放した。友莉子が目を覚ますと、最初に視界に入ってきたのは見慣れない天井だった。
視線を少し横に向けると、点滴があり、その管は自分の腕に繋がっているようだった。「こ…こ…は…」
友莉子は声をだそうと口を動かしたが、声が思ったように出なかった。
そんな時ドアが開く音が聞こえ、足音が耳に入った。「あっ!パパ!!ママが起きてるよ!」
最初に聞こえたのは聞きなれた自分の息子の声で、友莉子は安心した。
――生きている…。
しかし安心したのもつかの間、息子が声を荒げた。
「ママ酷いよ!!梓お姉さんをあんな冷たい海に落とすなんて!
梓お姉さんに何かあったら僕、ママの事嫌いになるからね!!ちゃんと梓お姉さんに謝ってよ!」 「な…ん…で……」――なんで…私は翔にこんな事言われているの…
――なんで私が梓さんに何かした事になっているの…なんで…私が海に落ちないといけなかったの…友莉子は声にならない声を心の中で叫んでいた。
ふと慎二の方を見ると視線が合った。 しかしその目には軽蔑と失望の色が浮かんでいるように見える。 友莉子の目から涙が一つ、また一つと流れて止まらなくなった。 そんな母親の姿に驚いた翔は、焦りながら言葉を紡ぐ。「こっ!ここで泣いたって許さないからね!体調が良くなったら絶対に梓お姉さんに謝ってよね!
ママが梓お姉さんを落とした所、見てたんだから!!」翔は友莉子が梓を海に落とした所を見たと言った。
呼び出されなければ決して近づく事がない【海】にだ。「は…はは…」
友莉子の口から乾いた声が漏れた。
そして友莉子はどこにそんな力があったのか、点滴の管を思いっきり引き抜きゆっくりと起き上がり叫ぶ。「…ふ…ざけるな…ふざけるな…ふざけるなぁぁぁぁ~~~!!!」
心の痛みを、そして家族が自分を心配せずに真っ先に他人の心配とやってもいない事の謝罪を要求してきた。
こんな馬鹿な事があってたまるかと、怒りを爆発させていた。 翔はいつも優しく、自分がどんなに悪い事をしても大声を出す事がなかった母親の初めての怒鳴り声に驚いて尻もちをつき、目には恐怖で涙を浮かべている。 慎二も友莉子が叫ぶのを初めて見て驚いていた。 そして目線をベットに移すと赤い血がじわりじわりと広がっているのを確認し、ひとまず友莉子を落ち着かせる事を優先した。「友莉子、落ち着くんだ。まずは体調を整えるんだ。君は二日間、目を覚まさなかったんだ。急に動くと体に良くない。それと腕を上にあげるんだ。」
友莉子は無我夢中で暴れ、慎二の顔や体を力いっぱい殴ったり引っかいたりしていた。
そんな母親の姿を目の当たりにして、翔は恐怖で震えていた。「翔。パパはママを落ち着かせるから、そこのボタンを押して、看護師さんを呼んでくれ。大丈夫だ。ママはちょっと混乱しているだけだから」
翔はゆっくりと立ち上がって、慎二に言われた通りにナースコールを押した。
ナースコールが三回鳴った後、「はい。いかがされましたか?」っと女性の落ち着いた声が聞こえると、翔は叫んだ。「助けて!!ママが!ママが!!パパを殺しちゃうよ!!!」
翔は混乱と目の前に飛び散ってくる友莉子の血に恐怖しながらナースコールを強く握り「助けて!」っとずっと叫んでいた。
すぐに看護師と医者が病室に到着したが、病室の雰囲気に一瞬ひるんだ。 ナースコールを強く握りしめ小さく丸まっている幼い少年と、男性に羽交い絞めされている涙を流す女性。 そしてその女性の腕から滴る血が、シーツを赤く染めていた。そんな中、一人の看護師が翔に声をかけた。
「僕。もう大丈夫だから…ゆっくりそれを離して、お姉さんと廊下に行きましょうね」
翔は差し出された看護師の手をゆっくり取り、抱っこされながら廊下に連れていかれた。
そして慎二に羽交い絞めにされ、押さえられていた友莉子は力尽きたのか、体から力が抜け、眠りに落ちた。 そんな様子を見ていた担当医がホッと息を吐いた。「長井さん。奥様はまだ絶対安静なんですよ。どうしてこんな事になったんですか…」
「…すみません…」慎二はその場にいた医師や看護師から冷たい視線を向けられた。
何故ならここで働く人達は知っていた。 自分の妻が目を覚まさないのにあまり見舞いにも来ず、同じ日に運ばれた【流蓮梓】という女性の元へ子供と一緒に入り浸っているという事を。 看護師の一人が友莉子に点滴し直そうと作業をしながら「最低ね」っと小声で呟いた。 病室は静かだったので、その場にいた全員の耳にその言葉が届き、担当医が「コホン」と咳払いをした。 そして慎二に向き合い尋ねた。 担当医は先程より語気を強めて尋ねる。「旦那様…なんですよね?なぜこんな事に?」
「…申し訳ございません…」慎二は俯きながら言い訳もせず、ただ「すみません」と伝えるだけだった。
担当医はそんな慎二に呆れ、わざと大きなため息をした後、「出て行ってください」っと冷たく伝えた。「……さん」 「か……さ…ん」 「母さん!!!」友莉子は思い出の中に浸っていたが、怜の呼びかけに意識が現実に戻った。 そして目の前の少年から青年に育った怜をじっくりと見つめ、やがて笑顔を見せる。「ごめんなさい。昔の事を思い出していて…」 「昔の事?」 「えぇ…あなたが家に来たばかりの頃、部屋を何回も間違えてしまったり、外から帰ってこれなかったり…お化けが出るって夜中に私の布団に入ってきたり...フフッ…」 「母さん!その話はやめてくれよ!」友莉子は本当は2年前、怜達が海外へ行った時の事を思い出していたが、怜達は自分の事になるとかなり無茶をするので、彼らが居なかった時の事は怜や凛には伝えないように心に決めていた。「それより...いつ帰ってきたの?連絡ぐらいくれたら、空港まで迎えに行ったのに…」 「母さんを驚かせたくて、こっそりきたんだ!」 「驚いた?」怜は悪戯が成功した子供のように、無邪気な笑顔を浮かべた。 友莉子はそんな怜を愛おしく感じた。――この子のこんな表情は変わらないわね。可愛い...そんな事を考えていると、怜の手が友莉子の目元に触れた。「母さん...ごめん...そんなに驚かせてしまった?」 「えっ...?」友莉子が怜の指の上にのってる水滴に目を見張った。 そして自分でも触れてみると、涙がとめどなく溢れてきていた。「あれ?どうして...?こんなに嬉しいのに...なんで涙が...」友莉子は手の甲で涙を拭っているが、とめどなく出てくる涙の量が多く、間に合っていない。 怜はそんな友莉子を見ていると、心が苦しくなった。 そしてそっと友莉子を抱きしめる。「母さん...ごめん...ごめん...」――母さんを1人にしてごめん...。友莉子
再び友莉子が目を覚ました時、見知らぬ天井が目に入った。ふと横を見ると慎二が友莉子の手を強く握りながら疲れた様子で眠っていた。その目の下には濃い隈ができてる。友莉子は慎二に握られている手を意識した時、嬉しさより先にこう思ってしまった。――気持ちが悪い。やっとの事で慎二から手が抜けそうになった時、更に強い力で握られた。「友莉子!目を覚ましたんだね!!良かった…本当に良かった…」慎二は涙をとめどなく流しながら友莉子の右手を両手で包み込み、自身の額に当てた。「家に忘れ物をして帰ったら、倒れている君がいたんだ」「頭から血を流してて...呼びかけても...呼びかけても返事がなくて...君に万が一の事があったら俺は生きていけない...」慎二は友莉子を愛おしそうに...そして本当に友莉子がいないと生きていけないと思わせる程の悲壮感を漂わせている。そんな慎二を友莉子は冷たく見つめていた。ようやく慎二が落ち着きを取り戻した頃、病室に担当医と看護師が入ってきた。「長井さん。頭は恐らく倒れられた時に切れただけだと思いますが、念の為、詳しい検査をしましょう。」「それと長井さんには持病もなく、今回の検査ではどこも異常が見受けられませんでした。今回倒れられたのは恐らく心理的負担…まぁストレスですね。そして寝不足のせいかもしれません。」医師は目元を緩めてゆっくりと伝える。「長井さんには入院が必要なので、入院中はゆっくり休んで、体力を回復するのに務めてください」「わかりました」担当医の説明が終わると同時に、看護師も点滴を変え終わり、2人で病室を後にした。病室に静寂が訪れた。その静寂を最初に破ったのは友莉子だった。「ねぇ慎二…」「何?」友莉子は窓の外を見ながら一言一言確実に伝えられるようにゆっくりと言葉を紡いだ。「私達……」「離婚しましょう…」
怜は後継者ではなくなったが、元々呑み込みが早く、何をやらせてもすぐに覚えていた。 19歳の時、表向きはアルバイトで雇用していたが、社長である慎二の口添えで一つのプロジェクトを任せてみた。 するとそのプロジェクトが成功し、会社に大きな利益をもたらした。 怜の実力が確かだった為、20歳の成人の日、潰れかけの子会社を任せてみたところそこでも成果をあげて立派な会社に育て上げた。 そうした怜の努力は周りに認められ、長井家の本家にも怜は認められた。 体が弱かった妹の凛も5年間の治療のおかげで体調が良くなり、今では齢15歳で怜を陰ながら補佐していた。 凛の得意分野はIT系だった為、学校に通いながら自宅で作業ができた。 本当にこの兄妹は天才といえる。 友莉子にとって自慢の子供達だった。 それでも友莉子は怜を跡継ぎにしてあげられなかった事をとても後悔しており、凛の体も良くなったので、二人に独立を提案した。 二人の足かせになるのなら、養子縁組を解消しても良いと言った程だ。 しかし二人は友莉子に泣きついてきた。「捨てないで母さん」 「私、お母さんがいないとお勉強できない」 「そうだよ母さん。僕達が仕事や勉強できないと母さん困るだろ」 「お母さんと一緒がいい~」 「僕も凛も母さんがいないと生きていけないんだ!」そう。この二人は友莉子にとても懐いていた。 怜は何をもってしても凛と友莉子が優先。 凛も怜と友莉子が優先となっていた。 慎二が仕事で朝まで帰ってこない日は三人で横並びになり寝る事もよくあった。 もちろん友莉子が真ん中で、両隣には兄妹が友莉子の腕にしがみついて寝る。 当時赤ん坊だった翔が泣き出すと、友莉子より怜や凛が世話をしに行き、大変だと思っていた子育ても二人のおかげでだいぶ楽ができた。 友莉子にとって、二人は我が子同然の存在だった。 そんな二人が6年前に慎二から梓を紹介された時、嫌悪感を露わにしていた。 二人は元々慎二には懐いておらず、また慎二も二人を嫌っており、最低限のコミュニケーションしかとってこな
***** 友莉子は重たい体を無理矢理起こして、身支度を始めた。 そして洋服を着て一階にゆっくり降りている最中に、ドアが開く音がして足を止めた。 ――帰ってきたのかな… 友莉子は逡巡した。 今あの二人に会えば問い詰めてしまいそうだからだ。 それにまだ決断するには、あの二人の存在は友莉子にとって大きすぎる。 だけど大きすぎるが為に、一度傷つくと立ち直れなくなる。 友莉子は足音を立てずに自室に引き返そうとした時、背後から嬉しそうな声をかけられた。 「ただいま、母さん。」 友莉子が振り向くと、そこにはスーツを完璧に着こなし太陽のような笑顔を浮かべる青年、長井 怜(ながい れい)が立っていた。 「…怜…あなただったのね…お帰りなさい」 友莉子は怜だと認識した途端に緊張で強張らせていた表情から一変して、優しく包み込むような笑顔を見せた。 その表情の変わりように怜は眉を寄せたが、気にせずゆっくりと友莉子に近づき抱擁した。 「…はぁ…本当にただいま。母さん…会いたかった…」 「もぅ!子供じゃないんだから甘えないの!」 怜は友莉子より頭一つ分ほど身長が高かったが、友莉子の肩に頭をのせて自分の臭いをつけるかのように頭を擦り続けた。 怜は慎二と友莉子が九年前に引き取った養子だ。 結婚一年目で子供ができなかった友莉子は慎二の義母、時子に必要以上に責められた。 会うたびに子供が出来ない事を罵られ、無能呼ばわりされていた。 それを知った慎二が祖母のふみ江の許可を取り、後継者候補にする為に孤児院から養子を引き取る事になった。 それが当時十四歳の怜だった。 怜は体の弱い妹、凛《りん》をとても大事にしており、早く治療をしてくれて大切に育ててくれる養子先がくる事を日々願っていた。 そしてようやく来たのが友莉子達だった。 怜は身なりでとても裕福そうな家だと判断し、そして何より友莉子の容姿に惹かれた。 二人の会話を聞いていると、慎二は友莉子には優しかったが、近づいてきた子供達に手を差し出そうとはしなかった。 ただ仮面のような笑顔を貼りつけているだけだった。 反対に友莉子は子供を抱っこしたり、服に子供の鼻水や涎がついても笑顔でその子の頭を撫でていた。 怜はとても悩んだ。 確かに友莉子はとても良い人だろう。それは
鳥の囀りが眠っていた友莉子の意識を少しずつ覚醒させる。――…夢…昔の夢。友莉子は慎二と出会った頃の夢を見ていた。「はぁ…何が一生よ…本当…嘘つき…」結婚してから10年…本当に色々な事があった。慎二の継母には出自が卑しいというので嫌われており、毎年新年や慎二の祖父のお墓参りの時は神経を使い、嫌がらせにも耐えている。幸いな事に、祖母や双子の弟妹には好かれているので、それほど居心地が悪いわけではない。慎二の父親は形式的な挨拶以外、友莉子には無関心でいる。ある出来事がきっかけで、夢を諦める事になってしまったが後悔はしていなかった。それは全部、慎二と共に生きる為だったから。翔が生まれてからは夫婦生活は大変だったけどとても幸せだった。しかし六年前、慎二の幼馴染の流連梓(りゅうれんあずさ)が海外から帰国した時、この生活が徐々に壊れ始めた。――慎二は梓さんの事が好きなの…よね…梓が帰国してからの慎二は、梓が生活における何よりの優先事項になっていた。どんなに忙しくても梓が寂しいと言えば、家からすぐに出て行き一日中戻らない。帰国したすぐ後に歓迎パーティーをすると言って、お金を何億とつぎ込みクルーズ船で行い花火を上げたりとそれはとても豪華な歓迎パーティだったそうだ。梓が友莉子の事を嫌っている為、歓迎パーティには来るなと言われ、そして当時一歳だった翔まで連れていかれた。友莉子一人が家に残った。友莉子が風邪を引き苦しんでいる時、梓もまた風邪を引き、慎二は翔を連れて梓の看病に行った。――それに…友莉子が一番傷ついたのは半年前の出来事だった。梓から夜の港に呼び出されてこう言われた。「そろそろ慎二から離れてくれないかしら?もちろん翔君は大切に育ててあげるから…」「何を言っているの…」「フフ。だって慎二は今も昔も私が好きなんだもの…翔君だって、貴方より私が好きだって。あなたが邪魔なの。私は慎二をずっと愛していたのに、帰ってきたら貴方がいたのよ…本当に腹立たしいったらないわ!」「私は!!!!」友莉子が反論しようとした所で、梓は友莉子の後ろに何かを見て目を光らせてこう続けた。「そうだ…賭けましょう。慎二は私と貴方のどちらを優先するか…そしてどちらの言い分を信じるか…」梓の口元が怪しい笑みを浮かべた瞬間に叫び始めた。「きゃ~~!!友莉子さんや
沢山の桜が舞い散る桜並木道を友莉子がゆっくり歩いている。一歩一歩踏みしめ、これから四年間の大学での学びに心を躍らせる。そして友莉子を見た周りの人は友莉子に心惹かれていた。友莉子は腰まである銀色の髪に瞳の色がオッドアイという目立つ容姿をしていた。また容姿だけではなく、友莉子が纏う優しい雰囲気も人を魅了している。彼女の両親は白蓮国によく生まれる黒髪黒目という容姿をしており、友莉子だけが違った。しかし母方の親戚は外国の血筋が混ざっているので、稀に生まれる特徴的な容姿なのだそうだ。幸い、この容姿で虐められることもなく両親に愛されて育ってきた友莉子だったが、15歳の時、両親が交通事故に合い母はこの世を去った。父は運良く命を繋いだが、植物状態となっている。事故が起きた後、母方とは絶縁状態だった為、父方の祖父母に育てられた。友莉子は祖父母に負担をかけないように、そして父の治療費を少しでも稼ぐためにインターネットで自分が作った歌を流して少しずつ稼いだ。昔から歌うのが好きだったので、趣味もかねてというのも継続する力になった。そうして細々と活動しているうちに、16歳の春、バンド仲間ができた。そこからはネットでの人気が高まり収入がかなりよく、治療費や生活費だけではなく大学に行ける費用も稼げた。そんな経緯で入学できた大学は友莉子にとって楽しみの場所になるのは必然だ。バンド仲間もそれぞれの道に進んだが、これからも一緒にバンド活動をし、ゆくゆくは顔を出してメジャーデビューをしたいと夢を語っていた。実際、事務所からの誘いもあった為、皆は大学生活に慣れたら本気で考えるつもりでいた。それに一人は本格的に海外へ音楽を学びにいってしまった為、メジャーデビューの話を受けるにしても彼が帰ってきてからになる。入学してから暫くが経ち、大学生活にもようやく慣れてきた頃、友莉子の前に赤いバラを両手いっぱいにして立ちふさがった青年がいた。彼は二年先輩の長井信二。世界第三位の大企業の御曹司であり、その容姿も優れていた為、学校中の女生徒が彼に好意を抱いていた。更にはどの女性にもなびかない難攻不落の城塞で、女生徒の告白を断る時も冷淡に突き放すように断る事で有名だった。彼に告白して撃沈した女生徒は涙を流して去り、翌日からは彼に近づかないようにするくらいだ。噂だとかなり酷い振られ