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第122話

Author: かおる
翔太は視線を揺らし、星と目を合わせようとしなかった。

「......ぼ、僕、ケーキにナッツが入ってるなんて知らなかったんだ」

星はさらに問い詰める。

「たとえそれが知らなかったとしても、あなたは乳糖不耐症でしょう?

ケーキを食べられないことぐらい、わかってるはずよ」

翔太はむっとしたように口をとがらせた。

「ちょっと一口食べただけだよ」

「その一口で、危うく助からないところだったのよ」

母の言葉に、一瞬覚えた感謝の気持ちが、たちまち苛立ちと反発に変わる。

「お母さんと清子おばさんが食べられるのに、どうして僕だけ駄目なんだ?

お母さんがいつもこれは駄目、あれも駄目って止めるから、余計に気になって、食べたくなるんだ!」

星は眉をひそめる。

「私はあなたの体を心配して――」

「僕の体を心配、だって?」

翔太は彼女の言葉を遮った。

「お母さんはいつも僕のことが心配だと言いながら、結局は僕をコントロールしたいだけなんだ!

朝から晩まであなたのためって言葉ばかり。

でも僕が本当に欲しいものは、お母さんにはわかってない!」

星は息をのむように翔太を見つめた。

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