INICIAR SESIÓN星は差し出された手の上に自分の手を置いた。「ええ」怜央はその手を包み込むように、しっかりと握りしめた。二人がダンスフロアへと足を踏み出した時、星の視界の端に、その場に立ち尽くす仁志の姿が映った。無表情のままこちらを見つめるその瞳は、底知れないほど暗く沈んでいる。怜央の肩に添えた指先に、無意識のうちに力がこもった。仁志に気を取られていたせいで、うっかり怜央の足を踏んでしまった。星は慌てて言った。「ごめんなさい」彼女は一拍置いてから、申し訳なさそうに続けた。「さっきは一言の断りもなく、勝手にあなたを盾に使ってしまって悪かったわ」怜央は星を見つめた。「気にするな。君が必要なら、いつでも力を貸すさ」星は首を振って言った。「仁志は独占欲がものすごく強いの。もし私があなたと親しくしすぎたら、あなたにまで危害を加えるんじゃないかと心配だわ」仁志と航平の間に前々から因縁があったとはいえ、ためらいもなく人の手を斬り落とすなど、あまりにも残忍だった。顔色一つ変えずにあんな真似をやってのけた彼を思い出すたび、背筋が凍るような恐怖を覚える。ましてや今この瞬間、大勢の招待客を隔てているにもかかわらず、仁志の暗い視線が肌を刺すほどはっきりと感じられた。彼の冷酷さは骨の髄まで染みついている。その逆鱗に触れて、無傷で済んだ者など一人もいないのだ。怜央はただでさえ当主争いの渦中で苦しい戦いを強いられている。もし仁志が裏で邪魔立てすれば、怜央は身動きすら取れなくなってしまうだろう。怜央は言った。「星、心配しなくていい。司馬家が混乱しているといっても、仁志の好き勝手を許すほど落ちぶれてはいないからな。今の俺は、されるがままにやられるような無力な身じゃないし、M国でむやみに敵を作るのはあいつにとっても得策じゃないはずだ」彼は一拍置き、自分でも気づかないほどの優しさを滲ませて、少し声を落とした。「それに、これまではずっと君に助けられてばかりだったからな。星、一度くらい俺に君を守らせてくれ」星はハッとして顔を上げた。彼の真剣な瞳と視線がぶつかり、とっさに言葉が出てこない。その時、曲調がふいに変わり、よりゆったりとしたワルツへと切り替わった。次の瞬間、嗅ぎ慣れた冷ややかなシダーウッドの香りと共に、背の高い影が突然二人のすぐそばに迫った。
その時、隣にいた怜央が言った。「そろそろパーティーが始まる時間だ。中へ戻ろう」星は言った。「そうね」そう答えると、明日香に軽く会釈をし、怜央と共にその場を離れた。二人は裏庭の石畳の小道に沿って引き返した。会場の入り口に差しかかったところで、星はふと足を止め、何気なく後ろを振り返った。東屋のそばでは、明日香もこちらを見つめていた。清らかな月明かりの中、かなり距離が離れていたにもかかわらず、その視線ははっきりとこちらへ注がれており、不気味なほど静まり返った気配を放っていた。星が振り返ったのに気づいても、明日香は目を逸らすどころか、口元をわずかに緩めて微笑んだように見えた。星は一瞬ハッとした。怜央が尋ねた。「どうした?」星は前を向き直し、胸の奥に湧き上がった言葉にできない違和感を押し殺した。「……ううん、何でもないわ」星たちが立ち去ってまもなく、朝陽がやって来た。彼が東屋まで歩み寄った時、明日香はうつむいて最後の画用紙を紙筒にしまっているところで、その指先にはまだ乾いていない絵の具がわずかに付いていた。朝陽は言った。「星野星に会ったのか?」明日香は身を起こした。「ええ。噂で聞くよりずっと勘が鋭いわね。私のブレスレットをしばらくじっと見つめていたわ」朝陽は軽く眉を上げた。「星野星に勘づかれるのが怖くないのか?」「気づかれたからって何よ?」明日香は軽く笑った。その声はとても小さかったが、ひやりとした冷たさが滲んでいた。「私が最初から狙っているのはあの子なのよ。いつまでも母親やあのお兄さんたちに守られて、その陰に隠れさせておくわけにはいかないわ」彼女は紙筒を抱え上げた。「あの時の件で、星野夜は自分だけ綺麗に責任を逃れ、涼しい顔をして私の母と父からすべてを奪い去った。あの女が我が物顔で居座り続けてからもう何年も経つし、そろそろ私たちから奪ったものを返してもらう時よ」明日香は顔を上げてパーティー会場の方角を見やった。暖かな黄色い光が映り込み、その瞳の奥が底知れぬ明暗で揺らめいた。「今度はあの女の娘にも、すべてを失う絶望をたっぷり味わわせてやるわ」朝陽は少しの間黙り込み、結局それ以上は止めなかった。彼は一歩脇へ寄って道を譲った。「行こう。そろそろパーティーが始まる。今日は志村家の老当主も来ているん
怜央はハッとし、その瞳が微かに揺れた。「自分自身を見失わないで、か……」彼は小声で呟き、どこか遠い目をした。しばらくすると、その瞳は次第に澄んだ色を取り戻し、怜央はようやく自分の声を取り戻したように口を開いた。「星、君の言葉を胸に刻んでおく。初心だけは、絶対に忘れないようにするよ」彼の初心は実にシンプルで、ただ無事に生き抜くこと、それだけだった。星は怜央の手のことを思い出し、尋ねた。「そういえば、陸瀬先生は何て言っていた?あなたの手、治る見込みはありそう?」怜央は言った。「普段の生活には支障ないが、絵を描くのはもう無理だろうな。陸瀬先生の話では、手の神経に傷が残っていて、細かい作業は難しいそうだ」星は言った。「もし本当に絵が好きなのなら、反対の手で描いてみるのもいいんじゃないかしら。あなたにはあれだけの才能があるんだから、練習を重ねればきっと描けるようになると思うわ。当主の座を争うことにしたからといって、好きなことまで全部諦めなきゃいけないわけじゃないもの。趣味として気軽に楽しんで、いい気分転換になればそれでいいのよ。あまり自分を追い詰めすぎないでね」怜央は星を見つめた。普段は凪いだ水面のように静かなその瞳が、月明かりの下で優しげに和らいでいく。「ああ、君の言う通りだ。絵を描くのなら、まだ反対の手が残っているからな」二人は回廊に沿って、ゆっくりと出口へ向かって歩き出した。東屋の近くを通りかかった時、星は何気なくそちらへ視線を向けた。先ほどまで明日香が座っていた石のベンチには誰もいなくなっており、イーゼルだけがそのまま残されていた。ちょうどその時、回廊の柱の陰からふいに人影が現れた。明日香は重ねた画用紙を腕に抱え、もう片方の手に画材入れを提げて、こちらを見つめていた。月の光がその顔を照らし、まるで一枚の絵のように澄んだ美しい目元を浮かび上がらせている。「星野さん」明日香の方から、とても静かな声で口を開いた。「あなたも、ここの月が綺麗だと思いますか?」星は少し驚いた。彼女ときちんと顔を合わせた記憶はなかったが、相手はこちらの名字を正確に言い当てたのだ。「ええ、本当に綺麗ね」星は明日香の手元の画用紙へと視線を落とした。そこには、まさに月明かりに照らされたこの裏庭の風景が描かれていた
女性が背を向けていたため、星からはその顔がはっきりとは見えなかった。だが、どうしてか見覚えがあるような気がした。その時、絵を描いていた女性が怜央の気配に気づいたように少し顔を横に向け、色白で整った横顔が覗いた。星はその顔を見て、ふと思い出した。確か、綾羽の新しい友人だったはずだ。どうして彼女がこんなところにいるのだろう?不思議に思ったものの、わざわざ近づいて邪魔をするつもりはなかった。そのまま立ち去ろうとした時、女性と話していた怜央が何かに気づいたように振り返り、こちらへと視線を向けた。星の姿を目にした瞬間、怜央の瞳がパッと明るい光を帯びた。彼は女性に低い声で何か一言告げると、大股で星の方へと歩み寄ってきた。目の前にやって来た怜央を見て、星はなぜか少し気まずくなった。まるで、よそのデートの場面にうっかり出くわして、お邪魔虫になってしまったかのような気分だった。星は顔を上げて怜央を見つめ、小声で尋ねた。「怜央、邪魔しちゃったかしら?」「いや」怜央は低い声で答えた。「以前パーティーで一度見かけたことがあってな。さっきたまたまここで絵を描いているのを目にしたから、声をかけただけだ」そして、思わず言い訳するように付け加えた。「彼女とは、別に親しいわけじゃない」星は少し離れた東屋に座っている若い女性へちらりと目をやった。ちょうどその時、相手もこちらへと視線を向けていた。清らかな月の光に照らされ、どこか妖しく異様な雰囲気を帯びた顔立ちが浮かび上がる。星は微かに眉を寄せた。どうしてかは分からないが、あの女性には得体の知れない既視感を覚えてならなかった。けれど、綾羽のそばで見かける前に、彼女と面識がなかったことは確かだ。星がその女性の方をじっと見つめているのに気づき、怜央が口を開いた。「雲井明日香が気になるのか?」星は尋ねた。「雲井明日香?あの人、雲井明日香っていうの?」怜央は言った。「ああ。今日は朝陽と一緒に来たらしい。さっきどうしてここで絵を描いているのか聞いてみたら、ネットでたまたま志村家の裏庭の景色が綺麗なのを見かけて、どうしても絵に描きたいから連れてきてほしいと朝陽に頼み込んだそうだ」星は尋ねた。「前に見かけたっていうのも、どこかのパーティーだったの?」怜央は頷いた。「ああ。俺
星は言った。「仁志、いつまでもそうやってまとわりつかれると、迷惑なの」「星、まとわりつかれたくないなら、おとなしく僕のそばにいればいい」仁志の声は低く沈んでいた。「今度は、連中に指一本触れさせないと約束する」星は静かに首を振った。「仁志、私は本当に、もうあなたと一緒にいたくないの」「もう遅い」仁志は引く気など毛頭ない瞳で星を見つめた。「僕はもう、君に決めたんだ」その目を見つめ返し、自分が何を言っても無駄なのだと星は悟った。星は仁志の手をそっと振り払い、視線を逸らして顔を背けた。「仁志、ここはM国よ。私たち雲井家は、M国で何でも思い通りにできるとまではいかなくても、私につきまとう人を追い払うくらいなら簡単にできるわ。一度は付き合った仲なんだから、憎み合うようなことにはなりたくないの」星は一拍置き、いつもは柔らかな声に、珍しく冷たい響きを滲ませた。それは、これまでの彼女が決して見せたことのない態度だった。「仁志、あなたは今、当主の座を争う大事な時期でしょう。もし私が本気であなたから離れようと思えば、やり方はいくらでもあるわ。私が言わなくても、洋介がずっと私に接触を図ってきていることは知っているはずよね。もし、私が洋介と手を組んだら……」星は仁志を見つめた。「あなたは窮地に陥るし、命を落とすことになるかもしれないわよ」仁志は軽く笑った。「だが、君はそんなことはしない。そうだろう?」星の表情が少し冷ややかになった。「仁志、私はあなたが思っているほどいい人間じゃないわ」仁志は言った。「ああ、そこまでいい人間じゃないかもしれないが、それでも絶対にそんなことはしないさ」まるで適当に受け流しているかのような口ぶりだった。星は彼を一瞥すると、無表情のまま花束を抱え、背を向けて歩き出した。仁志はその後を追いかけた。「星、レストランを予約してあるんだ。まずは食事に行かないか?」星は言った。「あなたとは行かないわ」仁志は言った。「君が行かないなら、ずっと後ろをついていくだけだ」星は眉をひそめた。「仁志、そんなふうにしつこくつきまとって、何の意味があるの?」二人は無言のまま見つめ合い、どちらも視線を逸らそうとしなかった。やがて、仁志の方が先に口を開いた。「分かった。そこまで君の意思が固いなら、無理強い
仁志は言った。「いいや」星の目に浮かぶ疑問に気づいたのか、仁志は言葉を続けた。「君に見せるために、わざわざ整えてきたんだ……星、気に入ってくれたか?」普段の仁志は気ままで飾らないところがあり、改まった場以外でわざわざ髪型や服装を念入りに整えることなどまずなかった。もっとも、彼ほどの容姿があれば、たとえ安物の服を着ていたとしてもモデルのように着こなせてしまうのだが。それだけに、こうして、完璧に装って目の前に現れた仁志の姿に、星にはどうにも奇妙に思えた。星は尋ねた。「私に何か用があって来たの?」仁志は花束を星に手渡すと、そのままごく自然な動作で彼女の手を握った。「星、僕たちは婚約者同士なんだぞ。用がなきゃ、会いに来ちゃダメなのか?」星は眉をひそめ、無意識のうちにその手を振り払おうとした。しかし仁志はしっかりと握りしめて少しも離そうとせず、それどころかそのまま彼女を自分の腕の中へと引き寄せた。不自然な態度の裏には必ず何かある――星はいつもそう確信していた。星は仁志の腕の中からそっと身を引いた。「仁志、いったいどういうつもりなの?」仁志は星を見下ろし、澄んだ声で言った。「別に、何か企んでいるわけじゃないさ。ただ、君にもっと僕を好きになってほしいだけだ。僕の顔を気に入ってくれているのなら、これからはもっと身なりに気を使って、いっそう気に入ってもらえるようにするよ」星はハッとした。仁志の言葉は唐突で脈絡のないものだったが、星はすぐに、航平との会話が彼の耳に入ったのかもしれないと思い当たった。瞳の奥に一瞬だけ冷たい光がよぎったが、すぐに消え去った。星は腕に抱えたカスミソウの花束を見つめ、口を開いた。「仁志、自分勝手で薄情な女だと思われても構わないけれど、私は本当にあなたと結婚したくなくなったの。あなたと一緒にいるのは危険すぎるわ。アロマを使って私に毒を盛るような連中なら、明日は私の飲み水にまで毒を入れるかもしれない。仁志、これまで助けてくれたことには心から感謝しているし、あなたと過ごした時間は短かったけれど、とても楽しかった。でも今は……あまりにも重すぎるの。私が思い描いていた恋愛は、こんなものじゃないわ」そこまで言うと、星は深く息を吸い込み、顔を上げて仁志の目を真っ直ぐに見つめた。「あなたのこと







