第306話

「くそっ、この女......まだ俺たちに挑んでくるのか！」

勇の顔は歪み、歯ぎしりする。

「雅臣、もっと上げろ。

どうせあんな女、お前に敵うはずがない！」

星は静かに告げた。

「私の予算は百六十億よ。

神谷さんがそれ以上出せるなら、このネックレスは神谷さんのもの。

けれど、もし百六十億に満たないなら、これ以上争わない方がいいと思うわ」

そして、にこりと微笑む。

「どうせあなたは、私には勝てないのだから」

「百六十億だと？！」

勇は今にも天を仰いで笑い出しそうだった。

「星、お前ってやつは......見え透いた大風呂敷を。

そんな貧乏女、男に頼らなきゃ百十六万すら出せないくせに！」

星は視線を上げ、淡々と返す。

「そんなに自信がおありなら、この百六十億、山田さんが払えば？」

勇は口を開きかけ、言葉に詰まった。

――百六十億だぞ！

ここで虚勢を張る勇気などあるはずがない。

だが、星にそれだけの財力があるとも信じられない。

彼は突然思いついたように指を差し、声を張り上げた。

「ああ、わかった！

お前、また俺たちを騙すつもりだな。

さっきみたいに高値を誘っておいて、途中で手を引いて俺たちに押しつける気だろう！」

まるで弱みを握ったかのように、勇は跳ねるように叫ぶ。

「星、お前ってやつは、本当に恥知らずだ！」

星は驚いた顔を作ってみせた。

「山田さん、ご飯は好きなように食べてもいいけれど、言葉は好き放題に口にするものじゃないわよ。

これは公正な競売。

どこに欺きがあると言うの？」

「私は価値があると思うから高値をつける。

逆に価値がないと思えば、心理的な限度を超えた時点で競り合わない。

それだけのことよ」

「あなたの理屈でいけば、誰かがあなたと競り合って途中で降りたら、みんな悪意の入札者ということになるわよね？

それに......」

星はかすかに笑みを浮かべる。

「私は既にあなたより多くの品を落札してるけど？」

勇は口走った。

「お前が買えるはずがない！

どうせ男に金を出してもらってるだけだ！」

その瞬間、影斗の低く気怠げな声が響く。

「山田さん。

世の中の女がみな男に頼らねば物を買えないと思っているなら、それは大きな思い違いだ」

「星ちゃんが落札した品は、すべて彼女自身の金であって、俺とは