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第863話

Author: かおる
凛は言った。

「突発的なトラブルに備えて万全に準備していたのに......まさか何事も起きないなんて思わなかったわ」

仕方のないことだった。

人気が出れば出るほど、トラブルも増える。

まして星の周囲には、さまざまな思惑や危険人物がうごめいている。

何か起こっても不思議ではない。

誰もがいつでも対応できるように身構えていた。

何も起こらなかったことのほうが、むしろ意外だった。

彩香が言った。

「音楽会は無事終わったけど、まだ気を抜いちゃダメよ。

敵が、こっちの警戒が緩んだ隙を狙ってくる可能性もあるから」

奏も凛も、静かに頷いた。

星は時計を見て言った。

「もう時間ね。

そろそろ打ち上げも始まるし......行きましょう。

榊さんたちを待たせちゃ悪いわ」

彩香も頷いた。

「そうね、早く行きましょう」

その頃。

演奏を見終えた優芽利と明日香は、話しながら出口へ向かっていた。

優芽利は言った。

「あなたの妹......本当にすごいわね。

今回のコンサートで、さらに評価が高まったわ。

あの実力、名家の世界に放り込んでも十分通用するわよ」

優芽利は少し間を置き、続けた。

「さっきネットを見たら、星がまたトレンド入りしてた。

星は雲井影子って気づき始めた人も多いみたい。

海外の出場者たちも、すでに彼女のことを注目してるわよ」

明日香は特に動揺していなかった。

そもそも彼女が大会に出る目的は、星に勝たせるためだ。

評価が高まるのは、むしろ望むところだった。

彼女は穏やかに笑った。

「良いことじゃない。

雲井家に、また優秀な娘が増えたのよ」

優芽利は、それ以上余計なことは言わなかった。

会場を出たところで、明日香が尋ねた。

「今日はうちに来る?」

優芽利は首を振った。

「やめておくわ。

明日は仁志と会うかもしれないし」

「分かったわ」

そのときだった。

ふたりが別れようとした瞬間――

明日香の視界に、怪しい影がこちらへ近づいてくるのが映った。

嫌な予感が、彼女の背を強く撫でた。

「危ない!」

とっさに、優芽利を力いっぱい突き飛ばした。

その直後――

何かが撒き散らされ、明日香の腕にかかった。

「――きゃっ!」

優芽利は蒼白になった。

「明日香!」

救急室の赤いランプが、鋭い光を放っ
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Comments (17)
goodnovel comment avatar
ayako
顔にかかっちゃっても良かったんじゃ…?とか思ってしまいました…(汗)
goodnovel comment avatar
なんやかんや
令のパパだけが初めから星の味方。 そこが大事だ! 仁志も元旦那も どんなに星を苦しめたか そこ忘れてないよ
goodnovel comment avatar
芹沢さん
犯人については触れてないですよね 掛け逃げ出来た? それでも誰も言わないの不思議ですね
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