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第1150話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1358話
和泉夕子は、その後、大野佑欣を見舞いに行った。彼女は病院のベッドに横たわり、頭を横に向けて窓の外を見ていた。外は曇り空で、陽射しはなく、どんよりとしていて、まるで冷え切った病室のようだった。和泉夕子は病室の前でしばらく立ち尽くした後、ゆっくりと歩みを進めてベッドのそばまで行った。「少しお話ししてもいいかしら？」大野佑欣は返事もせず、拒否することもなく、ただ静かに窓の外を見つめていた。和泉夕子の視線は、彼女の顔から、腰に巻かれた二本の拘束帯へと移った。大野皐月から聞いた話では、大野佑欣は発狂して理性を失い、医師、看護師、介護士にまで暴力を振るったそうだ。病院は仕方なく、強制的に鎮静剤を注射し、ベッドに拘束した。今後、医師が精神疾患と診断すれば、大野佑欣は大野社によって精神病院に送られる可能性がある。愛する人を失い、子供も失い、さらに自由までも永遠に失えば、大野佑欣に残された道は一つしかない。和泉夕子は彼女が杏奈の二の舞になるのを見たくなくて、勇気を出して彼女に会いに来たのだ。和泉夕子は、大野佑欣の手首に傷跡があることに気づいた。子供を失った後、自殺を図ったのだろう。大野佑欣の悲惨な人生を思い、和泉夕子は思わず手を伸ばし、雪のように冷たい指に触れた。彼女は、大野佑欣に拒まれると思っていた。だから、指先がほんの少し触れた瞬間、すぐに手を引こうとした。けれど、大野佑欣はその指をぎゅっと掴んだ。「ずっと......会いに来てくれなかった」兄以外、誰も彼自分を避けていた。まるでみんなの笑いものになっているような気がしていた。男のために恐ろしく狂ったのだと。だから......もうずっと誰にも見舞いに来てもらえなかった......彼女の手を握る力が徐々に強まっているのを感じ、和泉夕子も力を込めて彼女の指を握り返した。以前の狂気のことも、また理性を失って自分を傷つけるかもしれないという不安も、和泉夕子にはなかった。和泉夕子にとって、大野佑欣は狂ったのではなく、ただ最愛の人を失った女性なだけだった。大野佑欣の虚ろな目は、ゆっくりと和泉夕子のまだ赤い顔へと向けられた。「夕子、怪我......良くなった？」正気を取り戻した彼女の目を見つめ、和泉夕子は自分の顔を撫でた。「だいぶ良くなったわ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1357話
大野皐月は、自身の怪我も顧みず、すぐに屈み込んで大野佑欣を抱き上げた。「医者へ診せに行く」「医者へ診せて、子供を堕ろすんだ」大野社のこの言葉は、先ほど平手打ちされたことよりも、大野佑欣にとって辛かった。自分の父は、自分が子供を持つことで、政略結婚に影響が出るのを恐れていたのだ。結局のところ、両親は、それほど自分を愛していなかったのだ。大野皐月は大野社の言葉には耳を貸さず、大野佑欣を抱えて病室を飛び出した。二人が出て行った後、大野社は振り返り、顔中に火傷を負った和泉夕子を見た。大野皐月から彼女が春日望の娘だと聞かされ、彼が和泉夕子に会いに行くことを承諾したのだった。無人島で彼女を見つけた時、春日望だと思い込み、しばらく呆然としていた。しかし、大野社は冷静で、大きな動揺は見せなかった。彼にとって春日望は、若い頃に愛した女性だった。あれから何年も経ち、どんなに忘れられない想いがあっても、もはや過去のことでしかない。大野社は思考を整理し、和泉夕子から視線を逸らすと、病室を後にした。彼らが去った後、白石沙耶香は医師が残した軟膏を取り、和泉夕子の治療を続けた。「佑欣ったら、どうして夕子に八つ当たりするのよ」大野佑欣に同情するよりも、白石沙耶香は和泉夕子が心配だった。「彼女はショックを受けていて、反応が激しいだけよ。落ち着けば、あんな風にはならないわ」和泉夕子が大野佑欣を責めていないのを見て、白石沙耶香はため息をついた。それ以上文句を言うのを止め、和泉夕子は隣にいる霜村涼平に視線を向けた。「涼平、佑欣の様子を見てきてくれない？お腹の子供が心配......」出血していたから、流産の可能性が高い。和泉夕子はひどく心配していた。霜村涼平は行きたくなかったが、それでも病室を出た。しばらくして、大野皐月が霜村涼平と一緒に戻ってきた。和泉夕子の顔中が薬で覆われているのを見て、大野皐月はまず彼女のことを気遣った。「どうだ、まだ痛いむか？」ベッドにもたれかかっていた和泉夕子は、首を横に振り、大野佑欣のお腹の子供はどうなったのかと尋ねた。「ダメだった」和泉夕子と白石沙耶香は呆然とした。特に和泉夕子は、心に強い罪悪感を覚えた。「夕子は関係ない。父の加減ミスだ」大野皐月は、医師から子供が助からな
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1356話
大野佑欣のその一言は、確かに胸に刺さるものだった。もし本当に気にしていなければ、和泉夕子がこんなふうに悲しみや後悔を感じることなんてなかったはずだ。「佑欣、私は沢田のことを軽視してないわ。冷司だってそうよ。彼は沢田のことを兄弟のように思っているの。彼は......」「兄弟のように思っているなら、死地へ行かせる？！」「冷司が闇の場へ行くことを、1番に隠したのは沢田だったの。巻き込みたくなかったから。なのに、わざと死なせようとするはずがないでしょ？」和泉夕子の説明を、大野佑欣は全く聞き入れなかった。せっかく落ち着いていた気持ちも、再び昂ぶってきた。「黙って！言い訳はもう聞きたくない。みんなグルなんだ！」「佑欣......」和泉夕子は言葉を遮られた。大野佑欣がまた発狂したように立ち上がり、和泉夕子に向かって突進してきたのだ。霜村涼平が手を出すまでもなく、大野皐月が止めに入るまでもなく、落ち着き払った大人の影が部屋に飛び込んできた。その影は入ってくると、素早く手を挙げ、大野佑欣の顔に強烈な平手打ちを食らわせた。「恥さらしめ！」大野社の一発は強烈だった。一発で大野佑欣はよろめき、床に倒れた。下腹部が痛み、何かが流れ出ているのを感じたが、彼女は反応しなかった。ただ、呆然と大野社を見つめている。娘を叩いた大野社は、彼女が出血していることに気づかない。高圧的な態度で、彼女を睨みつけている。「自分でこっそりあの沢田というボディーガードと恋愛し、子供まで作った。不貞密通も甚だしい。それだけでも十分なのに、死んだ男のために、ここまで騒ぎ立てるのか！」「彼は死んでない！」大野佑欣はどこにそんな力が残っていたのか、屈みこんで介抱しようとした大野皐月を突き飛ばし、拳を握りしめ、大野社に向かって叫んだ。「沢田は死んでない、彼は生きている！そんな縁起でもないこと言わないで！！！」この間、大野佑欣の症状は何度も再発し、大野社は昼夜を問わず付き添い、世話をしていた。なのに......何をしても目が覚めない。「全く、救いようがない！」疲れ切った大野社は、大野佑欣の腕を掴んで連れ戻そうとしたが、暴れる彼女に、うっかり平手打ちを食らってしまった。長年権力の座にいた大野社にとって、我が子に殴られたのは初めての経験だった。顔色は
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1355話
和泉夕子は、熱くて赤く腫れ上がった頬を思わず手で覆った。白石沙耶香は駆け寄り、和泉夕子を抱きしめ、守るように庇った。霜村涼平は素早く大野佑欣の手から粥を払い、大野皐月は大野佑欣の手首を掴んだ。「何をするんだ？！」大野皐月は眉をひそめ、善悪の区別もつかない大野佑欣を睨みつけた。「沢田は霜村さんの代わりに自らの意思で飛び込んだんだ。霜村さんが無理強いしたわけじゃない。沢田の選択だ。それに怒るなら霜村さんに怒るべきだろう。夕子に八つ当たりするな」理性を失った大野佑欣は、大野皐月の言葉が全く耳に入らず、狂ったように大野皐月を突き飛ばした。銃で撃たれた傷がまだ癒えていない大野皐月は、その衝撃で傷口が開き、気を失いそうになった。大野皐月は机に掴まり、なんとか体勢を保ったが、傷の痛みで声も出なかった。「夫婦は一心同体でしょ。沢田は彼女の夫のせいで死んだのよ。彼女にも責任があるんじゃないの？」我を失った大野佑欣は、もはや何が正しいのか分からず、自分の殻に閉じこもって出てこられなくなっていた。「彼女の夫のせいで、沢田は死んだのよ！！！」大野佑欣は和泉夕子を睨みつけ、乾きかけた涙を流しながら、暴力を振るいたい衝動を抑えていた。自分が間違っていることは分かっていた。でも最近はどういうわけか、些細なことで癇癪を起こして人に当たってしまうのだ。この世界で、誰も自分に借りなどない。自分の異常な行動に付き合う必要もない。でも、どうすればいい？沢田はもういない。自分は病気になってしまった。これからどう生きていけばいいんだろう？大野佑欣は混乱し、自分を抑えきれず、テーブルの上のスープを再び和泉夕子にかけようとした。幸い霜村涼平がいた。大野皐月とは違い、彼は容赦なく大野佑欣の首を掴んだ。彼は冷ややかな表情で大野佑欣をしっかりと押さえつけると、目を押さえて開けられない和泉夕子の方を振り返った。「沙耶香、早く医者を呼んで！」白石沙耶香はハッとして我に返ると、急いでベッドのナースコールを押した。霜村涼平は大野佑欣を突き飛ばそうとしたが、彼女は急に冷静になり、顔中を涙で濡らした。霜村涼平はそんな彼女を見て眉をひそめ、手を離すと、近くに立って彼女を監視した。大野皐月は自分の傷も構わず和泉夕子の前に歩み寄り、よろよろしなが
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1354話
和泉夕子は白石沙耶香を見た。白石沙耶香の目にも同じ考えが浮かんでいるのが見て取れた。和泉夕子はゆっくりと視線を落とした。「そのことは彼が戻ってきてからね」霜村涼平は言葉の裏の意味を察し、口角を素早く上げた。「夕子さん、優しいね。スープ、たっぷりついであげるよ」霜村涼平はスープをよそって、和泉夕子のテーブルに置いた。温かいスープを一口も飲む間もなく、大野皐月が入ってきた。「下で如月家の三兄弟に会ったんだけど、鑑定結果を持って来たんじゃないか？」和泉夕子がそうだと言うと、大野皐月は鑑定結果がどうだったか察したが、少し疑問に思った。「尭さんはどうやって、夕子が彼の恋人似だって分かったんだ？」和泉夕子は白石沙耶香から渡されたスプーンを受け取り、答えた。「前に姉の代わりにプロジェクトの打ち合わせに行った時、尭さんが私を見て、私のことを調べたの。それで、彼の恋人に似ていると言われた」彼女は簡単に説明した後、詳細を大野皐月に話した。「とにかく、あの人たちには力があるから、私を調べるのは簡単だったんでしょ」大野皐月は話を聞いても、まだ少し疑問に思っていたが、その疑問がどこから来るのか分からなかった。如月雅也の説明は完璧で、少しも嘘がないように思えたからだ。彼は和泉夕子に尋ねた。「それで、如月家に戻ることにしたのか？」和泉夕子が答えようとしたその時、大野佑欣がよろめきながら外から走ってきた。「夕子！目が覚めたの？！」大野佑欣を見て、大野皐月は思わず眉をひそめた。わざと連絡しなかったのに、まさか彼女が病院に来るなんて。このところ、大野佑欣も痩せていて、お腹もあまり目立たず、顔色は真っ青だった。彼女も家でゆっくりと養生したいと思っていたが、沢田の生死が気になって、じっとしていられなかったのだ。和泉夕子が目を覚ましたかどうか見に来ようと思っていたのだが、目を覚ましただけでなく、ベッドから降りて食事もできるようになっていた。「彼女が起きたのに、どうして誰も教えてくれなかったの？」大野佑欣は椅子に座っている彼らを見回し、まるで自分が捨てられたかのように、目に涙を浮かべていた。「体調が悪いようだったから、連絡しなかったんだ」大野皐月はそう説明したが、それ以上は何も言わず、彼女を連れ出そうとした。しかし、大野佑
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1353話
霜村涼平が怒るよりも早く、白石沙耶香は彼の腕をつかみ、小さな頭を彼の後ろから覗かせた。「じゃあ、俳優の江さんと共演したあの映画は本当なの？」如月駿は手を上げて鼻を触った。「さあ、どうかな......」白石沙耶香が本当だと言うと、如月駿は場を盛り上げるように指を鳴らした。「当たりだ！」そう言って、如月駿の視線は霜村涼平の顔に移った。「それにしても、あなたの夫はなかなかイケメンじゃないか。僕のタイプだ」白石沙耶香は如月駿に、どうして霜村涼平が自分の夫だと知っているのか尋ねようとしたが、如月駿は彼女の腹を一瞥すると、颯爽と病室を出て行った。如月駿は如月圭一と如月雅也に追いつき、振り返って霜村涼平にウインクした。「そうだ、いとこの夕子が僕の電話番号を知ってる。電話待ってるからね」霜村涼平は吐き気を催しそうになった。「気色悪い！」白石沙耶香はまるで萌え展開を見ているかのような顔で言った。「あなた、もし彼と付き合うなら、私は反対しないわ」霜村涼平は怒って汚い言葉を吐き捨てた。「あんな奴と付き合うくらいなら、自分で去勢して、それから出家でもなんでもしてやる！」白石沙耶香は考え込むように、真面目に答えた。「けど、もし彼が攻めだったら、あなたが何しようと一緒にいられるわよ」霜村涼平は怒る気力も無くなるほど呆れた。白石沙耶香は彼の腕に抱きつき、優しく宥めた。「涼平、冗談よ。怒らないで」霜村涼平は白石沙耶香の甘えには勝てなかった。彼女が可愛い顔をするだけで骨抜きになってしまうのだ。もう怒る気にもなれない。彼は手を上げて彼女の腰を抱き寄せ、堂々と宣言した。「もうあんな気持ち悪いスターを追いかけるなよ」白石沙耶香は頷いて三回「うん」と言った。霜村涼平はそれでようやく、片手に保温容器、片手に彼女を抱いて病室に入った。二人が入ると、白石沙耶香は少し興奮気味に和泉夕子の方へ歩み寄った。「今、駿さんが夕子をいとこと呼んでたけど、もしかして兄妹なの？」外での会話は和泉夕子にも聞こえていた。彼女は頷き、鑑定書を白石沙耶香に手渡した。「この書類にはそう書いてあるわ」白石沙耶香は報告書を受け取り、読み終えると、笑顔で和泉夕子の手の甲を軽く撫でた。「夕子、小さい頃から可愛いと思ってたけど、遺伝だったのね」和泉夕子は彼女の額を軽く叩いた。「駿さ
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