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第1362話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1362話
死の間際に残したビデオで、今後の人生で自分のことを忘れ、永遠に忘れ去ると言っていた桑原優香のことを思い出し、如月尭の目は、静かに濡れていった。「優香は、いつも俺を待ってくれなかった。もし待ってくれていたら、望は幸せになれただろうに......」桑原優香は娘が一番好きだと言っていた。だから、娘を手放したのは、娘を守るためだけでなく、自分への復讐でもあったんだ。よく考えてみると、ビデオで子供が二人しかいないと言ったのは、そういう理由以外考えられない。彼女は生涯、自分と張り合っていたんだ。初めて会った時から、彼女は自分と張り合っていた。「優香さんは、あなたが他の女性と結婚しただけで、子供を手放したとは考えにくいですね。他に理由があるんじゃないですか？」「ある」和泉夕子は彼が否定すると思っていたが、意外にも彼は頷いた。「俺は彼女と彼女の初恋の人の間に割って入ったんだ。彼女は根に持っている」彼は多くを語らなかったが、和泉夕子はそこから重要な情報をつかんだ。「彼女の初恋の人って誰なんですか？」如月尭の鋭い目は、陰鬱な影に覆われた。「嫌いな奴だ」和泉夕子がさらに質問しようとすると、如月尭はそれを遮り、話題を変えるように言った。彼女は、如月尭の冴えない顔色をしばらく見つめた後、再び尋ねた。「あなたが割って入ったせいで、優香さんはあなたのことを愛しているというより、憎んでいる気持ちの方が強いんじゃないですか？」如月尭は、彼女が少し攻撃的であることを見て取ったが、怒ることもなく、ただ笑って頷いただけだった。「そう言えるだろうな」「じゃあ、どうしてお二人が子供を作れますか？」如月尭は背筋を伸ばし、和泉夕子の疑わしげな目を見つめた。「先に愛したか、後から愛したか、その違いが、人の感情にどう影響するか......あなたの経験からすれば、分かるだろう？」和泉夕子は彼が何を言いたいのかわかって、顔色が曇ったが、如月尭は続けた。「人生で何人かの人を好きになることはよくあることだ。ただ、誰を一番愛するかの問題だ」そう言うと、如月尭は意味深長に和泉夕子を一瞥した。「冷司さんを一番愛しているから、あなたは彼のために子供を産んだ。優香も同じだ」和泉夕子は自分の気持ちが読まれたことに気づき、如月尭と議論す
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1361話
和泉夕子は空港を後にし、結婚前の別荘に戻ると、机に向かい、霜村冷司とこれからのことを考え始めた。なかなか良い考えが浮かばず、相川涼介にメッセージを送って住所が見つかったかどうか尋ねると、まだ見つかっていないと返事が来た。時間は経てば経つほど、霜村冷司が危険な状況に陥るような気がした。特に大野佑欣の事件を経験した後は、不安で仕方がない。しかし、大野佑欣よりは冷静さを保てている。色々な経験をしてきたことで、以前よりずっと辛いことにも耐えられるようになっていた。和泉夕子が机に向かってぼんやりしていると、ドアをノックする音が聞こえた。如月家の三兄弟が彼女を訪ねてきて、考えがまとまったかどうか尋ねてきた。和泉夕子はやはり前の提案を断った。彼らもそれ以上何も言わず、ゆっくり休むようにとだけ言った。ところが翌日、ブランド品や栄養ドリンクなど、あらゆる贈り物が届けられた。如月圭一の妻まで訪ねてきて、自ら妊婦用の食事を作ってくれた。如月圭一との子どもまで連れてきて、和泉夕子の気を紛らわせてくれた。とにかく熱心で、和泉夕子は断りたくても断りづらい状況だった。和泉夕子が迷っていると、如月尭が自らやって来た。他の者たちのように贈り物をするのではなく、如月家の株券を持参したのだ。彼は初対面の時と同じように、白い髪に白いスーツ姿で、どう見ても若々しく、70歳を過ぎているとは思えないほどだった。威厳があり、矍鑠としていて、それでいて威圧感もある老人の姿に、和泉夕子はやはり敬意を表し、家の中に招き入れてお茶を淹れた。「実は、お茶はあまり好きじゃないんだ」コーヒーが好きだった。和泉夕子は一瞬お茶を淹れる手を止め、澄んだ目で相手を一瞥した。「うちにはお茶しかないんです。我慢して飲むか、喉の渇きをこらえるか、どちらかです」そう言われて、如月尭も文句を言うのをやめて、湯飲みを手に取り、一口軽くすすってから、和泉夕子の家を見回した。「なかなか良い雰囲気だな。だが、あなたが設計したあの小さな家と比べると、温もりは足りないな」和泉夕子は返事をせず、うつむいたままお茶を淹れ続けた。如月尭は湯飲みを置いて、お茶を淹れている和泉夕子を見た。「あの小さな家に住んでもらうつもりだ。子供が生まれて大きくなったら、俺がその子を連れて川に釣りに
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1360話
大野佑欣はついに心の痛みに耐え切れず気を失ってしまった。和泉夕子はすぐに医師を呼んで救急処置をさせた。一通りの救急処置の後、大野社は大野佑欣はもう救いようがないほど気が狂ってしまったと判断し、精神病院に送ろうとした。大野皐月はそれをどうしても許さず、大野社と大喧嘩をした。最終的に、生きる気力を失った大野佑欣が一言叫んだ。「お父さん、もう私の子供を殺したのに、今度は私まで殺そうっていうの？」大野社は違うと釈明し、このままでは大野佑欣が気が狂うだけでなく自分もおかしくなってしまう、どうか自分を許してくれと懇願した。大野佑欣は、もう騒ぎを起こさないからと答えた。そうすれば、大野社は人に笑われずに済む。痛いところを突かれた大野社は、怒って「好きにしろ」と言い残して出て行った。彼が去った後、大野佑欣は真っ赤に充血した目で、心身ともに疲弊した大野皐月を見つめた。「お兄ちゃん、チェンライにお寺があるの。沢田と行きたかったけど行けなかった場所。そこに行ってもいいかな？」沢田は、自分に一年間、仏前で手を合わせるように言っていた。もし彼をまだ忘れていなかったら、彼は別の形で戻ってくる。自分は約束を守らなければならないのだ。大野皐月は、絶望に満ちた大野佑欣の目をじっと見つめ、5分後、ついに決心した。「一緒に行くよ」大野佑欣は断ろうとしたが、大野皐月は言った。「佑欣、お前より大切なものはない」大野佑欣の涙は、またも止めどなく溢れ出した。「お兄ちゃん、私のことを責めないの？」大野皐月は首を横に振り、手を伸ばして彼女の涙を拭った。「もう最愛の二人を失ったんだから、私まで失わせたりしないよ」失うということは、必ずしも死を意味するわけではない。無関心と見捨てられることも、また失うことの一つだ。実の父親である大野社は、真っ先に彼女を見捨てたのだから。大野佑欣はベッドから起き上がり、大野皐月の胸に飛び込んだ。まるで兄に守ってもらう小さな女の子のように、彼の腰を抱きしめ、泣き叫んだ。大野皐月は手を上げて大野佑欣の髪を撫でたが、視線は隣で静かに泣いている和泉夕子に向けられていた。好きな女性と、しばらくお別れだ。彼は名残惜しそうな視線をしまい、大野佑欣を寝かしつけてから、和泉夕子と一緒に病室を出た。和泉夕子は彼に尋ねた。「一
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1359話
若いと言っても、説得力に欠けるし、かえって相手に気を遣わせてしまう。でも、その後、大野佑欣はこの言葉を胸に、自分にとっての沢田を見つけることができた。誰かを深く愛したことがあるなら、その人と同じ顔の人に出会ったら、また恋に落ちるって聞いたことがある。でも、後に幸せな家庭を築き、子供にも恵まれた大野佑欣が、かつての沢田のことを忘れてしまったのかどうかは、和泉夕子には分からない。あの頃、沢田の墓参りに訪れた和泉夕子は、同じく墓参りに来ていた大野佑欣とすれ違った。何年も会っていなかった二人は、黒いベレー帽をかぶり、献花を持ち、子供の手を引いて、うつむきがちに、それぞれの道を歩いていた。沢田の墓石の前に着いた和泉夕子は、真新しい花が供えられているのを見て、初めて振り返り、無数の墓石の中から大野佑欣の姿を探した。自分より若いその姿は、まるで足早に立ち去るように、生い茂る木々の間に消え、二度と振り返ることはなかった。命日には、和泉夕子がどんなに早く来ても、沢田の墓前には必ず花束が供えられていた。きっと、一度も忘れたことはなかったんだろう。これは後の話だけど、今の和泉夕子は、大野佑欣が何度か自殺未遂をし、生き地獄のような日々を送っていることしか知らなかった。皆が大野佑欣は気が狂ったと言った。実際、彼女はしばらくの間、正気を失っていた。だが、子供の死が、霧の中にいた彼女を呼び覚ましたようだ。自分の不注意のせいで、この子が何度も出血し、ついに耐え切れずに、永遠に自分の元を去ってしまったことを、彼女は知っていた......彼女は和泉夕子に抱きつき、支離滅裂に、自分自身を責める言葉をたくさん口にした。沢田と一緒にいた頃、いつも彼を殴り、罵ってばかりで、優しくしてあげなかったことを責めた。沢田の前では、いつもお姫のように振る舞い、あれこれ指図して、ちゃんと愛してあげなかったことを責めた。沢田が最後にこの世に残した血脈を守ってあげられなかったこと、自分はなんてひどい、自分勝手な人間なんだろうと責めた。なぜなら、最初から最後まで、自分の気持ちしか考えていなかったからだ。和泉夕子は、これらの言葉を聞いて、一晩中泣き続けた。愛する人を失うことが、どれほど辛いことか、彼女には痛いほどよく分かった。かつて、霜村冷司が死んだ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1358話
和泉夕子は、その後、大野佑欣を見舞いに行った。彼女は病院のベッドに横たわり、頭を横に向けて窓の外を見ていた。外は曇り空で、陽射しはなく、どんよりとしていて、まるで冷え切った病室のようだった。和泉夕子は病室の前でしばらく立ち尽くした後、ゆっくりと歩みを進めてベッドのそばまで行った。「少しお話ししてもいいかしら？」大野佑欣は返事もせず、拒否することもなく、ただ静かに窓の外を見つめていた。和泉夕子の視線は、彼女の顔から、腰に巻かれた二本の拘束帯へと移った。大野皐月から聞いた話では、大野佑欣は発狂して理性を失い、医師、看護師、介護士にまで暴力を振るったそうだ。病院は仕方なく、強制的に鎮静剤を注射し、ベッドに拘束した。今後、医師が精神疾患と診断すれば、大野佑欣は大野社によって精神病院に送られる可能性がある。愛する人を失い、子供も失い、さらに自由までも永遠に失えば、大野佑欣に残された道は一つしかない。和泉夕子は彼女が杏奈の二の舞になるのを見たくなくて、勇気を出して彼女に会いに来たのだ。和泉夕子は、大野佑欣の手首に傷跡があることに気づいた。子供を失った後、自殺を図ったのだろう。大野佑欣の悲惨な人生を思い、和泉夕子は思わず手を伸ばし、雪のように冷たい指に触れた。彼女は、大野佑欣に拒まれると思っていた。だから、指先がほんの少し触れた瞬間、すぐに手を引こうとした。けれど、大野佑欣はその指をぎゅっと掴んだ。「ずっと......会いに来てくれなかった」兄以外、誰も彼自分を避けていた。まるでみんなの笑いものになっているような気がしていた。男のために恐ろしく狂ったのだと。だから......もうずっと誰にも見舞いに来てもらえなかった......彼女の手を握る力が徐々に強まっているのを感じ、和泉夕子も力を込めて彼女の指を握り返した。以前の狂気のことも、また理性を失って自分を傷つけるかもしれないという不安も、和泉夕子にはなかった。和泉夕子にとって、大野佑欣は狂ったのではなく、ただ最愛の人を失った女性なだけだった。大野佑欣の虚ろな目は、ゆっくりと和泉夕子のまだ赤い顔へと向けられた。「夕子、怪我......良くなった？」正気を取り戻した彼女の目を見つめ、和泉夕子は自分の顔を撫でた。「だいぶ良くなったわ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1357話
大野皐月は、自身の怪我も顧みず、すぐに屈み込んで大野佑欣を抱き上げた。「医者へ診せに行く」「医者へ診せて、子供を堕ろすんだ」大野社のこの言葉は、先ほど平手打ちされたことよりも、大野佑欣にとって辛かった。自分の父は、自分が子供を持つことで、政略結婚に影響が出るのを恐れていたのだ。結局のところ、両親は、それほど自分を愛していなかったのだ。大野皐月は大野社の言葉には耳を貸さず、大野佑欣を抱えて病室を飛び出した。二人が出て行った後、大野社は振り返り、顔中に火傷を負った和泉夕子を見た。大野皐月から彼女が春日望の娘だと聞かされ、彼が和泉夕子に会いに行くことを承諾したのだった。無人島で彼女を見つけた時、春日望だと思い込み、しばらく呆然としていた。しかし、大野社は冷静で、大きな動揺は見せなかった。彼にとって春日望は、若い頃に愛した女性だった。あれから何年も経ち、どんなに忘れられない想いがあっても、もはや過去のことでしかない。大野社は思考を整理し、和泉夕子から視線を逸らすと、病室を後にした。彼らが去った後、白石沙耶香は医師が残した軟膏を取り、和泉夕子の治療を続けた。「佑欣ったら、どうして夕子に八つ当たりするのよ」大野佑欣に同情するよりも、白石沙耶香は和泉夕子が心配だった。「彼女はショックを受けていて、反応が激しいだけよ。落ち着けば、あんな風にはならないわ」和泉夕子が大野佑欣を責めていないのを見て、白石沙耶香はため息をついた。それ以上文句を言うのを止め、和泉夕子は隣にいる霜村涼平に視線を向けた。「涼平、佑欣の様子を見てきてくれない？お腹の子供が心配......」出血していたから、流産の可能性が高い。和泉夕子はひどく心配していた。霜村涼平は行きたくなかったが、それでも病室を出た。しばらくして、大野皐月が霜村涼平と一緒に戻ってきた。和泉夕子の顔中が薬で覆われているのを見て、大野皐月はまず彼女のことを気遣った。「どうだ、まだ痛いむか？」ベッドにもたれかかっていた和泉夕子は、首を横に振り、大野佑欣のお腹の子供はどうなったのかと尋ねた。「ダメだった」和泉夕子と白石沙耶香は呆然とした。特に和泉夕子は、心に強い罪悪感を覚えた。「夕子は関係ない。父の加減ミスだ」大野皐月は、医師から子供が助からな
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