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第1467話

Author: 心温まるお言葉
「ぶっ壊せ!」

如月尭が手を一振りすると、後ろに控えていた黒服たちがすぐさま切断工具を手に取り、交代で手術室のドアを切りにかかった。あっという間に、手術室のドアは完全に取り外された。

「ここにいる医師達、俺の孫娘を救え、もし救えなければ、全員道連れだからな!!!」

「はい!」

如月尭の号令一下、医師たちが手術室に押し寄せた。疲れ果てていた林原健太は、他の医師たちが助けに来てくれたのを見て、ふっと息をつき、執刀医のポジションから進んで退き、メスを他の人に譲った。

胎児の蘇生に当たっていた大田清貴も、背負っていた罪悪感から解放され、ひたすら子供の救命に専念した。

霜村東邦だけが、信じられないといった様子で、医師たちの後ろで、杖をついて立っている如月尭に視線を向けた。

彼は今、何と言ったんだ?

和泉夕子が彼の孫娘だと?

和泉夕子は、まさか如月尭の孫娘だったのか?

如月家は北米の巨大企業。和泉夕子の背後には、こんなにも高貴な出自があったのか?

ドアの外にいる如月尭も霜村東邦の姿を確認した。血に飢えたような目で、彼をじっと見つめている。

「東邦さん、俺の孫娘を見捨てるとは、どうやら命は惜しくないようだな!」

氷のように冷たく、殺意を帯びた声が手術室に響き渡った。誰もがその殺気を感じ、思わず頭を下げた。北米の巨人、如月尭が両手を血に染め成り上がったことは、誰もが知っていた。

この点については、霜村東邦も承知していた。相手が自分を睨み殺しそうな視線とぶつかった時、思わず心臓が跳ねたが、それでも少しも恐れることなく顎を上げて、相手を睨み返した。

「尭さん、あなたは孫娘を、わしはひ孫を救いたい。我々の立場は、どちらも守りたい者を助けようとしているのであって、あなたに私の命についてどうこう言われる筋合いはない!」

如月尭は閻魔のような形相で、歯ぎしりをした。

「生き死にを極める権限は、あなたにはないんだよ。なぜならそれはこの銃が決めることだからな!」

北米では如月尭は銃を自由に扱えるが、霜村爺さんはこの点では到底如月尭には及ばない。

彼はもう如月尭の言葉には答えず、如月尭も手術の邪魔をするような声は出さなかった。両陣営は、片方は和泉夕子を、片方は赤ちゃんを見つめ、医師たちが死神の手から命を取り戻してくれるのを待っていた......

大野皐月は和泉
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