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第1484話
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契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1490話
感動と呼べるかどうかは分からなかったが、ただ、こんなに元気な命を見つめていると、霜村冷司は和泉夕子が命懸けで10％を選んだ理由が分かった気がした。親になると、自分の命を犠牲にしてでも子供を生かしたいと思う。これは善良な人間の本性であり、生命の継続を授かる本能でもあるのだろう。赤ちゃんを抱き、陽の光を浴びて微笑む霜村冷司の姿を見つめている和泉夕子の目には、徐々に涙が浮かんできた。彼女は心の中で、この瞬間のためなら、何度やり直しても、必ずこの子を生む、と思った。霜村涼平はスマホを取り出し、写真を一枚撮ると、霜村冷司がいない兄弟グループチャットに送った。【おい、見てみろよ！冷司兄さんが赤ちゃん抱っこしてる！まさかすぎるんだけど！マジでびっくり！】送信後、兄弟たちの反応を待つ霜村涼平だったが、白石沙耶香に肘で脇腹をつつかれた。「早く送信取り消して！家族グループに送っちゃってる......」ニヤニヤしていた霜村涼平の口角が硬直し、急いで送信を取り消そうと思ったが、向かい側の霜村冷司が彼に手招きをする。「よこせ」霜村涼平はスマホを握りしめ、頑として渡さない。「兄さん、友人たちに送るはずのちょっとここでは見せられない動画を間違えて家族グループに送っちゃってたから、沙耶香が早く送信取り消しってって言っただけなんだ。だから、今は見ない方がいいよ。今度夕子さんがいない時に、また改めて送ってあげるから」このあまりにも稚拙な言い訳に、霜村冷司は相手にするのも面倒になり、白石沙耶香に視線を向けた。「教えろ。クラブの件だが、30％出資してやる。今後、ここらで一番のクラブにしてやるから」白石沙耶香がもしこの条件に一秒でも迷うようなら、それは金に対する冒頭だろう。「彼は言いました。『おいおい、冷司兄さん、まさか赤ちゃんを抱っこするなんて、マジでびっくりだよ！』」そう言うと、白石沙耶香はさらなるご機嫌を取るため、とっておきの爆弾発言をした。「彼は他の兄弟たちと一緒に、秘密のグループを作っているんです。しかも、グループ名が『いきり野郎の霜村家次男、早く天に召されてしまえ』なんです」隣で白石沙耶香の服をぐいぐい引っ張って止めようとした霜村涼平だったが、それでも彼女の口は止まらない。心の中では「ふざけんな！」と怒り心頭、だが顔にはハッキリと「ヤバい！」という怯えがに
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1489話
名残惜しそうに和泉夕子から唇を離した霜村冷司は、興醒めしたように視線を逸らし、白石沙耶香を連れて退出していく霜村涼平を冷たく睨みつけた。「そんなに気になるなら、中に入って見ていけ。中途半端じゃ、満足できないんじゃないか？」霜村涼平は自分の図々しさはなかなかのものだと思っていたが、霜村冷司の方が一枚上手だった。思わず舌打ち混じりに感心するようにつぶやいた。「おいおい、この大胆さ。知らない人が見たら、リアルで公開プレイ配信でも始めるのかと思うぞ」霜村冷司はゆっくりと指を動かし、和泉夕子につかまれて乱れたシャツを撫でた。そして、一人掛けのソファに背を預け、霜村涼平に向かって顎を突き出した。「配信する勇気はある。見る勇気は、お前にあるか？」部屋に入って来た霜村涼平は、椅子を引き寄せ、霜村冷司の向かいに座った。「有料か？無料なら、仕方なく配信開始第一号の視聴者になってやるよ」和泉夕子はこの会話を聞くなり、顔を両手で覆ってしまった。この兄弟たち、普段どんな会話してるのよ......こんな話、堂々と口に出すことじゃないでしょ！？対して、白石沙耶香はというと、もはや慣れっこだった。何せ霜村涼平は、表では涼しい顔をしてても、ベッドの上では口説き文句の嵐だから。ズボンもろくに履き終わらないうちに、下ネタが次から次へと飛び出す始末。けどまさか、そのノリを、霜村冷司相手にまでぶつけるとは。この男、ほんと肝が据わってる。そんな怖いもの知らずな霜村涼平は、さらに攻めの姿勢に入ったが、霜村冷司の冷たく鋭い視線に勢いを失った。「えっと、そうだった......沙耶香、俺たち金太郎を連れてきたんだよな。兄さんたちに見せてあげてくれ......」白石沙耶香が赤ちゃんを抱えて差し出すと、和泉夕子は引きつった笑みを浮かべ、申し訳なさそうに我が子を受け取った。「半年も昏睡状態だったせいで、まだ名前もつけてあげられてないのよね......」霜村涼平は、この言葉が自分への当てつけだと分かっていたが、あえて無視して「金太郎」と呼びかけた。「夕子さん、名前は焦らなくて大丈夫だよ。もしあれだったら、お宮参りの時にでも自分で選ばせたらどうかな。今は金太郎でいい。丈夫に育つよ」和泉夕子が言葉を返す前に、隣にどっしりと座る男が冷淡に口を開いた。「今度、鉄男と鉄子も連れてこい。私たちに見せ
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1488話
霜村冷司は和泉夕子より回復が早かったため、ほとんどの時間、彼女の世話をしていた。和泉夕子が目を開けると、長身でがっしりとした霜村冷司が熱いタオルを持ち、自分の脚を優しく拭いている。今日は雪が降らず、太陽が顔を出した。金色に輝く陽の光がガラス越しに差し込み、清らかでやせ細ったその姿をそっと包み込む。まるで一筋の温かな流れのように。そのぬくもりが、ふんわりと和泉夕子の胸に染みわたっていった。彼の手つきは慣れていると同時にとても優しかった。彼女を起こさないように、そして彼女が不快にならないように、細心の注意を払っているようだった。彼女の視線に気づいたのか、霜村冷司は情熱的で物憂げな視線を向けてきた。「昏睡状態が長すぎると脚の血行が悪くなるから、毎日熱いタオルで拭くのがいいと先生が言っていたんだ」そう説明すると、霜村冷司は体を傾け、新しいタオルに変えた。まずふくらはぎを包み込み温めると、それから何度も優しく拭いた。実は、もともと彼はあまり人の世話をするタイプではなかったのだが、和泉夕子が目覚めた後、身体機能が低下するのを恐れたため、この半年で多くの看護知識を学んでいた。彼は彼女を愛している。その想いは骨の髄まで染み渡り、行動にも表れていた。このようなことは、一生を共に過ごした夫婦でも難しいことなのに。和泉夕子は深く感動し、目に涙を浮かべながら言った。「あなた......」和泉夕子は上半身を起こし、霜村冷司を抱きしめた。「どうしてかわからないけど、今この瞬間、ものすごくあなたを愛してる。誰よりも愛してる」抱きしめられた霜村冷司は、ゆっくりとタオルを置き、体の向きを戻すと和泉夕子を腕の中に抱き寄せた。「じゃあ、俺と息子どっちをより愛してる？」感動していた和泉夕子だったが、この言葉を聞いて思わず笑ってしまった。自分の息子とまで比べたがるなんて、この男は嫉妬の化身なのか？彼を愛していることは既に伝えていたので、和泉夕子は答えずに聞き返した。「じゃあ、あなたは？私と息子、どっちを愛してる？」霜村冷司は瞬きもせず、きっぱりと言った。「もちろんお前だ。あの子供はお前の命を危うく奪うところだったんだから、愛せるわけがないだろ」彼の目にも言葉にも嫌悪感が満ちていて、まるで白くふくよかに成長している息子に恨みでもあるかのようだった。和泉夕子は不満
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1487話
「だけ？」和泉夕子は唇を歪めて、苦笑いした。「冷司、いつも怪我のことをなんでもないことのように話すけど、実際は命に関わるようなことばかりじゃない？なのに、いつも私に隠そうとして、何も話してくれない」そう言うと、和泉夕子は手すりにつかまりながら、ゆっくりと立ち上がった。立ち上がるだけで、体力の半分を奪われるようだった。点滴の針を抜いた箇所からは、まだ血が流れていた。血の量はそこまで多くなかったが、痛みに彼女は冷汗をかいた。和泉夕子が自分の病室に入って来るなりしゃがみこんだので、霜村冷司は彼女の出血に気づかなかった。彼女が立ち上がった今、やっと状況を把握した。霜村冷司は身体を硬直させたが、一瞬のうちにベッドから起き上がり、よろめく彼女を抱き寄せた。「先生！」彼は和泉夕子を抱き上げ、大声で医師を呼んだが、和泉夕子はそれを止めた。「あなたのチップの苦痛に比べたら、私の痛みなんて大したことないわ。一緒に痛みを分かち合させて」霜村冷司は和泉夕子の言葉の意味を理解し、少し眉をひそめる。そして、彼は目を伏せ、腕の中の彼女を困ったように見つめ答えた。「ああ。チップのことは認めよう。だが、まずは医者を呼んで、止血してもらおう」彼が観念して白状したのを見て、和泉夕子は突然彼の首に抱きつき、顔を彼の肩に埋めた。「どうしよう、どうすればあなたのチップを取り出せるの......」生温かい液体が霜村冷司の服を濡らし、肩に染み込むとともに、彼の心にも入り込んでくる。彼はたまらなく胸を痛めた。「ばかだな、お前は医者じゃないんだ」霜村冷司はすらりとした指を和泉夕子の腰に添え、軽く叩いた。「怖がらなくても大丈夫だ。お前の旦那はそんなにやわじゃない。こんな小さなチップごときで死ぬものか」こんな子供騙しの言葉を、和泉夕子はとても信じられなかった。「尭さんが、あのチップにはウイルスが仕込んであるって言ってたわ。しかもいつ発症するかわからないんでしょ？あなたを失ってしまうと思うと、怖くてたまらない」以前、彼の死の知らせを聞いたとき、和泉夕子は生きた心地がしなかった。愛する人を失う痛みは、本当に辛いものだった。二度と同じ経験をしたくなかったし、それどころか、もし次も彼の後を追えなかったらと思うと、恐怖に駆られ、理性を失いそうになっていた。生死に執着していない男は、
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1486話
霜村冷司が気にしていたのは、記憶喪失そのものではなく、記憶を失った自分が桐生志越のことだけを覚えていて、霜村冷司だけを忘れてしまっていたことだった。きっと彼は、自分が心の奥底で一番愛しているのは桐生志越だと考えているのだろう。確かに、覚えていたのは桐生志越で、彼ではなかった。しかし、和泉夕子自身も、なぜこうなってしまったのかは理解できなかった。考え込んでいる彼女の表情を見た霜村冷司の目に、一瞬悲しみの色が映った。だが、それも束の間。男は辛い気持ちを抑え込み、彼女の手を離すと、彼女の顔に触れた。「いいんだ。お前が無事でいてくれさえすれば、たとえ一番愛している人が彼だとしても、構わない」子供を産むために大出血、合併症、そして生死の境をさまよった彼女が、今こうして生きて目覚めたこと自体が奇跡なのだ。今更一番愛している人が誰かなんて、気にすることではないだろう。どちらにせよ、霜村冷司が生涯望んでいたのは、和泉夕子の健康と子供の無事なのだ。和泉夕子が無事に目覚め、子供も危険を脱した今、自分のささやかな感情など、取るに足らない。和泉夕子は、自分が答えを出す前に、霜村冷司がすでに気持ちを整理したこと、そして......たとえ自分が桐生志越を一番愛していたとしても、彼は気にしないことに驚いた。痩せこけて、輪郭が浮き彫りになったその顔を見つめながら、和泉夕子はゆっくりと手のひらを返し、霜村冷司の指を握りしめた。「志越を愛していた時、彼のためにできたことは、ただ彼と結婚することだけだった。でも、あなたは......」彼女はもう一方の手を上げ、霜村冷司の豊かな髪に触れ、額から後頭部へと指先をゆっくりと滑らせた。「もしもいつか、頭の中のチップが、あなたを連れて行ってしまう日が来たら、私は迷わず、あなたと一緒にこの世界を去るわ」彼女のこれまでにないほど強い声は、まるで魔法のように、霜村冷司を包んでいた孤独感を一瞬にして吹き飛ばした。この世界には、自分だけではなく、命を懸けて自分を愛してくれる女性がいるのだと、彼は感じた。和泉夕子は、霜村冷司に心の奥底で誰を一番愛しているのかは言わなかった。ただ、共に死ぬことができると告げただけだった。こんなにも強い信念の前では、どんな答えも取るに足らないものだろう。霜村冷司の人生において、和泉夕子から愛していな
契約終了、霜村様に手放して欲しい 第1485話
霜村冷司はどれほどの苦しみを味わったのだろう。和泉夕子は胸が張り裂けそうで、涙がとめどなく溢れ出てきた......あの時、彼が離婚協議書にサインするよう迫ってきた理由がやっと分かった。こんなもので操られていたなんて。後にも先にも藤原優子や如月尭に脅されているのだと思っていたのに、まさかこんなことだったなんて......全てが繋がった今、和泉夕子の悲しみはさらに深まった。霜村冷司はなんて馬鹿なんだ。心配させまいと、何も言わず全て一人で抱え込んでいたなんて......自分は18歳以降の記憶をなくし、桐生志越を愛していた頃の記憶しか覚えてなくて、彼を完全に忘れてしまっていた。そして、ひどい言葉を吐いた上に、傷つけるようなことまでしてしまった......自分が「怖い」と彼に向けて言った後の霜村冷司が見せた絶望に満ちた瞳を思い出すと、和泉夕子の心臓は締め付けられるように痛んだ。「無事に目を覚ましてくれれば、私のことを覚えていなくても、構わない」なんて、あの時の霜村冷司は一体どんな気持ちでこの言葉を言ったのだろう。今わかるのは、自分が本当に最低だったということだけ。ほんの少しの間とはいえ、彼のことを忘れてしまっていたなんて。和泉夕子はいてもたってもいられなかった。なんとしてでも霜村冷司に会いたい。立ち上がれなくても、力の限りを尽くし両手で床を這って進んだ。血が点滴を抜いたところから流れ出し、服からも滲み出て、床を赤く染めていく......床の上の、小さくも強靭な後ろ姿を見つめながら、如月尭の目はみるみるうちに潤んでいく。「夕子、俺は間違っていた。もう一度やり直すチャンスが欲しい。冷司さんのところに連れて行かせてくれ......」霜村冷司をここに呼べば問題を解決することはできるだろう。しかし、和泉夕子と霜村冷司の間のことは、和泉夕子が自ら霜村冷司に会いに行くことで初めて、記憶喪失によって生まれた二人の間の溝を埋めることができる。和泉夕子は如月尭の言葉なんかに耳を貸さず、ひたすら這い進んだ。周りの人間も、自分のプライドも、霜村冷司と比べればどうでもよかった。だからこそ、彼を忘れてしまっていたことが本当に申し訳なかった......結局、如月尭は折れてドアを開け、白石沙耶香を中に入れた。そして、白石沙耶香に支えられて、和泉夕子はよろめきながら霜村
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