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第 1255 話

Author: 水原信
清の怒りを孕んだ視線を真正面から受け、助手は一瞬息を詰まらせた。

何も言えず、宝石の箱をしっかりと持ち直し、来た道をそのまま引き返していった。

梨花は、そっと清の顔をうかがいながら聞いた。

「……怒ってる?」

「怒ってないよ」

清は少し間を置いてから、彼女の表情を見て言葉を継いだ。

「俺の前では、そんなに気を使わなくていい。言いたいことは、ちゃんと口にして」

だが、それでも――彼は孝典のことや、あの宝石に関しては何も説明しなかった。

オークションが終わり、退出する人の波の中で、清が一度だけ後ろを振り返った。

その視線の先に孝典がいたのかどうか、梨花には分からなかった。

けれど、彼らの間に何か隠
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nami
梨花アホやん 典型的なお嬢様 危機感なさ過ぎてイライラする 何かあったとしても自業自得
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