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第6話

Author: 友哉
萌花の上辺だけの友人たちは、思わずクスクスと笑い出した。

中には、面白がって火に油を注ぐ者までいた。

「萌花、美琴さんが一番あんたの言うことを聞くって言ってなかった?どうして今じゃ、物一つ拾わせることもできないのよ」

「もしかして、今まで私たちを騙してただけ?」

「いくらなんでも、社長夫人なんだから、義姉が義妹にこき使われるなんて、聞いたことないわよ」

皆の前でプライドを潰された萌花は、鼻で笑って言った。「彼女が一体どこの社長夫人だっていうのよ。お兄様は全然認めてないんだから!」

萌花は、その場で美琴を罵り始めた。「うちの結城家に嫁げたのは、あんたの幸運なのよ。お兄様があんたを娶ったのは、あんたを甘やかすためじゃないの。こんな些細なことすらできないで、結城家の嫁に相応しいとでも思ってるの?」

美琴はきっぱりと言った。「誰がなりたいって?この社長夫人なんて、もう御免よ」

そう言い放つと、美琴は道を塞ぐ萌花を押し退け、そのまま去っていった。

静香と食事を終え、美琴は家に戻った。

配達員はすでに荷物を玄関まで届けてくれていた。簡単に片付けを済ませ、シャワーを浴びてベッドに横たわると、仕事のことを考え始めた。

手には、時也から渡された名刺が握られていた。

美琴は彼のチームに強く惹かれていた。

彼のチームにぜひ参加したい、と強く願っていた。

ただ、少し自信が持てないでいた。

でも、将来のために計画を立てなければならない。試してみる価値はあるはずだ。

司との離婚では、彼女は財産を要求しなかった。

子供も司に預け、彼女は文字通り身一つで家を出た。

結婚した時、皆は彼女がお金目当てだと思っていた。彼女の両親でさえ、司と結婚できたのは前世で徳を積んだからだ、玉の輿に乗ったのだと信じて疑わなかった。

だから、彼女の両親は今でも、良い婿がいると自慢している。

彼女が幸せかどうかなど、一度も尋ねることはなかった。

どうでもよかった。元々、彼女が望んだことなのだから、不平を言う筋合いもない。

美琴は幼い頃から自立しており、自力で生きていく能力もあった。だから、一刻も早く離婚して、あの冷え切った家から抜け出したかったのだ。

すると、美琴は時也に電話をかけた。

「桐谷くんのチームに入りたい」

時也は驚きと喜びを隠せない様子で言った。「美琴さん、ようこそ!歓迎するよ!」

「いつから出勤できるかしら?」

「いつでも大歓迎さ」

「じゃあ、来週の月曜日に。ちょうど準備期間が欲しいから」

「分かった。明日、時間はあるかい?研究所を案内するよ」

「ええ」

時間を約束し、美琴は電話を切った。

そして、ネットで大量の本を注文し、この数日で集中的に読むつもりで準備を始めた。

翌日、時也が美琴を迎えに来た。

彼に付き添われ、研究所を見学し、最後に研究室へとやってきた。

「何か追加で必要なものはないかい?」

見慣れた研究室を見て、美琴は目頭が熱くなるのを感じた。

大学時代、研究室にこもって研究するのが好きで、一度始めると一日中没頭していたものだ。

「これで十分よ。大学時代よりもずっと設備が整っているわ」

「ここが、これから君の研究室になるんだ」

「ありがとう」美琴は少し感動した。

大学時代は優秀だったかもしれないが、卒業後は関連する研究職には就いていなかった。ここにいられることを、彼女は非常に幸運だと感じていた。

時也はフッと笑った。「お礼を言うのはまだ早いよ。これは水瀬先生の希望なんだ。先生は君に期待しているんだ」

美琴の表情は一転して重くなった。「水瀬先生は、お元気かしら?」

あの年、卒業後、彼女は迷うことなく司と結婚した。

結婚後、彼のために会社に入り、広報の仕事をするために研究の道を諦めてしまった。大学四年間、指導してくれた水瀬先生に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

「元気だよ。ただ、年を取って、少し無理が利かなくなってきたみたいだけどね。でも、君が戻ってきたから、水瀬先生も安心して引退できるだろう。

彼はこの二日間出張中なんだ。戻ってきたら、君を連れて会いに行くよ」

「ええ、そうすべきね」

美琴は時也にご馳走し、それから別れた。

来週の月曜日には入社だ。仕事が始まれば、龍旭と一緒に過ごす時間はさらに減ってしまうだろう。

やはり、自分の生んだ子だ。美琴は寂しさを感じ、家に帰って彼にもっと会いたいと思った。

その頃。

龍旭はカーペットに座り、小さな両手で箱をこじ開け、中の子猫たちをじっと見つめていた。

「紅空おばさん、これがたまちゃんの赤ちゃん?」

紅空は優しく頷いた。「そっと撫でてあげていいわよ」

龍旭は小さな手を伸ばし、フワフワの子猫の頭をそっと撫でた。

とても柔らかい。まるでママが編んでくれた子猫の帽子みたいだ。

そう考えていると、龍旭はふと、ママが何日も帰ってきていないことを思い出した。

ママがいないこの数日間、彼は好きなものを食べ、好きなように遊べた。誰にも何も言われる心配がなかった。

彼はとても自由だった。

紅空おばさんと楽しく遊んでいた。

でも今、彼の心はぽっかりと穴が開いたようだった。

龍旭は笹木を呼んだ。「ママはいつ帰ってくるの?」

笹木は困った顔をして言った。「まだ、何も連絡がありません」

龍旭は幼い顔を曇らせ、淡々と「ふーん」と返事をした。

またママったら。

仕事のために、家のことも僕のことも構わない。

僕のことなんて、全然気にかけてないんだ。

この何日もの間、電話もかけてこなかった。

この数日間の朝食は、すべて笹木が作ってくれたものだ。

ママの味がしないから、全然美味しくない。

この数日間、彼は朝食をほとんど食べていなかった。

ママは、もう僕のこといらないのかな?

ママが僕をいらないなら、僕もママなんていらない。

紅空は龍旭の落ち込んだ様子に気づき、優しく尋ねた。「どうしたの、龍旭?ママが恋しいの?」

龍旭は慌てて首を横に振った。ママは僕を好きじゃないし、僕もママなんていらない。

もし、僕のママが紅空おばさんだったらいいのに。

「紅空おばさん、僕のママになってくれる?」

美琴が帰宅し、リビングに入った途端、龍旭のその言葉を聞いた。

彼女の足が止まり、胸が締め付けられるように痛んだ。

龍旭は顔を上げて美琴を見ると、瞳を輝かせたが、すぐにその輝きは失われ、小さな口を尖らせてそっぽを向き、美琴に気づかないふりをした。

紅空は笑顔で言った。「龍旭、本当に私があなたのママになってほしいの?」

龍旭はすぐに力強く頷き、大きな声で言った。「うん!紅空おばさんはいつも僕と一緒にいてくれるし、一緒に遊んでくれるから、大好き!」

「私も龍旭が大好きよ」

美琴の目には涙が滲み、目の前の光景を見ていた。彼らはまるで、本当の親子のように見えた。

龍旭の言葉は、鋭い刃物のように、美琴の心を深く突き刺した。

美琴は深く息を吸い込み、感情を抑え込んだ。「龍旭、ママが帰ってきたわ」

龍旭は美琴の方を振り向かず、返事もせず、紅空の手を引いた。「紅空おばさん、僕と一緒に工作の宿題、手伝ってくれる?」

紅空は頷き、龍旭の手を引いて二階へと上がっていった。

美琴のそばを通り過ぎる時、紅空は申し訳なさそうに言った。「ごめんね、望月さん、ちょっと龍旭と少し遊んでくるわね」

美琴の足取りは重く、一歩も踏み出せないほどだった。

龍旭は苛立ったように美琴を促した。「ママ、早くどいてよ。僕の工作の宿題が遅れちゃうじゃないか」

美琴は体を横にずらして道を譲った。紅空と龍旭が二階へ上がっていくのを見送ると、広々としたリビングには美琴一人だけが残り、ひときわ寂しさが募った。

この間、美琴は離婚と退職で忙しく、龍旭を放っておいた。彼が不機嫌になるだろうと思っていたのに。

まさか、紅空がそばにいるから、自分の帰りを全く望んでいないなんて。

美琴の心には、複雑な感情が渦巻いていた。

笹木は美琴が不機嫌な様子を見て、きっと紅空のせいだろうと思い、慰めの言葉をかけた。「奥様、お帰りなさいませ。坊ちゃま、さっきまで奥様がいつ帰ってくるか尋ねていらっしゃいましたよ。お二人、本当に親子ですね」

美琴は無理に笑顔を作り、「そうかしら?」と言った。

笹木は頷いた。「奥様、坊ちゃまはやはり奥様のことを思っていらっしゃいますよ」

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