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好かないアイツは委員長!
好かないアイツは委員長!
Author: 伊吹ハナ

1好かないアイツは委員長!

Author: 伊吹ハナ
last update publish date: 2026-10-12 09:20:59

 髪型良し。爪の手入れ良し。昨日ギャル友の女子から貰ったピアスを耳に付け、鏡の前で微笑んでみる。

「うん、今日のオレもイイ感じ!」

 流石オレ、ビジュ良〜!

 鏡の自分に向かって親指立てて、まだ眠っている愛犬に「行ってきま〜す!」とだけ声かけて学校に向かう。

 オレ、日向ひなた 真まこと。高校二年生。みんなからは通称ヒナって呼ばれてる。真って呼ぶのは家族くらい。髪を染めて制服を崩して着ていても「まあ無遅刻無欠席なら」と片目を瞑ってくれている。だってせっかくの高校ライフ、地味に過ごすなんて勿体ない。友達たくさん作りたいし遊びたい! となったら話しかけてくれる友人達の影響もあってこんな見た目になった。まあ、通ってる高校がバチクソに拘束厳しいってわけでもないのが幸いだった。

 チャラ男だけど一応テスト勉強はしてるし赤点は今の所取ったことがない。だって勉強出来ないかあからさまな派手なヤツって、ちょっとダサいじゃん。だから一般良識はしっかり頭に叩き込んでいるつもりなんだけど……。

「日向。また襟足伸ばしっぱなしですか」

 校門前、風紀チェックをしている委員長──橘たちばな 律りつに今日も睨まれる。ていうか、他にも規則守ってない生徒はいるはずなのに! なんで委員長はいつも目敏くオレを見つけるんだ。

「おはよーございまーっす! 委員長、今日も朝から機嫌悪いですね! そんなに眉間に皺寄せちゃったら、みーんな怖がって逃げちゃいますよ!」

 皆から恐れられる橘とのやり取りも数えきれない。もう今のオレにとっては朝飯前だ。皺が寄っている眉間に手を伸ばし指でなぞる。

「日向……!」

「せっかくイイ男なんだから、モテ期逃しちゃダメだって!」

 何を隠そう、この男――橘は男前だった。体は鍛えているのか体格は良く、風紀委員長というだけあって制服は崩して来た事はないし、頭髪も引っかかったことがない。あーあ、この男がチャラ男になったらオレと今仲イイギャル友も橘に一直線になるんだろうな〜……と謎の敗北を感じながら眉間をツンツンしていれば手をバッと取られる。やべ、調子乗りすぎたか。

「……に、しろ」

「え? なんて?」

 いつも発音良いのに今日は小さな声で聞こえなかった。オレよりも身長は高くないから俯かれると表情は見えない。少し屈んで下から顔を覗き込めば、ヌッと手が伸び勢いよく第三ボタンまで外していたボタンを全て留められユルユルだったネクタイもギチィッ! と締め上げられる。

「ぐえっ! な、なに委員長! 暴力反対――」

「スキンシップは! 心許せる相手だけにしろッ!」

 そう叫んで、校舎の方へ走り出してしまった。この奇行、全然橘らしくない。オレも呆然、周りも呆然。彼が走り去る時にオレに押し付けた身嗜みチェック表。

「どうすんだよこれ〜……」

 生徒一人一人の名前と頭髪服装欄。何これ、アイツは全校生徒の顔と名前を把握してるってこと? あ、オレの欄見っけ。……くそう、しっかり全部の欄にペケ付けやがって。

「あれ、ヒナじゃん。いつもの煩い委員長は?」

 チャラ男とギャルの集団。いつメン。彼らは橘の奇行を目にしてないため、オレがチェック表を持っていることを不思議に思っている。……橘は戻ってこない。これは、チャンスか?

「今日限定でーす! オレが身嗜みチェックしまーす! 君たちは……オッケー! 今日もみんなビジュ良いね!」

「ラッキー! ヒナが毎日チェックしてくれたらテンション上がるのにな〜!」

 そんな友人達の褒め言葉を聞きながら、ヤンキーにもぼっちそうな人にもいつも橘がやっているように「おはよー!」と挨拶をする。いつメンのようにノリがいい人はあまりおらず変な顔で素通りされることがほとんどだが……橘もこんな気分だったのかと思えば負けていられずに満面の笑みで手を振ってやった。

 *

「はい、これ。さっき置いて行ったやつ」

 朝のホームルームが終わり、一限目が始まる前の数分に。橘がいるクラスまで行きチェック表を手渡す。

「……」

「空白だったところ、わかる顔と名前の人のとこだけチェックはしておいたんだけど」

「……」

 橘は黙って表を見、ギロリとこちらを睨んできて少したじろぐ。相手が椅子に座っていて目線的にはオレの方が上なはずなのに、なんで怖いんだよ。そんなだからぼっちなんだよ。……とは、言わないけれど。

「これでチェックしてるつもりですか?」

 ため息を吐きながら言われる。

 カチン、と来てしまった。

「仕方ねーだろ! お前どっかに消えちゃうし、オレだって風紀委員の仕事したことなかったし! とりあえず感謝くらいしてくれても良くね⁉︎」

「感謝ですか?」

 橘はオレの頭から爪先までじっくり見つめて、目を逸らす。

「その見た目をどうにかしてから考えます」

「……はぁ〜〜〜ッ⁉︎」

 なんか。腹立った。めちゃくちゃ腹立った。

 いつも校門で注意してきて面倒だとは思っていたけど、それは橘も仕事だからと割り切ることは出来ていた。でも、違った。話してみてわかった。橘 律。めちゃくちゃ性格が悪い。

「損した! めちゃくちゃ損した! わざわざ委員長の代わりなんてしなきゃよかった!」

「頼んでませんよ」

「じゃあ消える時なんでオレに押し付けたの! マジ変なところで奇行に走るし変なヤツ!」

 もう気分最悪だ。多分コイツといると碌なことが起こらない。ぷんすか怒りながら自分の教室に戻るも、誰もいない。

「……一限目、化学室だった!」

 チャイムの音。ああ〜、折角の無遅刻無欠席が〜!

「委員長の馬鹿ばかバカ〜!」

 慌てて教材を用意して、よりに寄って一番遠い化学室まで走っていく。再び橘がいるクラスを横切る時に「廊下は走らないでください」なんてまた言われ鼻につく。なんだよ。全部お前のせいなのに。ほんっとにお前いけ好かない!

 振り返って思い切りあかんべーをしてから再び走っていく。

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