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髪型良し。爪の手入れ良し。昨日ギャル友の女子から貰ったピアスを耳に付け、鏡の前で微笑んでみる。
「うん、今日のオレもイイ感じ!」
流石オレ、ビジュ良〜!
鏡の自分に向かって親指立てて、まだ眠っている愛犬に「行ってきま〜す!」とだけ声かけて学校に向かう。 オレ、
チャラ男だけど一応テスト勉強はしてるし赤点は今の所取ったことがない。だって勉強出来ないかあからさまな派手なヤツって、ちょっとダサいじゃん。だから一般良識はしっかり頭に叩き込んでいるつもりなんだけど……。
「日向。また襟足伸ばしっぱなしですか」
校門前、風紀チェックをしている委員長──
「おはよーございまーっす! 委員長、今日も朝から機嫌悪いですね! そんなに眉間に皺寄せちゃったら、みーんな怖がって逃げちゃいますよ!」
皆から恐れられる橘とのやり取りも数えきれない。もう今のオレにとっては朝飯前だ。皺が寄っている眉間に手を伸ばし指でなぞる。
「日向……!」
「せっかくイイ男なんだから、モテ期逃しちゃダメだって!」何を隠そう、この男――橘は男前だった。体は鍛えているのか体格は良く、風紀委員長というだけあって制服は崩して来た事はないし、頭髪も引っかかったことがない。あーあ、この男がチャラ男になったらオレと今仲イイギャル友も橘に一直線になるんだろうな〜……と謎の敗北を感じながら眉間をツンツンしていれば手をバッと取られる。やべ、調子乗りすぎたか。
「……に、しろ」
「え? なんて?」いつも発音良いのに今日は小さな声で聞こえなかった。オレよりも身長は高くないから俯かれると表情は見えない。少し屈んで下から顔を覗き込めば、ヌッと手が伸び勢いよく第三ボタンまで外していたボタンを全て留められユルユルだったネクタイもギチィッ! と締め上げられる。
「ぐえっ! な、なに委員長! 暴力反対――」
「スキンシップは! 心許せる相手だけにしろッ!」そう叫んで、校舎の方へ走り出してしまった。この奇行、全然橘らしくない。オレも呆然、周りも呆然。彼が走り去る時にオレに押し付けた身嗜みチェック表。
「どうすんだよこれ〜……」
生徒一人一人の名前と頭髪服装欄。何これ、アイツは全校生徒の顔と名前を把握してるってこと? あ、オレの欄見っけ。……くそう、しっかり全部の欄にペケ付けやがって。
「あれ、ヒナじゃん。いつもの煩い委員長は?」
チャラ男とギャルの集団。いつメン。彼らは橘の奇行を目にしてないため、オレがチェック表を持っていることを不思議に思っている。……橘は戻ってこない。これは、チャンスか?
「今日限定でーす! オレが身嗜みチェックしまーす! 君たちは……オッケー! 今日もみんなビジュ良いね!」
「ラッキー! ヒナが毎日チェックしてくれたらテンション上がるのにな〜!」そんな友人達の褒め言葉を聞きながら、ヤンキーにもぼっちそうな人にもいつも橘がやっているように「おはよー!」と挨拶をする。いつメンのようにノリがいい人はあまりおらず変な顔で素通りされることがほとんどだが……橘もこんな気分だったのかと思えば負けていられずに満面の笑みで手を振ってやった。
*
「はい、これ。さっき置いて行ったやつ」
朝のホームルームが終わり、一限目が始まる前の数分に。橘がいるクラスまで行きチェック表を手渡す。
「……」
「空白だったところ、わかる顔と名前の人のとこだけチェックはしておいたんだけど」 「……」橘は黙って表を見、ギロリとこちらを睨んできて少したじろぐ。相手が椅子に座っていて目線的にはオレの方が上なはずなのに、なんで怖いんだよ。そんなだからぼっちなんだよ。……とは、言わないけれど。
「これでチェックしてるつもりですか?」
ため息を吐きながら言われる。
カチン、と来てしまった。「仕方ねーだろ! お前どっかに消えちゃうし、オレだって風紀委員の仕事したことなかったし! とりあえず感謝くらいしてくれても良くね⁉︎」
「感謝ですか?」橘はオレの頭から爪先までじっくり見つめて、目を逸らす。
「その見た目をどうにかしてから考えます」
「……はぁ〜〜〜ッ⁉︎」なんか。腹立った。めちゃくちゃ腹立った。
いつも校門で注意してきて面倒だとは思っていたけど、それは橘も仕事だからと割り切ることは出来ていた。でも、違った。話してみてわかった。橘 律。めちゃくちゃ性格が悪い。「損した! めちゃくちゃ損した! わざわざ委員長の代わりなんてしなきゃよかった!」
「頼んでませんよ」 「じゃあ消える時なんでオレに押し付けたの! マジ変なところで奇行に走るし変なヤツ!」もう気分最悪だ。多分コイツといると碌なことが起こらない。ぷんすか怒りながら自分の教室に戻るも、誰もいない。
「……一限目、化学室だった!」
チャイムの音。ああ〜、折角の無遅刻無欠席が〜!
「委員長の馬鹿ばかバカ〜!」
慌てて教材を用意して、よりに寄って一番遠い化学室まで走っていく。再び橘がいるクラスを横切る時に「廊下は走らないでください」なんてまた言われ鼻につく。なんだよ。全部お前のせいなのに。ほんっとにお前いけ好かない!
振り返って思い切りあかんべーをしてから再び走っていく。
「おはようございます。日向、また制服を崩して着ていますね」「……」「日向。返事をしなさい」「……」 するかよ。昨日は結局一限目遅刻になってしまったし、オレはまあまあ腹が立ってるというのに。何も無かったかのように声をかけてくる黒髪眼鏡野郎をジト、と睨み無視して通り過ぎようとする。「日向」 手首を掴まれる。これまた半端ない握力。「痛いッ」と顔を歪めれば「やっとこっちを見ましたね」と橘は淡々と言う。「なんだよ! 構ってちゃんかよ! いつも通りに声かけてほしいならお前から謝れよな!」「謝る?」 首をコテンと傾げられる。コイツ、昨日オレが何故怒ったのか理解してないというのか……!「あのなあっ! 昨日代わりにチェックして――」「ちゃんと第一ボタンまで留めるように」 また勝手に手が伸びてボタンを留められ、ネクタイもキツく締められる。苦しさに顔を顰めれば「お似合いですよ」なんて言われる。皮肉か。「マジ萎え……」「萎え?」「委員長といると気が滅入るってこと!」 背を向けて早々にネクタイを緩める。第一ボタンを外したところで「そうか、自ら留めさせるようにすればいいのか」と橘は呟いている。「明日には規則正しくしてもらいますよ」「勝手に言ってろ」 なんて事があったのが午前中だったのに。 放課後、オレも美化委員の仕事があって学校に居残って掃除していた。オレが美化って意外? でも掃除するのは案外好き。綺麗になっていく過程が気持ちいいから。やっぱ汚いよりは綺麗の方がいいだろうし。 今日決められた教室を掃除し終え、一人で廊下を歩いていた時。真横の教室のドアが開いて手を掴まれ、中に連れ込まれる。あまりにも強い力で引っ張られ相手にぶつかる。抱き止められ、見上げれば無表情の橘がいる。「……んだよ」「日向には明日から風紀を守ってもらいますから」「良いだろオレがどんな見た目でも。風紀委員以外には迷惑かかってないんだから――」「強引ですが、失礼します」 胸元に手が伸びまたボタン留められる……と思っていたのに。ぷち、ぷち、とボタンを外していく。何をしているんだ? と呆然と手元を見つめていれば今度は勢いよくバッと肌蹴られ上半身が露わになる。 え? 何? 訳わからずに橘を見上げれば、変わらず無表情でも、舌舐めずりしていて……慌てて距離を取ろうとするがしっかり制
髪型良し。爪の手入れ良し。昨日ギャル友の女子から貰ったピアスを耳に付け、鏡の前で微笑んでみる。「うん、今日のオレもイイ感じ!」 流石オレ、ビジュ良〜! 鏡の自分に向かって親指立てて、まだ眠っている愛犬に「行ってきま〜す!」とだけ声かけて学校に向かう。 オレ、日向 真。高校二年生。みんなからは通称ヒナって呼ばれてる。真って呼ぶのは家族くらい。髪を染めて制服を崩して着ていても「まあ無遅刻無欠席なら」と片目を瞑ってくれている。だってせっかくの高校ライフ、地味に過ごすなんて勿体ない。友達たくさん作りたいし遊びたい! となったら話しかけてくれる友人達の影響もあってこんな見た目になった。まあ、通ってる高校がバチクソに拘束厳しいってわけでもないのが幸いだった。 チャラ男だけど一応テスト勉強はしてるし赤点は今の所取ったことがない。だって勉強出来ないかあからさまな派手なヤツって、ちょっとダサいじゃん。だから一般良識はしっかり頭に叩き込んでいるつもりなんだけど……。「日向。また襟足伸ばしっぱなしですか」 校門前、風紀チェックをしている委員長──橘 律に今日も睨まれる。ていうか、他にも規則守ってない生徒はいるはずなのに! なんで委員長はいつも目敏くオレを見つけるんだ。「おはよーございまーっす! 委員長、今日も朝から機嫌悪いですね! そんなに眉間に皺寄せちゃったら、みーんな怖がって逃げちゃいますよ!」 皆から恐れられる橘とのやり取りも数えきれない。もう今のオレにとっては朝飯前だ。皺が寄っている眉間に手を伸ばし指でなぞる。「日向……!」「せっかくイイ男なんだから、モテ期逃しちゃダメだって!」 何を隠そう、この男――橘は男前だった。体は鍛えているのか体格は良く、風紀委員長というだけあって制服は崩して来た事はないし、頭髪も引っかかったことがない。あーあ、この男がチャラ男になったらオレと今仲イイギャル友も橘に一直線になるんだろうな〜……と謎の敗北を感じながら眉間をツンツンしていれば手をバッと取られる。やべ、調子乗りすぎたか。「……に、しろ」「え? なんて?」 いつも発音良いのに今日は小さな声で聞こえなかった。オレよりも身長は高くないから俯かれると表情は見えない。少し屈んで下から顔を覗き込めば、ヌッと手が伸び勢いよく第