LOGIN相馬佳晴は、知らない部屋で目が覚めた。ベッドを出ようとすると、自分が裸であることに気づく。 何か失態を犯してしまったのかと、昨夜の事を思い返す。行きつけのバーに行って、カクテルを飲んだ事は覚えている。しかし、その後の事が思い出せない。 服を着てリビングに行くと、家主の相沢竜希が二人分の料理を用意していた。警戒しながらも食卓につく佳晴を、意味深な視線で竜希が見つめる。その視線だけで、快楽を感じてしまう佳晴。混乱する佳晴に、竜希は「昨夜は、濃密な夜だった」とだけ告げる。佳晴は、竜希から逃げ出すようにその場を離れる。 だが、どこへ行っても竜希の影がちらつき、佳晴の体は竜希を覚えてしまっていた。
View More(いや、まさか、そんな……あり得ないって!)一瞬、頭によぎった可能性を、僕は全力で否定してカクテルを煽るように飲む。ライチの爽やかな香りが、脳内をクリアにはしてくれる。けれど、目の前にある鍵の処遇については、何の解決策も浮かばなかった。僕は小さくため息をついて、他の席を眺める。カウンター席には、僕の他に一人の男性が座っていた。ボックス席の方に視線を向けると、カップルや友達同士らしい客が複数人いる。そんな中、一番奥の席に相沢さんの姿があった。(あ、いた!)鍵を返しに行こうと、席を立ちかける。けれど、彼の対面に肩を落とした女性が座っているのが見えた。(そういえば、マスターに何かお願いされてたっけ)座り直した僕は、相沢さんとマスターの先ほどの会話を思い返す。確か、相沢さんを指名していたような気がする。何をしているのだろうと眺めていると、相沢さんとその女性は、会話をしているだけのように見えた。ただ、楽しんでいるようには見えない。どうやら、彼女は、相沢さんに何かを相談しているらしい。マスターが彼に頼んでいたのは、客の相談に乗ってほしいというものだったようだ。(へえ。カウンセラー的な立ち位置なのか)なるほどと、様子をうかがう。次第に、女性の表情が、暗いものから明るいものへと変わっていく。きちんと相手に向き合っているようだ。そんな姿を見てしまったら、会話に割り込むだなんてできるはずもない。夜のお誘いをする口実だと思っていたのに。彼は、僕が思っているよりも誠実な人なのかもしれない。(昨日の夜の事は、魔が差しただけ……だよな。うん、きっとそうだ)と、僕は自分を納得させる。個人的に話がしたいというのも、言葉通りの意味なのだろう。そう考えた僕は、彼の手が空くまで待つことにした。けれど、そんな時間はやってこなかった。カクテルとローストナッツの量だけが増えていく。彼が僕の近くを通りすぎる度に声をかけようとして、やめた。仕事の邪魔はしたくない。僕は、
脳内に浮かぶ彼の指使いに合わせながら、僕は自身に指を這わせる。優しくなで、時に激しく上下させる。自分で触れているはずなのに、彼に触れられているように感じた。錯覚なのは、わかっている。けれど、彼に出会う前の自慰よりも快楽を感じていた。何度目かの絶頂の後、僕は荒い息のまま脱衣所に向かった。収まることを知らない下半身の疼きから、解放されたかった。肌に擦れる布の感触が、完全には引いていない熱を呼び戻す。敏感すぎる感覚を恨めしく思いながら、僕は服を脱いで風呂場に入った。熱いシャワーを頭から浴びていると、体内に残っている衝動がゆっくりと鎮まるのを感じた。シャワーの音を聞きながら、あれは事故だったのだと、心の中で自分に無理矢理、言い聞かせる。ざわついていた心が落ち着きを取り戻し、僕はシャワーを止めた。その瞬間、背中を水滴が流れ落ちていった。背筋を這う相沢さんの指の感触が、一気に蘇る。「ひぅっ……!」思わぬ声が漏れ出て、咄嗟に口に手を当てる。「くそっ……!」悪態をつき、頭をかきむしる。シャワーだけでは、解放されないのか。(……そうだ! ジムに行こう!)こういう時には、体を動かすのが一番いい。おろし立ての服に着替えた僕は、車で馴染みのジムに向かった。ジムの受付で会員証を見せて、更衣室に移動する。持ち込んだ服に着替えて、トレーニングスタジオに入ると、いつもより利用客が多い。今日が土曜日だから、というのもあるのだろう。「相馬さん、こんにちは! 今日は、どんなメニューにしますか?」背の高い男性に声をかけられ、わずかに肩を震わせた。のどが締まり、息が止まる。「……こんにちは」僕は、何気ないふうを装って、にこやかにあいさつを返した。ぎこちない笑顔になってはいないかと、気が気ではない。でも、彼は気づいていないのか、僕の様子には触れなかった。声をかけてきた男性は、インストラクターの九条《くじょう》さんだ。僕が初めて
意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。(ここ……どこだ?)知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。「痛っ……!」頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。「……は?」布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。「マジか……」視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。「とりあえず、落ち着け!」深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。(何だろう? これ……)どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。緊張と