プライベートレッスン~大人の恋愛講座~

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相馬佳晴は、知らない部屋で目が覚めた。ベッドを出ようとすると、自分が裸であることに気づく。 何か失態を犯してしまったのかと、昨夜の事を思い返す。行きつけのバーに行って、カクテルを飲んだ事は覚えている。しかし、その後の事が思い出せない。 服を着てリビングに行くと、家主の相沢竜希が二人分の料理を用意していた。警戒しながらも食卓につく佳晴を、意味深な視線で竜希が見つめる。その視線だけで、快楽を感じてしまう佳晴。混乱する佳晴に、竜希は「昨夜は、濃密な夜だった」とだけ告げる。佳晴は、竜希から逃げ出すようにその場を離れる。 だが、どこへ行っても竜希の影がちらつき、佳晴の体は竜希を覚えてしまっていた。

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1화

第1話 知らない熱の余韻

意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。

(ここ……どこだ?)

知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。

視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。

「痛っ……!」

頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。

とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。

「……は?」

布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。

あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。

(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)

なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。

「マジか……」

視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。

なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。

「とりあえず、落ち着け!」

深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。

頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。

ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。

そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。

(何だろう? これ……)

どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。

落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。

扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。

緊張と未知の恐怖に強張る体を解すように、僕は小さく深呼吸をする。覚悟が決まったところで、隣室に繋がる扉を開ける。

「あ! おはよう」

僕よりも背の高い男が、振り向いて笑顔を見せる。目鼻立ちのはっきりしている、いわゆるイケメンだった。二枚目の若手俳優にでもいそうな雰囲気がある。おそらく、この家の主だろう。右側にあるカウンター型のキッチンから、二人分のカップをテーブルに持ってくるところだった。

「おはよう、ございます……」

僕は、反射的にそう返していた。

栗色の髪の見覚えのない男。それも、自分より若いだろう彼を前に、僕は必死で記憶を掘り起こそうとする。最近、入社したばかりの後輩か、それとも取引先の誰かか。いずれにしても、僕の記憶の中にはいない人物だった。

「何で、そこで突っ立ってるのさ? こっちにおいでよ」

笑いながら、男が声をかけてきた。

彼は、部屋のほぼ中央にあるテーブルの向かい側に座っている。何気ない日常風景のはずなのに、ドラマのワンシーンのように思えてしまった。彼の雰囲気が、そう思わせるのかもしれない。

混乱する中、僕はその場から動けなかった。彼が誰なのか。ここがどこなのか。そもそも、なぜ僕がここにいるのか。疑問だらけで、上手く思考がまとまらない。おまけに、頭痛はまだ居座っている。

「朝飯作ったから、一緒に食べようぜ」

と、彼がにこやかに誘ってくる。

テーブルの上に視線を向けると、二人分の朝食が準備されていた。出来立てなのか、白い湯気が立っている。

どうしようかと逡巡する間もなく、僕の腹が大音量で鳴った。

「あ……」

気づいた瞬間、恥ずかしくて顔が熱くなる。

(マジか……。この状況でも腹減るとか、どんだけだよ)

僕は、内心、自分にツッコミを入れた。穴があったら、すぐにでも入りたいくらいだ。

「あっはは、体は正直ってか! 悩むのは、腹ごしらえしてからでもいいんでない?」

豪快に笑ったかと思うと、彼は優しくたずねてくる。

この状況で断るのも何だか気が引けて、僕はご相伴にあずかることにした。彼の対面に座ると、ほかほかのご飯と形のきれいな卵焼きとしじみのみそ汁が、僕を待ち構えていた。

「……いただきます」

緊張しながらつぶやいて、僕は食事に手をつける。

朝食は、どれも優しい味わいで、二日酔いの僕にはとてもありがたいものだった。

「めっちゃ、美味そうに食べるじゃん」

と、対面にいる彼が、優しい微笑みを浮かべている。

「……っ! 何だか、がっついてるみたいでみっともないですよね。すみません」

急に恥ずかしくなった僕は、進む箸を止めて頭を下げた。

「いや、別にいいって。ただ、佳晴《よしはる》さんが、元気になったみたいでよかったなって思ってさ」

彼はそう言って、卵焼きを一切れ口に入れた。

(……ん? 名前、呼ばれた?)

彼の今の発言に、僕は少し引っかかった。

「あの……どうして僕の名前、知ってるんですか?」

箸を置いて、僕は目の前の男に問いかけた。

少し、警戒しているような声音になってしまったかもしれない。でも、それもしかたがないだろう。面識のない人物なのだし、名前を教えた記憶もないのだから。

「あれ? もしかして、覚えてない? 昨日の夜、あんたが教えてくれたんだぜ? 相馬《そうま》佳晴さん」

「え? 僕が教えた……?」

予想していなかった事に、僕は愕然とする。

「ちなみに、俺は相沢《あいざわ》竜希《たつき》でーす」

よろしくと、彼は自己紹介した。

(確かに、聞いたことがあるような……?)

そう思って、昨日の事を思い返してみる。

昨日は、仕事から帰ってきて、自宅近くにある『篝火《かがりび》』というバーを訪れた。帰宅後、篝火に行って一杯引っかける、それがここ最近の僕の楽しみだった。

店内は、落ち着いた雰囲気で、ついつい長居してしまう。確か、昨日も一杯だけのつもりが、結構な数のグラスを空けていたような気がする。

「――っ!」

記憶を漁っていると、急に鋭い痛みがこめかみ辺りに走った。僕は小さく呻いて、反射的に左手を頭にやる。

「大丈夫かよ!?」

と、目の前の彼が心配そうに声を上げた。

「だ……大丈夫、です。二日酔いなだけで……」

無用な心配をさせないために、僕はわざと明るく振る舞った。つもりだった。でも、結果としては、彼――相沢さんの表情は、ほとんど変わらなかった。

失敗したかとも思ったけれど、どうしようもできない。今は、痛みに耐える方が先決だった。

目を閉じて深呼吸を繰り返す。しばらくすると、痛みは消えていった。

「本当に大丈夫?」

相沢さんの気遣う声で、僕はゆっくりと目を開ける。

「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

申し訳程度に謝罪して、僕は残っている料理を平らげる。

ごちそうさまでしたと告げると、相沢さんは真顔で、

「ねえ、本当に何も覚えてないの?」

「すみません。篝火で飲んでいたのは、かろうじて覚えてるんですけど、それ以上の事は……」

言葉を濁して、僕は目を伏せた。

昨日の夜、いったい何があったのか、知りたい気持ちはある。でも、実際に聞くのは怖かった。自分が、何か酷い事をやらかしてしまっていたらと思うと、気が気ではない。

「そっか、なるほどね……」

そうつぶやく相沢さんの声は、意外にも明るかった。何かを思案しているようにも聞こえる。

「じゃあ、俺の部屋で、あんな事やこんな事をした記憶もないわけだ?」

挑発するような、揶揄《からか》うような彼の声音に、僕は反射的に視線を向ける。

「……あんな事やこんな事?」

どこか不穏な響きに、無意識に警戒してしまう。

「ああ。俺的には、めっちゃ濃密な一夜だったんだけど?」

と、相沢さんは、わずかに目を細めて僕を見つめてくる。

ねっとりとした視線に、一瞬、呼吸ができなくなった。初めて向けられた視線のはずなのに、僕は········。彼に見つめられているだけなのに、腹の奥底が疼き出した。それに引っ張られるように、体が火照り、息が荒くなる。

(な、んで? こんな感覚、知らない……。何だよ、これ!?)

訳がわからなくて、僕は混乱する。

「へえ? これだけで、そんな反応するんだ? ふふっ、かーわいい」

興味深いと、彼がつぶやいた。

その低めの声とちらりと見えた舌先に、僕の下半身がひくりと反応した。

「貴方……僕に、いったい何をしたんですか!?」

荒い息を繰り返しながら、僕は相沢さんを睨みつける。

けれど、思っていた効果はなかったらしい。

「特には何も? 強いて言うなら、昨夜は熱い夜だったってことだけかな」

と、相沢さんは、涼しげな笑顔で言った。

その爽やかさの中に、妖艶な色が混ざっているのを、僕は感じ取っていた。一瞬、脳裏に本性をさらけ出した彼の姿が写る。

「あ……や……いや、だ……!」

僕は、うわ言のようにつぶやいて、熱を帯びる体を引きずって立ち上がる。

その間、相沢さんは何も言わず、観察するように僕を眺めている。

(何だよ、これ……?)

彼の視線と声に、知らないはずの記憶に、僕の体は昂ぶっていく。自分が自分ではないような気がして、怖い。

「もしかして……俺の事、煽ってる?」

小首をかしげて、問いかけてくる相沢さん。口角を上げ、舐めるように僕を見る。

穏やかな物言いなのに、どことなく危険な香りがする。

「そ、んなこと……っ!」

ないと断言はできなかった。のどが詰まり、言葉が出ない。

(このままじゃ……本気でやばい!)

そう思った僕は、視線の呪縛を断ち切るように目を閉じた。一瞬だけれど、燻った熱が落ち着きを取り戻したような気がする。

「すみません! ごちそうさまでした!」

目を開けた僕は、相沢さんから視線をはずして早口でそう言った。

「え? あ……」

彼が、何かを言いかけていたけれど、構っている余裕はない。部屋の入り口付近に立てかけられていた荷物を持って、僕は足早にその場を後にした。

あのままずっと、あの場所にいたら、確実に彼のペースに流されていただろう。それほど妖しい雰囲気が、室内を満たしていた。

玄関を開けると、手すりがついた廊下に出る。見覚えのある色の手すりだったけれど、気にしている余裕は僕にはなかった。早くこの場所から逃げたい、それだけだった。

廊下を進み、階段を駆け降りる。段差を降りる度に、服が敏感な肌をさわさわとなでていく。その感触に反応して、僕自身が反り立っていくのを自覚した。

「くそっ……!」

収まらない劣情に嫌気が差し、悪態をついた。

地面に降り立ち、正面を向いたところで愕然とした。目の前には、見慣れた駐車場と僕の車がある。

「う、そ……だろ?」

振り向くと、自宅があるアパートだった。

目が覚めた時から今まで、見ない振りをしていた見覚えのあるもの達が、現実を容赦なく突きつけてくる。

自宅が目と鼻の先にあるというのに、こんな失態を犯してしまった。その事実に、僕は打ちのめされていた。一階にある自宅に向かう足取りが、とても重い。

自室に着くと、疲労感が一気に押し寄せてきた。着替える気力もないまま、ベッドに倒れ込む。

僕の手は、無意識に下半身に伸び、直に自分自身に触る。それをきっかけに、昨夜の記憶が断片的に蘇る。

篝火の店内。空のカクテルグラス。ウェイター姿の相沢さん。薄暗い彼の部屋。彼の息遣い。

『……イっちゃえ』

ふいに、相沢さんの低く甘い声が、脳内にこだました。

「……っ! くっ……!」

無意識に記憶していた声にうながされ、僕は呆気なく果ててしまった。

息を整えつつ、後始末をする。

「どうして……」

つぶやいたけれど、それは誰に向けたものだったのか。続く言葉が言えないまま、僕は静寂が包む室内で肩を落とす。

どうして、彼の誘いを受けてしまったのか。流されるまま身を委ねて、記憶を飛ばして、触れられていないのに欲情して――。

深いため息とともに、後悔の念が押し寄せる。けれど、緩急をつけて僕自身を追い詰める彼の指の動きが脳裏に浮かぶ。手でされただけで達してしまったのは、もしかしたら、初めてかもしれない。

「……っ! また……!」

思い出しただけで、僕自身が緩く勃ち上がる。こんな事、今まで一度だってなかったのに。

(くそっ! な、んでっ……こんなに反応してんだよ!)

心の中で悪態をつきながら、熱を逃がすように自身に触れた。

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第1話 知らない熱の余韻
意識が浮遊する感覚と少しの眩しさに、僕はゆっくりとまぶたを開けた。(ここ……どこだ?)知らない布団の感触に、ふと疑問に思う。視界に写るのは、窓から差し込む日光に照らされた、見覚えのある天井と壁。なのに、周囲にある調度品は、知らない物ばかりだった。「痛っ……!」頭が痛み、思考を邪魔してくる。昨夜は、行きつけのバーで飲んでいた。もしかしなくても、飲み過ぎたのだろう。久しぶりの二日酔いに、僕のテンションは急降下だ。とりあえずベッドから出ようとして、僕は違和感に気づいた。普段はあるはずの、布の感触がない。「……は?」布団の中を確認して、思わず、声が出てしまった。あり得ないことに、僕はパジャマはおろか、下着すら着ていなかった。熱帯夜でさえ、Tシャツに短パンは着ているというのに。しかも、自宅ではないだろう場所で、だ。(いやいやいや……さすがに、あり得ないって! これは……そう、夢だ! 夢!)なんて現実逃避をしながら、僕はもう一度、布団の中を確認する。「マジか……」視界に写るのは、素肌のままの下半身。少し手前に視線を移せば、上半身も見えてくる。けれど、やはり何も着ていない。この事実は、間違いようもなかった。なぜ、どうして……。そればかりが、頭の中を駆け巡る。「とりあえず、落ち着け!」深呼吸をして、室内を見回す。男物のジャケットが数着、壁にかけられている。けれど、自分の物ではない。普段、僕はジャケットをクローゼットにしまっているからだ。頭痛に耐えながら、視線を床の方へと滑らせていく。艶のあるフローリングには、埃一つ落ちていなかった。きれい好きな人が家主なのだろうと思い、見覚えのある木目には気づかない振りをした。フローリングなんて、どれも同じような木目のはずだと、考えるのを放棄する。ベッド脇を見ると、一人分の服が脱ぎ散らかされていた。間違いなく、僕の服だった。そそくさと服を着る。少しだけほっとしたところで、尻の内側にある違和感に気がついた。何かを擦りつけたような、そんなしびれ。(何だろう? これ……)どうにも気になる。でも、痛みがあるわけではない。落ち着かないけれど、一旦、意識の外に追いやって、部屋を出ることにした。扉を出た瞬間、隣の部屋から物音が聞こえてきた。おそらく、リビングかキッチンだろう。僕の他に、誰かがいるのは確実だ。緊張と
last update최신 업데이트 : 2026-02-11
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第2話 呪縛から逃げたい午後
脳内に浮かぶ彼の指使いに合わせながら、僕は自身に指を這わせる。優しくなで、時に激しく上下させる。自分で触れているはずなのに、彼に触れられているように感じた。錯覚なのは、わかっている。けれど、彼に出会う前の自慰よりも快楽を感じていた。何度目かの絶頂の後、僕は荒い息のまま脱衣所に向かった。収まることを知らない下半身の疼きから、解放されたかった。肌に擦れる布の感触が、完全には引いていない熱を呼び戻す。敏感すぎる感覚を恨めしく思いながら、僕は服を脱いで風呂場に入った。熱いシャワーを頭から浴びていると、体内に残っている衝動がゆっくりと鎮まるのを感じた。シャワーの音を聞きながら、あれは事故だったのだと、心の中で自分に無理矢理、言い聞かせる。ざわついていた心が落ち着きを取り戻し、僕はシャワーを止めた。その瞬間、背中を水滴が流れ落ちていった。背筋を這う相沢さんの指の感触が、一気に蘇る。「ひぅっ……!」思わぬ声が漏れ出て、咄嗟に口に手を当てる。「くそっ……!」悪態をつき、頭をかきむしる。シャワーだけでは、解放されないのか。(……そうだ! ジムに行こう!)こういう時には、体を動かすのが一番いい。おろし立ての服に着替えた僕は、車で馴染みのジムに向かった。ジムの受付で会員証を見せて、更衣室に移動する。持ち込んだ服に着替えて、トレーニングスタジオに入ると、いつもより利用客が多い。今日が土曜日だから、というのもあるのだろう。「相馬さん、こんにちは! 今日は、どんなメニューにしますか?」背の高い男性に声をかけられ、わずかに肩を震わせた。のどが締まり、息が止まる。「……こんにちは」僕は、何気ないふうを装って、にこやかにあいさつを返した。ぎこちない笑顔になってはいないかと、気が気ではない。でも、彼は気づいていないのか、僕の様子には触れなかった。声をかけてきた男性は、インストラクターの九条《くじょう》さんだ。僕が初めて
last update최신 업데이트 : 2026-02-18
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第3話 逃れられない視線
(いや、まさか、そんな……あり得ないって!)一瞬、頭によぎった可能性を、僕は全力で否定してカクテルを煽るように飲む。ライチの爽やかな香りが、脳内をクリアにはしてくれる。けれど、目の前にある鍵の処遇については、何の解決策も浮かばなかった。僕は小さくため息をついて、他の席を眺める。カウンター席には、僕の他に一人の男性が座っていた。ボックス席の方に視線を向けると、カップルや友達同士らしい客が複数人いる。そんな中、一番奥の席に相沢さんの姿があった。(あ、いた!)鍵を返しに行こうと、席を立ちかける。けれど、彼の対面に肩を落とした女性が座っているのが見えた。(そういえば、マスターに何かお願いされてたっけ)座り直した僕は、相沢さんとマスターの先ほどの会話を思い返す。確か、相沢さんを指名していたような気がする。何をしているのだろうと眺めていると、相沢さんとその女性は、会話をしているだけのように見えた。ただ、楽しんでいるようには見えない。どうやら、彼女は、相沢さんに何かを相談しているらしい。マスターが彼に頼んでいたのは、客の相談に乗ってほしいというものだったようだ。(へえ。カウンセラー的な立ち位置なのか)なるほどと、様子をうかがう。次第に、女性の表情が、暗いものから明るいものへと変わっていく。きちんと相手に向き合っているようだ。そんな姿を見てしまったら、会話に割り込むだなんてできるはずもない。夜のお誘いをする口実だと思っていたのに。彼は、僕が思っているよりも誠実な人なのかもしれない。(昨日の夜の事は、魔が差しただけ……だよな。うん、きっとそうだ)と、僕は自分を納得させる。個人的に話がしたいというのも、言葉通りの意味なのだろう。そう考えた僕は、彼の手が空くまで待つことにした。けれど、そんな時間はやってこなかった。カクテルとローストナッツの量だけが増えていく。彼が僕の近くを通りすぎる度に声をかけようとして、やめた。仕事の邪魔はしたくない。僕は、
last update최신 업데이트 : 2026-02-25
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第4話 蜜月の始まり
彼のペースに流されるままでいいのかと。理性が警告する。「くそっ!」僕は悪態をつき、相沢さんを見据える。「覚悟は決まったか? 佳晴さん」と、相沢さんは勝利を確信したように問う。「……ええ、決まりましたよ。貴方は、僕の心までは自由にできない」それではと、僕は彼に背を向けて歩き出す。「今の幸せじゃない状態が続いても?」彼の言葉に、僕は動きを止めてしまった。『幸せじゃない』それは、僕が常々、思っている事だった。正確に言えば、五年前に恋人と別れてから、ずっと心の奥に引っかかり続けている。「どうして、貴方が、それを……?」言いながら、僕はゆっくりと振り返る。誰にも言わず、ずっと胸の中にしまい続けていたはずなのに。なぜ、相沢さんが知っているのか。「どうしてって、昨日、ここで俺に抱かれる前に言ってたじゃん。恋人と別れてからずっと、幸せじゃない状態が続いてるって。どうしたら、この状態から抜け出せるのかって」それも覚えていないのかと、相沢さんが首をかしげる。「それは……」言いかけて、僕は何も言えずに黙り込んだ。正直なところ、言ったのかどうかさえ、覚えていない。でも、彼が嘘を吐いているとは、どうしても思えなかった。「ねえ、佳晴さん。理性じゃなくて、感情で考えてもいいんじゃない? たまには、さ」甘く諭す相沢さんの言葉に、僕の心はぐらりと揺れ動いた。(感情で考える……? それって、つまり――)そう考えた瞬間、腹の奥にどろりとした熱いものを感じた。自分の体がその気になっていることを自覚して、僕は諦めるように深くため息をついた。「相沢さん。一つだけ、確認したい事があります」「何?」「僕が……ここで逃げなければ、幸せじゃない状態から抜け出
last update최신 업데이트 : 2026-03-04
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第5話 享楽に酔う
相沢さんの黒い瞳に、野獣のような剣呑な光を認めて、もう逃げられないと確信した。恐怖を感じながら、心のどこかで楽しみにしている自分もいる。「あ……あいざわさん。おねがい……イかせて……」もう本当に限界で、僕は羞恥心をかなぐり捨てて懇願した。「ふふっ、いいぜ。でも、まだ挿れてあげない」相沢さんは意地悪くそう言うと、僕の足の間に頭を埋めた。「え……? ……あ゛っ!」突然、しびれるような衝撃が、下半身から頭の先に走った。相沢さんが、僕自身の先に唇を這わせたからだ。次第に舌を絡め、舐め上げ、僕を追い詰める。「ぐ、あ゛っ……あいざわさん、も、……ぅあ……む、りぃ……!」僕が白旗を上げると、相沢さんは僕自身を咥えた。「あ゛あ゛ぁ……っ!」そのぬくもりと感触に、僕は相沢さんの口内へと欲望を吐き出した。「ん゛っ……!」相沢さんのくぐもった声が聞こえた。視線だけを下半身に向けると、僕を咥えたままの相沢さんと目が合った。「相沢さん……は、離して……ください」頼んでみたものの、彼は一向に離してくれない。それどころか、口内に出したものを飲み下しているのか、彼の舌が裏筋をリズミカルに刺激する。敏感すぎる自身には強すぎて、痛みすら感じ始める。「ん゛ぁっ!? ちょっ……あ、相沢……さん! 飲ま、ないで……!」必死に懇願するけれど、少しも聞いてはくれない。「相沢さ、あ゛っ……!」僕から引き離そうと、彼の頭に触れた
last update최신 업데이트 : 2026-03-11
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第6話 暗黙の契約
暖かく眩しい日差しにあてられて、僕は目を覚ました。どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。寝ぼけ眼で室内を見回す。相沢さんの部屋だという事を思い出すのに、数秒ほどかかった。でも、肝心の彼の姿がない。(どこに行ったんだろう……?)疑問に思い、起き上がろうと寝返りを打つ。体がだるい。昨夜の記憶が、恥ずかしさとともに蘇る。でも、不思議と嫌なものではなかった。「あんなに気持ちよかったのは、久しぶりかもな」ぽつりと、本音が口から漏れた。ベッドから出ようとして、布団の感触に苦笑する。確認するまでもなく、素っ裸だ。相沢さんに抱かれた後、そのまま眠ってしまったのだろう。一応の確認をすると、僕の体はきれいに清められていた。(こういう事なのかな、あずさが言ってたのって)ふと、一人の女性の姿が脳裏に浮かぶ。近藤あずさ。五年前に別れた元恋人だ。大学時代に知り合い、意気投合して付き合い始めた。交際自体は順調に続いていたけれど、彼女は少しずつ不満を溜めていたらしい。「貴方の気遣いのなさに呆れたの」という、別れ際の彼女の言葉が、耳の奥に蘇る。僕としては、あずさを気遣っているつもりだった。でも、彼女としては、何か違うと感じていたのだろう。僕は、小さくため息をついて服を着る。過去を思い出したところで、どうしようもできないのはわかっている。それでも、相沢さんの細やかな気遣いに触れると、自分の不甲斐なさを突きつけられる。僕は、もう一度ため息をついて、ベッドに腰かけた。克服したと思っていたのに、まだ彼女のことを引きずっている。そんな自分が、本当に幸せになってもいいのだろうか。暗い疑問が、僕の心に影を落としていると、部屋の扉が開いた。「なんだ、起きてたのか。いつまで経っても来ないから、エロい事して起こそうと思ったのに」と、相沢さんがいたずらっ子のような笑みを浮かべている。「相沢さん……。おはようございます」と、笑顔を向けるけれど、上手く笑えている自信がない。「おはよう。どうしたの? そんなに落ち込んで」心配そうに言いながら、相沢さんは僕の隣に腰を下ろした。「あ、いえ……ちょっと、昔の事を思い出してしまって……」僕は、苦笑しながら告げる。「そっか。じゃあ、俺が忘れさせてあげる」相沢さんはそう言うと、僕の頬に優しく触れた。「え……?」相沢さんの方へ顔を向けると、彼
last update최신 업데이트 : 2026-03-18
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第7話 カクテルが二人の合図
自宅に戻った僕は、しばらくの間、自室でぼうっとしていた。『次の土曜日の夜に』という彼の言葉と、手の甲に触れた唇の感触が忘れられない。あの後、僕達が体を重ねることはなかった。とはいえ、緩い愛撫がエスカレートしないわけもなく、僕は彼を求めた。でも、自分でセックスはしないと言ってしまった手前、それを口にすることはできなかった。視線で察したのか、相沢さんは「あんな事、言わなきゃいいのに」なんて言いながら、僕の股間に顔を近づけ、僕自身を口に含む。そのまま口でされて、達してしまった。それが、今から三十分ほど前の事だ。「次の土曜日、か……」カレンダーを見る。無意識に数えて、土曜日までが長いなんて思ってしまう。まさか自分が、ここまで心待ちにしているだなんて思っていなかった。これではまるで、ホストに入れ込む女性客みたいだ。「同性と、こんな関係になるだなんてな……」乾いた声で自嘲する。昔の自分からは、本当に考えられない事だった。体を重ねるのは、好きな人とだけと考えていた。それなのに――。「――っ!」先ほどまで触れていた彼の指の感覚が、鮮明に思い出され、僕は一人、声を殺して悶える。無意識に手が下半身に向かい、自身に直接触れた。彼の手の動きを再現するように動かす。(ぁ、やば……。気持ち、いい……!)自分の体が作り替えられたことに、戸惑いはある。けれど、それ以上に、彼に教え込まれた快感が忘れられない。幸せを感じられるなら、体だけの関係でも悪くないとさえ思えてくる。翌日から、日課だった篝火通いを土曜日だけにした。マスターと理沙さんに、何かあったのかとたずねられ、適当に誤魔化す。相沢さんとの待ち合わせだなんて、さすがに言えない。仕事に戻る理沙さんと入れ違いに、相沢さんがやってくる。「佳晴さん、いらっしゃい」彼の爽やかな笑顔に、僕の胸は高鳴り、腹の奥が疼く。「…&hel
last update최신 업데이트 : 2026-03-25
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第8話 爛れた週末
翌日。体のだるさを引きずりながら、僕は目が覚めた。窓からは、相変わらず暖かな日差しが差し込んでいる。ふと横を見ると、相沢さんがかすかな寝息を立てている。(……きれいだよな)彼の寝顔を見ながら、僕はそんな事を思った。穏やかな寝顔を見ていると、昨夜の激しさが嘘のようだ。僕は、何の気なしに彼の髪をなでる。さらりとした質感がとても心地よくて、ずっと触っていたくなる。「ん……よしはる、さん……?」ぽやっとした顔で、相沢さんがつぶやく。「あ、おはよう。ごめん、起こしちゃった?」邪魔をしてしまったと思い、僕はすぐに謝罪した。「ううん。もう少ししたら、起きようと思ってたから」相沢さんはそう言って、ふぁ……とあくびをする。「そっか、じゃあ……」と、僕がベッドから出ようとした時だった。「えー? まだいいじゃん」相沢さんに、ベッドの中に引きずり込まれてしまった。「ち、ちょっと……相沢さん!」彼の腕から逃れようと、僕は必死にもがいた。「暴れるなって。気持ちいい事、しよ?」そう言って、彼は僕に口づける。(……ずるいって。キスされたら、スイッチ入っちゃうよ)そんな事を考えながら、僕は彼を受け入れていた。「ふ……ぁ……んぅ……」優しいキスに、自然と吐息が漏れる。舌を絡め、歯をなぞられ、甘い刺激が僕の体を熱くさせる。ベッドの中で、互いのぬくもりを確認する。興奮しているのか、彼の肌も火照っている。「ん゛っ!?」いきなり、相沢さんに腰を引き寄せられた。今までよりも深いキスに、僕はくぐもった
last update최신 업데이트 : 2026-04-01
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第9話 恋に気づいて
よそよそしい彼の作り笑いが、仕事中も脳裏にこびりついて離れない。忘れようとして、ジムで汗を流す。けれど、彼の低く甘い声が、耳の奥にこだまして、忘れさせてくれない。自宅に帰ってからも、彼の幻影は消えてはくれなかった。『佳晴さん』ふいに、彼の甘えるような声音が蘇る。「……っ!」劣情を抱えた僕は、窄まりにも手を伸ばす。彼の手つきを再現するように動かすけれど、どこか物足りない。「相沢、さんっ……!」僕は、少し強引に欲望を吐き出す。すっきりしたはずなのに、どろりとした熱は燻ったままだ。「どんな呪いだよ……まったく」つぶやいて、ため息をついた。相沢さんを知りたいし、抱かれたい。けれど、それ以上に、彼と一緒にいたいと願うようになっていた。色褪せた平日がすぎ、楽しみにしていたはずの土曜日。僕は、ベッドに横になり、天井を見上げていた。当然のように、考えるのは相沢さんの事で。(……逃げてちゃだめだよな)頭ではわかっていても、動けない。先に進みたいのに、今の関係を壊したくない。有り体に言えば、傷つきたくないのだ、僕は。思えば、あずさと交際している時もそうだった。何か大きな決断をしなければいけない時は、大抵、あずさが決めていた。彼女に丸投げしていたと言ってもいい。彼女と別れる時だってそうだ。切り出すのは、いつも彼女からで。「……あの頃から、変わってないな」ぽつりとつぶやき、何も変わっていない自分に嫌気が差す。うじうじしている自分を、変えたかったのではなかったか。本気で、幸せになりたいと思ったのではなかったか。「そんなの、幸せになりたいに決まってる!」問い詰めるような理性の問いかけに、僕は当然とばかりに言い放った。それで、思い出した。相沢さんと体を重ねた理由を。『幸せじゃない状態』から抜け出す事――それが、彼に抱かれた理由だ。「――も
last update최신 업데이트 : 2026-04-08
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第10話 恋愛相談
カフェに到着した僕達は、店内の奥にある席を選んだ。周囲に他の客の姿はなく、相談事をするにはうってつけだった。とはいえ、本当に彼女に相沢さんとの事を話してしまっていいのかどうか、今更ながらに悩んでしまう。注文を取りに来た店員に、理沙さんは紅茶とイチゴのパフェを、僕はコーヒーをそれぞれ注文する。「……それで、相馬さんは、何を悩んでるんです?」店員の気配がなくなってから、理沙さんがたずねた。「それは……」口ごもる僕に、理沙さんは肩をすくめて、「まあ大方、相沢先輩との事なんだろうけど」と言った。「え……どうして、それを……?」僕は、警戒するようにたずねた。「いやー、二人を見てれば、なんとなくわかりますよ。それに、あの人、昔から浮いた話でトラブってたし」「え、昔から……?」僕がそう口にした瞬間、注文していた商品が運ばれてきた。「ごゆっくりどうぞ」と店員が離れると、理沙さんはきらきらと茶色の瞳を輝かせる。「わあ、美味しそう! いっただっきまーす!」と、パフェに口をつける。満面の笑みでパフェを頬張る彼女を見ながら、僕もコーヒーに口をつけた。「……それで、相沢さんが、昔から浮いた話でトラブってたっていうのは?」「私、相沢先輩と同じ高校だったんです」理沙さんは、パフェに向けていた視線を僕に向けて言った。相沢さんは、昔からかっこよくて、男女ともに人気があったらしい。告白された数も多かったそうだ。理沙さんも、彼に告白した生徒の中の一人だったようで。「まあ、それは置いといて。当時は、結構、押しに弱い方だったんじゃないかな? 断りきれずに、同時に複数の女子と付き合ってたみたいですよ。結局、それもバレちゃって、ほとんどの女子から無視されるようになったみたいですけど」「そう、だったんだ……。だから、恋人は作らないなんて……」僕がつぶやくと、「え……先輩、そんな事、言ってたんですか?」
last update최신 업데이트 : 2026-04-15
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