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110.招かねざる客、凜の登場

last update Last Updated: 2025-07-14 19:03:12

煌びやかなシャンデリアが光を放つホテルの宴会場は、華やかな熱気に包まれていた。啓介の会社にとって初めてとなる創立パーティー。堅苦しい挨拶や余興は一切なく、社員とその家族がリラックスして楽しめる、自由な雰囲気の会となっていた。

啓介はホストとして、社員一人ひとりと笑顔で言葉を交わしている。佳奈が事前に手配したベビーシッターのおかげで、子供連れの社員たちは子どもたちの視界の入る場所にいながらも気兼ねなく食事や会話を楽しんでいた。会場のあちこちで笑い声が弾けている。

一方、佳奈は会場全体を見渡し細部にわたる確認を行っていた。ドリンクの補充、料理の配置、そしてキッズスペースの安全確認まで、彼女はプロのイベントプランナーのようにテキパキと動いている。

会場の一角で、私は夫とテーブルで会話を交わしていた。夫は、佳奈が企画したパーティーの出来栄えに満足し、社員たちの楽しそうな様子を眺めている。

「佳奈さんは本当に気が利くね。子連れの家族も楽しめるように配慮しているとは。男はそこまで気が回らないから、佳奈さんの女性ならではの気遣いを感じられて感心したよ。」

私は口元を引きつらせながらも頷いた。内心では、佳奈の完璧な準備に焦燥感を覚えていたが、夫がいる手前、素直に認めるしかなかった。

(完璧すぎて腹が立つわ…)

佳奈の完璧さに苛立ちながらも、最後の切り札であるDVDの存在を確かめ、凛の登場を今か今かと待ち望んでいた。

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