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262.写真に隠された真実②

last update Last Updated: 2025-09-29 19:03:22

佳奈side

「坂本ちゃん?何が言いたいんだい?」

彼の声や仕草には、僅かな動揺が混ざっていた。私は、自分の考えが正しいことを確信した。

「葉山さんが、私を信頼して担当の変更を希望して下さったように、私も葉山さんのことを尊敬していたということです。先生の作品は、どれもチェックしており、他の人には分からない小さなクセも把握しているつもりです。今回の写真、被写 体の男性が綺麗に映るように、少しだけ男性の周りの背景をぼかしていますよね?これは、先生の初期の作品に見られた手法です。それに、夜の道で撮られた写真なのに男性側だけ鮮明です。」

沈黙が、重い空気となって二人の間に横たわった。私は、葉山の目を真っ直ぐに見つめた。

「夫は一般人です。もちろん、素材の提供も許可していません。この写真は、先生ご自身の意思で作られたのですか?それとも依頼だったんですか?どちらにせよ、勝手に素材を使うことは今後の先生の活動に影響します。教えてください。」

しばらくの沈黙のあとに、葉山は重い口を開いた。諦めと感心がない交ぜになったような表情だった。

「さすが坂本ちゃんだね。僕が見込んでいただけのことはある。確かに、これは僕が作ったものだ。」

「やっぱり

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