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第216話

Author: 楽しくお金を稼ごう
負傷した人を見て、天音は目を見開き、涙がこぼれ落ちた。心臓が大きく脈打ち、そして、驚愕した。「松田さん?」

無意識に要の姿を探すと、彼が血まみれで自分の前に歩いてくるのが見えた。

秘書たちがハンカチで要の服についた血を拭っていた。

「菖蒲が俺を庇って、矢を受けた」要は淡々と説明した。「驚いたか?」

天音は魂が抜けたように、蒼白な顔で首を横に振った。

「要……」菖蒲が低い声で呼んだ。

要は天音から視線を外し、菖蒲の様子を確認した。「急所は外れている。すぐにヘリで病院へ搬送する」

「私のそばにいて、お願い」

菖蒲は命を懸けて要の同情と愛情を取り戻そうとしていた。どんな痛みにも耐え、意識が朦朧とする中でも、このチャンスを逃すまいと必死だった。

要の手を握りしめて、菖蒲は呟いた。「怖い」

要は彼女を支え、何も答えず、付き添いの部下に指示を出した。「ヘリが到着したら、俺が菖蒲と病院へ行く。残りの者たちは、天音と俺の両親を護衛して遠藤家へ戻れ」

「承知しました」暁はすぐに返事をし、手配を始めた。

それから、要は菖蒲から目を離さず、天音を見ることは一度もなかった。

数分後、彼は菖蒲と共にヘリコプターに乗り込んだ。

そこに佇んでいた天音は、ふと我に返って足元を見ると、出かける時に靴を履き忘れたことに気づいた。素足で駆けつけたため、枝を踏んで足の裏を擦り剥いてしまっていた。

だからこそ、痛みと冷たさを感じたのだった。

「加藤さん」息を切らした暁が駆け寄り、靴を差し出した。「隊長が、必ず医者に見てもらうように、と」

海辺には、すでに別のヘリコプターが暁を待っていた。

天音は遠くの空に視線を向け、暁から受け取った靴を履いて別荘に戻った。

医者が待機していて、傷の手当てをしてくれた。水に濡らさないように、と注意された。

血の付いた靴を見て、天音は複雑な気持ちになった。

要が標的であり、たとえ誰かが間違って撃ってしまったとしても、必ず追及し、真相を究明する必要がある。

千葉家は今回の事態を重く受け止め、全面的に捜査に協力すると約束した。

同行していた特殊部隊の隊員たちは、一部が調査に当たり、残りの隊員たちは引き続き一行の安全を確保することになった。

天音が荷造りをしていると、ノックの音がした。

梓だと思い、ドアを開けると、そこには蓮司の姿があ
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