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第235話

Author: 楽しくお金を稼ごう
暁がノックもせずに部屋に入ってきた。要の許可なく入ってくるなんて珍しい。よほど急用なんだろう。「隊長、大変です。

トレンド入りしました」

タブレットを要と天音の前に差し出した。

#遠藤家の御曹司、バツイチ女性と結婚。

#夫と子供を捨てた女。

#かわいそうな子供。

#恥知らずな女。

そんなトレンドワードが並ぶ。どれもこれも天音を貶めるものばかりで、彼女の顔色はみるみる青ざめていった。

結局、隠し通すことはできなかったのだ。

「隊長、加藤さん、ご安心ください。風間家のお子さんの写真以外は何も流出していません」

京市のどの遠藤家なのかも特定されていない。

その時、要の携帯が鳴った。彼の携帯には誰彼構わず電話がかかってくるわけではなく、多くの電話は秘書を通して選別されている。こんな時間に電話がかかってくるということは、誰からの電話なのか想像に難くない。

電話に出る前、要は表情を変えず、静かに言った。「トレンドから削除しろ」

暁が出て行こうとした時、要は付け加えた。「あの子をここに連れてこい。

医者も呼んでおけ」

天音は、要が大智を家に入れることを拒否しなかった。しかし、本当は会いたくなかった。大智が雨の中泣き叫んでいる状況で追い返すのも、放っておくのも、遠藤家にとっては都合が悪かった。

家に入れる以外に方法はないようだった。

「この件は俺がきちんと対応する」

要は携帯を片手に持ちながら、電話の相手に話しかけ、天音のそばまで歩いて行き、彼女の手を取った。

彼女の手は強く握りしめられ、爪が手のひらに食い込んでいた。

天音は何の反応も見せず、ただ庭の入り口を見つめていた。

大智は暁に抱きかかえられて入ってきた。顔面蒼白の大智は、玄関を入るとすぐに暁の腕から地面に落ち、また起き上がってよろめきながら天音に向かって走り、「ママ……」と叫んだ。

濡れた小さな顔は、涙なのか雨なのか分からなかった。

特殊部隊の隊員が大智を制止した。

大智はドスンと膝をついた。「ママ、ごめんなさい。

もういたずらもしない。恵里さんをママとは呼ばない。愛莉もいらない。ママだけがほしい」

涙ながらに訴えるその声は、昔のような幼さはなく、はっきりと自分の考えを伝えていた。

天音は大智の蒼白な顔を見つめていた。しかし、脳裏には、病室の入り口で倒れ、血まみれになっ
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