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第 90 話

last update Tanggal publikasi: 2026-08-25 13:02:50
「今日は儀礼補佐の試験運用もしておりますの。誰が何を担ったか、きちんと記録に残すために」

クラリスは、心の中で静かに驚いた。

王妃が、自分からその話題を出した。

ローゼンは扇を広げる。

「まあ。茶会の裏側まで記録なさるのですか」

「ええ。裏側が整ってこそ、表が美しくなるのでしょう?」

王妃の声は柔らかい。

しかし、強い。

「私も長く王宮におりますが、少し反省しておりますの。美しい場を保つために、誰がどれほど動いたかを、あまりにも当然として見てきました」

部屋の空気が変わった。

王妃自身が、古い王宮の慣習に触れた。

ローゼン夫人も、すぐには返せない。

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    部屋が静かになった。 ごく当たり前の問いだった。 けれど、重要だった。 商会が積み間違いと言うなら、商会倉庫にある通常外套用の中に、正規の保温布が混ざっているはずだ。 なければ、どこへ行ったのか。 レオンハルトが静かに言った。 「リーヴェ商会倉庫の確認が必要だな」 エリオットが表情を硬くする。 「商会内部倉庫です。任意協力を求める形になります」 「拒否された場合は?」 カレルが答える。 「現時点では強制調査には弱いです。ただし、共同調査対象の現物不一致に対する原因確認として、倉庫内の該当八梱確認を求めることはできます」 クラリスはすぐに追加照会へ一項目足

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    その時、ミレーヌが慈善記録官室から戻ってきた。 手には、仕立て場で使う開封確認表の写しを持っている。 「お姉様、リーヴェ商会から回答が?」 「来ました」 「何と?」 「積み間違いの可能性が高い、と」 ミレーヌは一瞬、ほっとしたような顔をした。 積み間違い。 その言葉には、人を安心させる力がある。 悪意ではない。 うっかりだ。 誰も悪くないかもしれない。 だが、次の瞬間、彼女の表情が変わった。 「では、正しい布はどこにあるのでしょうか」 クラリスは、少しだけ微笑んだ。 「よい問いです」 ミレーヌは、はっとしたように口元を押さえた。 「すみませ

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    リーヴェ商会からの回答は、翌日の昼前に届いた。 早かった。 早すぎるほどだった。 王宮筆頭実務顧問室の机に置かれた封筒には、リーヴェ商会の印が押されている。薄い緑の封蝋に、二本の針と糸巻きを組み合わせた商会章。 仕立て場との中継取引を多く扱う商会らしい印だった。 クラリスは封筒をしばらく見つめた。 開ける前から、中身の匂いが分かる気がした。 もちろん、本当に匂いがするわけではない。 ただ、王宮で何度も似た書類を見てきた。 丁寧な言葉で包まれた、便利な説明。 責任を認めず、しかし完全には否定せず、次の確認を待たせる文面。 そういう書類には、独特の重さが

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    ミレーヌは両手で杯を受け取った。 夕方、王弟府からレオンハルトが顧問室を訪れた。 彼は現物保全報告の写しを読み、表情を変えなかった。 だが、目だけは鋭かった。 「一梱だけか」 「現時点では」 「端印が違う」 「はい」 「封印は保たれていた」 「港湾到着時、倉庫搬入時、仕立て場到着時、すべて破損なしです」 「なら、封印前だな」 「その可能性が高いです」 レオンハルトは資料を机に置いた。 「王弟府は、ギデオン・マースとハーゲン補助官の足跡と並行して、NVT-S-007の梱包前経路を確認する」 「リーヴェ商会も?」 「もちろんだ」 クラリスは頷いた。 「た

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    「あり得ます。港では似た荷が並ぶこともある。だが、今回は封印が保たれていた。港と倉庫で外装に問題はなかった」 「つまり」 エリオットが続ける。 「中身の違いは、封印前に起きていた可能性が高い」 セリアが表情を硬くした。 「輸出元か、商会引渡後か」 「はい」 「ノルヴァルト側への照会も必要ですね」 「必要です」 クラリスは頷いた。 「輸出元記録、商会引渡書、梱包時確認者、端印確認、同日発送の別等級布。この五点を照会します」 オスカーがすぐに書き取る。 ミレーヌも、自分の控えに同じ項目を書いた。 その手は、さっきより少し落ち着いている。 クラリスは、それを

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    王弟府調査官カレルが、静かに一歩進み出た。 「現物保全袋を用意しています」 彼の声は淡々としている。 王弟府の人間は、こういう時に余計な感情を挟まない。 それがありがたい時もあれば、少し怖い時もある。 布は、折り目を変えないよう慎重に畳まれ、端印が見える形で保全袋に入れられた。 袋には番号が振られる。 現物不一致一号。 その文字を見た瞬間、ミレーヌの喉が少し鳴った。 一号。 つまり、これから二号、三号が出る可能性もある。 クラリスは、その視線に気づいた。 「現時点では一号です」 静かに言う。 「増えるかどうかは、調査しなければ分かりません」

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