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第356話

作者: 浮島
敬一郎は若い頃、雷のように迅速で決断力のある人物だった。

血風が渦巻く時代の中で松木家の基盤を守り抜いたその胆力と手腕は、今もなお人々の語り草となっている。

老いた今でも、その行動の速さは昔と変わらない。

わずか三十分ほどで、蒼空は望んでいたもの──

転校に関する証明書などの資料を、家で受け取った。

彼女はベランダに出て、物音を立てないように下を覗いた。

そこには、一台の平凡な黒い車のそばに、地味な私服姿の男が立っていた。

それは、半時間前敬一郎のもとから戻った直後に見かけた人物であり、この場所に住み始めてから一度も見たことのない顔だった。

蒼空はその男を、瑛司の傍らで見た記憶があった。

──彼女を監視するために派遣された者だろう。

彼女は何事も知らぬふりをして、あらかじめ用意しておいたゴミ袋を手に取り、平然とした様子で階段を降り、ゴミを捨てて部屋へ戻るふりをした。

ベランダから見下ろすと、黒いワゴン車がゆっくりと通りに現れた。

男はすぐにそれに気づいたが、深くは注意を払わなかった。

ちらりと一瞥しただけで、退屈そうに煙草を取り出し火をつける。

だがその黒い
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