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175話

Author: 籘裏美馬
last update Last Updated: 2026-01-03 18:31:57

ぽかん、としている持田さんに最初に気付いたのは、涼真さんだった。

「持田さん……?どうしてそんな変な顔を……」

「失礼しました、社長」

涼真さんに話しかけられた持田さんは、咳払いをひとつ落としてから普段通りのきりっとした表情に戻る。

そして、口を開いた。

「社長と、加納さんの距離が……今までとは全く違い、とても親しい間柄のように見えて、びっくりしただけです……ようございましたね、社長」

「……持田さん」

じとり、とした視線を涼真さんが持田さんに送るけど、当の本人は何処吹く風というようにけろりとしている。

だけど、持田さんにそんな指摘をされてしまった私は、慌てる。

そ、そんなに……?持田さんがびっくりしちゃうほど、私と涼真さんの距離が、近くなってる……?

そ、それじゃあ距離感を考え直さなくちゃ。

あまり涼真さんと近づき過ぎたら──。

私がそんな事をぐるぐると考えていると、涼真さんと持田さんが会話を続けていて。

さらり、ととんでもない事を涼真さんが口にした。

「そんな事を言うなら、持田さんもそうなんじゃないか?まさか、こんなに急展開になるとは……。間宮とは別行動?」

「ええ。彼は私と顔を合わせるのが恥ずかしいみたいです」

「……あまり揶揄ってやるなよ、可哀想だ」

「あら、そこが可愛らしいじゃないですか?」

ふふ、と美しい笑みを浮かべる持田さんに、私は首を傾げる。

今、持田さんは何と言ったの?

間宮さん?急展開……?

持田さんが、間宮さんの事を可愛らしいって……?

私が頭に「?」を沢山浮かべていると、私が理解していない事に気付いた涼真さんが、私を引き寄せて教えてくれた。

「持田さんと間宮は、大学の先輩後輩の間柄でな……。その頃から持田さんは間宮を。……それで、ようやく昨夜、長年の祈りが通じたんだよ」

「──えっ」

「ちなみに、先輩が持田さんで、後輩が間宮だ」

涼真さんの言葉に、私はぽかんとしてしまう。

え?え?

私は、てっきり涼真さんは持田さんのような女性が好みだとばっかり。むしろ、好意を抱いているんじゃあ、とまで思ってたのに──。

それなのに、持田さんと間宮さんの話をする涼真さんは、心から嬉しそうに笑っていて。

私の頭は益々混乱してしまう。

私、もしかして今までとんでもない勘違いをしていたんじゃあ──。

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