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91話

Penulis: 籘裏美馬
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-16 18:32:17

私が座っているソファの左側が深く沈み、剥き出しの肩に男性の手のひらが触れた。

そして、ぐっと引き寄せられてしまった私は、驚いて横を見る。

そこにいたのは──。

「く、黒瀬さん……!?」

「加納さん、先程ぶりだね。滝川社長は──ああ、あそこで捕まっているのか」

くすり、と黒瀬さんの口元が笑みの形に変化する。

そして、私の肩を抱き寄せていた黒瀬さんの手のひらが二の腕を伝い、脇腹、腰へと移動していく。

「──っ!?」

「こんなに美しい女性を1人にするとは……。危ない目に遭うかもしれないよ」

「今のように、ですか……?」

いやらしく私の体を這っていた黒瀬さんの手から逃れるように、私は失礼だと分かっていながらソファから立ち上がる。

滝川さんに触れられるのは、ちっとも嫌じゃないのに。

今、黒瀬さんに触れられた箇所がゾワゾワと鳥肌が立っている。

不快感を隠しもせずに私が顔を歪めると、黒瀬さんは楽しそうに笑った。

「意外と気が強いのか…ますます興味深い」

黒瀬さんも立ち上がり、私に1歩、2歩と近づいてくる。

彼は、このパーティーの主催者で、この会社の経営者。

人の注目を集めているし、こんな場所でさすがに不埒な真似はしないだろう。

そう考えた私は、彼に軽く頭を下げて滝川さんのもとに向かおうとした。

「……ご冗談を。失礼します」

背後からくつくつと楽しげに笑う声が聞こえてきて、私はついつい眉を顰めてしまう。

黒瀬さんを注視していたからか。

私は黒瀬さんに意識を集中してしまっていて、前方の確認を疎かにしてしまっていた。

先程までは誰もいなかったのに。

はっと気付いた時には、誰かが足早に私に近付いて来ていた。

そして──。

「きゃあっ!」

「──っ!?」

どんっ!と私の体が誰かに強くぶつかった衝撃。

そして、硝子が落ちて砕ける派手な音がその場に響いて、私は驚きに目を見開いた。

「ひ、酷い!なにこれぇ!!」

私とぶつかったせいで、持っていたグラスの中身が零れ、服にかかったのだろう。

私の目の前には、真っ赤な染みが広がってしまったドレスを見下ろし、涙目で今にも泣き出してしまいそうな麗奈が私を睨み付けていた。

「心……っ!どうしてくれるのよ、これ!こんな格好、酷
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