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第5話:偶然の再会

last update Last Updated: 2025-07-13 20:00:39

図書室での衝突から数日、香織は拓海を避けていた。あの時の彼の憤慨した声と、自分が放った嫌味な言葉が頭から離れない。教室で彼の姿を見かけても、香織は目を逸らし、風が彼の匂いを運んできた時には息を止めた。

(あんな下等な男に心を乱されるなんて、私らしくない)

そう自分を戒めるが、心の奥では後悔がくすぶっていた。拓海の努力する姿と無垢な笑顔が、彼女の記憶にこびりついて離れないのだ。そしてそれらを思うたびに、また下腹部が熱くなる妙な感覚も起こる。心と体が分断されてしまったような、魔法にでもかけられたような感覚がいまだにあった。

その日、香織は放課後に校舎の庭園で一人佇んでいた。薔薇の香りが漂う静かな場所で心を落ち着けようとする。が、運命は彼女に休息を与えなかった。庭園の茂みの向こうから、拓海の声が聞こえてきた。

「もう、どこに落ちたんだろう……」

香織が目を凝らすと、拓海が地面を這うように何かを探している姿が見えた。汗ばんだ体操服、乱れた髪。彼の匂いが風に乗り、彼女の鼻腔を刺激した。汗と土の生々しい臭気が、彼女の胸をざわめかせる。

香織は一瞬逃げ出そうとしたが、ふと、草の間に落ちている銀色の石ころのような物体に目が留まった。

(何……これ?)

好奇心に駆られ、気づけば拾い上げていた。よく見るとそれは石ころではなく、傷だらけのペンダントだ。開くと中には、美しい女性の写真が入っている。

拓海が振り返り、香織に気づいた。

「藤堂さん!? 何の用? また僕をバカにしに来たの?」

彼の声にはまだ怒りが滲んでいた。香織は一瞬怯んだが、ペンダントを手に持ったまま、冷静を装って応じた。

「別に……何か気になるものが落ちてたから拾っただけよ」

「えっ、それ……僕の!」

ペンダントに気づき、拓海は表情を緩めて急いで近づいてきた。彼がペンダントを受け取ろうと手を伸ばした瞬間、汗に濡れた指先が彼女の手首に触れた。

その熱と湿った感触が、香織の肌を電流のように走る。香織は己の太ももの奥が熱く疼き、秘部が微かに濡れるのを感じた。慌てて手を引き、動揺を隠すように一歩下がる。

拓海は、ペンダントを見つめながら、こう言った。

「これ、お母様がくれたんだ。僕が小さい頃に死んじゃってさ……これしか形見がなくて」

その言葉は意外だった。下品で野蛮だと思っていた彼が、こんな個人的な一面をさらけ出すなんて。そして同時に、親近感も覚えていた。香織もまた、母親を小学生の頃に亡くしていたからだ。言葉を失い、彼の汗ばんだ手がペンダントを握る姿を見つめた。

「とても優しくて、僕、甘えてばかりだった……だけど、『もうお母さん、拓海のことを守れないから』って。『どうか強く生きて。せめて、ペンダントとしてずっとそばにいるから』って」

彼女の視線は、拓海の手に留まり、やがて彼の汗で濡れた首筋へと移った。体操服の隙間から覗く小太りな胸元が、夕陽に照らされて鈍く光る。

香織の体の奥で、何やら熱い欲が蠢いていた。秘部がさらに熱く濡れるのを感じ、太ももを締め合わせてその衝動を抑えようとする。否定しようと目を逸らしたが、拓海の汗と土の匂いが彼女の鼻腔を満たし、理性を揺さぶってくる。

「……そんなに大事なら、落とさないように気をつけたら? 私には関係ないけど」

理性を取り戻そうとするかのように冷たく返したが、声は震え、頬が熱を持っていた。

「落としたんじゃないよ。クラスメイトが上の階から投げ捨てたんだ……“ダサイもの持ってんじゃねーよ”なんて言ってさ……もう何度もやられてる。僕、いじめられっ子だから」

拓海がスクールカーストの底辺であることを、香織は改めて思い出した。だからと言って、人の大事な形見をそんな乱暴に扱っていい筈がない。

ただ、拓海も拓海だ。“いじめられっ子だから”と諦めたようなセリフは聞き捨てならなかった。

「なによそれ……ちゃんと抵抗しなさいよ! この間は、私に向かって“偉そうに”なんて文句言えたじゃない!」

だが、それに対して拓海は力なく微笑み、逆に謝罪し始めた。

「確かにそうだね……僕が悪かったよ。藤堂さん、図書館で僕に優しくしてくれたと思ったから……なのに突然バカにするような態度を取ってきて、ショックだったんだ。それでつい、あんな言葉を……」

拓海の言葉が、香織の心に鋭い針のごとく刺さる。優しくしたうえで突き放すなんて、見方によってはよほど悪質だ。ばつが悪く、何も言えないでいる香織の心にさらに揺さぶりをかけるかのように、拓海は言葉を続ける。

「このペンダントも、藤堂さんが拾ってくれなかったらずっと見つからないままだったかもしれない。藤堂さんには感謝しかないよ。本当にありがとう」

彼の素直な謝罪と感謝の言葉に、嫌悪感が薄れ、罪悪感が募る。だが、それ以上に勝ってくる自尊心のせいで、香織は思ってもみない言葉を口にしてしまった。

「別に、あなたなんかに感謝されても嬉しくないわ」

嫌味を込めた声で言い放ち、香織は彼を睨んだ。拓海の顔はハァと溜息を吐き、苦笑しながら返した。

「やっぱり君も、僕をいじめる連中と同じなんだね」

その言葉が、香織の心に、今度は巨大な岩のようにズシンとのしかかってきた。

「……ふんっ」

香織は数日前と同じようにそう吐き捨て、逃げるようにその場を去った。

帰りの車の中、香織は窓の外を眺めていた。父親の運転する車が静かに走る中、彼女の頭には拓海の言葉が響いていた。“お母様がくれたんだ”、“ありがとう”。あの汗臭い男は、母親の形見を大切にし、素直に感謝を口にした。そんな相手に対し、自分はなんて言葉を投げかけてしまったのか。

“僕をいじめる連中と同じ”――そう返されてしまったが、確かにその通りだ。香織の目尻に涙が滲み、頬を伝う。

(私、プライドを守りたいからって、あんな態度まで取って……これじゃあただのバカじゃない)

小さく嗚咽を漏らし、手で顔を覆った。涙が止まらず、肩が震える。助手席の父親は娘の様子に気づき、心配そうにちらりと見た。

「香織、どうしたんだ?」

声をかけたものの、年頃の娘に何を言えばいいのか分からず、彼は眉を寄せて考え込んだ。

「……何かあったなら、話してもいいんだぞ」

そう慎重に言葉を選んだが、香織は首を振る。

「何でもない……少し疲れただけ」

涙を拭い、窓の外に目を戻す。夕暮れの街並みがぼやける中、彼女の心はペンダントを渡す際に少しだけ触れた拓海の不器用な手の感触と、彼の素直な声で揺れ続けていた。

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