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第5話

Auteur: 霧崎遥
義母の篠崎清子は、家族の中で絶対的な存在だった。

兄弟姉妹が多い中でも、彼女の発言はいつも絶対で、誰も逆らえなかった。

彼女の唯一の汚点は、かつて夫の浮気現場を押さえたことだった。

その時、清子は夫を家から追い出しただけでなく、不倫相手が妊娠していた子供を堕胎させる手配をした。

後にその子供が夫のものではなかったと知った。

それ以来、清子は娘の浅香を一人で育て、時には苦労もあったが、平穏な生活を手に入れた。再び結婚はしていないが、今も付き合っている恋人がいる。

浅香が「自殺を図ろうとしている」と聞いた時、清子はすでに私を責めるための一万通りのシナリオを考えていただろう。

清子にとって、女性が感情的になるのは多くの場合、男性のせいだと決まっているのだ。

電話を切ってから30分もしないうちに、清子は親戚たちーー叔父叔母や従兄弟まで引き連れ、大勢で我が家に押し掛けてきた。

「翔太、浅香はどこにいるの?」

勢い込んで詰め寄る清子に、私は慌てて迎えに行き、焦りながら説明した。

「お義母さん、浅香とちょっと口論しただけなんだ。それで浅香が急に電話に出なくなって......」

しかし、清子は私の言葉を最後まで聞かず、椅子を掴むと寝室のドアに向かって力いっぱい叩きつけた。

「ガンッ!」と大きな音が響き、中の様子は一瞬静まり返った。

清子はドアを叩きながら叫んだ。「浅香、何考えてるの! 何かあったらママに言いなさい! ママが全部聞いてあげるから!」

しかし、室内からは何の返答もなかった。清子は浅香のスマホに電話をかけ続けたが、繋がらない。

焦りが増した清子は再び椅子でドアを叩き始めた。

「なんなのこのドア! 何度叩いてもびくともしないわ!」

私は清子の腕を掴んで止めた。「お義母さん、このドアは義母と浅香が選んだよ。防犯がしっかりしてて、中から鍵を掛けると外からは開かないって。これ以上叩いても無駄だよ。余計に追い詰めるだけださ」

清子は私の言葉を聞いて手を止めた。

だが、一緒に来た従兄の一人が怒りを抑えきれず、いきなり私に一発殴りかかってきた。

「おい! 浅香に何をしたんだよ! 男ってのはロクなもんじゃないな!」

私は彼を押し返しながら言い返した。「男がみんなお前みたいに女遊びすると思うな!」

「だったら、どうして浅香がこんなことするんだよ!」

その様子を見ていた清子も怒り出した。「ほら見たことか!浅香をこんな目に合わせるなんて、あんたもろくな夫じゃないよ!私の通ってきた道を娘に二度も歩ませるなんて、どこまで不幸な子なのよ!父親もダメだったし、今度は夫までこんなんじゃ、あの子どうやって生きていけばいいのよ!聞きなさい、翔太、浅香に何かあったら、私はあんたを絶対に許さないからね!」

「お義母さん、違うよ!」私は清子の腕を掴んで懸命に弁解した。

だが、彼が私を押しのけて再びドアを叩き始めた。「浅香、大丈夫だよ。何があっても兄さんが全部解決してやるから、まずはドアを開けてくれ!」

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