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第9話
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山陰に潜む、孤独な月 第9話
結婚式では、親戚や友人たちから心からの祝福を受けた。そして、遠方からの手紙も一通届いた。手紙の中で、蓮は私たちが一生幸せであることを心から祈っていると書いていた。ここ数年、彼は常に自分を省みて、過去の出来事について私に謝罪したいと思っていたという。許しは請わないが、どうしても「ごめん」と伝えたかったと。それを読んで、私はすべてが終わったのだと知った。過去の人や事柄は、まるで月下美人の花のように一瞬で消え去り、私は自分の幸せな人生へと走り出すのだ！司は九条家の事業を引き継ぎ、組織を見事に統率していた。日常業務は非常に多忙だったが、彼は必ず時間を作って私と一緒にいてくれた。ある日、私は一人で家にいて、暇つぶしに本でも読もうと司の書斎に入った。一つの木箱が目に留まり、好奇心に駆られて箱を開けた。そこには何通もの手紙が入っていた。一通一通、すべてが司から私へのラブレターだった。最後の一通を読んだ時、私の涙は止まらなくなった。あの日、池に落ちた私を助けてくれたのは、司だったのだ。当時、彼も水を飲んでしまい、私を助け上げた後に気を失ってしまった。目が覚めた時、彼が見たのは、私と蓮が一緒にいて楽しそうにしている姿だった。だから彼は、名乗り出る勇気を持てなかったのだ。その時、司が帰ってきた。私は慌てて箱をしまおうとしたが、彼に見つかってしまった。彼はとても穏やかに私を抱き上げ、優しく言った。「知ってしまった……」私はすでに泣きじゃくっていた。「どうして早く教えてくれなかったの？」彼は私の涙を拭い、愛おしそうに私を見た。「そのことであなたに心理的な負担をかけたくないんだ」私は彼を抱きしめ、しばらく心が落ち着かなかった。人生をやり直し、間違った人生を正すことができて本当によかった。……数年後、私と司の間には三人の子供が生まれた。私は司の肩に寄りかかり、子供たちが追いかけっこをしている姿を眺めていた。夕日の残光が彼らを温かい金色に縁取っていた。時は流れ、過去の出来事はまるで長い夢のようだった。目の前の幸せな光景を見て、私の口元は自然と綻んだ。末娘が突然私の懐に飛び込んできて、真っ赤な顔を見上げて尋ねた。「ママ、なに笑ってるの？」私は娘の柔らかい髪を撫で、優しい眼差しで司を見つめた。彼は笑みを浮かべて私と子供た
山陰に潜む、孤独な月 第8話
しかし男たちの色欲はすでに高まっており、そんなことはお構いなしだった。男は結衣を突き飛ばし、数メートル先へ転がした。彼女は痛みで涙を浮かべた。男たちに敵わないと悟ると、彼女は妥協した。そしてまた歪んだ笑みを浮かべた。「それもいいわね。たとえ誰かが助けに来ても、汚されたあなたを見たら、誰も要らないでしょうね！」男たちが獰猛な顔で私に近づいてくる。私は大声で助けを求めたが、無駄だった。「彼女を放せ！」服が引き裂かれそうになったその時、倉庫の扉が開いた。現れたのは蓮だった。彼は前に進み出て、男たちをなぎ倒した。彼は自分の上着を私にかけ、私を抱き上げて立ち去ろうとした。しかしその時、結衣が殺気立った目で、ナイフを取り出し、狂ったように私たちに向かって突進してきた。「危ない！」しかし彼女のナイフはあまりに速く、私を助けようとした蓮は、背後から結衣のナイフに貫かれた。彼がゆっくりと倒れ込むのを見て、結衣はパニックになった。「いや！なんで？なんでよ！」その時、彼女は凶悪な表情を浮かべ、死ぬ気で再び私に刃を向けてきた。その瞬間、司が部下を率いて現れた。彼は結衣を蹴り飛ばし、申し訳なさそうに私を見た。「すまない、遅くなった！」……私は首を振り、蓮を見て涙を滲ませた。「早く彼を助けて！」部下たちが男たちと結衣を取り押さえ、警察に突き出した。蓮はすぐに病院へ運ばれた。幸い急所は外れており、彼は一命を取り留めた。彼が目覚めて最初に探したのは私だった。知らせを受けて、私は司と共に病院へ見舞いに行った。私たちが一緒に来たのを見て、彼の瞳に失意の色が広がった。当たり障りのない会話を交わしたが、蓮はずっと心ここにあらずといった様子だった。司が電話を受けて席を外すと、彼はようやく低い声で切り出した。その目は恨めしそうだった。「玲奈、本当に黒崎との間に感情が芽生えたのか？……やり直せないか？」「無理よ！」私は彼の言葉を遮った。彼はシーツを強く握りしめ、喉を詰まらせて言った。「なぜだ？黒崎のせいか？あいつはただ心の隙間に入り込んだだけだろ！」私は彼を一瞥し、冷たく言った。「蓮、私たちがここまで来たのは他人のせいじゃないわ。今回、あなたが私を助けてくれたことには感謝する。でも、だからといってあなたの過去の所
山陰に潜む、孤独な月 第7話
その日、蓮は私の家の前で長い間跪き続け、ついに体力の限界で倒れ、病院に運ばれたと聞いた。その知らせを聞いても、私の心は波立たなかった。今の状況はすべて、彼自身が招いたことなのだから！……それ以来、蓮は姿を見せなくなった。私と司の関係はますます安定していった。以前の私は、蓮のことしか見えておらず、他の誰も目に入らなかった。司と過ごす中で、二人の関係とは、どちらかが一方的に妥協するものではないと知った。互いに尽くし合うことで、関係はより良いものになっていくのだ。そして、二人の関係に第三者が入り込む余地などあってはならない。このまま穏やかで幸せな生活が続くと思っていたが、ある人物の出現がその平穏を打ち砕いた。その日は司の誕生日で、私は一人で彼へのサプライズを用意するために出かけていた。デパートの入り口で、私は結衣に遭遇した。彼女はひどく痩せこけていた。深く窪んだ眼窩のせいで十歳以上老けて見え、かつての生き生きとした少女とはまるで別人だった。環境が人に与える影響に驚いていると、結衣が近づいてきた。落ちぶれてはいたが、彼女は身なりを整え、精一杯胸を張っていた。「九条玲奈、久しぶりね！」私は何も言わず、軽く会釈だけして返した。しかしそれが結衣の癇に障ったようで、彼女は表情を歪めた。「九条玲奈、今の私の姿を見て、さぞ嬉しいでしょうね？でも忘れないで、かつてのあなたは私に負けた！蓮は私のために何度もあなたと対立し、あなたに手を上げさえした！知ってる？彼があなたと対立する姿を見るたび、私は最高の気分だったわ。そうして初めて、本当にあなたを踏みつけにできたと感じられたから！カジノ王の娘だからって何よ、私に負けたじゃない！」そう言って、彼女は嘲笑を浮かべた。狂気じみた彼女とこれ以上関わりたくなくて、私は早足で立ち去ろうとした。しかしその時、彼女に薬を嗅がされ、私は意識を失った。……再び目が覚めると、私は廃倉庫の中にいて、手足を鎖で拘束されていた！目の前には数人の見知らぬ男たちがいた。彼らの顔を見て、全身の血が凍りついた。彼らは、前世で私を誘拐した仇敵たちだった。私が目覚めたのを見て、結衣が嘲笑しながら近づいてきた。顔には陰湿な色が浮かんでいる。「九条玲奈、驚いた？私も戻ってきたのよ！」その時、私は
山陰に潜む、孤独な月 第6話
その時から、私は蓮に特別な感情を抱くようになった。当時の彼は、私にとても優しかった。父は多忙で、幼くして母を亡くした私の側にずっといて、親身に接してくれたのは蓮だった。私は大人になれば、自然と彼と結ばれるものだと思っていた。しかし、結衣が家に来てから全てが変わった。彼は無意識に結衣を贔屓し、結衣の境遇は可哀想で、自分と同じだと言った。最初は彼を喜ばせるために、私も一緒に結衣に良くした。だが次第に、結衣の行動はエスカレートしていった。彼女はよく、お嬢様である私にいじめられたと嘘をつき、可哀想なふりをして蓮の同情を引いた。私がいくら説明しても、蓮は信じてくれなかった。前世で、私は蓮の結衣への想いを知りながら、それでも彼を選んでしまった。幼い頃からの絆があれば、誰にも揺るがすことはできないと思っていたのだ。だが私は間違っていた。あまりにも大きな間違いだった。そこまで考えると、胸の奥が鈍く痛んだ。私が黙り込むと、司は慌てて慰めた。「言いたくなければ、言わなくていいんです」私は彼を見て首を振った。「子供の頃、蓮が私の命を救ってくれたから、彼に心底尽くそうと思ったの。でも、彼は何度も私を危険に晒した。だから目が覚めたのよ」それを聞いた司の目に、一瞬不可解な色が浮かんだ。彼が何か言いたげにしているのを見て、私は何があったのか尋ねたが、彼はただ薄く笑って首を振った。「いつか、わかりますよ」……蓮が私に対して行ってきた数々の所業を父が知り、父は彼を九条家から追放した。長年の情に免じて、父はそれ以上の責め苦は与えなかった。しかしここ数日、蓮は頻繁に九条家の門の前に現れた。いくら追い払っても帰ろうとしなかった。私と司が出かけるたび、彼は遠くから私を見つめていたが、近づいてくることはなかった。ある日、私が一人で用事を済ませに出かけると、蓮が近づいてきた。私を見る彼の目には、後ろめたい色が浮かんでいた。「玲奈、全部調べたんだ。今までのことは全部、結衣の仕業だった！ホテルの監視カメラを確認したら、結衣が自分で腕を傷つけて私を陥れようとしていたんだ！前にお前の手洗いで洗濯をしたというのも、全部同情を買うための嘘だった。玲奈、俺が悪かった。まさか結衣がそんな人間だとは思わなかったんだ。安心してくれ、彼女には
山陰に潜む、孤独な月 第5話
司は明らかに呆然としていた。信じられないといった様子で私を見ている。私が肯定の眼差しを返すと、彼はゆっくりとステージに上がってきた。一方、蓮はその場に立ち尽くし、うわ言のように呟いていた。「いや、そんなはずがない……」人々はステージ上の司に注目し、もはや蓮のことなど気にも留めなかった。すると突然、蓮は怒号を上げてステージに駆け上がり、私の腕を強く掴んだ。「玲奈！わざと俺を挑発してるんだろ？俺が結衣をかばったから、嫉妬して司を選んで俺を怒らせようとしてるんだろ！」私は訳が分からなくなった。彼はずっと結衣と一緒になりたがっていたはずだ。私が身を引いて願いを叶えてやったのに、なぜ今さら不満なのか！隣にいた司が彼を突き飛ばし、容赦なく言った。「桐島！玲奈は今、俺の婚約者だ。離れろ！」蓮は司を軽蔑の目で見ると、私への尋問を続けた。「玲奈、俺を怒らせたいのはわかった。だが、好きでもない奴と婚約するなんて馬鹿げてるぞ！お前が好きなのはずっと俺だろ？今なら許してやる。何もなかったことにしてやるから！」視界の隅で、司の目に一瞬の動揺が走るのが見えた。私は進み出て司の手を取り、蓮に向かって言った。「残念だけど、私たちは心から愛し合っているの。祝福する気がないなら、ここから出て行って」それを聞いて、司は傷ついたような顔で私を止めようとしたが、父が部下に命じて蓮をつまみ出させた。婚約パーティーは続き、私たちは多くの祝福を受けた。前世の記憶を頼りに、父に警備を増員させたおかげで、仇敵による誘拐も未然に防ぐことができた。宴が終わり、司は真剣な顔で私を見た。「玲奈、あなたが俺を選んだのは、ただ桐島への当てつけだということはわかっています。後で会長には俺から説明を……」しかし彼が言い終わる前に、私の唇は彼の唇に重なっていた。彼は一瞬驚いたが、すぐに熱烈に応えてくれた。「司、私が選んだのはあなたよ！」私の確信に満ちた言葉は、彼にとって何よりの安定剤となった。彼は私を抱きしめ、いつまでも離そうとしなかった。会場を出ると、蓮が飛び出してきて私の手を掴んだ。今の彼は声が震えていた。「玲奈、こいつと結婚しちゃダメだ。こいつとじゃ一生幸せになれない！」司が殴りかかろうとするのを、私は止めた。私は蓮の手を振り払い
山陰に潜む、孤独な月 第4話
「九条玲奈、たとえ脅されて結婚したとしても、俺がお前を愛することは絶対にない！今後、結衣の前で俺を手に入れたと自慢してみろ。その時は結婚式をボイコットしてやるからな！」そう言い捨てて、彼は結衣を連れて去った。私は彼らの背中を見送りながら、内心で冷笑した。なぜ前世の自分は、こんな男を好きになってしまったのか理解できなかった。……婚約パーティーの開始直前、メイクを終えたばかりの私の元へ結衣がやってきた。彼女は不満を露わにして私を睨み、その目は怨念に満ちていた。「納得できない！どうして！どうしてあなたは生まれた時から高貴な身分で、私は誰からも見下される貧乏人なの！私が愛する蓮まで、あなたの父親の権力に屈して婚約しなきゃならないなんて！」私は冷笑し、軽蔑の眼差しを彼女に向けた。「小野寺結衣、九条家はあなたによくしてあげたはずよ。父はあなたの家が貧しいのを見て、学費を支援した。両親が亡くなった後は、家に引き取って養ったわ。それなのに、あなたは恩を感じるどころか、いつも揉め事を起こしてばかり！それに、もし蓮が本当にあなたを愛しているなら、全てを捨ててでもあなたと一緒になるはずよ！九条家の権力と地位に未練があるから離れられないだけじゃない！」私の言葉に、結衣はよろめいて数歩後退った。「ち、違う……蓮は言ったわ。九条家が自分のものになったら、あなたを捨てて私を妻に迎えるって！」私は鼻で笑った。「父が長年裏社会を牛耳ってきたのを忘れたの？そんなに甘いと思う？」結衣の表情が急変し、凶悪な光を帯びた。「なら、容赦しないわよ！」そう言って、彼女はポケットからナイフを取り出し、自分の腕を突き刺すと、耳をつんざくような悲鳴を上げた。数人の護衛が駆け込んでくる。結衣は私を死ぬほど睨みつけながら、弱々しい声を出した。「お嬢様……どうしてこんなことを……」その光景を見た蓮は激昂し、躊躇なく私の頬を平手打ちした。次の瞬間、彼は護衛たちに地面に押さえつけられた。「蓮、気でも狂ったか！会長に見られたら終わりだぞ！」結衣は病院へ運ばれ、蓮も数人に説得されてようやく理性を取戻した。パーティーが始まり、大広間は親戚や友人で埋め尽くされた。父は私の手を取り、ステージに上がった。「本日、皆様にお集まりいただいたのは、
