山陰に潜む、孤独な月

「カジノ王」の一人娘として、私は生まれた瞬間から血と暴力の嵐の中にいた。父は私を守るため、幼い頃から九人の守護者を育て上げた。成人した後、父はその九人の中から一人を婚約者に選ぶよう私に命じた。

私は、長年想いを寄せていた桐島蓮（きりしま れん）を、迷うことなく避けた。

なぜなら、前世での記憶が鮮明に残っているからだ。婚約披露パーティーの日、私は敵対組織に誘拐された。彼らが毒を塗った釘で私の掌を貫いたとき、私は震える手で蓮に助けを求める電話をかけた。しかし、彼から返ってきたのは氷のように冷たい言葉だった。

「九条玲奈（くじょう れいな）、つまらない芝居はやめろ。お前のGPSは、まだホテルのスイートルームにあると示しているんだ！

俺を独占したいからって、そんな狂言誘拐を企てるなんて吐き気がする！」

電話の向こうから聞こえる女の甘い笑い声を聞きながら、私は絶望の中で瞳を閉じた。鉄の檻が冷たい海底へと沈み、海水が口と鼻に流れ込んだ瞬間、私の命は完全に尽きた。

再び目を開けると、私は父に婚約者を選ぶように言われたあの日に戻っていた。今回、私は真っ先に桐島蓮の名前をリストから消した！しかし、黒崎司（くろさき つかさ）との婚約パーティーで、なぜ蓮は泣きながら私に求婚したのだろうか？

……

見慣れたリストが目の前にあり、私はハッと息を呑んで目覚めた。溺死した時の苦痛がまだ消えやらぬ中、耳元で父の声が響いた。

「玲奈、今日この九人の中から一人、婚約者を選びなさい」

私はそこで初めて、自分が転生したのだと理解した。リストを見つめ、私は迷うことなく桐島蓮の名前を消した。父は一瞬きょとんとした。

「玲奈、間違いじゃないのか？

小さい頃から蓮の後ばかり追いかけていたじゃないか。なぜ彼の名前を消すんだ？

少し待ちなさい、新しいリストを用意させるから……」

私は慌てて首を振り、父の言葉を遮った。

「お父さん、間違いじゃないのよ。

私が選びたいのは蓮ではなく、黒崎司なの」

その瞬間、私の脳裏には、私が死んだ後に司が見せた、あの断腸の思いに暮れる表情と、張り裂けんばかりの叫び声が浮かんだ。

父は私の決意が固いのを見て、それ以上何も言わず、頷いて承諾した。

父はこの件をまだ公表せず、三日後の婚約パーティーで自ら発表すると言った。

父の書斎を出て玄関ホールに出ると、正面から蓮が歩いてきた。彼の隣には、小野寺結衣（おのでら ゆい）が寄り添っている。

私を見た瞬間、結衣は怯えたように蓮の背後に隠れた。まるで私が人を食う悪魔であるかのように。蓮は彼女を前に引き寄せ、優しく慰めた。

「結衣、怖がらなくていい。俺がいる限り、誰にもお前をいじめさせたりしない！」

そう言うと、彼は私を憎々しげに睨みつけた。

「九条玲奈、いくら結衣が九条家の支援を受けている貧乏生徒だからって、こんな風に脅す必要はないだろう！」

私は訳が分からなかった。目の前の光景は、前世とは全く異なっている。その時、結衣が赤く腫れ上がった手を蓮の腕に乗せ、恐縮した様子で言った。

「蓮、お嬢様を責めないで。私の身分が卑しいから、お嬢様のお洗濯をさせていただくのは大したことではないのよ……」

それを聞いて、私は一瞬呆気にとられた。私は一度も結衣に洗濯を手伝わせたことなどない！

そこでようやく理解した。結衣はまた小細工をして、同情を買おうとしているのだ。

私が口を開く前に、蓮が私に向かって怒鳴った。

「玲奈、言っておくがな、たとえお前が俺を婚約者に選んだとしても、俺はお前のような性根の腐った女を好きになることはない！」

そう言い終わると、彼は愛おしげに結衣の手を撫で、心底痛ましそうな目を向けた。

「結衣、お前は少しも卑しくない。心の汚い人間より、お前の方がよっぽど高貴だ！」

そう言って、彼は軽蔑の眼差しを私に向けた。胸がズキリと痛んだ。前世でも今生でも、彼は一度として私を信じようとしなかった。