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第5話

Auteur: 浅夜
車は、慣れたマンションの地下駐車場に静かに滑り込んだ。

舟一は車を降り、助手席に回ると、桐乃の抵抗や蹴りを無視して、再び彼女を抱き上げた。

上昇するエレベーターの中で、彼は一言も発しなかった。

自宅の玄関ドアを開けると、彼はまっすぐ寝室へと進み、動作は決して優しいとは言えず、彼女をベッドに寝かせた。

「陸川、頭がおかしいんじゃないの!?」桐乃は体を起こし、目に怒りの炎を燃やして彼を睨みつけた。

舟一はベッドの脇に立ち、胸がわずかに上下していた。声は低く、かすれていた。「桐乃……君が俺を恨んでるのは分かってる。子供は……またこれからできる。今は手術をしたばかりだから、まずはしっかり休養しなきゃいけない。

他のことは……体が良くなってから話し合おう、いいか?」

彼は彼女の頬に触れようと手を伸ばした。その指先には、かすかな震えがあった。

桐乃は咄嗟に顔を背け、目には露骨な嫌悪が浮かんだ。「触らないで!」

その時、寝室のドアが勢いよく開かれた。

姑がスープ椀を持って入り口に立っていた。顔色は青白く、歪んでいた。「堕ろしただと?江戸桐乃、あの子は私の孫だったんだよ!なんでそんな残酷なことができるの!」

その甲高い声は、ほとんど鼓膜を引き裂くようだった。

「母さん!」

舟一が即座に立ち上がり、振り返って桐乃の前に立ちふさがった。

「まず出ていってください。桐乃は今、静養が必要なんです。静かな環境が……」

ドアが再び閉められ、部屋は沈黙に包まれた。しかし、空気は以前にも増して重く、よどんでいた。

舟一が桐乃を見つめる目には、苦痛が渦巻いていた。「この数日は……家でゆっくり休んでくれ。外には出ないでほしい」

「これは不法監禁よ」桐乃の声は冷たく、一言一句、区切るように言い放った。「それに、営業秘密漏洩、脅迫、名誉毀損……陸川先生、自分で数えてみなさい。これらの罪で何年の懲役か。あなたの弁護士としてのキャリアは、もうおしまいよ?」

舟一は顔を背け、声を低くして言った。「……それなら、君も出られるか、訴えられるかどうかだ、やってみればいい」

カチッ。

軽い金属音とともに、ドアは外側からロックされた。

桐乃はベッドに座ったまま、部屋に残されたのは、彼女自身の呼吸音だけだった。

……

リビングから、かすかな口論の声が聞こえてくる。

「本当に彼女を閉じ込めておくつもり?もし警察に通報されたらどうするのよ」

「スマホは俺が捨てた……」舟一の声は、ひどく疲れているように聞こえた。「母さん、彼女にちゃんと食事と薬を取らせるだけでいい。外には出さないでくれ。これも……彼女のためだ」

「彼女のため?彼女は私の孫を殺したんだよ!」姑の声が突然高ぶり、そしてまた急に沈んだ。「……いつまで、閉じ込めるつもりなの?」

「彼女が冷静になって、何が彼女にとっても、俺たちの家にとっても一番いい選択なのか、分かるまでだ」

会話の声は次第に低くなり、遠ざかっていく足音とともに消えていった。

午後五時、ドアが定刻のように少し開いた。

姑がトレイを持って入ってきた。顔は険しく、この上ない不機嫌さだった。

わずかに野菜の切れ端が浮かんだ、水っぽいお粥の入った丼を、ベッドサイドテーブルに「ドン」と置いた。

「食べなさい」

桐乃は微動だにせず、目を上げて彼女をまっすぐ見つめた。「お義母さん、監禁罪は、3月以上7年以下の懲役ですよ。あなたは、共犯です」

姑のまぶたがぴくっと動いた。見せかけだけ強がって声を張り上げた。「脅すんじゃないよ!嫁の流産後の養生をしっかりするのが、何の法に触れるって言うの?あなたは流産で体を壊したんだから、出たかったら、体が良くなってからにしなさい!」

桐乃の口調は、相変わらず冷たかった。「陸川舟一は、私の職場の機密を盗み、私のキャリアを潰し、今また不法に私を監禁している。警察が来たら、あなたが一切関与していない、なんて言えると思いますか?

ご自身の晩年を、刑務所で過ごしたいとでも?」

姑の顔色がみるみる青ざめ、桐乃を恨めしげに睨みつけると、ドアを「バタン」と閉めて出ていった。ドアは再び、外側からロックされた音がした。

夜九時頃、ドアの外で鍵が回る音がし、女性の低い声も混じっていた。リビングでしばらくごそごそと物音がした後、静かになった。

寝室のドアが開き、舟一が入ってきた。廊下の僅かな光を背に、ベッドまで歩み寄り、ただ黙ってそこに立っていた。

「……桐乃」彼は口を開き、声はかすれている。「話がしたい」

舟一がベッドの縁に腰を下ろすと、マットレスがわずかに沈んだ。

「子供の件……君が怒ってるからそうしたんだろう。俺はもう君を許した」

桐乃は体をひるがえし、彼に背を向けた。

「子供はもういない。これは事実だ……でも俺たちはまだ若い。子供は、これからも……」

桐乃はついに目を開けた。その瞳は、氷に閉ざされた湖のようだった。

「陸川さん。私をここに閉じ込めて、この陳腐な台詞を聞かせるためですか?」

舟一の喉仏が、ごくりと上下した。「それに……一つだけ、伝えなきゃいけないことがある。心が……妊娠した」

桐乃の顔に、一片の動揺もなかった。

舟一は彼女の反応を窺いながら、「これが最善の選択だ」という口調で話を続けた。「君が気分よくないのは分かる。でも、もう起こってしまったことなんだ。彼女のような……ああいう出身の女は、そもそも表舞台には立てない。

陸川家の嫁としての資格もなければ、俺の子供の母親になる資格もない。だが……彼女は俺の子供を身ごもった」

彼の声は、さらに低くなった。「彼女をここに連れて帰る。母さんが二人の面倒を見る。彼女が出産するまで待つ。子供が生まれたら、連れて帰って……君が育ててくれ。

心の方は……きれいに始末する。金をやって、永遠に消えてもらう。そうすれば、俺たちにも子供ができる。過去のことは……水に流そう、いいか?」

ドアの外に、白いナイトガウンの裾が一瞬現れた。

その裾が、かすかに震えたかと思う間もなく、次の瞬間にはひっそりと引き込まれ、消えていた。

「陸川」桐乃の目つきは冷たく、口調には皮肉が込められていた。「あなたって、本当に……最低の男ね」

舟一は深く、苦しそうに息を吐いた。「桐乃……俺が悪かった、分かってる。

最初から間違ってた。ただ、魔が差したんだ。でも……もう起こったことなんだ。どうしても、あの女に堕ろせとは言えなかった。

君を家に閉じ込めたのも……俺が悪かった。ただ……君に捨てられるのが、怖かっただけなんだ。

彼女をここに連れて帰り、母さんに面倒を見させるのは……今のところ、最もやむを得ない一時しのぎの策なんだ」

彼は身を乗り出し、切実な眼差しを向けた。「俺が最低で、クズなのは分かってる。でも桐乃……理解してくれ。俺は自分の子供に、責任を取らなきゃいけない。子供が生まれれば、全てうまくいく。あの女はきれいさっぱり片付ける、保証する。俺たちは――」

ゲストルームの方から、突然、かすかな泣き声が聞こえてきた。

舟一の言葉は途切れた。彼は素早く身を引くと、立ち上がった。

「……様子を見てくる」

その口調には、わずかな慌てた色が滲んでいた。彼は桐乃をもう一度振り返ることなく、寝室のドアに再び鍵をかけることさえ忘れて、足早に部屋を出ていった。

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