始めは平民のまま王立学園に通うルルーシアには貴族との軋轢があった。
如何取り繕ってもルルーシアは13歳迄は平民達の中で生活していたから、やはり所々にそれは出てしまう。
校舎の死角でよく令嬢たちに囲まれた。
ルルーシアは平民として入学しているのに身につけているものが明らかに貴族子女と同じ、いやそれ以上の物もあったからだ。
ドーマ子爵家は爵位こそ下位だが内情は公爵家並に裕福だったからだろう。
マリーヌの兄であるドーマ子爵は商売に関しても領地経営に関しても鬼才を放つ程に優秀な男だった。
令嬢達に囲まれてドレスを汚されたり、嫌がらせで文具を壊されたりする度にルルーシアの心のケアをしてくれたのは、従兄のカイルだった。
カイルはルルーシアの二歳上だったが、学園にはあまり登校していなかった。
成績優秀な彼は学園で学ぶよりも父親の商談に付いて行くほうが、将来的に良いと考えていたからだった。
だがルルーシアの学園の様子を知るとそれからは積極的に登校するようになり、昼食も一緒に取ってくれるようになった。
それは一年だけの重なりだったけれど、その間にルルーシアは友人を作り学園生活を滞りなく過ごす事が出来るようになった。
帝国での生活でカイルの存在はルルーシアの心の支えだった。
その感情をルルーシアは“兄の様”と位置付けた。
ルルーシアが17歳になった頃、帝国とカザス王国の鉄路が継った。
それからは毎年鉄道で王国へと旅した。
相変わらずマークは優しく会うと全身で愛情を表現してくれる、言葉にしてくれる、少しも惜しまずに。
だからルルーシアもマークへの思いを彼に惜しまずに返していた。
それでも何度か誘われたけれど伯父である子爵との約束だけは守った。
必ず二人っきりならないように気を付けて、カフェに入ってもルルーシアの侍女が様子を伺えるほどに近くに座っていた。
「シアは平民なのに侍女を付けてもらってるの?」
マークの疑問は尤もだったが伯父の意向だからルルーシアには、その理由も解っていない。
だからそのままをマークに伝えるしかなかった。
「ふぅん」
ルルーシアの言葉に不満そうにマークは唇を尖らせたが、その様子が可愛いとルルーシアは思ってマークの心理までには考えが及ばなかった。
それからも月日は流れ、とっくの昔に成人も過ぎたのにマークはルルーシアを迎えには来なかった。
彼からの手紙も態との様に婚約や婚姻には触れていなかった。
昔のルルーシアであったならば、おそらく成人を迎えた18歳の時にでも、いつ迎えに来てくれるのかと訊ねていただろう。
だが貴族の理を学んでしまった中途半端な平民のルルーシアは、それを聞くことが“はしたない”行為だと脳内にインプットされていた為、聞きたくても聞けないというジレンマに圧しつぶされていた。
年に一度会えたときにもそれは同じだった。
だが何時までもそんな誤魔化しは効かない。
21歳の春、滔々ルルーシアはマークに問う事にした。
「マーク」
「ん?何?シア」
「私との事は、私との未来は⋯貴方はどう考えていらっしゃる?」
何時もそんな事を決して言わないルルーシアの勇気を振り絞った言葉に、マークは右手を口に宛てながら目を見開き、そしてそのまま肩を落として項垂れた。
「⋯もう少しだけ待ってくれないか?今度、騎士団で副団長になれるかもしれないんだ。だから⋯その⋯少し忙しくて⋯もう少し、ごめん。ゴメンなシア。こんなに待たせてしまって」
そう言いながらマークは言葉を誤魔化すようにグイッとルルーシアを引き寄せて抱きしめた。
抱きしめられながらルルーシアは、もう一度勇気を出す。
「いつまでもは待てないわ。私、こちらに今すぐ戻る事も視野に入れてるのよ。貴方が良いと言ったなら直ぐに引っ越してくるわ」
「だから、まだ無理なんだ!わかってくれよシア。副団長になったら迎えに行くから。約束するよ」
「⋯⋯わかったわ(それが貴方の答えなのね)」
心の中で独り言ちてルルーシアはマークの胸に涙を隠した。
この旅の3ヶ月前にルルーシアは一通の手紙を受け取っていた。
宛名はルルーシア、差出人は知らない名前だった。
【ミレーヌ・セドワ】
その名前を見た時、ドクンと胸が大きく跳ねた。
マーク・セドワ、マークには兄はいたが姉も妹も居なかったはず、セドワ伯爵夫人の名前でもない。
ではこの方は一体誰なのだろう
震える指先でペーパーナイフで封蝋を弾く。
封蝋の紋もセドワ家の物だった。
中の便箋を手に取り、まだ震える指で開く。
それはマークの妻からの手紙だった。
義父の手からカイルへとルルーシアは最愛の彼の手を取る。神父の前に二人で立つ、それは長い間ルルーシアの夢であった。此処で神に永遠を誓う。病める時も健やかなる時も⋯⋯。過去のルルーシアはマークとの未来を夢見ていた。それは叶わぬ夢であったけれど、今はカイルが横に並んでいる。思えばルルーシアが一人で帝国に連れてこられてからカイルはずっと側で見守っていてくれた。気付かなかったのはルルーシアだった。ずっと側にいてくれたのはマークではなくカイルであった事にやっとルルーシアは気付くことが出来た。誓いの口づけは少し涙の味がした。それが自分の涙なのかカイルの涙なのか分からなった。二人とも泣いていた、幸せの嬉し涙だった。教会の外には今の今まで参列していた皆が出てきた二人を眩しそうに眺めて待っていてくれた。ルルーシアが思いっきり投げたブーケをキャッチしたのは彼女の学園時代の優しい友であった。─次は貴方の番ね─幸せのお裾分けが出来る事にルルーシアは嬉しく思った。そのまま揃ってカイルと空を見上げるルルーシアはこの何処かの空に両親が見守っていてくれてると感じていた。─お父様、お母様、私をこれからも見守っていてね。幸せな私を見ていてね─空へと心の中では語るルルーシアの背にそっとカイルが手を添える。その手に気付いてルルーシアはカイルを見上げる。そこには大好きないつもルルーシアに寄り添うカイルの優しい眼差しがあった。◇若い二人の為に子爵家では新居を用意してくれていた。その庭にはルルーシアの希望でレンギョウを植えてもらっている。その側に作られた四阿でルルーシアは編み物をしながら寛いでいた。─春は芽吹きの季節なのよ─嘗て母が教えてくれた言葉ルルーシアの人生の指針の言葉でもあった。嫁いだ季節は夏であったが、今は秋、次の春が巡ってきたらカイルと二人で両親の新しく眠る場所へと会いに行くつもりだ。「その時に報告しないとね、お父様とお母様の喜ぶ顔をみたいな」ルルーシアは、まだ傍目には気付けない程のお腹を擦りながら呟く。ルルーシアは今出来上がったばかりの小さな靴下を空に向かって翳す。ルルーシアは今とても幸せだ。end最後まで読んで下さりありがとうございました♡
教会の控室でルルーシアは豪華なウェディングドレスに身を包んでいた。独特の光沢のシルクのドレスにレースがあしらわれていた。シルクのマーメイドラインのドレスは少し年代物であった。それは順当に行けばルルーシアの母であるマリーヌが、最愛の相手であるディスターとの挙式で着る為に、子爵家で用意されていたドレスだった。思わぬ横槍の為に着ることも叶わなかったそのドレスを子爵家では大事に保管していた。そのドレスを初めて見せてもらった17歳の時、マークとの結婚の為にルルーシアは着たいと伯父である子爵に話していた。ミソの付いてしまったマークとの出来事で子爵はこのドレスをルルーシアが着ることに躊躇していたが、ルルーシアは気にしなかった。相手が誰であろうと母の形見に袖を通す事がルルーシアの夢なのだと伯父達を説き伏せたのだった。本来のアッサリとした作りのシルクのドレスにレースをあしらったのは侯爵家の祖母だった。マリーヌとディスターは婚姻後、平民になる事が決まっていた、ディスターの頑張りで騎士爵を賜る事になるかもしれないが、その時はまだ平民の道のみが二人の行く末だった。だから素材は子爵家の思いから最高品のシルクであったが飾りは殆ど無くシンプルなドレスに仕上がっていた。今回の婚姻ではルルーシアの相手は次期子爵になるカイルだ。後々の事を考えてお披露目になるドレスに飾りを入れるのは当然の事だと前侯爵夫人は皆に唱えた。夫人の思いがレースに表れているようにその気配りにルルーシアは感謝の気持ちが込み上げる。仕度を終えて用意されていた教会の少し固めの椅子にドレスの裾を気にしながら腰掛けて、ルルーシアはその時を待っていた。“コンコン”ノックの音が響いて始めに入ってきたのは侯爵家の面々だった。口々に「御目出度う」と祝の言葉をかけてくれる。祖母である前侯爵夫人は、嘗ての侯爵家の家族の肖像を大事そうに手に抱えていた。父や祖父にもルルーシアの晴れ姿を見せたいのだと夫人は言う。その肖像画にルルーシアは立ち上がりカーテシーをしてから、くるりと一回り回った。「お祖父様、お父様、どうかしら?私立派な淑女かしら?嫁いでも見守ってくださいね」ルルーシアの言葉はその場の者の涙を容赦なく誘った。義父が時間だとばかりにルルーシアに手を差し伸べる。控室に集まっていた侯爵家の面々はそれを合図
列車を降りるとホームには彼が待っていてくれた。ルルーシアの胸にフワッと入り込む笑顔を浮かべて旅の疲れはそれだけで吹っ飛んでいく。「シア、お帰り」ホームに降り立つなりギュッとルルーシアを抱きしめて愛おしそうに耳元で囁くカイルの声と彼のコロンの匂いが少し離れたたげなのに懐かしく感じる。「ただいまカイル」抱きしめる彼の胸元に顔を押し付けながらくぐもった声で返す。「イチャつくのは早くないかなぁ」前から声がかかりカイルが視線を上げると呆れた顔でリシュエドが立っていた。彼の手にはおそらくルルーシアの物だと思われる旅行鞄があった。「君も来たのか」「ルルは私の妹分なのでね、幸せを見届ける権利が私にはあるでしょう?次期ドーマ子爵」旅が終わったらルルーシアとカイルは結婚式をあげると聞いたリシュエドは強引にルルーシアに着いてきたようだ。カイルは苦笑しながら「招待状を一つ追加で作らないとな」そうリシュエドに言った。それから三人は帝都の端に位置する丘へ向かった。そこはルルーシアの両親を新たに埋葬するための墓地だ。墓地の管理をしている教会へと挨拶をするとそこには父の学友だと言う騎士が待っていた。彼が両親の亡骸を移動する任を引き受けてくれたそうだ。その費用は皇帝が出してくれると彼は言った。「妹である皇女の失態のお詫びだと仰っています」皇女のせいでルルーシアの両親はしなくても良い苦労をしたのだと、彼女の兄である皇帝がルルーシアへの詫びに乗り出してくれた事を初めて知った。「⋯⋯ありがとうございます」考えれば色々と思う所はあるけれどもう過ぎた事だと考えられる程ルルーシアは大人になっていた。もう少し若い時なら苦々しく思ったかもしれない。でも人生には仕方がないこともあるとルルーシアは学んでいたし身を持って知っていた。自分の身の上を嘆いても前には進めない事も知っている。埋葬が可能になる時を打ち合わせて予定する墓地の場所へと向かった。その場所へ辿り着いてルルーシアは思わず微笑んだ。早々に用意されている墓石に刻まれている名をルルーシアは撫でながら側に咲いている花に挨拶をする。「これからよろしくお願いします、今度からは貴方達が両親を見守ってくれるのね」帝国に咲くレンギョウの花も黄色い花を揺らしてルルーシアの言葉に応えてくれている様に感じた。それから
「どうして⋯何故だ」マークの呟きはルルーシアの耳に届いたが彼女は返事が出来なかった。マークの疑問が何に向けられているか分からなかったからだ。ルルーシアはマークの妻ミレーヌ・セドワの手紙の件を彼に話すつもりはなかった。彼等の幸せな家庭にヒビを入れる存在は今日居なくなるのだから敢えて言う必要もないと考えていた。その疑問がルルーシアの心変わりに対しての疑問なら、そっくりそのままマークに返すつもりだ。だから返事をせずに彼の次の言葉を待つ事にした。マークは両手で頭を抱えながら俯いて「何故、何故」と繰り返すばかりで、その間も時間は刻々と過ぎてゆく。ベンチの側にその花は咲いていた。空に向かって真っ直ぐに枝を伸ばして咲くその花を毎年眺めながらマークとの未来を想像していた。適齢期を過ぎた頃にはその花言葉に縋るように祈りながら眺めていた。黄色い花を咲かせてルルーシアを毎年慰めてくれていたのに今日でこの花ともお別れだ。─今までありがとう、貴方達とは今日でお別れだけど私の住む国にも貴方達と同じ花が咲くのよ、貴方達の花言葉に今迄支えてもらっていたの。でもこれからの望みは違うものだから私の住む国で祈る事にするわ─ルルーシアは心の中でレンギョウの黄色い花にお礼を述べた。レンギョウの花言葉は“希望”ルルーシアはマークの家庭を知るまでは毎年このレンギョウに祈っていた。─分不相応な願いだったよね、ごめんね─今度は心の中で謝罪する。レンギョウの花にお礼と謝罪を何度か繰り返した時、漸くマークが顔を上げた。「いつから知っていたんだ」ルルーシアは驚いた、そんな事が今彼の知りたい事なのだろうか?それを知って彼は何がしたいのか⋯ルルーシアは困惑してしまった。「それを聞いてどうするの?」「⋯⋯いや、ごめん」マークも聞いてもどうしょうもない事だと気付いたのかそれ以上はその件については聞かなかった。「君は、別れてもいいと思ってるの?」「⋯マーク質問の意味が分からないわ、何が言いたいの?」「君は私の事を好きだろう?だから⋯今まで」「ちょっと待ってマーク、私が貴方を好きだから家庭を持っても会っていたと言いたいの?」「⋯⋯」ルルーシアは最後だから穏便に終わりたかった。それなのに目の前の彼はルルーシアの心を揺さぶってくる。怒りの気持ちがこみ上げてきてイライラとし
いつものように墓地の入り口へと向かった。一年ぶりのその場所は相変わらず静寂に満ち溢れた場所であった。落ち着く空気に囲まれてルルーシアは一つ深呼吸をする。前に見えるのはマークだった。じめんを見つめながら俯く彼が顔を不意に上げてルルーシアに気付いた。その笑顔を見ていると彼の本心が解らなくなる。その笑顔の裏に幸せな家庭を築いてルルーシアを騙していたなんて一年前まで思いもよらなかったのだから。いつもであれば二人揃って両親の眠る墓の前に行き二人揃って祈りを捧げる。だけど今日はそんな事をするつもりはなかった。この場所で祈る最後の日なのだから。不誠実なマークとは一緒に祈りたくはなかった。「シア、一年ぶり!さぁ行こう」いつものようにそう言って手を差し出すマークにルルーシアは首を左右に振った。「マーク、今日は二人の所へ行く前に話があるの。あそこで話しをしましょう」「祈ってからでは駄目なのか?」墓地から逸れた散歩道にベンチがある。いつもは祈った後に二人でそこで一年分のお喋りをする場所だった。だからマークの問いは自然なものだったかもしれないがルルーシアには空々しく感じた。「えぇ、祈る前がいいの」訝しげな顔をしたマークだったが直ぐに思い直したのか再び笑顔を向けて「そうか、じゃあ行こうか」と右手を差し出した。その手には目もくれずルルーシアはマークの横に並び言葉を発することなくベンチへと向かった。無視されてしまった右手を握り拳に変えてマークも黙ってベンチへと歩いた。三人は優に座れるベンチに何時もは寄り添って座るのだがなるべくルルーシアはマークから離れた。不思議な顔をするマークへとその日初めて笑顔を向けてルルーシアは言った。「マークお別れしましょう」苦しそうな顔も悲しそうな顔もせずに普通に笑顔で別れ話を切り出したルルーシアをマークは呆然と眺めるのだった。しばらく呆けていたがハッ!と気を取り直してマークは聞き返す。「冗談だろう?」その言葉にルルーシアは苦笑する。「いいえ、本気よ」「如何して!何故!君は私を愛しているんじゃないのか!」その言葉を聞いたルルーシアは腹の底から可笑しくなった。どの口がそれを言うのだろうか。「ふっ」思わず呆れた声が漏れたルルーシアに馬鹿にされた様な感覚をマークは感じた。「なぜだ、シア。俺達結婚するんだろ
1年ぶりの王国は帝国よりも少し暖かく感じた。駅を出て馬車乗り場を目指そうとしていたら少し遠目に誰かが手を振りながら走ってくるのをルルーシアの視界が捉えた。彼はルルーシアの前に来るとそんなにも必死に走ってきたのかというほど膝に手を当て頭を下げて肩で息をしていた。「はぁはぁはぁルル、はぁシア、はぁ⋯⋯」「落ち着いてください」彼の様子からルルーシアにはおそらくだが彼の正体が解ってしまった。あまりにも苦しそうだったので俯いた背中をさすりながら声をかけた。そうしていたら落ち着いたのか彼が擦っていたルルーシアの腕をポンポンともういいと言う様に優しく叩いた。「ありがとう、遅くなってしまって慌てた⋯ルルーシア嬢お久しぶりです。私を覚えていらっしゃるでしょうか?リシュエドと申します、昔孤児院「覚えていますエド兄様、昔の様にルルとお呼びくださいませ」」畏まって話すリシュエドの自己紹介を途中で遮ってルルーシアは気楽に話して欲しいと思い懇願した。ルルーシアの言葉を聞いたリシュエドはニコッと笑い「ルル!元気だったか!会いたかった」そう言って抱きしめてくれた。そこには男女の思いなどなく、久しぶりに会えた兄妹の抱擁であった。ルルーシアの体を手放した後もリシュエドは頭を撫でながら「大きくなった」と笑う。それが可笑しくてルルーシアも自然な笑みが溢れた。マークへと別れを告げる為に来た今回の度はルルーシアの新しい一歩でもあると同時に長年の関係を断ち切らなければならない、重苦しいものであったからかなり身構えてホームに降り立ったのだ。そんな気を張ってガチガチだった肩がリシュエドのおかげでスッキリと緩和した。「兄様、お会い出来て嬉しいです」「俺も会えて嬉しい、墓地に行く前に朝食はどうだい?」リシュエドに誘われて駅近くの早朝からやっている食堂へと向かった。懐かしい王国の家庭料理だったが、ルルーシアの家ではそれを母であるマリーヌが帝国風にアレンジしていたからあまり懐かしさは感じなかった。この場でルルーシアが懐かしむのは目の前のリシュエドだけだろう。「カイルに聞きました、エド兄様が力を貸してくださったそうですね、本当にありがとうございます」「俺はカイル卿に雇われただけだよ、教会の手続きは終わってるからな、あとはルルがサインするだけだ」ルルーシアはリシュエドの言葉に