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第17話

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半年後。

篠はステージの中央に立ち、ずっしりと重い「年間報道大賞」のトロフィーを手にしていた。

客席は観客で埋め尽くされ、鳴り止まない拍手と、無数のフラッシュが彼女を包み込む。

司会者の熱量に溢れた声がホールに響き渡った。「松尾さんの調査報道シリーズは、明徳国際学校に長年巣食っていた組織的な闇を暴いただけではありません。関連法の議論や業界の改善をも推し進め、報道に携わる者として最も尊い勇気と正義を示してくれました!」

篠は静かにお辞儀をし、落ち着いた視線で客席を見渡す。

「審査員の皆さん、そしてこの道のりを支えてくださった全ての方に感謝いたします」マイクを通した彼女の声は、はっきりと、そして穏やかに響いた。「この賞は、真実を問い続ける勇気を持ったすべての人と、今まで届かなかった声が形になったものです」

篠のスピーチは短かった。感情に訴えるわけでもなく、自分を飾るわけでもなく、ただ事実と感謝を述べるだけだった。

しかし、ふと顔を上げた篠の目に、特別席に座る宗介の姿が映った。

濃いグレーのスーツ。篠の記憶の中の、あの几帳面な宗介のままだった。

彼は人混みと光の向こうから、
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  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第17話

    半年後。篠はステージの中央に立ち、ずっしりと重い「年間報道大賞」のトロフィーを手にしていた。客席は観客で埋め尽くされ、鳴り止まない拍手と、無数のフラッシュが彼女を包み込む。司会者の熱量に溢れた声がホールに響き渡った。「松尾さんの調査報道シリーズは、明徳国際学校に長年巣食っていた組織的な闇を暴いただけではありません。関連法の議論や業界の改善をも推し進め、報道に携わる者として最も尊い勇気と正義を示してくれました!」篠は静かにお辞儀をし、落ち着いた視線で客席を見渡す。「審査員の皆さん、そしてこの道のりを支えてくださった全ての方に感謝いたします」マイクを通した彼女の声は、はっきりと、そして穏やかに響いた。「この賞は、真実を問い続ける勇気を持ったすべての人と、今まで届かなかった声が形になったものです」篠のスピーチは短かった。感情に訴えるわけでもなく、自分を飾るわけでもなく、ただ事実と感謝を述べるだけだった。しかし、ふと顔を上げた篠の目に、特別席に座る宗介の姿が映った。濃いグレーのスーツ。篠の記憶の中の、あの几帳面な宗介のままだった。彼は人混みと光の向こうから、静かに篠を見つめていたが、その表情までは読み取れなかった。そしてほぼ同時に、右側の視界の端で、通路の柱に寄りかかる人影も捉えた。隼人だった。彼は着いたばかりなのか、席も探さずに、ただそこに立っていた。黒いコートのボタンは閉めずに、中にはシンプルな黒のタートルネックセーターを着ている。周りの華やかな雰囲気とは、あまり馴染めていない。隼人の視線もまた、まっすぐに篠へと注がれていて、口元にはどこか意味ありげな笑みが浮かんでいるようにも見えた。そして、彼らは左と右から、まるで音もなく対峙しているかのようだった。篠はすぐに視線を戻し、何事もなかったかのように残りのセレモニーを終えた。祝賀パーティーは、ホテルの最上階にあるスカイラウンジで開かれた。篠はようやく人混みから抜け出すことができ、外に続くテラスへと足を運んだ。ひんやりとした夜風が、ラウンジの喧騒とアルコールの匂いを運んでいってくれる。足元には、どこまでも続く街の灯りが広がっていた。「おめでとう」「おめでとうございます」二つの声が、ほとんど同時に背後から聞こえた。篠は振り返った。宗

  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第16話

    ドアの外の声がやんだ直後、マンションのインターホンが鳴った。篠が出ると、警備員の声だった。「松尾さん、偽造したキーカードで侵入しようとした不審な男を二人捕らえましたが、他にも仲間がいる可能性があります。警察には通報しました。念のため、しばらくは外に出ず、ドアも開けないでください」それとほぼ同時に、篠のスマホが震え、画面に隼人からの着信が表示された。「鍵をしっかりかけて、家にいてください。誰が来ても絶対に開けちゃ駄目ですからね」隼人の声はいつもより低かった。「俺の部下が後3分で着きますし、増田さんも部下を向かわせてるそうです」「澪ちゃんのことは?何か分かりましたか?」篠が一番気にかけていたのはそのことだった。「S国の方で進展がありました。居場所も特定でき、現地の警察も動いています。ただ、もう少し時間がかかりそうではありますが」隼人の声には、珍しく緊張が滲んでいた。「こっちが掴んだ証拠のおかげで、陣内会長はもう自分のことで手一杯のはずです。これは、彼の最後のあがきでしょう」電話を切った途端、ドアの外から乱暴にドアを叩く音と罵り声が聞こえた。しかし、すぐに鈍い打撃音と人が倒れる音が響き、足音が慌ただしく遠ざかっていった。数秒後、ドアの向こうから落ち着いた男の声がした。「松尾さん、菊地さんの指示で来ました。外はもう安全です。侵入しようとした男は取り押さえて警察に引き渡しました。でも、まだドアは開けないでください。すぐに警察が事情聴取に伺いますから」篠はドアに背中を預けた。張り詰めていた緊張は少しだけ和らいだものの、澪のことを思うと、まだ心は落ち着かなかった。それから数時間、彼女の部屋の外はまるで小さな嵐が来ていたかのようだった。警察が現場検証と事情聴取を進める間、隼人と宗介の部下たちは、残党がいないか周辺を見回り、安全を確保してくれていた。ネット上の世論も収まることを知らない。充のスタジオが、勇気あるいくつかのメディアと協力し、篠が襲撃されそうになったというニュースを少しずつ公開していった。以前かかってきた脅迫電話の録音も一部流したことで、世間の怒りに一気に火がついた。【#闇を暴いた記者に殺害予告】という見出しがトレンドのトップになり、人々の怒りは明徳そのものだけでなく、その背後にいる黒幕への激しい憎悪へと広がっていった。

  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第15話

    篠は澪の状況と、自分の不安を手短に伝えた。隼人からの返信は簡潔だった。【名前とわかっている情報を送って、こっちで調べさせます。安全には気をつけて。くれぐれも一人で動かないでください】全ての作業を終えるころには、東の空が白み始めていた。これからの戦いは、前の記事の時よりもずっと危険なものになるだろう。篠はそう覚悟していた。これはもう、ただ報道の真実をめぐる戦いではない。追い詰められた裏の連中が、何をしでかすかわからないからだ。午前9時。影響力の大きい海外メディア数社と、国内の独立系ニュースサイトが、一斉に記事を公開した。明徳国際学校とその裏にいる組織についての、深い追跡レポートだった。前のいじめ問題に焦点を当てた記事とは違う。今回の一連の報道は、問題の核心に鋭く切り込んでいた。そして一番の衝撃は、声に加工が施されたインタビュー映像だった。インタビューを受けていたのは、明徳の「内部処理チーム」の元メンバーを名乗る人物だった。彼は特定の生徒の重大な過ちをどうやって隠蔽したのか、また、知りすぎた生徒を心理的な圧力や、孤立、時には薬物まで使って口封じした手口を、詳細に語った。報道は極力客観的な表現が使われており、証拠も全て裏付けがとれていた。さらに、全ての資料は関係監督機関に提出済みである、と明記もされている。世論は一瞬にして爆発したし、それまで釈明しようとしていた明徳側と陣内家は、ぴたりと沈黙した。株価も取引開始と同時に暴落し、緊急取引停止となった。篠のスマホは、激しく震えだした。無数のメディアから取材依頼が殺到し、知らない番号からの着信も鳴りやまなかった。昼ごろ、充から焦った様子の電話が入った。「松尾さん。急いで伝えたいことが二つあるんだ。一つ目は、ネットで君を個人的に攻撃する書き込みが大量に出始めたこと。証拠のでっち上げだとか、私生活が乱れてるとか、海外の組織に買収されたとか……かなり酷い内容だったよ。二つ目は、陣内家もかなりごたごたしてるらしい。陣内潤の息子の陣内竜也(じんない たつや)が明徳のグループの中心人物の一人で、今回の件に相当深く関わってる可能性があって、陣内潤もかなり頭にきてるみたいなんだ」「わかった」篠の声は落ち着いていた。「ネットの誹謗中傷は放っておいていいから、報道そのものに議論が向かうよう

  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第14話

    若い男が声をひそめた。「ターゲットは家にいて、増田さんが来ました。滞在時間は約8分、玄関先で話していましたが、内容は聞き取れず……はい、増田さんは立ち去りました。ターゲットはまだ家の中で仕事中のようです」イヤホンから、冷静で感情のこもっていない女の声が聞こえてきた。「監視を続けて。あの女が次に誰と会って、どこへ行って、何をするのか、全部報告して」「了解しました」非常階段のドアが、静かに閉まった。廊下は静けさを取り戻したが、水面下では無数の思惑が、静かに渦巻いていた。部屋の中で、篠はデスクの前に座っていた。重要な情報を一つ一つ抜き出しては整理し、これまでの調査結果と照らし合わせみる。すべては、E国で偶然出会い、その後謎の失踪を遂げた一人の女性――渡辺澪(わたなべ みお)のために。E国に渡った最初の年、篠はある大学の川辺でスケッチをしていた。そこで、同じく一人旅をしていた澪と出会ったのだ。まだ16歳だった澪は、きらきらした瞳が印象的だった。明徳国際学校の合格通知を受け取ったばかりだと話すとき、その瞳は希望に溢れていた。「そこはすごく優秀な学校で、入れば将来すごい人たちと知り合いになれるってお母さんが言ってたの」澪は、川辺の石を蹴りながら言った。「でも、ちょっと怖いんだよね。中の人間関係は、かなり複雑だって聞くし」篠は彼女をこう慰めたのを覚えている。「どんな優秀な学校にも普通の生徒はいるから。自分らしくしていればいいのよ」その後、二人は連絡先を交換した。初めのうちは時々メッセージを送り合い、澪は学校生活の様子を教えてくれた。きらびやかな講堂、高そうな制服、全て英語で行われる授業……しかし、文面から伝わる興奮は次第に薄れ、代わりに意味深な言葉が並ぶようになった。【篠さん、ここは私が思っていた場所とは少し違うのかもしれない】【ここにいる人たちの一部は……まるで違う世界に住んでいるみたいだよ】【今日もグループ分けで一人になっちゃった。たぶん私、みんなにとって『面白くない』子なんだろうな】それからメッセージは次第に少なくなり、途絶える前の最後のメッセージは、2年前のある深夜に送られてきた、たったひと言だった。【助けて】篠はすぐに電話をかけ直したが、電源が切られていた。澪が残した緊急連絡先に電話をかけて

  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第13話

    篠はマンションに戻り、ドアを閉めた。ファイルケースをローテーブルに置くと、部屋の照明をつけて、中の資料を取り出す。分厚い資料の束だった。全部英語で、たまにドイツ語やフランス語の添付資料も混ざっていた。ざっと目を通すうちに、彼女の表情は次第に険しくなっていく。隼人が渡してきたものは、「ちょっとした資料」なんてものじゃなかった。そこには、陣内家がここ数年間に行ってきた、十数件にも及ぶ海外投資の詳細が記録されていた。表向きは不動産開発や鉱山の買収だが、その金の流れは幾重にも偽装されていた。最終的には海外のペーパーカンパニー数社に集められ、そこからいくつかの「特別プロジェクト」へと流れている。そのうちの三つのプロジェクトは、明徳国際学校の「エリート育成特別計画」と直接結びついていた。いわゆる「エリート育成」とは、一部の裕福な家庭の子息に「特別な配慮」をするためのものだった。成績が足りない?それならば、「提携機関」が完璧な経歴書を作成してくれる。問題を起こした?そうとなれば、「専門チーム」がうまく処理してくれる。そして、これらのサービスの対価として、一族の企業は海外投資を通じて利益供与を行っていた。それは、国境を越えて密かに張り巡らされた、グレーゾーンであり完璧な金の繋がりだった。篠は一枚、また一枚とページをめくった。指先が氷のように冷え切っていく。ローテーブルの上のスマホが震えた。充からのメッセージだった。【陣内のほうで動きがあった。明日の朝、『釈明記事』を出すらしい。君の記事はでっち上げたって内容だそうだ。しかも、君が昔仕事を辞めたのは、記者として問題を起こしたってことにも触れるらしい。こっちで先に何か手を打っておくか?】篠はスマホの画面をじっと見つめ、冷たい笑みを浮かべた。彼女は返信する。【好きにさせておけばいいよ。こっちには、もっと面白いネタがあるから】スマホを置くと、篠はパソコンを開いた。静かな部屋に、キーボードを叩く音だけが規則正しく響きつづける。突然、インターホンが鳴った。深夜なだけに、その音はひどく場違いに聞こえた。篠は呆気に取られたが、すぐに時間を確認する。午前1時20分。彼女はドアに近づき、ドアスコープから外を覗いた。廊下の明かりの下に、宗介が立っていた。彼は服を着

  • 幼馴染の代わりだと気づいた私は、大スクープを追う   第12話

    「婚約者」という言葉は、まるで雷鳴のようにテラスに響き渡った。英樹でさえ、驚きのあまり口をあんぐりと開けていた。いつもは冷静で落ち着き払っている宗介の瞳にも、初めて何かが砕けるような気配がよぎった。篠は隼人の言葉を引き継いだ。「陣内さん。これで、私の後ろにある人たちが、あなたの言う『巨大なシステム』とやらを揺るがすのに十分かどうか、お分かりいただけたんじゃないんですか?」潤のこめかみに、青筋がピクリと浮いた。潤は篠に視線をやり、次に彼女の隣に立つ威圧的なオーラを放つ隼人に目を移した。最後に、ちらりと宗介を窺う。増田家だけでも厄介なのに、その上、得体の知れない隼人まで加わるなんて……潤の顔の筋肉が引き攣る。やがて、彼は無理やり笑顔を浮かべた。「菊地さん、これは誤解なんです。すべて私の勘違いでして……まさか、松尾さんが婚約者だったとは。大変失礼いたしました」潤は唇を震わせながらそう言うと、背後の部下を鋭く睨みつけた。「何をぼさっとしているんだ!行くぞ!」陣内家の一同はばつが悪そうにそそくさと立ち去り、後には気まずい静寂だけが残された。周囲の招待客たちはさっと視線をそらし、何事もなかったかのように会話を再開するふりをした。しかし、その意識はすべて、テラスに立つ三人に集中していた。ついに、宗介が動いた。彼は一歩、また一歩と、どこか重い足取りで二人に近づいていく。「篠。久しぶりだな」篠は丁寧にお辞儀をしたが、隼人の腕を組んだ手は離さなかった。「久しぶり。こちらは、私の婚約者の菊地隼人」続けて隼人の方を向き直り、優しい声色で言った。「こちらは、増田宗介さん」「増田さん、お噂はかねがね伺っておりますよ」隼人はそう言って、手を差し出す。二人の男の手は、触れ合った瞬間、すぐに手を離した。「すみません、増田さん。私の婚約者は帰国したばかりで、少し疲れているようですので、我々はこれで失礼させていただきますね」そう言うと、隼人は篠に視線を落とし、優しい声で尋ねた。「行こうか?」篠も頷いた。宗介はその場で凍りついたように立ち尽くし、寄り添って去っていく二人の、あまりにも自然な後ろ姿を見送った。3年間。再会の場面は、これまで幾度となく想像してきた。冷たくされるかもしれない。恨まれているかもしれない。あるいは、もう落

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