เข้าสู่ระบบ彼氏の貞弘卓司(さだひろ たくし)がエレベーターの階数を押し間違えるのは、これで何回目だろう。それなのに、彼は私を咎めるような目で見てきた。 「なんで教えてくれなかったんだよ。まあ、来ちまったもんは仕方ない。ついでに莉花の部屋の電球でも替えてやるか」 私、宇治原珠理(うじはら じゅり)は返す言葉を失い、頬が引きつるのを感じた。 まただ。またその台詞。「来ちまったもんは仕方ない」。 1年前、親友の古海莉花(ふるみ りか)が私の部屋のちょうど真上に越してきて以来、卓司はことあるごとに莉花のいる階でエレベーターを降りるようになっていた。 一緒に映画を観る約束をしていた日、彼がタピオカミルクティーを片手にノックしたのは、莉花の部屋のドアだった。 高熱にうなされ、薬を買ってきてほしいと頼んだ日には、その薬の届け先が生理痛に苦しむ莉花の部屋へとすり替わっていた。 ふたりのはずだったデートはいつしか3人での映画鑑賞に変わり、私へ届くはずの解熱剤は、いつの間にか莉花への鎮痛剤へと変わっていった。 私の誕生日でさえ、卓司がケーキの箱を抱えて向かったのは莉花の部屋だったのだ。 「来ちまったんだし、珠理と莉花と知り合って300日記念ってことで、一緒に祝おうぜ」 「来ちまったんだし、ちょうど莉花の部屋の排水口が詰まってるらしいから、直してやろうか」 そして今この瞬間も、振り返りもせずに莉花の部屋へと消えていく背中を見送りながら、私は無言でエレベーターの「閉」ボタンを押した。 卓司はとうに忘れているのだろう。 今日がこの部屋の契約満了日であり、私が引っ越す日であることすらも。 「来ちまった」っていうなら、それでいい。もう二度と、私の元へ帰ってこなくていいから。
ดูเพิ่มเติมそれ以来、私と彼らとの関係には、ようやく完全に終止符が打たれた。彼らの間に何があったのか、もう推し量る必要もなく、そのことで心をすり減らす必要もなくなった。穏やかな日々が戻り、私は仕事に打ち込むようになった。前回のプロジェクトは無事に完了し、クライアントも大満足だった。その功績が評価され、会社からはボーナスが支給された。想像していたよりずっと多い金額だった。会議のあと、上司が笑みを浮かべながら私を見た。「支社の方で、マネージャーのポストがひとつ空いたんだ。どうだ、興味はあるか?」私は一瞬、反応が追いつかなかった。「今すぐじゃない。正式に決まるのは年明けだ」上司は笑って手を振った。「ゆっくり考えていい。急いで返事をしなくていいから」仕事での確かな評価は、私にかつてない安心感と満足感をもたらした。退社する頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。会社のエントランスを出ると、涼紀が外の花壇のそばで待っていた。手にはタピオカミルクティーが2杯。私の姿を見つけると、彼はそのうちの1杯を掲げて振ってみせた。「プロジェクト成功、おめでとうございます。それから、マネージャー候補に選ばれたことも」「これ、先輩のです。いちごミルクティー、甘さ控えめ、氷なし」私がいつも頼む、甘さ控えめの氷なしだった。私はミルクティーを受け取りながら、少し呆れたように笑った。「あなた、本当に情報が早いのね。もうそんなこと知ってるなんて」彼はどこか得意げに頷き、そのまま車のドアを開けた。「お祝いに、夕食をご馳走させてもらえませんか」その芝居がかった仕草に思わず笑ってしまい、口元を緩めながら助手席に乗り込んだ。20分ほど走ると、車は道端にゆっくりと停まった。車を降り、顔を上げた瞬間、私はその場に釘付けになった。その店は、私が引っ越した日に、卓司が莉花を連れて行ったあのレストランだったのだ。何度も店の情報を調べ、いつか卓司と来たいと楽しみにしていた、あのロマンチックなフレンチレストラン。何度も断られ続けた末に、彼はあっさりと別の人をその店に連れて行った。「どうして、この店を知ってたの?」私は驚きながら涼紀を見た。彼は鼻先をかきながら、少し照れくさそうに言った。「そんなにすぐ気づかれちゃいました
あの日を境に、卓司は二度とメッセージを送ってこなかったし、会いに来ることもなくなった。聞いた話では、彼は自分から遠方の支社への異動を願い出て、この街を離れたという。友人が電話の向こうで興奮気味に教えてくれた。「自分から志願したらしいよ。誰が止めても聞かなかったんだって。あれだけ抱えてたプロジェクトも、全部あっさり手放したみたい。珠理、もしかしてあんたが関係してる?」私は曖昧に笑って、話をそらした。関係があってもなくても、もうどうでもよかった。これからは互いに違う道を行き、二度と関わらない。それが私たちにとって、一番良い結末なのだろう。しばらくして、莉花の近況を耳にすることがあった。私と卓司が別れてまもなく、莉花は卓司に告白したのだという。けれど卓司はひどく冷淡な態度を見せ、あろうことかこう言い放ったらしい。「莉花、お前が余計なことをしなければ、珠理は俺から離れていかなかったはずだ」知り合いは皆、卓司はおかしくなったのだと言った。すべての責任を莉花に押し付け、彼女を追い詰め、退職にまで追い込んで実家へ帰らせたという。結局、私たち3人のうち誰ひとりとして、良い結末を迎えることはなかったようだ。私は莉花を恨んでいるのだろうか。正直なところ、自分でもよく分からない。彼女が卓司の前で、誤解を招くようなことを口にしていたのは知っている。私がつらい思いをするたびに、彼女が見て見ぬふりをしてきたことも知っている。けれど、彼女を心の底から憎みきることも、どうしてもできなかった。その後、莉花は実家に戻る前に、知人を通じて一度食事をしながら話したいと伝えてきた。私は迷いに迷った末、会うことにした。女にとっては、友情も恋愛も、簡単には手放せないほど大切なものなのかもしれない。莉花とは10年来の親友だった。お互いの好みも、これまで誰に恋をしてきたかも、ほとんどすべて知っていた。お互いの結婚式では絶対に友人代表のスピーチをしようと約束し、将来子供が生まれたら最初に抱っこさせてねと、無邪気に笑い合ったこともあった。なのに、まさかひとりの男のせいで、こんな結末を迎えることになるとは、思いもしなかった。だから、卓司への未練を断ち切ることに比べて、莉花に対しては、また別種の複雑な失望があったのだ。1
南雲市の空港に降り立ってスマホの電源を入れた途端、同僚から切羽詰まった様子で電話がかかってきた。「もしもし、宇治原さん、やっとつながりましたね!彼氏だと名乗る人が、朝からずっと受付のソファに居座ってるんです。どんなに説得しても帰ってくれなくて!」急いで会社へ駆けつけると、卓司はまだそこに座っていた。たった数日顔を合わせなかっただけだというのに、彼はひどくやつれていた。シャツはしわだらけで、顎には無精髭が青々と伸び、目の下には濃いくまが浮かんでいる。私の姿を見た瞬間、彼は勢いよくソファから立ち上がった。その瞳に、すがりつくような色が浮かんだ。「珠理、帰ってきたのか!」会社に迷惑をかけないよう、私は少し離れたカフェに彼を連れ出した。向かいに座った卓司が、私の反応をうかがうように口を開いた。「引っ越したのに、どうして一言も言ってくれなかったんだ?」私は淡々と彼の言葉を遮った。「卓司、私たちはもう別れたの」「別れた?」彼はその言葉を呆然と繰り返し、不機嫌そうに眉をひそめた。「お前が一方的に別れると言えば、それで終わりになるとでも思ってるのか?珠理、俺が一体お前に何をしたって言うんだよ」彼の声が思わず高くなり、店内にいた何人かの客がこちらに視線を向けた。「もし前回の注文のことが原因なら、確かに俺の配慮が足りなかった」彼の口調は、まるで聞き分けのない子供をなだめるかのようだった。「でも、そんなのはただの些細なことだろ。不満があるなら言えばいいだけで、そのたびに別れを持ち出す必要はないだろ」些細なこと。また、その言葉だ。胸の奥を何かに強く掴まれるような感覚がした。その鈍い痛みが、胸から手足の先へと冷たく広がっていく。今この瞬間に至っても、卓司はこれまでの無関心な態度を、すべて些細なことだと思い込んでいるのだ。私は冷ややかに笑った。「ふっ、その通りね。私のことは何もかも些細なこと。莉花のことは何もかも一大事、でしょう?」卓司は眉根を寄せ、ますます理解できないという顔をした。「俺と莉花は、浮気みたいなやましい関係なんてない。あいつの世話をしてたのは、お前の友達だからってだけだ。あいつはひとりでこの街に出てきて、頼れる人もいないんだから、少しくらい面倒を見てやって、何が悪い?
引っ越してから、私の生活はずいぶんと静かになった。以前は卓司の時間に合わせるため、自分の生活などすべて後回しにしていた。出張も研修も、友人との約束もすべて断っていた。上司が遠方への出張の希望者を募るたびに、私はいつも視線を逸らしてやり過ごしていた。そのうち社内にも知れ渡っていた。「珠理はねえ、彼氏が一番なんだよ」と。自分の時間を空けておいたのは、卓司にいつでも呼び出されるためだった。けれど今は、自分のことだけを考えればいい。彼の都合を考える必要は、もう世界のどこにもないのだ。あの日、会議で上司が再び尋ねた。「来週の北町市のプロジェクト、誰か行ける人は?」会議室は静まり返り、誰もが上司と目を合わせまいと、そろってうつむいていた。来週はちょうどバレンタインデーで、この時期にわざわざ出張したがる人間など誰もいなかったからだ。重苦しい沈黙の中、私だけが真っ直ぐに手を挙げた。「私が行きます」上司は顔を上げ、少し意外そうな顔をしたあと、深く頷いた。「よし、宇治原。隣の部署の綾田と一緒に行ってくれ。お互いに助け合って進めてくれ」出発の日、綾田涼紀(あやだ りょうき)は早くから空港のロビーに来ていた。スーツケースを引いて歩いていく私を見つけると、彼はさっと手を伸ばしてそれを受け取り、目を細めて笑った。「先輩、珍しいですね。出張なんて。彼氏をほったらかしにして大丈夫なんですか?」涼紀は大学の後輩で、この会社に入ったのも、もともとは私の紹介だった。だから部署は違っても、それなりに親しい間柄だったのだ。私よりふたつ年下で、社内で顔を合わせるたび、いつも人懐っこい笑みを浮かべて「先輩」と声をかけてくる。コーヒーを差し入れてくれることもあれば、私の席の前を通りがかったついでに、コンビニで買ったお菓子をそっと置いていくこともあった。私はぶっきらぼうに答えた。「別れたの」言い終えると、そのまま搭乗口へ向かって歩いていった。背後で涼紀が呆気にとられて立ち尽くしていたことに、私はまったく気づかなかった。北町市での出張の間、私はすべてを仕事に注ぎ込んだ。昼間は現場を駆けずり回り、企画をすり合わせ、業者と調整を重ね、夜はホテルに戻るとベッドに倒れ込み、泥のように眠った。卓司に頼まれたらしい友人たちから