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第8話

Author: 帰雁
乙音は救急車を呼ぶ余力もなく、その場に倒れ込んだ。

倒れてから三十分後、ようやく青野に発見され病院に運ばれた。

一日一夜の昏睡状態を経て目を覚ました時、肋骨を三本折った胸の痛みが全身を支配していた。

呼吸さえも刃物で切りつけられるような苦しみで、指先さえ動かせない。

ベッドの傍らには憔悴した両親が張り付き、兄の善次は医師に何度も鎮痛剤の追加を懇願する。

青野は彼女の手を握りしめ、額ににじむ冷や汗を拭いていた。

事故を境に、再び自分が家族の関心を集めているように見えた。

だが乙音だけが知っている。彼らがここにいる理由は、単なる看病ではないのだと。

「乙音ちゃん、痛みは一時的なものよ。しばらくすれば少しずつ良くなるから、我慢して。美穂もわざとじゃないんだから……」

「私の教え方が悪かった…私を責めて」

「家族同士の事故なんて、気に病むことない。今は療養に専念しなさい」

午前中だけで、こうした言葉を何度聞かされただろう。

心配そうな眼差しの裏側で、まるで美穂の弁護人になったような言葉の数々。

傷んだ肋骨より、胸の奥が軋む。涙が頬を伝うと、病室の人影が滲んで歪んで見えた。

幻覚のように、過去の情景が浮かぶ。

指先の擦り傷に大慌てで医師を呼んだ両親。

薬嫌いの自分に合わせ、苦い粉薬まで一緒に飲んだ兄。

足を挫くと三日三晩付きっきりで世話を焼いた青野。

——あの優しさは、もうどこにもない。

彼女の涙に青野が手を伸ばした瞬間、ナースが慌てて入ってきた。

「廊下でお嬢さんが泣き崩れて意識を失われました。付き添いの方いらっしゃいますか?」

美穂の名を聞くや、たちまち病室が空っぽになった。

残された乙音の枕元で、携帯が震える。

「重傷なのはあんたなのに、皆私を慰めてる。小嶺乙音、あなたって笑いものね」

添付された動画には、青野が粥を吹き冷ます姿、善次が無理やり笑わせようとする様子、両親が美穂のベッドサイドで佇む後ろ姿。

「美穂ちゃんは悪くない。お姉ちゃんもきっと許してくれるから」

「そんなに泣いたら目が腫れるよ?可愛い顔が台無しだ」

「乙音は安静にしてれば治るんだから、気に病まないで」

一言一言が棘となって心臓を穿つ。爪の先が掌に食い込む痛みで、ようやく嗚咽を押さえた。

あの日の花嫁衣裳を纏う時、誰ひとりとして見送りに来るな——

退院の朝、医師の制止を振り切り乙音は言った。「待てないの」

今日は北都の羽生家に嫁ぐ日だ。

戻った屋敷には誰もおらず、携帯に美穂の挑発的なメッセージが鳴り続ける。

朝、遊園地の回転木馬で笑う家族の写真が届いた時、彼女は机に向かった。

『親子関係廃止届』——両親の寝室に置き、庭へ向かった。

これから先、彼女は小嶺家の娘ではない。

父も母も、兄さえも、もういないのだ。

乙音がチューリップを好むと知った善次が、十年かけて手塩にかけて育てた畑を、業者に全て撤去させた。

「妹がどこに嫁ごうと、この花はついて行く。兄さんの愛の証だからな」

かつての言葉が、今は枯れ葉のように散っていく。

夜、川辺で打ち上げられる花火の動画が届く。青野の声が響く。

「美穂は俺にとって、何よりも大切な人だ」

彼女は漆塗りの箱を佐藤家に届けた。十七歳の時、誓いの印に貰った家宝だ。

「こんな早く渡して、後悔しない?」

少年は彼女を強く抱きしめた。「乙音以外の女性と結婚するなら、一生独身でいる」

すべてを済んだ後エンジン音が門前に響いた。スーツ姿の執事が深々と頭を下げる。

「羽生家の者でございます。お迎えに参りました」

スーツケースひとつを手に、乙音は振り返らず車に乗り込んだ。

「ご家族にお別れの挨拶は?」

東の都と北都は千キロも離れている。ましてや彼女が嫁いだのは、高貴なる名家の奥深く。この別れがいつ再会の時を迎えるか、見当もつかない。

乙音は静かに首を振った。ためらいなく車に乗り込むと、「行きましょう」と運転手に告げた。もういい。もう二度と必要ない。なぜなら今日から彼女には家族がいなくなったのだから。

闇に包まれた夜道を、車はゆっくりと滑るように走り続ける。空港へと向かう道筋で、窓ガラスに映る街灯の光が、涙のように細く引き伸びていた。

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