第1話

恋愛五年目、高野京介（たかのきょうすけ）の幼馴染みがSNSに投稿した。

【京介の足、もちもちして気持ちいい】

写真には、義足を外した京介が困ったような表情でカメラを見つめ、幼馴染みの手が彼の足の切断面を揉んでいる。彼女はにこにこと笑っている。

あの事故以来、彼は足に関する話題を何よりも嫌がっていた。

私はその写真をじっと見つめながら、ふと気づいた。あの交通事故から抜け出せていないのは、私だけだったのだ。

京介が帰ってきたのは、翌日の午前中だった。

私はいつものように駆け寄ってあれこれ聞くことはせず、ダイニングテーブルの前に座ったまま、彼をじっと見ていた。

二日酔いのせいか、彼は玄関の椅子に無造作に座り、「靴脱がせろ」と私に命じた。

私は動かず、彼の義足に視線を落とした。

三年前、彼が交通事故で足を失ってから、私は彼をまじまじと見たことがなかった。彼の心の傷に触れるのが怖くて、自分のショートパンツやスカートはすべて処分し、真夏でも長ズボンを履き続けてきた。

事故の前、彼は県代表のサッカー選手で、数々の賞を受賞し、カメラの前ではいつも誇らしげに笑っていた。

今では、彼は些細なことで怒鳴り散らし、物を壊して八つ当たりするようになった。

そんなふうにしか、言葉にできない怒りと悔しさを吐き出せないでしょう。

私の視線に気づいたのか、彼は目を開けて私を睨んだ。「何見てんだよ！」

「あなたの足を見てるよ」

私は彼の義足をじっと見つめ、声を震わせながら言った。「京介、もう自分の足を気にしてないんでしょ？受け入れてるんでしょ？」

じゃあ、どうして私の前ではずっと「受け入れられない」ふりをするの？昔の写真を見ると、彼は狂ったように私の髪を引っ張り、首を絞めて、「なんで俺を壊した！」って叫んでいた。

私の額にある醜い傷は、彼が痛みを感じた時、スタンドライトを私の頭に何度も叩きつけてできたものだ。彼は「どうして足を失ったのはお前じゃないんだ！」って叫んだ。

私は血まみれになりながらも、血が落ちないようにして、床にひざまずき、「ごめんなさい、私が悪かった。ごめんなさい、私が死ねばよかった」と何度も繰り返した。

彼は電源コードで私の首をきつく絞めて、目を真っ赤にして怒鳴った。「杉本霧子（すぎもときりこ）、お前のせいで俺はこんなふうになったんだ！お前が俺にしたこと、一生かかっても償えないんだよ！」

私は泣きながら「わかってる、全部わかってる」と言った。

私はずっと、彼の傷を癒すために、自分を犠牲にしてきた。しかし、今になってわかった。彼が「癒されていなかった」のは、私の前だけだった。

他の誰にも触れさせなかったはずの切断部分を、羽生麻友（はにゅうまゆ）にはおもちゃみたいに触らせて、しかも写真を撮ってSNSにまで投稿させた。

この三年間、彼は本当に苦しんでいたのか、それともただ私を苦しめたかっただけなのか。

わからない。

「何だよ？俺が一生苦しんでろって言いたいのか？」

彼は突然怒って、まっすぐに私に向かって歩いてきて、ダイニングテーブルをひっくり返した。食器が割れる音の中で彼は叫んだ。「何様のつもりだよ！俺の足がこうなったのは、誰のせいだと思ってる！」

「全部お前のせいだ！」

彼は私を無理やり持ち上げ、怒鳴った。「霧子、お前は何の立場で俺に文句言ってんだよ？何様なんだよ！」

彼の目には、いつものように、悔しさと恨みが渦巻いていた。

本気で私を恨んでいた。

彼は、私が彼の人生を壊したと思っている。

私は口を開こうとしたが、言葉より先に血が頬を伝って落ち、彼の手にポタポタと滴った。

彼は私の額に視線を向け、一瞬だけ顔が歪んだ。そして私の襟をつかむと、いきなり私の顔に平手打ちした。「何を企んでんだよ！こんな格好して誰に見せようってんだ！」

視界が真っ赤に染まり、私は驚いた。自分の顔が血まみれだった。

さっき割れた食器で傷ついたのか？

傷の由来も分からなくて、私は反射的に言い訳した。「京介のせいじゃないの、自分でぶつけただけで、わざとじゃないの」

「俺のせいじゃない？他に誰がいんだよ！」

彼は怒鳴り散らした。「三年前、お前は仮病で俺を事故に巻き込み、今度はまた同じ手段か？今度は何が欲しいんだ？俺の右足か？」

私は茫然と彼を見つめ、目に涙が滲んでも、一滴もこぼれなかった。

何が「同じ手段」なの？どうしてそこまで私を悪く言うの？

「もう騙されねぇよ。お前は心の底じゃ、俺がどこかで死ねばいいって思ってんだろ！」

彼は私を離し、手についた血を嫌そうに拭って、冷笑した。「お前なんか、麻友と比べられるもんじゃねぇよ」

「今のお前の姿、マジで吐き気がする」

鏡に映った私は、髪が乱れ、顔が血まみれで、額の傷は醜く大きく口を開けていた。

その傷はまるで、「霧子、京介には素晴らしい未来があった。今の彼の姿は、全部お前のせいだ。お前が彼の人生を壊したんだ。お前は一生かかっても償えない」と叫んでいるかのようだった。

三年前、お母さんが亡くなったとき、おじさんたちは家を奪うために、葬式の場で大喧嘩を始めた。彼らは私の鼻先を指差しながら罵った。「お前のお母さんは子どもを産めなかったから、孤児院からお前を拾ってきたんだ。自分が何様だと思ってるんだ？俺たちと財産を奪い合うなんて、身の程を知れ！」

喧嘩の中で、誰がやったか覚えていないけど、お母さんの棺が倒れ、白い花が散らばった。喧嘩を止めに来た人たちの足に踏まれ、花はぐちゃぐちゃになった。

私の泣き叫ぶ声も、誰一人として気に留めなかった。

私は全身が震え、発狂したように飛びかかって、張本人であるおじさんを地面に押し倒した。彼の首を締め、拳を振り下ろした。

周囲は地獄のような騒ぎだった。おばさんが私の髪をつかんで引き離そうとし、私は彼女の腕に噛みついた。

彼女は悲鳴を上げながら、手近にあった物を掴んで、必死に私の頭を叩きつけた。

私の耳がキーンと鳴り、何も聞こえなかった。頭の中にあったのは、彼らに代償を払わせるという一念だけだった。

あの時の私は、きっと人生で一番勇敢だった。

そして、私は誰かに強く抱きしめられた。

京介だった。

私は彼の肩に噛みついた。口の中に血の味が広がるまで、ようやく我に返って、彼の声が聞こえた。「もういい、霧子。もう十分だ」

私は首を振って、「だめ、まだ足りない。みんなお母さんをいじめてるよ。誰にもいじめさせないって決めたの」と言った。

あの時の記憶はほとんどなかった。ただ、混乱の中で、京介が私の耳を両手で必死にふさいでくれていたのだけは覚えていた。

その日から、私は壊れた。時間も関係なく京介に電話をかけ、「痛いの。来て。お願い」と訴えた。

私の体が刺されるように痛んだ。気が狂うほどの痛みで、叫ばずにはいられなかった。

私は泣きながら京介に訴えた。「助けて、もう無理。本当に痛いの」

京介はまるで神様みたいに、十五分で私の家の前に現れ、もう十五分で「魔法の薬」を飲ませてくれた。

疲れた様子など一度も見せなかった。

ある日、彼が遅れた。私は狂ったように彼に電話をかけ、「私を見捨てるの？私が死んでもいいの？」と責め立てた。

電話に出たのは知らない人で、「高野さんは事故に遭って、今、手術中です。容態は良くありません」と言った。

病院に駆けつけると、医者が彼の家族に状況を説明していた。「左脚が挟まっていて、もしかしたら切断が必要かもしれません」と聞こえた。

京介のお母さんは床に崩れ落ち、泣き叫んだ。「うちの子はスポーツ選手なのよ！脚を失うなんて、そんな！」

そして、彼女は私に目を向けた。一瞬呆然とし、続いて飛びかかってきて私の顔を平手打ちし、怒鳴りつけた。「全部お前のせいだ！お前がうちの子を壊したんだ！」

「自分のお母さんを殺して、今度はうちの子まで殺す気なのか！」

私は床に倒れた。全身が痛くて、ただ縮こまって、「ごめんなさい。ごめんなさい」と繰り返した。

「お母さんは私が殺したんじゃない。ただ、病気だっただけ」と私は言いたかった。

京介は左膝から下の部分を切断された。彼は目を覚ますとすぐに、自分の左足を見た。

感覚がないことに気づいて、彼は発狂した。「俺の脚を返せ！」と医者に怒鳴り、暴れ始めた。

「チームに戻らなきゃいけない。試合は二日後なんだ。絶対に出ないと！」

彼の手の届くところにあるものはすべて叩き壊され、誰にも彼を止めることはできなかった。彼のお母さんは土下座するように泣き叫んだ。「お願いだから、生きて……京介が死んだら、お母さんも生きていけないよ」

しかし、彼は固執していた。「練習に戻る。試合に出る」と繰り返していた。

私を見た瞬間、ようやく彼は静かになった。「霧子、お前は何をしたいんだ？」

私は泣きながら、「ごめんなさい、わからない。わざとじゃない。ただ痛すぎて」と答えた。

「痛い？」

彼は私の腕をつかんで、私の目の前に押し出し、怒鳴った。「お前はどこも傷なんかないじゃない！俺をこんな風にして、それでも足りないのか？俺が死ねば満足か！」

「俺がどれだけ尽くしたと思ってるんだ？なんでそんなに俺を苦しめるんだよ！」

彼の涙がぽたぽた落ちた。彼は崩れそうな声で叫んだ。「何か言えよ！お前は俺にどうしてほしいんだよ！」

私は何も言えなかった。

こんなふうになるなんて、望んでいなかった。

あの日から、京介は変わった。かつての優しさや明るさは消え、彼は怒りと憎しみに満ちた人間になった。

私が熱いスープを運んでいるとき、彼はわざとそれをひっくり返し、私の手にできた水ぶくれを見ながら言った。「痛いのか？」

私は「痛くない」と答えた。「京介が満足するなら、それでいいよ」

しかし、彼は満足しなかった。私のピアスに触れ、「これ、俺が送ったものだよな？」と聞いた。

私がうなずくと、彼は小指でピアスを引きちぎった。「痛いのか？」

彼の指先から血がしたたり、シーツにぽたぽたと落ちた。

私は震えるほど痛かったけど、必死に首を振った。

「つまらない女だな、霧子。お前はもっと痛がるべきだ。俺の千倍も万倍も苦しまなきゃいけない。罰を受けるべきなんだ。お前が俺にしたことは、一生かかっても償えない」

義足をつけた彼は、普通に歩けるようになった。私が洗顔していると、彼は無言で背後に現れ、私の頭を洗面台に押しつけた。私が息も絶え絶えになるまで押さえつけ、満足したようにようやく手を離した。そして、私がまるで死にかけた犬のように必死で息を吸う姿を、彼は楽しげに見下ろした。

そのことを、彼は楽しんでいた。

友達の黛（まゆずみ）は、彼が狂っていると言って、早く彼から離れるようにと勧めた。

私は首を振り、真剣な顔で言った。「怖くないよ。彼は狂っているんじゃない、ただ病んでいるだけなんだ」

病気なら、いつかきっと良くなるはずだ。

黛は歯がゆそうに言った。「霧子は彼から離れなきゃ。このままだと、霧子は死んでしまうよ」

私は答えた。「彼に借りがあって、この一生じゃ返しきれない」

黛は言いかけてはやめ、最後にため息をついた。

毎週、私はお母さんの墓参りに行き、墓石の前にユリの花束を置いて話しかけていた。

黛も一緒に来て、京介を「最低」と言いながら、私にしつこく離れるよう説得した。

この三年間、彼女はずっと私にそう言い続けてきた。

彼女は言った。「私は麻友のSNSを見たんだ。京介はとっくに過去のことを吹っ切っていた。彼があんな態度をとっているのは、霧子を苦しめるためだけよ。だって霧子だけが、まるでお母さんみたいに、何の文句も言わずに彼に尽くすから」

私は静かに答えた。「彼にはいつまでも過去に囚われていてほしくない。麻友が彼の気持ちを吹っ切らせてくれたのは良いことだよ。彼が私にどうするかは彼の自由だし、私は彼に借りがあるんだ」

黛は涙で目を真っ赤にして、ほとんど叫ぶように私に怒鳴った。「霧子が彼に借りがあるなんて！いつになったら分かるの？京介のあの事故は、絶対に霧子のせいじゃない！」

私は呆然とした。

黛は麻友のSNSを探し出して、私に見せた。「京介が事故にあった日、ちょうど麻友が帰国してて、彼は麻友を迎えに行こうとして事故に遭ったんだ。彼はずっと霧子を騙してるのよ！」

私は震える手でスマホを受け取り、三年前の京介の事故の日付を見た。麻友が投稿したSNSには、【えへへ、京介が迎えに来てくれるのを待ってるよ】と書いていた。

事故の翌日、彼女は曇り空の写真を投稿していた。【京介、もうサッカーできないよ。全部私のせいだ】

私は全身が痺れ、慌てて自分のスマホを操作して、黛にそれが嘘だと伝えようとした。するとまったく同じ投稿を見た。

京介のコメントも見えた。【麻友、気にしないで。君のせいじゃないよ】

私はその場で凍りつき、冷たい寒気が指先から全身の細胞へと広がっていった。

「麻友は以前、この二つの投稿を隠していたんだ。今回帰国して初めて公開したみたいで、まさか誰かが三年前の投稿を掘り返すなんて思ってなかったんだろう」

黛の声には怒りがみなぎっていた。「霧子、目を覚まして。京介は霧子の罪悪感を利用して、ずっと霧子を操っているんだよ！」