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第2章

last update publish date: 2026-09-03 09:32:10

ジュリアはその場に凍りついた。

周囲では会話が続き、グラスが触れ合う音が響き、カメラのシャッター音もまだ鳴り続けていた。

それなのに、彼女には何も聞こえなかった。

視線はロドリゲスから離れない。

彼はまるで、自分の失っていた一部を取り戻したかのように、ダイアナを見つめていた。

四年間。

結婚してからの四年間、ジュリアは彼の表情を一つ一つ見分けられるようになっていた。

冷静さ。

真剣さ。

人との距離を保つ態度。

けれど、その笑顔だけは見たことがなかった。

心からの笑顔。

輝いていて、どこか優しい。

「ダイアナ……」

ロドリゲスがつぶやいた。

その声は、普段よりずっと柔らかかった。

ダイアナは迷うことなく彼に近づいた。

その堂々とした姿は自然だった。

まるで、二人の間に流れた年月など存在しなかったかのように。

彼女は笑顔で手を差し出した。

「あなた、変わったわね」

ロドリゲスはしばらく彼女を見つめ、それから小さく笑った。

本当の笑い声だった。

「君も変わっていない」

ジュリアの胸が締めつけられた。

その笑い声を、彼女は何度夢見たことだろう。

家で食事をしているとき。

二人で話しているとき。

いつか自分にも、そんな笑顔を向けてくれる日が来ると信じていた。

けれど今、彼女は理解した。

その笑顔は、最初から自分のためのものではなかった。

彼女はただ、蘇った過去の記憶を目の前で見ているだけだった。

やがてダイアナが、ようやくジュリアへ視線を向けた。

その笑顔は礼儀正しいものだった。

「あなたがジュリアね」

「はい……初めまして」

ジュリアは優しく答えた。

けれど、喉は乾ききっていた。

ダイアナはわずかに頭を下げた。

「私がいない間、ロドリゲスの面倒を見てくれてありがとう」

上品な口調だった。

敵意など少しも感じられない。

それなのに――

ジュリアの胃がきゅっと締めつけられた。

私がいない間。

まるで、すべてが最初から決められていたかのようだった。

まるで、自分は夫の人生に一時的に置かれていただけの存在だったかのように。

それでもジュリアは待った。

一言。

何かの説明。

ロドリゲスが「彼女は僕の妻だ」と言ってくれることを。

自分は代わりの女性ではないと、彼自身の口から伝えてくれることを。

しかし、彼は何も言わなかった。

ただ黙って立っていた。

その沈黙は、ダイアナのどんな言葉よりも重かった。

ジュリアは涙がこぼれそうになるのを隠すため、そっと目を伏せた。

---

数分後、招待客たちはそれぞれの席へ案内された。

照明が少し暗くなり、NLEグループの会長がステージへ上がった。

「本日は、我が社の創立50周年を祝うためにお集まりいただき、本当にありがとうございます」

会場は大きな拍手に包まれた。

ジュリアも懸命にスピーチを聞こうとした。

けれど、どうしても集中できなかった。

顔を向けなくても分かる。

ロドリゲスは何度も、ダイアナが座っているテーブルへ視線を向けていた。

何度か二人の目が合った。

そして、互いに小さく微笑み合う。

その笑顔には、親密さがあった。

ジュリアとロドリゲスが四年間の結婚生活の中で、一度も築くことのできなかった親密さだった。

彼女は静かに皿へ視線を落とした。

目の前には最高級の料理が並んでいる。

けれど、もう何も食べる気にはなれなかった。

そのとき、司会者が再びマイクを握った。

「本日はさらに、NLEグループの元社員をお迎えできることを大変嬉しく思います。海外で数年間経験を積んだ後、彼女は国際事業開発部のディレクターとして、再び私たちの仲間に加わることになりました。皆様、ダイアナ・ケイタさんを温かい拍手でお迎えください」

会場中から拍手が沸き起こった。

その中で、ロドリゲスはいち早く立ち上がった。

ジュリアの胸を、鈍い痛みが突き抜けた。

彼は、ジュリアがずっと欲しかった admiration――尊敬と称賛を、ダイアナに惜しみなく向けていた。

ダイアナは自信に満ちた足取りでステージへ向かった。

招待客たちに礼を述べたあと、ゆっくりと会場を見渡す。

そして、その瞳がロドリゲスの姿を捉えた。

彼女の笑顔が柔らかくなる。

「私が今日ここに立っていられるのは、決して私を信じることをやめなかった人のおかげでもあります」

彼女は、ただロドリゲスだけを見つめていた。

「ありがとう」

その瞬間、会場に小さなどよめきが広がった。

招待客たちは意味ありげに顔を見合わせた。

二人の過去の恋を思い浮かべている者もいるようだった。

そして、何人かはジュリアをちらちらと見ていた。

ジュリアは背筋を伸ばしたまま、席に座っていた。

表情は穏やかだった。

けれど、心の中ではすべてが崩れ落ちていた。

結婚して以来、初めてだった。

自分にはもう、ロドリゲスの隣にいる資格がないように感じた。

まるで、自分の存在そのものが消えてしまったかのようだった。

その瞬間、テーブルの上に置いていたスマートフォンが振動した。

ジュリアは少し震える手でスマートフォンを手に取った。

新しいメッセージが届いていた。

「NLE夫人、検査結果が出ました。できるだけ早くクリニックへお越しください」

ジュリアの顔から血の気が引いた。

指がスマートフォンを強く握りしめる。

無意識に、もう一方の手をそっとお腹へ当てた。

ここ数週間、原因の分からない強い疲労感が続いていた。

何度も気にしないようにしてきた。

けれど、このメッセージを見た今、もう逃げることはできなかった。

心臓が激しく鼓動し、息をすることさえ苦しくなる。

もし、この検査結果が自分の人生をすべて変えてしまうものだったら――。

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