Share

第133話

Auteur: 藤崎 美咲
しかし、悠真と結衣はあまり長居せず、帰る準備を始めた。

花音は少し不思議に思い、二人に何があったのか尋ねた。

悠真は何も答えなかった。

結衣はぎこちなく笑って言った。「一日遊んで疲れちゃったし、早めに帰って休もうよ」

花音は違和感を覚えた。二人は明らかに、あまり気分がよくなさそうだった。

でも、今は深く聞くタイミングではないとわかっていた。悠真が車に乗ったあと、花音はこっそり結衣に聞いた。「結衣さん……やっぱり、星乃のせい?」

結衣は運転席の悠真をちらりと見た。

苦笑いして、うなずく。

「やっぱり!絶対、あの女が邪魔したんだよね」花音はぷりぷりした。

「まぁ、花音。彼女は今でも悠真の妻なんだから」

結衣はそっと慰める。

ただ、結衣には言えなかったことがある。さっき悠真が言ったのは、今夜の遊園地のプランは最初から星乃のために用意されたものだったということだ。

もちろん、それが何かを意味するわけではない。だが以前の悠真なら、絶対に結衣の前で星乃をかばったりはしなかった。

星乃が借りている部屋に戻ると、遥生が入口で待っていた。

帰ってきたのを見て、遥生は駆け寄った。「今日言ってた感覚区分の件、解決策を思いついたよ」

星乃は驚かなかった。

以前からそうだった。彼女が良いアイデアを出せば、技術の補完は遥生が手伝ってくれる。

彼女が予想していなかったのは、半月以上かかると思っていたことを、遥生がこんなに早く形にしたことだった。

遥生はノートパソコンを取り出し、作ったばかりのアルゴリズムを実行した。

問題がないか確認するため、三度も検算を重ねる。

最後の結果が一致したとき、星乃は全身の血が沸き立つのを感じた。

「やった……」

「成功だ」

「すぐ送って、私、整理するから」

星乃は興奮して言った。

部屋に戻り、鍵を手に出かけようとしたが、二歩進んだところで遥生が手を押さえた。「今夜は休もう」

長い間悩んでいた問題がついに解決し、しかもUMEに戻ってから初めての新作だった。こんなときに寝られるわけがない。

「大丈夫、整理してからでいい」

「実験データは逃げたりしない。君は休むべきだ」

遥生はなだめすかして、どうにか星乃を部屋に送り返した。

星乃ももう無理に反論しなかった。

部屋に戻ると、友達申請の通知が来ているのに気づいた。
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第254話

    星乃が信じてくれない以上、いくら電話をかけても無駄だ。むしろ、しつこくすればするほど、自分が安っぽく見えるだけ。そう思いながら、悠真はスマホをテーブルの上に置き、部屋を出てキッチンへ向かった。水でも飲もうとポットを開けると、中は空っぽ。飲み水を補充しようとウォーターサーバーを確認すると、ボトルの水もほとんどなくなっていた。近くを探してみたが、冷蔵庫のペットボトルも切らしている。キッチンの隅に置かれていたボトルも、どれも使い切ったものばかり。この家で飲み水を補充するのは、いつも星乃の役目だった。実際、悠真が家にいるときは、星乃がいつも水を用意して、彼の前に置いてくれていた。こんなふうに困るのは初めてだ。星乃にメッセージを送って、どうすればいいか聞こうかとも思った。けれど、さっきの星乃の冷たい態度を思い出し、結局やめた。悠真は階段を上がり、顔を洗ってからベッドに横になった。静まり返った部屋では、自分の心臓の音が聞こえるほどだ。天井を見つめながら、また眠れなくなっていた。この一ヶ月、ずっと眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める。こんなふうになるのは、久しぶりだった。――星乃が出ていってから、ますます眠れなくなった気がする。三十分ほど経ったころ、悠真は上体を起こし、睡眠薬を二錠取り出して水なしで飲み込んだ。外は月が明るく、カーテンの隙間からこぼれた光が、静かに部屋の床を照らしていた。どれくらい時間が経っただろう。どれくらい経っただろう。悠真はふと身を起こした。喉がひどく渇いている。「……星乃」無意識にその名を呼んでいた。数分後、ようやく意識がはっきりしてきて、星乃がもうこの別荘にはいないことを思い出す。時計を見ると、まだ午前三時。眠ってから、ほんの三時間しか経っていなかった。喉は焼けるように渇いている。洗面所へ行って顔でも洗おうとしたが、床一面が水浸しになっているのを見た。どうやら水道管が破裂したらしく、収納棚の中までびっしょりだ。もともと寝起きの機嫌がよくないうえに、ろくに眠れていない。その光景を見た瞬間、苛立ちが一気に込み上げてきた。悠真はドアを乱暴に閉める。星乃がいた頃は、こんなトラブルは一度も起きたことがなかった。今はまるで、この家その

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第253話

    もし星乃と律人が本当に何かをするつもりなら、どうしてスイートルームを取るんだ?星乃はわざとほかの男とホテルに来て、悠真を嫉妬させようとしているのか?自分は利用されているんじゃないか?さっき星乃に挑発されて、怜司も少し感情的になっていた。今冷静になると、これを悠真に知らせるのは大きな間違いだと気づいた。まず、これが星乃の策略で悠真を嫉妬させようとしているのかもしれない。それに、もし自分がそのメッセージを送って、悠真が本当に来たら、あの性格であれば、律人を許すはずがない。相手は白石家の人間だ。悠真と白石家はもともと敵同士だ。悠真が律人を傷つければ、白石家はそれを口実に大騒ぎするだろう。そうなれば両者ともに傷を負う。その間に水野家が得をする可能性だってある。聞くところによれば、星乃は遥生と仲がいいらしい。まさか彼らの仕組んだ罠ってことはないか――そう考えて、怜司はゆっくりとスマホを置いた。水野家の連中は陰険で狡猾だ。前に聞いたところでは、遥生が水野家に戻ったとも聞いている。星乃が彼らの仕掛けた美人局でないとは断言できない。そうでなければ、なぜ星乃が狙った相手が律人だったのか。そう考えると、怜司は背筋がぞっとした。星乃は怜司の考えなど知らず、気にも留めていなかった。フロントでルームキーを受け取ると、彼女は待ちきれない様子で律人を部屋に連れて入った。律人をベッドに寝かせて面倒を見たあと、星乃は疲れてそのまま仰向けに床に倒れ込んだ。とても疲れていた。だが幸い、以前にも悠真の看病をしたことがあり、こういう肉体労働は初めてではない。数分して落ち着くと、彼女はお湯を沸かして律人の体を簡単に拭いた。一通り終えると髪をまとめ、シャワーを浴びた。出てくると、スマホに新しいメッセージが届いているのに気づいた。開くと、悠真からだった。彼は彼女の前のふたつの「復縁しない」というメッセージには返信しておらず、代わりに動画を送ってきていた。再生した。映像はかなり揺れていて、撮っている人が何かを怖がっているようだった。数秒後、画面に二人の背の高い男の影が映った。ぼんやりしているが、星乃は一目で律人と圭吾だと分かった。圭吾はナイフを拭いていて、刃身が冷たい光を放ち、不気味だった。「

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第252話

    前に入院したときのことを、彼女は今でも覚えている。あのときも、彼が自分を病院から追い出したのだった。もちろん、あれも悠真の指示だったのかもしれない。けれど星乃には、彼自身も本気で悠真と自分を離婚させたがっていたように思えた。それでも星乃は、無視するようなことはせず、礼儀正しく微笑んで言った。「ホテルに来た理由なんて、言わなくてもわかるでしょ?部屋を取りに来たのよ」怜司はてっきり、現場を見られた彼女が少しくらい動揺すると思っていた。だが、あまりにも真顔で言うので、思わず目を見開いた。「星乃、お前は悠真の妻だろ!」その言葉に、眠そうにしていたフロントの二人が同時に耳をそばだてた。「元、ね。」星乃が訂正する。「もう離婚したわ。離婚届もちゃんと出したの」彼女は前回の寿宴にも、怜司がいたことを覚えている。そう言われて、怜司は少しむっとした。「それでも、離婚してすぐに他の男と一緒にいるなんて、どうなんだよ!」「悠真は、お前に復縁を考える時間として七日もくれたんだ。お前の答えを待つために、結衣まで別荘から追い出したってのに!」その話を持ち出すとき、怜司の声には苛立ちが混じっていた。彼はてっきり、星乃と悠真が離婚したら、悠真はすぐに結衣と一緒になると思っていた。けれど現実はそうじゃなかった。むしろ悠真は結衣を少し避けているように見えた。しかも、結衣から悠真が星乃と復縁を望んでいると聞かされたときには、さすがに耳を疑った。いま悠真が復縁を望んでいるってのに、星乃は別の男とホテル?どういう神経だ?本当なら、星乃が別の男と関わってくれたほうが、悠真が彼女の本性に気づいて、復縁を諦めるだろう、そう思っていた。けれど、なぜか腹が立つ。昔、星乃はあれほど悠真に尽くしていた。彼女がどれだけ彼を愛していたか、誰もが知っていた。悠真が付き合いたての新人女優の代わりに酒を飲めと言えば、素直に飲んだ。夜中に郊外から二十キロもある市内まで歩いて帰れと言われれば、黙って歩いた。レースに出ろと言われれば、震えながらもハンドルを握った。悠真が「死ね」と言っても、きっと彼女は迷わなかっただろう。そんな彼女が、離婚した途端に他の男とホテル?どう考えても納得がいかない。怜司が一方的にまくしたてるのを聞きながら、星乃は思わず笑いそう

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第251話

    電話を切ったあと、星乃はどうにも美琴の言葉が引っかかった。律人から聞いた話では、彼と美琴はとても仲が良く、律人が白石家に戻る前は、姉弟で支え合うように生きてきたらしい。なのに今は、白石家の誰にも任せたくないと言いながら、たった一度しか会ったことがない自分に、律人を託すなんて。そんなに、自分のことを信用しているのだろうか。白石家の内部には複雑な対立があると聞いていたから、それが理由かもしれない。けれど、それでもこんなふうに信頼されるのは、やっぱり少し胸にくるものがあった。星乃は、このあとどうするかを考えた。白石家に連れ戻すのは、論外。では自分の借りている部屋へ?頭に浮かべてみると、狭すぎる光景が目に浮かんだ。しかも、一人掛けのソファではとても寝かせられない。しばらく悩んだ末に、彼女はホテルを選ぶことにした。給料が入ってからは多少余裕ができたが、贅沢する気にはなれない。結局、手の届く範囲で、そこそこ綺麗な三ツ星ホテルを見つけた。律人は潔癖気味で、何かとこだわりが強い。できるだけ清潔で落ち着いた場所を選んだ。ホテルが決まると、星乃は彼の体を支え、どうにかして店を出た。律人の体の半分の重さが自分にかかり、少し歩いただけで肩が痛くなり、腰までずきずきする。しかも、彼の頭が自分の首元にかかっていて、吐息が時おり肌に触れた。微かにお酒の香りが混じった、甘い熱。そこに彼自身のふわりと漂う清らかな匂いが重なる。彼女もさっき少しだけ酒を口にしたせいか、平静を保つのが難しかった。身体の芯が、かすかに熱を帯びていくのがわかる。ちょうどそのとき、店の外で遥生が手配してくれた二人のボディガードが駆け寄ってきた。「星乃さん、私たちが運びます」星乃は軽くうなずいて、彼を預けようとしたが、ふと、思い直して、微笑んだ。「大丈夫。私が連れていくから」遥生のことは信頼している。前に確認したとき、この二人は信用してもいい人間だと聞いていた。けれど、今自分のそばにいるのは意識を失っている律人。美琴は、自分を信じて託してくれた。だからこそ、他の人に任せる気にはなれなかった。それに、もし何起こってしまったとき、彼らが律人の対応に気を取られたら、自分が守りきれない。二人は何も言わずに下がった。これまでもそ

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第250話

    そのときになってようやく気づいた。自分と律人はもう恋人同士なのに、彼のことを、驚くほど何も知らなかった。彼がどこに住んでいるのかも知らないし、この街にどんな友人がいるのかも知らない。少し考えたあと、彼のポケットからスマホを取り出す。連絡先を開くと、登録されている名前は驚くほど少なかった。一番上にあるのは「姉」、もうひとつは星のマークだけの名前。深く考える暇もなく、「姉」に電話をかけた。律人が以前、姉の美琴の話をしていたのを思い出す。写真も見せてもらったことがある。きれいで、気品のある人だ。ただ、少し気が強いらしい。電話がつながると、星乃は思いきって話しかけた。 「もしもし、律人が酔ってしまって……」言い終える前に、電話はぷつりと切れた。星乃「……」もう一度かけたが、今度は出ない。三度目をかけようとしたとき、返ってきたのは短いメッセージだった。「死ねよ、詐欺師」星乃「……」仕方なく、今度はビデオ通話を選んだ。すると、今度はすぐに応答があった。画面に映ったのは、白いバスローブ姿の美琴。髪をざっくりまとめ、顔にはパック。いかにも自宅でくつろいでいる格好だ。それでも、画面越しに伝わる彼女の雰囲気には、どこか気高さと冷たさがあった。星乃は慌てて自己紹介した。「はじめまして。私は詐欺師なんかじゃありません」「自分から詐欺師ですって言う人、見たことある?」美琴はまぶたを伏せたまま、冷ややかに鼻で笑った。「……」確かに。星乃は返す言葉がなかった。星乃は苦笑しつつ、眠っている律人を振り返る。彼の様子を見せて信じてもらおうとカメラを向けようとした瞬間、美琴が眉をひそめ、不思議そうに言った。「あなたは……星乃?」「え、私をご存じなんですか?」星乃は目を見開いた。「ええ」鼻にかかった短い返事。――彼女と律人のあの騒動を知らない人のほうが少ない。星乃は急に気が楽になった。知っているなら話が早い。彼の状態を説明しようと口を開いたそのとき、美琴が淡々と聞いた。「律人、本当に酔ってるの?」星乃はうなずいた。「さっき、四杯飲んで……」「四杯?そんなに!」言い終える前に、美琴の声が一段高くなった。星乃は口をつぐむ。「……」――酒に弱い人からすれば、四杯はたしかに多いかもしれない。

  • 彼女しか救わなかったから、子どもが死んでも泣かないで   第249話

    周囲のざわめきが響く中、薄暗いライトに照らされた律人の顔が、一瞬だけわずかに強ばった。けれどすぐに、何事もなかったように元の表情に戻る。星乃には分からなかった。彼の沈黙が、黙認しているのか、それとも自分に見透かされたことへの反応なのか。律人と出会ったときから分かっていた。彼は自分の本心を隠すのが上手だ。隠そうと思えば、誰にも気づかせない。今もまさに、そうだった。星乃はその目を見つめ、何かを読み取ろうとする。けれど残念ながら、何ひとつ分からなかった。律人はソファの背にもたれ、半ばまぶたを閉じている。細く整った目元には、淡い靄のような影が漂っていた。ほんの一瞬の間のあと、彼はようやく星乃の言葉を聞き取ったように、ゆっくりとグラスを取り上げ、一気に飲み干すと立ち上がり、こちらへ歩いてきた。その動きに気づいた星乃の体が、反射的にこわばる。つられるように、彼女も立ち上がっていた。――そんなに改まって、別れ話をするつもり?やっぱり、彼らしい。最後まで礼儀を欠かさない。だからこそ、これまで何人もの恋人がいても、ひとつも悪い噂が立たなかったのだろう。きちんと終わらせる――その姿勢は、むしろ感心してしまうほどだ。星乃は心の中でそう呟いた。次に何を言うかも、すでに決めてある。別れるのは構わない。けれど、UMEへの投資は今すぐ引き上げないでほしい。母の形見のダイヤの指輪は、少しずつお金で返すつもり。でも指輪そのものは返せない。ただ、律人の性格からして、そんなことを気にする人ではない。そこまで考えて、星乃は小さく息をついた。「星乃……」かすかにかれた声で、律人が呼んだ。彼女は続きを聞くつもりで構えた。だが律人は途中で言葉を切り、何かをためらうように口を閉ざした。不思議に思って顔を上げた瞬間――影が落ちる。律人の腕が、彼女の肩にずしりとかかってきた。そのまま、体ごと彼女の方へ倒れ込む。星乃は受け止める間もなく、押し倒されるようにソファへ倒れ込んだ。「律人?」最初は、抱きしめられたのかと思った。けれど数秒たっても、彼は微動だにしない。星乃は焦り、思わず彼の体を押しのけようとする。頬を軽く叩き、鼻先に手をかざした。……静かな、規則正しい呼吸。あれこれもがいた末に、ようやく気づいた。

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status