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第2話

ผู้เขียน: ハリネズミちゃん
和哉は凜を連れて階段を上がっていった。

数段進んだところで、ふと振り返り、風鈴を見据える。

「そうだ、俺たち、いつ離婚する?」

淡々と放ったその言葉。答えを待つこともなく、彼は凜の手を軽く取り直し、そのまま階段を上がっていった。

風鈴はテーブルに置かれた署名済みの書類に目を落とす。

胸の奥がじんと痛み、思わず唇が震える。

――もうすぐよ。

声にならない言葉が、口の中でそっと零れた。

和哉が自分を愛していないことなど、とっくにわかっていた。結婚も、和哉にとっては「仕方のないこと」だった。

けれど、今はまだ離婚できない。彼の妻の立場でなければできないことがあるから。

すべて片づけたら、和哉に健康な身体を返し、そして彼の恋を叶えてやる。

教授との約束の時間に、風鈴は検査のため病院を訪れた。

「あとどれくらい準備の時間がありますか?」

「十日ほどだな」教授が顔を上げた。

「……十日?」

思わず声が詰まる。想像よりずっと早い。

「神崎さんの体調から見て、十日後には手術ができる段階に入ります」

「……わかりました」

重い思いを抱えたまま、風鈴はエレベーターに乗り込み、階下へ。

扉が開いた瞬間――そこには和哉と凜がいた。

さっきまで笑顔で話していた和哉の顔が、風鈴を見るなり冷え切る。

「ここで何してる?」

「……先生に会いに来ただけ」

心臓が跳ね、慌てて答えた。

和哉は、風鈴も教授と顔見知りだと知って、不機嫌そうに吐き捨てた。

「俺よりよっぽど熱心だな」

「じゃあ、あなたは?何をしに……」

風鈴はつい口走ってしまい、言った瞬間に後悔した。

青白い顔、紫がかった唇。誰が見ても、診察のために来ていることは明らか。

彼はあざ笑うように片唇を上げた。

その目には、呆れと嘲りしかない。

その視線に射抜かれ、風鈴は唇を噛みしめ、何も言えなくなった。

空気が凍りつくように重くなる。

そんな中、凜がふわりと笑った。

「風鈴さん、気にしないでくださいね。和哉って、昔からああいう言い方しかできない人なんです」

風鈴も微笑みを返す。

――違う。

彼は話したくない相手にだけ、ああいう態度を取る。

凜が和哉の腕に絡みつき、甘えたように寄り添う姿を見た瞬間、胸を刺したのは――嫉妬。

かつて自分も夢見た光景。でも、それは手の届かない幻だった。

「そうだ、風鈴さん、いい知らせがあるんですよ!」

「リン」和哉が眉をひそめた。「いちいち言わなくていい」

「だって、すごく嬉しいことだから。みんなに言いたいの!」

凜は子どものように彼の腕を揺らした。

和哉は仕方なさそうに笑い、優しく見つめた。

「風鈴さんも、ちょっとは気になるよね?」

凜が風鈴へ向ける笑顔は無邪気そのもの。

風鈴は、すでに何を言うか察していた。

できることなら、この話題に触れたくない。

だが和哉の鋭い視線が彼女を刺す。

「……どんな、知らせですか?」

無理に笑みを作る。

「和哉に腎臓を提供してくれる方が見つかったんです。今日はその適合検査に来たところなんですよ!」

凜が嬉しそうに告げる横で、和哉は彼女の額に落ちた前髪を、そっと指先で耳の後ろへと撫で上げた。

まるで壊れ物に触れるかのように、優しく――丁寧に。

風鈴は思わず目を奪われた。

「……あれ?あまり嬉しそうじゃないですね?」

凜が首を傾げた。

風鈴は我に返り、無理やり口角を吊り上げた。

「……嬉しいわ。本当に、よかった」

和哉はその顔を見て、冷たく吐き捨てた。

「どうせ、適合じゃなければいいって思ってるんだろ。

病気の夫を見舞いもしない女に、そんな気持ちあるわけない」

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