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第4話

Author: 純情フレアラビット
私は自分の手で、砕かれて汚れたそれらをゴミ箱に掃き集めた。

……

そのあと数日間、司はまったく姿を見せなかった。

電話にも出ず、メッセージも返さず、会社にも顔を出さない。

仕方なく、私はSNSの裏から凛沙にDMを送った。

司がいないところでは、凛沙も猫をかぶる気はないらしい。

ほどなくして、送りつけられてきたのは、撮ったばかりのあからさまに卑猥で意味深な写真が十数枚。

【司くんにたっぷり可愛がってもらって疲れちゃった。電話に出る元気なんてないよ〜

ねえ、年取ると図々しくなるって本当なんだね。司くんにもう愛されてないのに、まだ必死にすがりついてさ!】

私はふっと笑った。

【彼が私を愛していなくても、名義上の妻はまだ私。あなたは、人に言えない浮気相手よ】

【私は浮気相手なんかじゃない!愛されてないほうが、本当のいらない女なんだから!

あんた、覚えてなさいよ!】

凛沙の挑発なんて、私は一つも気に留めなかった。

翌日、秘書から電話があり、司が会社に来ていると知らされた。

わかったとだけ答え、三十分後には司のオフィスの前に立っていた。

「藤森若菜(ふじもり わかな)を支社に回せ。本社のポストは凛沙に空けておけ。そうすれば毎日会社に押しかけてこなくなるだろ」

凛沙の生き生きした顔を思い浮かべたのか、司の口もとがわずかに緩んだ。

「仕事はあまりきつくないものにしてやれよ。凛沙に無理はさせたくない」

こめかみがズキズキしてきて、私はドアを勢いよく押し開けた。

「司、本気で言ってるの?藤森さんがどれだけ長いあいだ会社を支えてきたか、その誰よりも分かっているのは、あなたでしょう?この何年でどれほどの利益を会社にもたらしてきたかも。それを全部無視してまで、水瀬のために――」

「今は時代が違う。藤森の考え方はもう古いんだ。今の会社に必要なのは、凛沙みたいに勢いのある若い人材なんだ」

司は私の言葉を怒鳴り声で遮った。

「たかが数日間、代行してるだけで、会社を自分のものみたいに考えるなよ!」

人材、ね。

いわゆるFラン大卒の子が……

恋に溺れて正しい判断もできなくなっている男を前に、ふっと笑いがこみ上げた。

前から用意しておいた退職届と離婚協議書を、司の前に差し出した。

「サインして」

私の目に宿った冷たさに、司は面食らったようだ。めったに見せない弱い声で言う。

「澄佳、最近ずっと忙しいんだ。こんなつまらないことで拗ねないでくれないか?

今夜はちゃんと帰って、お前のそばにいるから」

ここまで来てもまだ、私がただ拗ねているだけだと思っている。その自信はいったいどこから来るのか。

結局、その場は何も決まらないまま流れていった。

どっと疲れが押し寄せ、目の前に飛んできた小石に気づく余裕すらなかった。

額に鋭い痛みが走り、にじみ出た血がこめかみを伝って流れ落ち、視界をじわりと赤く曇らせていく。

耳に飛び込んできたのは、目の前の女の、ほとんど錯乱したような怒鳴り声だけだった。

「この厚かましい不倫女!私の推しカップルをめちゃくちゃにして……よくもやったわね!」

私が油断した一瞬を狙って、その女は鋭いナイフを握りしめ、私めがけて突き立ててきた。

意識が遠のいていくそのとき、スマホの着信音がかすかに鳴り響いた。

残っていた力を振り絞って通話ボタンを押すと、受話口の向こうから、慌てた様子の司の声が飛び込んできた。

「凛沙が倒れた。今夜は帰れない」

私が何か言う前に、通話は一方的に切れた。

三時間にも及ぶ処置の末、私はどうにか命だけはつなぎとめられた。

目を開けた途端、誰かに乱暴に腕をつかまれ、ベッドから引きずり起こされた。

司が手にしていたスマホを、私の顔めがけて投げつける。

「澄佳、お前って女は本当に最低だ。妊婦相手にそんな卑劣なこと仕掛けるなんて!」
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