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第2話

Author: ソフトクリーム
僕は恩師の期待を裏切り、古建築の研究を諦めた。家族や友人と過ごす時間も減らし、彼女の仕事と生活にすべてを捧げる。この8年間、彼女こそが僕の世界のすべてだった。

けれど会社が赤字から黒字へ転じ、事業規模が拡大すると、彼女は会社の重要な仕事をほとんど僕に押しつけ、自分は時間を作って何度も海外へ飛び、初恋の相手である唯斗と会うようになる。

彼女は、僕が何も知らないと思い込んでいる。

けれど二人が海外でデートするたび、唯斗は僕に個別メッセージを送りつけ、仲睦まじいツーショット写真を見せびらかしてくる。

【清美と俺は堂々と一緒にいられるのに、国内じゃお前とこそこそ付き合ってる。どっちが部外者なのか、言うまでもないよな】

【清美は俺の好きなビジネススーツをプレゼントしてくれた。俺の服装に合わせて選んでくれたんだ。彼女がお前のために、そんなことをしてくれるか?】

清美は、僕と写真を撮ろうとしたことが一度もない。僕の好みを考えてプレゼントを選んでくれたこともない。僕のクローゼットに並んでいるのは、仕事に使いやすいスーツばかりだ。

僕はずっと、彼女が会社全体の管理や采配に心を奪われているだけだと思っていた。まさか僕が手にしていたものは、全部、唯斗が選んだ後の残り物だったなんて。

二人がデートを終えるたび、唯斗は決まってSNSに愛の言葉を投稿する。

【退屈な日々の中で、君は奇跡。広い世界で、たった一つの帰る場所】

【もう一度君に出会って、初めて永遠というものが見えた】

【また会えた。君はまるで一番輝く星だ。長い夜を、君が照らしてくれる】

投稿された写真には、決まって彼が一番好きな赤ワイン風味の黒胡椒ステーキが写っている。

唯斗の友人たちはずっと、二人は遠距離恋愛をしているだけだと思っている。そしてコメント欄には、次々と祝福の言葉が寄せられている。

僕は自嘲するように笑い声を漏らす。視界が少しずつ滲んでいく。愛されていないなら、それまでだ。どれだけ努力しても、何をしても、愛されないものは愛されない。

隣にいた医師が、もう一度僕に問いかける。その声で、僕は現実へ引き戻された。

「竹内さん、手術を始めてもよろしいですか?」

僕は大きく息を吐き、目尻に浮かんだ涙を拭う。そして清美をそのままブロックし、スマホの電源を落とす。

「準備はできています。始めてください」

清美。僕の人生という物語で、君の出番はここまでだ。

これで、僕たちに未来はない。

……

次に目を開けたとき、僕は病院の病室にいた。目を覚ましたのは、3日後だった。

看護師から催眠手術が無事に成功したと告げられ、僕は大きな衝撃を受ける。

僕は手術の同意書に残された自分の署名を、長い間じっと見つめる。

理由もなく8年間の記憶を捨てるなんて――いったい、僕はどれほどの衝撃を受けたというのだろう。

時間だけが、一秒ずつ過ぎていく。僕はただ、この現実を受け入れるしかなかった。

病院を出た僕は、頭に真っ先に浮かんだ住所へ向かう。

部屋に入った瞬間、僕は言葉を失う。家の中はめちゃくちゃで、女性物の服がソファいっぱいに散らばり、テーブルの上には食べかけのデリバリーまで置きっぱなしになっている。

僕は、だらしない女と同棲しているのか?

そう思った途端、僕の手足は無意識に片づけを始める。

我に返った僕は、その場で固まった。僕は家では、何もしなくても誰かが身の回りの世話をしてくれるような生活をしていたはずだ。それなのに、いつからこんなにマメになったんだ?

部屋を見回す。飾り棚には、派手なフィギュアやぬいぐるみ、枯れない花の記念品が所狭しと並んでいる。どれも、かつての僕が一番興味を持てなかったものだ。

一見ロマンチックに見えるこうした演出は、結局ただの形式に過ぎない。そんなものより、実際にそばにいてくれる時間のほうが、ずっと大切だ。

なのに、僕が一番好きだった古建築の模型は、部屋の隅で埃をかぶっている。

僕は模型を取り出して、丁寧に埃を払う。すると、飾り棚の裏側から一枚の写真が落ちていることに気づいた。

写真には、僕によく似た男が、姉の親友である清美の肩を抱き、幸せそうに笑っている。

僕は首を傾げる。どうして姉の友人の写真が、僕の家にあるんだ?その疑問が解ける前に、玄関のほうから暗証番号を入力する音が聞こえてくる。

続いて、コツ、コツ、と上品なハイヒールの音が近づいてくる。

僕は緊張しながら振り返る。そこに立っていたのは――写真の中の清美だった。

ただ、今の清美は写真の中のあどけない少女とはまるで違う。

凛とした佇まいに、冷たいほどの美しさ。そして、上に立つ者だけが持つ、息苦しいほどの威圧感をまとっている。

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