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15話

作者: 東雲桃矢
last update 公開日: 2026-03-06 21:22:43

「ひぎぃ!? い、いだっ……!」

 想像以上の痛みに怯えていると、大きな手がうたの髪を優しく撫でる。

「大丈夫、大丈夫ですから。ゆっくり、息をして」

 普段の文彦から想像さえつかないあたたかい声で、安心させるように声をかけてくれる。おかげで落ち着きを取り戻し、痛みも耐えられないものではないと気づいた。

「ご、ごめんなさい……。私、気が動転してしまって……」

「初めてですからね。気にする必要はありません。ゆっくり、動きますからね」

 文彦はもう一度髪を撫でると、ゆっくり律動を始めた。それはとてもゆるやかなものだが、処女膜があったであろう箇所が、じんじん痛む。

「んぐ、ひっ……! くぅ……」

「もう少しの辛抱ですから……」

 少し前まで痛みでパニックになりかけてたというのに、彼の過保護なまでの気遣いで、僅かな気持ちの余裕が出てくる。

(こんなに優しい人が、どうして怪人だなんて……)

「んあぁっ」

 そんな疑問も、込み上げてきた快楽にかき消されてしまう。痛みは熱に変わり、熱は快楽に変わっていく。子宮が疼くような切ない感覚に、生理的な涙が零れる。

「あ、あ、あぁ♡ んっ、はぁ……」

「ふふ、
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