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第三十六話

Author: 麻木香豆
last update Huling Na-update: 2025-08-05 08:46:37

「まぁまたお母様と連絡ついたら電話しますが……その前にもうオーナーさんからバイトの連絡も来ると思いますしね、制服を早いうちに返しにいってください。お母様は本当にお仕事お忙しいようで」

 とニヤッと担任は笑って部屋を出て行った。

「……最悪だ、あの野郎」

 二人きりになった美術準備室。藍里にティッシュを渡して背中をさする清太郎。

「ごめんね、宮部くん。私のせいで」

「お前は謝る必要はない、てか辛いだろ」

「もうわけわかんない、バイトはクビになるし、なんか宮部くんは怒ってるし、先生も。それに住むところがなくなるって?」

「あいつのせいだ。こんな時に!」

 藍里は鼻を啜りながら清太郎の腕を掴む。顔はなるべく見せないようにしてる。

「ママ……ママがなんなの? ママの仕事ってなんなの? 宮部くんは知ってるの?」

 清太郎は口籠った。

「ねぇ、知ってるの? ねえっ……」

「知らないんだよな、なあ?」

「うん」

「本人から聞くか?」

「……うん。時雨くんも知らないって」

「マジかよ、彼氏のくせに。知らないのに付き合ってるのか、てっきり知ってるかと」

 清太郎は驚いていた。藍里はよくわからない。さくらの仕事先の名前を思い出そうとするが思い出せない。でも聞いたことのない名前。

「仕事どうしよう……」

「おばさんに聞いて弁当屋の仕事やるか?」

 藍里は首を横に振る。

「私、足手まといだったんだもんね。理生先輩とかパートのおばさんとか大丈夫大丈夫とか言ってたけど裏でそんなこと言ってた。フロアの仕事もうまく回せなかった。接客業だからああいう理不尽な人たくさんいる、それをうまくかわすのも仕事なのに。裏でも表もできないなら……弁当屋さんも足手まといになる」

「まだファミレスの仕事も半年も経ってなかったろ? 誰でも最初はそういうことがある。俺も弁当屋でも一年バイトしてても怒られてっぞ」

 藍里は不安になる。いつも微笑んでいた理生や職場の人たちが直接は言えない藍里の評価を人伝に聞く、どれだけ辛いことか。

 すると清太郎が藍里を抱きしめる。

「清太郎っ……」

「俺が守ってやる、前は冗談って言ったけど俺は藍里の彼氏だ。俺と一緒に探そう」

 少しずつ強く抱きしめられる。鼓動がかさなる。藍里も顔が赤くなる。清太郎も。

「宮部くん、ここは学校だよ。恥ずかしい……」

「はずかしい……ごめん」

 と清太郎は藍
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