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93:開いた扉

last update Dernière mise à jour: 2025-11-07 06:05:49

 扉の向こうに、エリアーリアは彼の気配を感じ続けていた。

 夜が深まっても、一睡もできない。外の騎士たちが立てる微かな物音、夜風に薬草畑の草花が揺れる音。そして何より扉のすぐ向こうに在る、彼の静かな呼吸。その全てが、彼女の心を責め立てた。

(なぜそこまで……。王の務めを本当に放棄する気なの?)

 アレクの行動は、エリアーリアの最大の懸念である「王としての立場」を、彼自身が否定しているようだった。

 彼女は知っている。アレクが王になるまでの戦いの歴史と、王になってからの賢明な治世を。

 それらは国の触れ役や旅の吟遊詩人によって歌い上げられ、今や国民の誰もが知るところになっている。

 エリアーリアは飾り立てられた英雄譚の中に、アレクの本当の姿を見つけていた。

 彼は心から国と民のためを思って行動している。だからこそ、王座を投げ捨てるような行動が信じられなかった。

 エリアーリアが七年かけて築き上げた、心の壁。アレクに頼らず、子どもたちを育て上げるという決意が、少しずつ揺らいでいく。

 夜が更けて、秋風が冷たく肌を刺す頃。

 騎士たちの天幕に預けられていた子どもたちが、そうっと小屋に入って来た。

「王様、寒くない? 毛布、使って」

 アレクは部屋の隅に置いてあった毛布を持ってきて、アレクの膝にかけた。

 シルフィは店の台所に立って、魔法で火をつける。簡単な灯火の効果とはいえ、詠唱もなく自然に魔力を使いこなしていた。

 シルフィはかまどにかけられたままになっていた鍋を温めて、カップにスープを注いだ。

「これ、どうぞ。かあさまと一緒に作ったスープだよ。飲むと体が温かくなるの」

「……ありがとう」

 アレクは健気な双子の姿に胸を打たれた。

 スープを一口飲めば、あの懐かしい味がする。

 長い年月で凍えてしまった心が、溶けていくようだった。

「君たちは、本当に優しい子だ」

「えへへ」

 アレクが照れたように笑って、

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