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交通事故に遭った時、母が助けたのは弟だけだった

交通事故に遭った時、母が助けたのは弟だけだった

Von:  匿名Abgeschlossen
Sprache: Japanese
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Zusammenfassung

スカッと

因果応報

ひいき/自己中

偽善

幽霊目線

ドロドロ展開

交通事故に遭った時、僕・浅井航(あさい わたる)は最後の力を振り絞って母・浅井洋子(あさい ようこ)を車外へ突き飛ばした。 それなのに母は、自分自身が助かると、車の下敷きになった僕のことは放り出して、膝を少し擦りむいただけの弟・浅井駿(あさい しゅん)を助けに駆け寄った。 僕は消えゆく意識の中、どうか助けてと母に助けを求めた。 それなのに母は苛立った様子でこう怒鳴り散らした。「いい加減にして!あんたが騒ぐような状況じゃないでしょう。弟の膝に傷が残ったらどうするつもりなの!」 結局、僕の救命は間に合わず、冷たい遺体となってしまった。 母はそれ以来、心に闇を抱え、狂ってしまった。

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Kapitel 1

第1話

交通事故に遭った時、僕・浅井航(あさい わたる)は最後の力を振り絞って母・浅井洋子(あさい ようこ)を車外へ突き飛ばした。

それなのに母は、自分自身が助かると、車の下敷きになった僕のことは放り出して、膝を少し擦りむいただけの弟・浅井駿(あさい しゅん)を助けに駆け寄った。

僕は消えゆく意識の中、どうか助けてと母に助けを求めた。

それなのに母は苛立った様子でこう怒鳴り散らした。「いい加減にして!あんたが騒ぐような状況じゃないでしょう。弟の膝に傷が残ったらどうするつもりなの!」

結局、僕の救命は間に合わず、冷たい遺体となってしまった。

……

ふと目を開けると、母が血相を変えて弟の怪我を案じているのが見えた。

僕の遺体は冷たく放り出され、誰一人として構ってくれる人はいなかった。

弟が軽い怪我だと確認すると、母はようやく肩の荷が下りたように一息ついた。

胸に手を当てて、満足そうに笑みを浮かべて、彼女は言った。

「ああよかった。神様に感謝だわ。あなたに何かあったら、お母さんも生きていけないから!」

いつもは僕を罵ってばかりだった母が、これほど僕の心配をするような愛情を向けたことはない。

もしかしたら、ただ僕に対して、不満があったのかもしれない。

しかし母がこうして無事でいられるのは、僕が命を投げ打ったからじゃないか。

なぜ、一度くらい僕の心配をしてくれないのか。

僕の死を土台にして手に入れたその幸福を、二人は本当に甘んじて受けることができるのだろうか。

一方で、駆けつけた救急隊員が僕を見下ろして、戸惑いながら母に聞いた。

「ご長男の方が重体のようですが、本当に助けなくていいですか?」

僕の名を聞いた瞬間、母の笑みは一瞬にして消え失せた。

「あんな疫病神はどうでもいいわ!四六時中、私をイライラさせることばかりするんだから!

弟が怪我をしたというのに、あんなところで死んだフリをするなんて!

あの子は駿を逆恨みしてるのよ!そんな根性腐った息子、もう知らないわ!」

その言葉は、鋭いナイフとなって僕の心臓をえぐった。

あまりの激痛に、僕は今にも意識が遠退いてしまいそうになった。

呼吸をするのさえ、息苦しく感じるほどだった。

同じ腹から生まれた兄弟なのに、どうしてこんなに扱いに差があるのか。

あの時、母と弟と一緒に取引先の方を訪ねた日に起こった事故のせいなのだろうか。

当時,母が階段を踏み外しそうになって、僕が必死で飛び込んで母を抱きかかえたことで、大惨事を防いだ。

ただ、その際に弾みで先方の高級な花瓶を割ってしまったのだ。

それで、体裁を損ねられたと感じた母は、先方の前で迷いなく僕に平手打ちをした。

反発して少し言い返しただけで、母は僕を、「恩知らずの疫病神」だと決めつけた。

それから母の関心は、すべて駿に向けられるようになった。

僕は家の中で、空気のような存在に成り下がった。

居場所すらなくなり、機嫌が悪い母のストレスのはけ口にもされてしまったのだ。

なんて馬鹿げているんだ。

母の冷徹な言葉を聞きながら、駿は多分心の中でほくそ笑んでいるのだろう。

それでも、駿は心配するような演技で母に言った。

「お母さん、そんなこと言わないで。お兄ちゃんだって、ただ拗ねているだけなんだから」

母の怒りは和らぎかけていたが、駿の庇うようなその一言で、彼女は即座に表情を一変させた。

「駿、あなたは本当に優しいのね。だから、あんな奴につけ込まれるのよ!

ほら、あなたが庇ってあげているのに、まだあんなところで野垂れ死んだふりをしているじゃない?まったく思いやりのかけらもないんだから。

同じ兄弟で、どうしてこうも違うの?いっそ産まれた時に死んでいればよかったんだわ!」

僕の頭は真っ白になった。

まさか、母がこれほどまでに僕を忌み嫌っていたとは。

まるで、僕の存在自体を疎ましく思っているようだ。

でも僕はもう、この世界から本当に去ってしまったよ。

あなたを押し出した瞬間、大型トラックが僕をはねてしまったんだ。

重力に重くのしかかられた瞬間、僕の内臓は震えあがるほどだった。そんな時ですら、僕は、「自分が死んだあと、お母さんは誰が面倒をみるのだろう」と考えていた。

死にゆく瞬間の絶望が、ふたたび僕を飲み込んでいく。

ただ、今度ばかりは、僕を現世につなぎ止める絆はもう跡形もなく消えていた。

……

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第1話
交通事故に遭った時、僕・浅井航(あさい わたる)は最後の力を振り絞って母・浅井洋子(あさい ようこ)を車外へ突き飛ばした。それなのに母は、自分自身が助かると、車の下敷きになった僕のことは放り出して、膝を少し擦りむいただけの弟・浅井駿(あさい しゅん)を助けに駆け寄った。僕は消えゆく意識の中、どうか助けてと母に助けを求めた。それなのに母は苛立った様子でこう怒鳴り散らした。「いい加減にして!あんたが騒ぐような状況じゃないでしょう。弟の膝に傷が残ったらどうするつもりなの!」結局、僕の救命は間に合わず、冷たい遺体となってしまった。……ふと目を開けると、母が血相を変えて弟の怪我を案じているのが見えた。僕の遺体は冷たく放り出され、誰一人として構ってくれる人はいなかった。弟が軽い怪我だと確認すると、母はようやく肩の荷が下りたように一息ついた。胸に手を当てて、満足そうに笑みを浮かべて、彼女は言った。「ああよかった。神様に感謝だわ。あなたに何かあったら、お母さんも生きていけないから!」いつもは僕を罵ってばかりだった母が、これほど僕の心配をするような愛情を向けたことはない。もしかしたら、ただ僕に対して、不満があったのかもしれない。しかし母がこうして無事でいられるのは、僕が命を投げ打ったからじゃないか。なぜ、一度くらい僕の心配をしてくれないのか。僕の死を土台にして手に入れたその幸福を、二人は本当に甘んじて受けることができるのだろうか。一方で、駆けつけた救急隊員が僕を見下ろして、戸惑いながら母に聞いた。「ご長男の方が重体のようですが、本当に助けなくていいですか?」僕の名を聞いた瞬間、母の笑みは一瞬にして消え失せた。「あんな疫病神はどうでもいいわ!四六時中、私をイライラさせることばかりするんだから!弟が怪我をしたというのに、あんなところで死んだフリをするなんて!あの子は駿を逆恨みしてるのよ!そんな根性腐った息子、もう知らないわ!」その言葉は、鋭いナイフとなって僕の心臓をえぐった。あまりの激痛に、僕は今にも意識が遠退いてしまいそうになった。呼吸をするのさえ、息苦しく感じるほどだった。同じ腹から生まれた兄弟なのに、どうしてこんなに扱いに差があるのか。あの時、母と弟と一緒に取引先の方を訪ねた日に
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第2話
それから、母と駿が帰宅し、扉を開けると、そこにはソファーに座る藤堂瑠夏(とうどう るか)の姿があった。彼女の顔を見た瞬間、僕の中でさっきまでの苛立っていた気持ちがすっと消えた。無意識のうちに、僕は表情を和らげた。「洋子さん、航さんの体の具合はどうですか?」長年付き合ってきた恋人だけのことはある。周りがどんなに僕を非難しようと、彼女が僕を想う心だけは、変わっていないようだ。そう思って、喜びに浸っていたのも束の間、次の瞬間彼女は薬指から指輪を外し、母の手の中にねじ込んだ。「実は、今日来たのは、彼と別れるためなんです」その言葉は、まさに青天の霹靂だった。浮かんでいた笑みが消えないまま、僕は貯金を全てはたいて買ったその指輪を、ぼうっと見つめた。すると、母はすぐさま、傍らにいた駿を彼女の隣へと押しやった。母は優秀な瑠夏を、自分の息子に相応しい理想の妻だと考えていた。美人で、愛想が良く、素直だからだ。それに裕福な家庭育ちの彼女を嫁にもらえば、きっと生涯困ることはないだろうと考えたのだ。ただ、母の中で瑠夏の夫にふさわしいのは僕ではなく、あの溺愛する次男の方なのだ。そう思っていると、母は指輪をテーブルに置き、笑みを浮かべたまま瑠夏をじっと眺めた。「あんな奴とはとっくに別れて正解だよ。甲斐性なしのろくでなしと付き合ってたら、あなたの青春が台無しだからね。瑠夏ちゃんみたいな才色兼備な子は、もっといい男と一緒にいるべきよ。例えば、駿みたいにね」母の言葉を聞き、瑠夏の真っ白な顔は瞬く間に紅潮した。彼女は視線を落とし、こっそりと駿を盗み見た。「……洋子さん」お互いいい大人だから、彼女の本心を見抜けないわけがなかった。そうか。僕が知らない間に、二人はもう深い関係になっていたのだ。家族総出で僕を騙していたのか。僕の愛した人たちが、全員僕をあざむいていた。たとえ命がもう尽きていようと、僕の胸の内は絶望で押し潰されそうになった。ここから逃げ出そうとしたが、なぜか母の傍から離れられなかった。どこへも行けないのだ。母は瑠夏に水を渡すと、ゴミのように扱われた指輪を見て鼻で笑って言った。「金がないなんて言ってた癖に、こんな立派な指輪を……まったく、嘘ばかりついて!しかも、自分の弟を妬んで、わざと怪
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第3話
小さい頃から母は僕に厳しかった。少しでも気に入らないことがあると、すぐ怒鳴り散らした。幼かった僕の体には、いつも消えないあざがあった。学校で使うお金さえ満足にくれず、昼食はいつも干からびたパンだけで、クラスメートが羨ましくて仕方がなかった。一方で、弟はいつも甘やかされ、欲しいものは何でも手に入れていた。可愛く甘えれば、どんな贅沢も許された。それでも僕はそれでこの家に不平不満を抱いたことはなかった。逆に、一所懸命勉強して経営学部に合格した。ようやく社会人になり、これからは違う人生を歩めると信じていた。でも、母から電話がかかってきて、稼いだ給料のすべてを家に入れろと命令された。僕の手元には、たった1万円しか残すのを許されなかった。理不尽だと分かっていたけれど、それでも僕は言われた通りにした。都会での生活は苦しく、毎日カップ麺だけでやり過ごしていた。もちろん友人との付き合いもできなくなった。一方、僕の稼いだ金で、弟は故郷で家も車も手に入れ、僕には手の届かない夢のような生活をしていた。あるとき母を問い詰めた。どうしてそんな仕打ちをするのかと。母は、手元にあったものを手あたり次第僕に向かって投げつけた。「よくもまあ、白々しいことが言えるわね。あんたの汚い手口を私が知らないとでも思っているわけ?子供の頃に弟をトイレに連れ込んで暴力を振るって虐めたうえに、大人になってからも弟のお金を巻き上げていたんでしょ!弟はあんたを庇ってずっと黙っていたのよ!私が偶然彼の日記を見ていなかったら、一生気づかずに騙され続けるところだったわ!」それを聞かされて、僕は頭の中が真っ白になった。そんなこと、僕は断じてしていない。誓って断言できる。実際にいじめられていたのは僕だ。僕を懲らしめるために、弟は高い金を払って不良を雇い、毎日トイレで僕を虐めさせていたのだ。それなのに、どうして僕が加害者のほうにされてしまったんだろ?だが、隣で含み笑いをする弟を見て、僕は一瞬にしてすべてを読み取った。その瞬間、怒りで我を見失った僕は弟に近づくと、彼の手を掴んで叫んだ。「お母さんに事実を話せよ!本当はそうじゃないだろ!」ところが弟は、堰を切ったように涙を流し始めた。「お兄ちゃん、殴らないで!お金は全部あげるから、もう
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第4話
それから、駿が怪我の様子を検査するため病院に向かった日、母はわざわざ仕事を休んで、駿の回復を祝って遊びに連れて行ってあげようとした。その様子を見て、僕は思わず、自分が高熱を出してベッドでうなされていた時のことを思い出した。あの時、母は看病を拒否して、仕事が何より大事だと言い放ったのに。なぜ、こうも違うのか。駿のためなら、母は自分の信念ですら曲げられるようだ。僕はそっと目を閉じた。かつて受けた傷や理不尽なことなんて、思い出したくもなかった。けれど、母が駿の体を慈しむようにいたわっている姿を見ていると、胸の奥で、嫉妬が沸々と湧き上がった。この時。母は、駿のカルテを丁寧に読み上げていた。「医師も問題ないって言ってたし、もうすっかり回復できたね!さすが駿。やっぱり神のご加護があるだけあって、運もいいわね。きっと大丈夫だと思った!」母が安堵の表情を見せるのを見て、僕は思わず言ってやりたかった。お母さん、忘れたの?あなたにはもう一人、僕という子供がいるでしょ。母は良心の呵責を感じたのか、ようやく存在を忘れられていた長男である僕のことを思い出したらしい。彼女は眉を寄せ、問いかけた。「そういえば、お兄ちゃんからは連絡あった?」僕の名前を出され、駿は身をこわばらせた。だが、すぐに彼は何食わぬ顔で苦笑いした。「お兄ちゃんは俺とは話したがらないし、連絡もして来ないでしょう。さあ、お母さん、帰ろう?」そう言うと、駿は慌てた様子で立ち上がり、母の手を取ろうとした。まるでこれ以上母に僕のことを考えさせないように。ところが、母は駿の手を引き抜いた。さらに、どこか戸惑った様子を見せた。かつての僕なら、どんなに拗ねていようと数日もすれば大人しく頭を下げてきたはずだ。それが今回は、まったく音沙汰がないのだから。まさか、何かあったんじゃないでしょうね?そう思ったが、そんな懸念を母はすぐに自分の中で打ち消した。なにせ、彼女の中で、僕はいつだって最低な人間なのだから、今頃どうせどこかの繁華街で好き勝手に遊びまわって、周りを困らせているだけだろう。こうして、母は駿に向けて優しく微笑んで言った。「疲れたの?お会計したら家に帰ろうね。今日はとっておきの食材を買ってあるから、豪勢なディナーを作ってあげるわ
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第5話
凍てつくほど冷え切った葬儀場。一人の母親が、気が狂ったように廊下をふらつきながら走り回っていた。後ろからスタッフが息を切らしながら追いかけ、やっとの思いで彼女を引き止めることができた。「お気持ちは分かります!しかし、いつまでもお子さんが亡くなられた悲しみに囚われるわけにもいきませんよね!」だが、母は狂気じみてスタッフの手を振り払った。「あんたたちに何が分かるのよ!あの子の嘘を、この手で暴かなきゃならないの!占いの先生が、あの子は寿命が長いはずだって言ったの。こんなあっけなく死ぬわけない。絶対に何か細工をしてるのよ!」その強気な口ぶりとは裏腹に、母の顔色は真っ青で、動揺を隠しきれていなかった。僕が死んだのは、交通事故に遭い、搬送が遅れたせいだった。もしあの日、母が救助の邪魔さえしていなければ、僕はまだ生きていられたのではないか。母こそが、僕を死に追いやった張本人だ。その考えがよぎり、母は精神的に追い詰められてしまったかのようだった。彼女は霊安室へと、なりふり構わず走り出した。必死に答えを探し求めようとした。だが、いざ扉の前に立つと、足がすくんで入れなくなっていた。もし僕が本当に死んでいたら、この現実にどう向き合えばいいのか。だって、彼女は僕を殺したのも同然なんだから。ごくりと喉を鳴らし、母は自分を納得させる理由を見つけようとした。「まっいいか、母親として子どもの悪ふざけも大目にみてあげないと。航、よく聞きなさい!いつまでも死んだふりなんかしてないで!駿と私にちゃんと謝ってくれれば、過去のことなんか水に流して許してあげるから!」そう言って、母の声が震えている。多分、彼女はここにきても尚、僕がただの悪ふざけだと言って出てくることを待ち望んでいるのだろう。残念だが、それはあり得ない。がらんとした葬儀場に、ただ母自身の声が反響するだけだった。ふいに扉が開き、葬儀場の職員が出て来て、冷ややかな目で母を見下ろした。「何をしているんですか。故人への敬意はないんですか?」そう言われ、いつもは勝ち気で口達者な母も、この時ばかりは一言も返せなかった。目の前の霊安台に横たわる、僕の変わり果てた姿を見たからだ。大型トラックに轢かれ、体は粉々になり無残な姿となってしまったのだ。ところ
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第6話
そして、深夜になり、ようやく母が何食わぬ顔で帰ってきた。すると、リビングでスマホをいじっていた駿は、母の姿を見るや否やソファから飛び降りて、僕について問い詰めた。「お母さん!お兄ちゃんが事故に遭ったって本当だったのか?一体どうして……」母は手荷物を椅子に適当に投げ捨てると、どうでもよさげに手を振った。「交通事故があった当日、あの子はすぐに死んだわよ。あの子自身の不注意なんだから仕方ないじゃない。ただ、稼ぎ手が減っちゃったのは残念ね。これからの生活水準がどこまで下がるか分からないわ」母の冷酷さは、またしても僕の予想を軽々と超えていった。僕が死んだのだから、せめて母も少しは本気で動揺するのではないかと思っていた。せめて、僕のために弔いの言葉を添えてくれるのではないか、と思った。だが、そんな期待は裏切られた。母は変わらず、自分のことばかりに集中していた。それを見て、あの無感情な駿でさえ、母の態度に戸惑いを隠せなかった様子だ。「それじゃ、どうすればいいんだ?」そう言われ、母は苛立った様子で髪を乱暴にかきむしった。「どうしろっていうのよ!まったく死んでも鬱陶しいんだから、手を煩わせて!今からわざわざ死亡届の手続きをしに行かなきゃならないのよ。休暇なんて取ったらボーナスが減るに決まってるじゃない!本当に疫病神だわ、私を呪ってるのよ!」その瞬間、僕は何もかも言う気が失せた。たとえ僕が母の息子でなかったとしても、誰か一人の命がこの世から消えたという知らせを聞いたなら。普通はもう少し違った反応があるはずだ。なのに母は、僕のせいで金稼ぎの時間が奪われたと愚痴をこぼすことしか考えていない。何とも馬鹿らしい。こんな家のために僕は何年も捧げてきたのに。母の中では、僕という存在の価値は多分数千円にも満たないだろう。僕が呆然としていると、ちょうど着信があった。「洋子さん、航さんのことを聞きました。あまり悲しまないでくださいね!これからは私と駿さんであなたを支えていきますから」そう言われ、母は堪えきれなかったのか、クスクスと笑い声を漏らした。「あら、二人とも騙されちゃったのね!私、あの子の亡き骸はちゃんと見たけれど、あんなのただの悪戯よ!私たちがこうして落ち込んでる隙に、あの子はどこ
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第7話
母の認知症は悪化の一途をたどっており、正気でいられる時間はわずかだった。一日中、僕の写真だけを抱えて黙り込んでいることも多々あった。職場からも、そんな母の状態を理由に自宅で静養するよう勧められていた。会社は母を心配するそぶりを見せていたが、実際には事故死した僕のせいで社の名誉が傷つくことを恐れただけだ。家には唯一の収入源さえ途絶え、生活は行き詰まった。駿はもともと浪費家だ。わずか数日で蓄えをすべて使い果たしてしまった。銀行残高の乏しい数字を見た駿は、迷わず瑠夏に電話をかけた。瑠夏が慌てて家にやってきた時、母は尚もソファでぼうっとしていた。「洋子さん、大丈夫ですか?亡くなった人は帰ってきませんよ。これからの生活も大事ですよ!見てください。駿さんもおばさんに気を使って、すっかり痩せちゃって」その声を聞き、母は首をぎこちなく動かした。「駿が痩せた……でも、航は……なぜあの子はまだ帰ってこないの?」そして、僕の名前を口に出した途端、母は何かに刺激されたかのように、目を見開いた。「またどこかでふらついているのかしら?あの親不孝者が!」母は正気を失ってなお、僕のことを罵りたかったらしい。瑠夏は溜息をつくと、用意してきた金を駿に手渡した。駿は遠慮する素振りもなく、がばっと取った。「瑠夏、助かるよ。お前がいなかったら、もうどうしたらいいのか、わからなかったよ」そう言われ、瑠夏は顔を赤らめ、すがるように甘えた。「私のものは駿さんのものじゃない?今更遠慮なんてしないで。結婚すれば全部一緒になるんだから!」二人がいちゃつく中、ふと瑠夏に気づいた母が言った。「瑠夏ちゃん、最近航から連絡あった?またあなたをいじめたりしてない?怖がらなくていいのよ。私がついているから、あの子には指一本触れさせないわ!」駿の腕の中に寄り添い、瑠夏は軽く首を振った。「洋子さん、もう忘れたんですか。私、航さんとはとっくに別れましたよ。今は駿さんの彼女なんです。洋子さんだって応援してくれてたじゃないですか。もうすぐあなたは私のお義母さんになるんですよ」それを聞いて、僕の胸は何かに打ち付けられたかのようだった。あんなに尽くしてきた僕に対して、彼女はずっと冷たくあしらってきた。だけど、駿と付き合って数日しか経っ
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第8話
それから時の経過とともに、母の意識が珍しくハッキリする時期が続いた。ある日、張り切って料理の買い出しに出かけた母だったが、途中で鍵を忘れたことに気づいた。急いで家へ引き返した時、室内から見知らぬ男の声が聞こえてきた。「お前のお母さん、本当に大丈夫かよ?あんな精神状態じゃまずいんじゃねえか。病院に連れてったらどうだ?」それを駿は冷たく笑い飛ばした。「無駄金を使う必要なんてないよ。あのババア、いっそ死んでくれたほうが楽なんだ。足かせでしかないからさ。どうせあいつの手元に金なんてないだろ。あいつが死んだら、すぐ瑠夏と結婚するんだ」すると、男は怪訝そうに言った。「急いでるな。お前、あの子のこと、そこまで好きだとは知らなかったぜ」だけど、駿は煙を吐き出し、苛立たしげに手を振った。「何言ってるんだよ。あんなバカ、好きになるわけがないだろ。実家に幾らか金があるから、一緒になると何不自由ない生活が送れるんだよ。じゃなかったら、相手にしてなかったさ」その瞬間、母どころか、もうこの世にいない僕までもが戦慄した。駿が身勝手だとは思っていたが、これほどのクズだったとは。どうやら彼は自分の欲望のためなら、手段を選ばない人間のようだ。それに、この男の声は、どこかで聞いたことがある。あのひき逃げ事故を起こした運転手に、あまりに似ている。恐怖の予感が胸をよぎり、僕は全身が凍り付くほどぞっとした。この時、母は震える手で、ドアノブからそっと手を離した。そして、よろめきながら警察署に駆け込み、入り口でそのまま膝をついた。「お願いです、息子のことを調べてください!」突然のことで、署内の警察官たちは目を丸くした。話を詳しく聞く中で、僕の死と弟との間に重大な関わりがあることが浮かび上がった。泣き崩れる母の前で、一人の警官が黙々とある映像を見せた。「実は、事故について、防犯カメラの解析で不審な点は掴んでいましたが、決定的な証拠がなく、ご次男を呼べずにいました」その映像は夜間に撮られたものだった。暗闇の中で駿と男が話している。「確実にやってくれるだろうな?失敗して半身不随になったりしたら、治療費ばかりかさんで邪魔になるんだよ」男は頭をかいた。「任せてくれ。そんな汚れ仕事、今までに何度もこなしてきたんだからよ
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第9話
それから、駿が訳も分からぬまま警察署に連れてこられたとき、母はすでに泣き崩れていた。そのせいで、何度も気を失うほどだった。そして、彼の姿を見るなり、母は気力を振り絞って飛びかかり、こう叫んだ。「あんたなんて、獣以下よ!よくも実の兄にそんなひどいことができるわね!不自由なく育ててきたはずなのよ!なんで金のために道徳まで捨てられるんだよ!」入った瞬間、平手打ちを食らった駿はふらつきながら頬を押さえた。幼い頃から今日まで、駿は母に叩かれるなど手を挙げられることが一度もなかったのだ。彼は何が起きているのかさえ理解できていなかった。ただ、母を信じられないといった様子で見つめた。一方、付き添っていた瑠夏が、慌てて駆け寄って彼の様子を見て言った。「洋子さん!何するんですか!駿さんはおばさんの連絡を受けて飛んできたのに、叩くなんて酷いです!」なんてバカな女だ。この期に及んでもなお彼の味方をしようとするなんて。実家の財産を狙われているとも知らずに。そう思ったが、母は鼻で嘲笑って、弁解しなかった。ただ、母はスマホの録音を再生した。すると、部屋の中で、瑠夏を亡き者にする計画や、巨額の保険金詐欺を企てる駿の声が響き渡った。それを聞いて、瑠夏は顔から血の気が引き、青ざめた。彼女は勢いよく駿を突き飛ばした。「これ何よ?駿さんの声じゃない!あんなに良くしてあげたのに、裏では私を殺そうとしてたなんて!」相次ぐ事実に駿は困惑した。だが母の冷たい表情と警察の視線に気づいた瞬間、彼は全てがバレたのだと察した。すると、彼は20年以上貫いてきた猫被りをやめ、開き直った。母を睨みつけ、彼は足元に唾を吐き捨てて言った。「クソババア、いい加減にしやがれ!余計なことを嗅ぎ回りやがって!少しは考えたらどうだ?一人の息子を失って、これからあんたを養えるのは俺だけだろうが!俺を監獄に送って、あんたに何の得があるんだ?」その豹変ぶりに、母は言葉を失った。激怒で真っ赤に充血した目で、彼を食い入るように見つめた。「なんて人なの……今まで私が教えた道徳心は、全部何だったのよ!」彼のその発言には、瑠夏すら呆れて反発した。「自分のお母さんに対して何その言いぐさ!駿さん!今まであなたを信じていた私が馬鹿だ
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第10話
「当たり前だ!全部、あんたのせいだよ!」駿は冷たい声で追い打ちをかけるかのように母を責めた。すると、落ち着きを取り戻したばかりの母は、その言葉を聞いて再び崩れ落ちた。再び自分の身体を傷つけようとする母を見て、瑠夏が慌ててその手を押さえた。「洋子さん、あなたは何ひとつ悪くないです!あなたは彼の巧みな嘘に踊らされていただけなのよ!私たちはみんな騙されていた!彼こそが人でなしです!」だが、駿は他人からの非難など全く気にしていないのだ。彼は自分の目的さえ達成できていればそれでいいと思っているようだ。だから、彼は瑠夏の言葉を聞くと、吹き出すように笑った。「騙しただって?そうさ。でもさ、あんたも自分のことを見つめ直してみたらどうだ?兄が助けを求めたとき、放っておけと命じたのは俺か?危機一髪の時兄がわざわざあんたを突き飛ばして救ってあげたのに、それを知らんぷりしただろ?ずっと俺が兄を虐めるのを黙認してきた時と同じように、見て見ぬ振りをしてきたじゃないか!」そう言われ、母のやせ細った体が激しく震えた。母は視線を落とし、周囲の人々を見ることさえできなかった。濁った瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、母は苦悶の表情で頭を振る。「そんな……私はあの子を強く育てたかっただけ……あの子のためを思って……」だが、その言い訳はあまりにも滑稽だった。この家庭で日常的に行われていた冷遇やいじめ。それすらも、僕が社会で負けないようにという、「教育」だったと言うのか。数えきれないほどの良い方法があるはずなのに、よりによって一番えげつないやり方を選ぶなんて。これが母なりの愛だったのか。それとも、ただ自分の言い訳を正当化したかっただけだろう。僕は虚しく笑った。自分の母親からそんな言葉が出ること自体、信じられなかった。多分、母自身にもあまりにも滑稽に思えたのだろう、彼女は苦しそうに瞳を閉じた。このタイミングで、駿は警察に引き渡されるはずだった。だが、彼は引き際を知らなかった。執拗に母を煽り続ける。「あんたは、俺の兄が自分より賢くて能力があるのが妬ましかったんだよ!だからあいつを追い詰めたんだ!表では慈愛に満ちた母を演じたくて、手を汚す役目は全部俺に押し付けてきたんだろ!一番卑怯なのは、あんただよ!」すると、母の
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