愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~ 尽くす側から尽くされる側へ、そして転生は偶然ではなかった? 毎日22:22に更新中!気に入って頂けたら本棚登録してもらえると嬉しいです。
その夜、私は自室に戻っても落ち着かなかった。昼間、葵にこの国の成り立ちを聞かれて話をした。そして、王族に代々伝わる古い予言書を手に取り、何度もページをめくる。(葵はただ誤ってこの国に来たのではない気がする……。)そんなことを思いながら葵のことを考えていると扉をノックする音が聞こえた。「あ、あの葵です。今よろしいですか?」遠慮がちに声を潜めて葵がドアの向こうから話しかけてくる。夜の訪問は初めてで、突然の出来事に少し動揺した。「夜遅くにすみません……。あの昼間の話が気になって。司書の方が来たら帰られたので他の方に聞かれない方がいい話かと思って……。」この時、言い伝えは本当なのかもしれないと思った。この国の女性たちは皆、自信に満ち、愛されることを当然と受け止めている。それは素晴らしいことだ。だが、葵の持つ、どこか控えめでそれでいて芯の強い優しさは、この国の女性たちにはない特別な輝きを放っている。彼女の謙虚さは私の心を惹きつけ、彼女の感謝の言葉は私の魂を震わせた。彼女が自ら「学びたい」と申し出た時、そして、周りの状況を見て人目の少ない時間を見計らって尋ねてきたことで確信したのだ。
私は深く感動した。日本では女性は夫を支え子を産む「道具」のように扱われることもあった。だが、この国の歴史には女性が主体となって国を導き繁栄させたという誇らしい事実があるのだ。サラリオは私を真剣な眼差しで見つめながら少し声を潜めた。「そしてその女王の時代からこの国には一つの言い伝えが残されている。」「葵様、この前お話していた書籍が見つかりましたよ。……サ、サラリオ様、お話し中に失礼致しました。」「いや、構わない。色々と葵のことをありがとう。葵も邪魔して済まなかったな。そろそろ戻るよ」「え?サラリオ様?」サラリオは私の言葉を聞く前に踵を返し出口へと向かって歩いて行った。(まだ話の途中だったと思うけれど……言い伝えって何なのだろう?声を小さくして辺りを気にしていたし、他の人には聞かれてはマズい話だったのかな?)私はその夜、サラリオ様の部屋へと向かった。昼間、サラリオを尋ねるために執務室や園庭に足を運んだことはあるが自室へ行くのは初めてだった。昼には無い緊張を感じながら部屋の扉を恐る恐るノックする。
サラリオに国の学びを申し出てから、私は王立図書館に通う日々を送っていた。想像以上に広大で古今東西の書物が所狭しと並べられている空間に私は興奮していた。分厚い歴史書を読み解き、この国の文化や政治体制について学ぶことは私にとって何よりも新鮮で刺激的だった。メルが手配してくれた熟練の司書の方々やキリアンが、私の質問に丁寧に答えてくれ充実した日々を送っていた。ある日、サラリオが自ら私の学びの場を訪れてくださった。彼は私の隣に座り、私が広げていた古い地図を覗き込む。「葵はこの国の成り立ちに興味があるのか?」「はい。サラリオ様が背負っていらっしゃるこの国のことをもっと知りたいのです。どうして『龍愛の国』と呼ばれるようになったのか、なぜこれほどまでに女性が尊ばれているのか……」私の問いにサラリオ様は微笑んだ。その瞳は遠い昔を見つめるかのようだった。★バギーニャ王国は、古くから豊かな自然に恵まれてきた。しかし、その恵みゆえに幾度となく他国の侵略に晒されてきた過去がある。かつてこの地は争いが絶えない荒れた土地だった。そんな中、一人の偉大な女王がこの国を統治した。彼女は、武力ではなく知恵と慈愛をもって国を導いたという。敵対する部族を力でねじ伏せるのではなく共存の道を模索し、争いではなく交易で国を豊かにする基盤を築いた。彼女の治世においてこの国は初めて真の平和と繁栄を手にしたのだ。&nbs
「サラリオ様……私、この国のことを、もっと深く学びたいのです」私の突然の申し出に、サラリオ様は少し驚いたように目を見開いた。「この国の歴史、文化、政治システム、経済……何もかもが私にはまだ分からないことばかりです。ですが、もし許されるのならこのバギーニャ王国が、そしてサラリオ様が、さらに繁栄するために微力ながらも力になりたいと願っています」言葉を選びながら私の心からの願いを伝えた。私の心は日本の家訓に縛られていた時とは違う、新たな使命感の光が宿っていた。サラリオ様は、私の言葉をじっと聞いていた。彼の瞳の奥に、わずかな驚きと深く温かい感情が宿るのが見て取れた。そして、ゆっくりと口を開いた。「葵……なんて素晴らしいことを言ってくれるのだ、嬉しいよ」サラリオの声は私の耳には信じられないほど甘く響いた。私の手を取り、甲にそっと唇を寄せた。「葵が望むのなら私も喜んで協力しよう。この国には、古今東西の知識が集まる王立図書館がある。あらゆる文献が揃っているし、必要であれば専門の者を呼んで君の疑問に答えさせよう」サラリオの言葉は、私の心を解き放ち新たな道を示してくれた。私の知的好奇心は、とめどなく溢れ出した。これまで「妻の務め」という漠然とした義務感でしか捉えられなかった。しかし今は
日本にいたときにしていた『誰かのために尽くすこと』、この国に来てから知った『誰かに尽くしてもらった時に喜んで受け取ること』、そんな心の変化と共に私の内に新たな感情が芽生え始めていた。それは、ただ愛されるだけ、尽くされるだけの存在では終わりたくないという強い願いだった。これまで「夫の成功のために尽くす」という日本の家訓に盲目的に従ってきた。そのために自分の感情を押し殺し、ひたすら影となって夫を支えようと努力した。しかし、その「尽くし」は誰からも感謝されることなくただ虚しく終わりを告げた。しかし、この国では違う。この国は「人々が活気ある暮らしを送り、その笑顔が増えることこそが国の豊かさや発展に繋がる」と信じている。そして、その活気の源こそが女性であり、女性が自らの意思で愛する人の子を産み、その家族が幸せであることが国の繁栄に直結するとされているのだ。日本の家訓で培った「夫の成功を支える」という尽くしを、もしかしたらこのバギーニャ王国で、「国の繁栄のために尽くす」というより大きな意味で活かせるのではないか。一方的に尽くされるだけでなく、お互いに尽くし尽くされ手を取り合うことで絆が深まっていくと感じた。そして、そのことが『尽くし』ではなく『創造』に発展するのではないか、この国で王子やメル、貴婦人たちと接していくうちに感じるようになった。(単に愛されるだけではなく、私も尽くしを返すことでこの国の役に立ちたい。創造していきたい)私は、意を決してサラリオが普段過ごしている執務室へと向かいドアをノックした。
私は、幸助さんの『特別』になりたかった。ありがとうと心の底から微笑み、優しい瞳で受け入れられたかった。幸助さんにありがとうと言われたことを想像すると心が温かくなる。自分がしたことに、嬉しそうに相手が反応してくれることで幸せな気持ちになる。幸助さんに望んでいたはずなのに、いざ自分が受け止る側になると『ありがとう』という言葉が出てこなかった。ルシアンの言葉は、私の孤独だった時の心を思い出させた。そして、愛情をもって接してくれている王子たちに無礼な態度を返している自分を恥じた。「葵がこの前好んで食べていたフルーツをまた取り寄せたんだ。今日一緒に食べないか。」この日もサラリオが私の様子を伺いに部屋に来てくれた。私はいつも小さく微笑むだけなので、サラリオは話が終わると部屋を出ようとしていた。「サ、サラリオ様。フルーツも、いつもこうして気にかけてくださることもとても嬉しいです。あ、あの……ありがとうございます。」整った顔立ちと澄んだ綺麗な碧い瞳をまっすぐ見るのは照れてしまいいつもは顔を合わせられなかったが、今日はドキドキしながらも背の高いサラリオの目を見るために顔を上げて瞳を逸らさず思いを告げた。「え、あ、ああ……どうしたんだ急に」サラリオは口元を手で隠し目を逸らした。いつもの私がするような仕草を今日はサラリオがしてる。「普段、たくさんのご好意