キースが、魔法学校を案内してくれると言うので、私は地下に続く階段を降りて行った。
スグラ王国にもアカデミーという貴族の為の学校があったが当然地上にあった。 このように、地下に秘密組織のようにある学校を私は知らない。そして、レオは魔法学校の存在を教えることで、私をモリアを使って陥れたことに気づかれないとでも思ったのだろうか。
(気が付いたところで、私がレオから離れて生活することは不可能だわ)スグラ王国の罪人である私を、大陸に渡るのも難しい島国である敗戦国マサスが管理するという形で私の身柄は引き渡されている。
大陸の情報もあまり入って来ないマサス王国で、私を罪人呼ばわりするものはほぼいない。
ただ、国王陛下が寵愛する女として私はこのマサス王国で存在している。だから、私の身分はレオの寵愛に頼って成り立っている。
(スグラ王国の時と変わらないわね⋯⋯)「ほら、ここが教室。ここは地下2階だから、主に魔力のコントロールについて学ぶ授業が行われているよ」
そこに広がっていたのは、私の知っている教室風景とは違っていた。
スグラ王国のアカデミーが12歳から15歳の貴族が通っているのに対し、ここの教室にいる生徒は年齢も様々だ。そして魔法学校の紋章の入った青いポンチョの下は、みなくたびれた服を着ていた。
(貴族じゃないわ⋯⋯ここにいるのは、平民ばかり)「平民が多いなって思った? 皆、薬によって後天的に魔力を得ているからね。相性が悪いと死ぬような薬を飲んで力を手に入れたんだ。お貴族様は自分たちじゃ絶対そんな危険なもん飲まないよ。ここにいるのは、使い捨てても良い兵隊⋯⋯」
「黙って⋯⋯たとえ、それが真実でも彼らの聞こえるように言うのはやめて」
ナイフのように突き刺さる言葉を浴びた経験のある私からすれば、その内容は実は元から心の内にあったものだとしても一生口に出さないで欲しいと思う。口を閉ざすことが相手を尊重するということもある。
「遠目で見ている時は、クールなお姫様に見えたけど、実はセンチメンタルなお姫様だったんだな
僕はルカリエの力が、国王陛下から与えられたものだと知っている。 彼女の魔法の力は分け与えられたものなので、人に分ける事はできない。 彼女は魔女としてスグラ王国で迫害された事まで、国王陛下の陰謀だと知ったらどう思うだろうか。 耐えられるのだろうか⋯⋯そんな男に今晩も好きなようにされることを。 そして、火の魔力を自らの命を危険にさらしながら得て、ルカリエに分けた事に快感を覚えている変態国王を怒らせることが起きてしまった。 カリナという別の人間の魔力が、ルカリエに注がれてしまったのだ。 ルカリエに対する過剰な独占欲と執着を持つ陛下がこれを許せるはずない。「ルカリエ、君はまず人に魔法を分け与える事より、魔法のコントロールを覚えた方が良い」「校長先生、ルカリエは火の魔法が使えるんですか?」 カリナなの当然の疑問に、どう答えたら良いのだろうか。 魔法の力を持った者は地下に閉じ込められているのに、国王陛下は地上で自由にしている。 氷の大地で貴重な力となる火の魔法を、陛下は身につけ寵愛する女ルカリエに分け与えている。(言えない⋯⋯ルカリエにも⋯⋯魔法学校のみんなにも)「私、多分、魔女の血を引いているんじゃないかと⋯⋯」 ルカリエの言葉に周りがどよめいている。 当然だ、僕を残して魔族は25年前に全滅している事はここにいるみんなが知っている。 周囲の思考を読むと、ルカリエが顔が良いだけの変な子と考え出したのが分かった。 真実を教えると、国王陛下だけ魔法が使えるのに地上生活を許されていることと、ルカリエが王妃であることがバレてしまう。 (ルカリエは友達を欲しがっている⋯⋯変な子扱いも王妃扱いもマイナスだ⋯⋯) 「ルカちゃん、めちゃ綺麗ね。俺と付き合おうよ。恋がしたいんでしょ」 俺が考えあぐねてたところに現れたのは、マリオ・キルギスだった。 この魔法学校では珍しい貴族出身者で、自ら志願してここにきた人間だ。 アイスグレーの髪にアイスブルーの
私、カリナは物心つく前に、魔法学校に来た。 魔法の薬によって治癒の力を得られたからだ。 この魔法学校はマサス王国の大陸侵略の為に創設されたものだという噂がある。 私たちは魔法をコントロールする訓練をしたり、戦闘演習をして過ごしている。 地下の魔法学校には、1通り娯楽設備もあり、買い物するところもある。 私たちは来るべき時まで地上に出ることは許されないらしい。 魔法の薬で手に入れた魔力は暴発することがあり、地上の人を危険に晒すことがあるらしいのだ。 私は給与の半分以上を、地上の両親に仕送りしている。 いつも手紙を書いているけれど、忙しいのか1度も返事があったことはない。(私の魔法は治癒能力だから暴発しても、危なくないから地上に出たい⋯⋯)「自己紹介させてください! 今日から、魔法学校に入学しましたルカリエと申します。ルカって呼んでください。これから、皆さんと協力をして魔法を学んだり、時には恋とかしたりして学校生活を楽しみたいと思います」 見たこともないような綺麗な女の子が、煌びやかなドレスを着てやってきた。 ルカリエみたいな子が来るようなことは初めてだ。 そして、魔法学校で恋をしたいなどと言うバカな子も見たことがない。(美人だけど、頭が悪くて捨てられちゃったのかしら⋯⋯) それに、ここにくる人間は皆死を覚悟しながら魔法の薬を飲んで力を勝ち取った人間だ。 もっと覚悟が決まった面持ちをしながら入学してくるのに、ルカリエは明らかに学校生活が楽しみで仕方ないと言った顔をしている。 私は物心つく前に魔法の薬を飲んだから、恐怖はなかった。 しかし、地上で貧困により追い詰められた大人がやってくることがあった。 その大人の1人が、「ここは世界から捨てられた人間が来るところ」と言ったのだ。 それは、ここの魔法学校にいる人間は薄々気づいていていたところだった。(私は、両親から捨てられた訳じゃないはず⋯⋯手紙もいつか返事くるよね) 校長先生が、笑いながらルカリエをフォ
「ルカリエ様、聞いていたより賢くない方ですね」 思わず、僕の本音が出てしまった。 彼女は聡明な絶世の美女ということになっているが、僕の前では本音を曝け出し過ぎて危なっかしい。 もう少し、慎重にならないと敵はどこに潜んでいるか分からない。 僕がマサス王国に対して反逆心を持っているから問題になっていないが、他の人の前で王妃が国王から逃げたい等と言ったら大変なことになる。 後で自分の発言を顧みたときに、彼女が怯えないように僕は自分は反逆心があることを告白した。「私のことは好き⋯⋯?」「好きですよ。僕と共犯者になりましょう」 彼女が怯えながら言ってきた言葉に、僕は同情した。 結局彼女は男を味方につける方法を1つしか知らない。 僕は国王陛下が、魅了の力を手に入れたモリアをスグラ王国に派遣して強引にルカリエを奪った事実を知っている。 魅了の力は魔法の中でも上位の力で、モリアが力を手に入れるまで54人の女が死んだ。 国王陛下はルカリエを手に入れた今はハーレムを解散しているが、彼女を手に入れるまではハーレムを持っていた。 陛下はルカリエを想っても、手に入れられない自分の欲望をを発散する場所として用意していたのだ。 極寒の地で貧困にあえぐ、女たちは皆働き先としてハーレムに入りたがった。 陛下が選ぶ女は、皆どこかルカリエに似ている美しい女ばかりだった。 ハーレムの女たちに魅了の力を得る魔法薬を飲ましたが、力を得られず女たちは死んでいった。 そこで、目をつけられたのが、モリアだった。 モリアの双子の妹であるカリナが既に、魔法の中でも上位の力である治癒能力を得ていたからだ。 モリアとカリナは双子として生まれたが、彼女らの親は2人も育てられないと1人を選んだ。 魔法学校は学校とは名ばかりで、侵略のため作られた軍の訓練機関だ。 それゆえ、学費は免除されて給与が出る。 彼女らの親は妹のカリナに魔法の薬を飲ませることを志願した。 カリナが生きて魔法の力を手に入れられれば、金が定期で
魔法学校の校長はしたくてやりたい仕事ではなかった。 僕、キースの両親は魔法の力を持った魔族だった。 僕たち魔族が住んでいた集落は、僕を残してマサス王国により全滅させられた。 僕たちには魔法が使えない時間があり、その秘密がマサス王国の間者に漏れていたのが原因だ。 捕らえられた両親は、俺の目の前で血を生き絶えるまで採取された。 絶望の淵にいた5歳だった僕の前に現れたのは、先代のマサス国王陛下だ。「余は我々を辱めた大陸に一泡蒸すことを考えている。キース、お前を息子のように扱うと誓う。余の大陸侵略に力を貸せ」 そう言った彼は両親を失った僕が、彼の提案に飛びつくと考えていた。 僕が選ばれたのは、村で1番幼かったからだ。 まだ、子供で庇護する相手が必要な子供を拐かすなどわけないことだと思われていたのだ。 僕は魔法の力で人の心が読めた。 そのため、彼の心を読むと建前とは違う醜悪な考えを持っていることが分かってしまっていた。 それでも、生きる為には気付かないフリ、愚かなフリも必要だと思った。 「僕にできることなら、何でもします⋯⋯」 いつか復讐してやるという気持ちを隠しながら、僕はマサス王国の魔法研究をすることになった。 レオナルド・マサスの治世になると、魔法研究と、魔法使いの訓練所として魔法学校が創設された。 地下に秘密裏に創設された設備には、薬で誕生した魔法使いが集められた。 魔法使いと人間は根本的な遺伝子構造が違う。 それゆえに、オーダーされた魔法の力がつく薬を作っても摂取した人間のおよそ9割は拒否反応で死んだ。 上位の魔法を得る薬程、死亡率は高くなった。 副作用として、薬で誕生した魔法使いは魔法の力を1人だけに分けることができた。 でも、その不思議な副作用も含めて、まだ謎の多い薬を人に使う事に僕は反対だった。「9割が死ぬ薬など使えません」 僕はレオナルド国王陛下に進言した。 僕は魔法の力でレオナルド国王陛下の心を読んだ。
キースが、魔法学校を案内してくれると言うので、私は地下に続く階段を降りて行った。 スグラ王国にもアカデミーという貴族の為の学校があったが当然地上にあった。 このように、地下に秘密組織のようにある学校を私は知らない。 そして、レオは魔法学校の存在を教えることで、私をモリアを使って陥れたことに気づかれないとでも思ったのだろうか。(気が付いたところで、私がレオから離れて生活することは不可能だわ) スグラ王国の罪人である私を、大陸に渡るのも難しい島国である敗戦国マサスが管理するという形で私の身柄は引き渡されている。 大陸の情報もあまり入って来ないマサス王国で、私を罪人呼ばわりするものはほぼいない。 ただ、国王陛下が寵愛する女として私はこのマサス王国で存在している。 だから、私の身分はレオの寵愛に頼って成り立っている。(スグラ王国の時と変わらないわね⋯⋯)「ほら、ここが教室。ここは地下2階だから、主に魔力のコントロールについて学ぶ授業が行われているよ」 そこに広がっていたのは、私の知っている教室風景とは違っていた。 スグラ王国のアカデミーが12歳から15歳の貴族が通っているのに対し、ここの教室にいる生徒は年齢も様々だ。 そして魔法学校の紋章の入った青いポンチョの下は、みなくたびれた服を着ていた。(貴族じゃないわ⋯⋯ここにいるのは、平民ばかり)「平民が多いなって思った? 皆、薬によって後天的に魔力を得ているからね。相性が悪いと死ぬような薬を飲んで力を手に入れたんだ。お貴族様は自分たちじゃ絶対そんな危険なもん飲まないよ。ここにいるのは、使い捨てても良い兵隊⋯⋯」「黙って⋯⋯たとえ、それが真実でも彼らの聞こえるように言うのはやめて」 ナイフのように突き刺さる言葉を浴びた経験のある私からすれば、その内容は実は元から心の内にあったものだとしても一生口に出さないで欲しいと思う。 口を閉ざすことが相手を尊重するということもある。「遠目で見ている時は、クールなお姫様に見えたけど、実はセンチメンタルなお姫様だったんだな
「子を成さないように魔法を掛けたよ」 ため息をつきながら言ったキースの言葉に私は彼の目をじっと見た。「結婚している以上、愛してなくても子を成す行為をしなくてはならないでしょ⋯⋯」 私から目線を外しながら言うキースに、私は彼がレオの罪を確信していると思った。 流石にクリスの心変わりと、突然現れたモリアの存在は不自然だった。「そうね⋯⋯でも、恋とか愛とか、平穏な暮らしの前では無意味に感じるわ」 私を愛しているというレオは予想通りなら、私を側に置くことに気を取られても私の幸せは願ってくれていない。 私がスグラ王国で絶望に遭っていたのも彼の企みの一部だとしたら、私は自分の幸せを願ってもくれない男と一緒にいられるだろうか。「キース、私は火の魔法がつかるかもしれないんだけど、あなたはどんな魔法が使えるの?」 子を成さないような魔法なんて器用に使え、若くして魔法学校の校長になっている彼はきっと特別な存在なのだろう。 私は彼がどれだけの種類の魔法が使えるかが気になった。「全て⋯⋯僕はここにいる魔法使いとは違う。僕の力は魔女の忘形見なんだ。後天的ではなく先天的に魔法の力を持っているんだよ」 キースは明るく言っているが、私は彼が他とは違うただ1人の存在ということが気になった。 私は長期に渡る王妃教育で誰とも違う孤独な時間を過ごしてきた。 取り巻きはいても、友人など1人もいなかった。 だから、次期王太子妃の立場を失ってからは誰も私を気にかけなかった。「キース、私と共犯関係になろう。友達になろう。お互いだけが本音を明かせる唯一無二の友達に」 私は反逆計画を王妃である私を前に明かしてくれた彼を信頼した。 それだけではない、決まった運命を辿る人が多い中で突然ハシゴを外された存在。 そう言った意味で私は彼にシンパシーを感じていた。「友達⋯⋯そんなものいた事ないからピンとこないな」「実は、私もないのよ。友達なんていたことは一度も⋯⋯」 私たちはそう言い合うとお互