私の故郷では見られない雪が降っている。 キラキラ光る宝石のように見えるのは、空気が澄んでいるからだろう。 乾いた空気が本当に気持ちが良い。思わずバルコニーに出ると、私の愛しい人が追いかけて来た。「ルカリエ、そんな格好で外に出たら風邪をひく⋯⋯」 後ろから抱きしめてくるのは、今日私の夫になったレオナルド・マサスだ。 彼の温もりは私を包み込み、私も少しでも自分の温もりを返そうと身を捩った。 彼が私の銀髪の髪を愛おしそうに撫でてくれる。「もう、レオったら、そんなに早く私を自分のものにしたいの?」 私の質問に静かにレオはうなづいた。 彼の黒髪が夜風に他靡く。 彼の暗い、深淵を見つめるような瞳が好きだ。 (愛しい⋯⋯) 私はこれ程に自分を求めてくる男を前に、味わったことのない感情を抱いていた。私は1年前にスグラ国の王子に婚約破棄を言い渡されたばかりだ。 クリス・スグラとは心が通じ合っていると信じていた。 しかし、それは私の思い上がりだった。 彼はモリア・クーナ男爵令嬢が現れるなり、彼女に夢中になっていた。 彼は彼女の言葉を全て信じて、私との婚約を破棄した。 私は誰もが憧れる王子の婚約者から悪役令嬢に一瞬でなった。 覚えのない嫌がらせの冤罪までかけられて、私は遠い島国マサスに流された。 地位も名誉も失った私を救ったのがレオだ。 豪雪地帯でもあるマサス国は、今日も雪景色だ。 レオはマサス国の王でありながら、罪人とされる私を求めた。 私の名誉を回復させ、爵位を与え自分の婚約者とした。 その時、バルコニーから1隻の船が桟橋に接岸するのが見えた。 船の先頭にはスグラ国の王章が見える。 ブリザードの吹き荒れるこの時期のマサス王国に上陸するのは命懸けだ。 周囲を氷山で囲まれていて、船がいつ挫傷するとも分からない。 船から降りてきた、小さい影は私が10年以上も思い続けたけたクリスだった。 (結婚式にも呼んでないのに、何しに来たの?) 私が動揺していると、急にレオが私の耳をはんできた。「な、何するの?」 「君はもう僕のものだ⋯⋯」 寒さで凍え切った私の体はレオによって寝台に運ばれた。 ベッドに寝転がされて見上げた彼の顔は少なからず、焦っているように見える。 「レオ! スグラ国の船が⋯⋯!」
最終更新日 : 2025-06-10 続きを読む