アデリナとの間にヴァレンティンが産まれて以来、ローランドはずっと悩んでいた。
性悪妻との間に子が産まれた。
なのに……素直にそれを喜べない私がいる。
確かにヴァレンティンは私譲りの銀髪に、アデリナに良く似た美形だった。性格は温厚。
この国の第一王子。後継者。それなのに、私はやはりヴァレンティンを愛せなかった。
いや、原因は分かっている。
私が性悪妻であるアデリナを愛せないせいだ。
義務の子作りをあれだけ耐えたのに。
やっと産まれたにも関わらず、我が子を愛せない。
せめて私が一欠片《ひとかけら》でもアデリナを愛せていたら……ヴァレンティンを愛することができただろうか?
そんな私の煮え切らない態度と、性悪妻と悪名高い母親のせいで、産まれたばかりのヴァレンティンはいつも誰かに疎まれ、陰口を叩かれてきた。
なのに私は人々の悪意からヴァレンティンを守ることも、庇うこともしなかった。
だから抱きしめてやることさえ一度も。
これでは自分の両親と同じだ……
そんな私のせいで、ヴァレンティンは父親に愛されてない哀れな王子とも噂されていた。
だがヴァレンティンはごく稀に会いに行くと必ず、私に無邪気に笑いかけてくる赤ん坊だった。
あの女は、アデリナはますます性格が悪くなっているというのに。
なぜこれ程までに笑顔が良く似合う、まるで天使のような子が産まれたのだ?一体どうしたら私はヴァレンティンを愛せるのだろう。
知りたい。
愛を知りたい。そうすればきっと…… そして私はついに愛を知る。 看護師のリジーだ。 彼女に命を救われ、癒され、そうして愛を知った。 健気な彼女の姿が、幼いヴァレンティンと重なったのだ。これで、きっと愛せる。我が子をこの手に抱きしめてあげられるだろう。
◇ 「……どう?レェーヴ。 その後イグナイトに何か動きは?」 あの日以降、実は密かにレェーヴに、イグナイトの動向を探るように頼んでおいた。 神殿長のイグナイト・トリスト。 広い王宮内にある神殿の長。 祝い事や祭事は、必ずイグナイトと神殿が中心となって行うという。 ローランドの幼馴染。王家に仕える伯爵家出身者で、幼い頃からローランドと親しかった。 神殿長になったのもその由縁からだ。 だから今回ばかりは、確実にイグナイトの裏切りの証拠を見つけないと、勘違いでした〜!では済まされない。 一番いいのは私が直接イグナイトに接触する事なんだけど……今妊娠中で、ローランドに監視されてるから。くっ……! 何であんなに過保護なのかな! 「はあ〜アデリン。 お前は……俺の気持ちを弄んだ挙句、ローランド王と子供を作っておきながら、今度は神殿長に浮気を? 何て恐ろしい女だ…」 「ちょっと…馬鹿言わないでよ、レェーヴ!」 「はあ〜やる気出ない。」 冗談で言ってるのか、本気なのかさっぱり分からないレェーヴは本当にやる気がなさそうに、ソファにぐでーんと横になっていた。 勝手に王宮に住み着いたレェーヴは、老朽化が進み、空き部屋となっていた軍の旧宿舎に寝泊まりしているらしい。 「やる気って……貴方がローランドに追い出されないよう説得してるのは? 貴方に毎日食事を与えているのは?」 「んー。アデリン様です。」 「うん。分かればいいの。」 瞬間的に損得を計算し、手のひらを返したように忠実になるレェーヴ。 相変わらず自由な男だ。だが結構、使える。 レェーヴはここ数日、イグナイトの動向を探ってくれていた。が、これと言って怪しい動きをする様子はなかったようだ。 しか
アデリナとの間にヴァレンティンが産まれて以来、ローランドはずっと悩んでいた。 性悪妻との間に子が産まれた。 なのに……素直にそれを喜べない私がいる。 確かにヴァレンティンは私譲りの銀髪に、アデリナに良く似た美形だった。性格は温厚。 この国の第一王子。後継者。 それなのに、私はやはりヴァレンティンを愛せなかった。 いや、原因は分かっている。 私が性悪妻であるアデリナを愛せないせいだ。 義務の子作りをあれだけ耐えたのに。 やっと産まれたにも関わらず、我が子を愛せない。 せめて私が一欠片《ひとかけら》でもアデリナを愛せていたら……ヴァレンティンを愛することができただろうか? そんな私の煮え切らない態度と、性悪妻と悪名高い母親のせいで、産まれたばかりのヴァレンティンはいつも誰かに疎まれ、陰口を叩かれてきた。 なのに私は人々の悪意からヴァレンティンを守ることも、庇うこともしなかった。 だから抱きしめてやることさえ一度も。 これでは自分の両親と同じだ…… そんな私のせいで、ヴァレンティンは父親に愛されてない哀れな王子とも噂されていた。 だがヴァレンティンはごく稀に会いに行くと必ず、私に無邪気に笑いかけてくる赤ん坊だった。 あの女は、アデリナはますます性格が悪くなっているというのに。 なぜこれ程までに笑顔が良く似合う、まるで天使のような子が産まれたのだ? 一体どうしたら私はヴァレンティンを愛せるのだろう。 知りたい。 愛を知りたい。そうすればきっと…… そして私はついに愛を知る。 看護師のリジーだ。 彼女に命を救われ、癒され、そうして愛を知った。 健気な彼女の姿が、幼いヴァレンティンと重なったのだ。 これで、きっと愛せる。我が子をこの手に抱きしめてあげられるだろう。
欲しいものなんてあるわけ無い。 立場上王妃として丁寧に扱われているし、部屋には使いやすい便利な家具とか置かれてるし、食事とかも充実してる。 今のところ不便は全くない。 分からない事は女医が何でも答えてくれるし、気にかけてくれる。 それにホイットニーやメイド達が身の回りの世話やお風呂でのお手入れまでしてくれるから、むしろ快適すぎる。 しかも今はローランドに労働を禁止され、一日中、自室に閉じ込められている状態なのに。 なのに。そんな不安で心配そうな顔しないでよ。ローランド。 「大丈夫ですよ?ローランド。 それより貴方、仕事は……?」 「仕事よりもお前の方が大事だ。」 いや、仕事の方が大事だよ?どう考えても。 「不安だ…私達の子が誕生するまでにあと十月《とつき》もあるなんて。 お前に何かあったらどうしようかと、そればっかり浮かんでしまう。」 「縁起わるっ、ちょっと! ローランド。変なフラグ立てないでくださいね? 私は大丈夫ですから。医者からも順調だって言われてますし。 ほら、健康そうでしょ?だから心配せずに仕事に戻ってください?」 「フラ……?そ、そうか。」 何だか残念そうにローランドは立ち上がる。 仕事に戻るのかと思ったら、今度は寂しそうに振り返った。 「アデリナ……何もしないから、今夜もまた一緒に眠っていいか?」 「え、……は、はい。」 これ、嫌だと拒否したらますますローランドが変になりそう。だから仕方なく頷く。 聞いたら聞いたでローランドは本気で嬉しそうに笑い、やっと部屋を出て行った。 何なの………! 今だにローランドの親密度が確認できないと思ってたら、こんなに変なローランドを見ることになるなんて! まるで私とヴァレンティンをすごく大事にしてる、子煩悩な夫みたいじゃない! あの人、本当に大丈夫………!??
「ランドルフ、喜び過ぎじゃないですか?」 「それは喜びもするだろう。 私とお前の第一子。クブルク王家の血を引く者が宿ったのだから。」 慌ただしく出て行ったランドルフを見送りながらも、ローランドはまだ私を抱き締めて離さなかった。 それになぜか熱い瞳で私を見下ろして、静かに微笑みを浮かべていた。 「ここに、私とお前の子供が…… どちらだろうな?男か、女か……」 ニコリと微笑みながらローランドは私のお腹にそっと手を添えた。 撫で方がやっぱり優しい。 「男の子だと思いますよ。きっと。」 「?どうしてそう思うんだ?」 だってこのお腹にいるのは間違いなく、ヴァレンティンだし。 私の推しの……! 「か、勘ですよ?お、オホホホ」 「私はどちらでもいいぞ。お前が産んでくれるなら。」 だから、そんなに勘違いしそうになる事を言わないでよね? 「そうだ…!私もこうしてはいられない…」 「え?ローランド?仕事は!?」 急にソワソワし始めたローランドは、そっと私を解放する。 それから散らばった書類をそこそこに集め、落ち着きなく部屋を出て行ってしまう。が、一度戻ってくる。 「アデリナ……!これからは落ち着いて行動するように。廊下を走ったり、無理して運動したりしてないけない。分かったか?」 「わ、分かりました。」 言うだけ言って、ローランドは慌ただしく部屋を出て行った。 落ち着きないのはローランドの方じゃない? いや、そして仕事は………? ◇ 「おめでとうございます…!アデリナ様!」 後から妊娠報告を聞いたホイットニーが、本気で嬉しそうに泣いていた。 もう私のことを全く怖がらない
「陛下……私、妊娠したみたいです。」 ついに、ヴァレンティンを……!! 私の推しがこのお腹の中に!!! これで思い残すことはない!! 女医に診断を受けた後、私は妊娠をローランドに報告するため執務室を訪れていた。 椅子に座って仕事をしていたローランドはそれを聞くなり固まってしまう。 心底驚いたような顔。 でも、すぐに嬉しそうに目を細めた。 「そ、そうか……! アデリナ……そうか!やったな……!」 バッサァ、と書類が部屋の中に舞った。 「陛下……?」 びっくりした。 ローランドが仕事の書類を勢いよく投げ捨て、席を立ったかと思えば私を力強く抱きしめてきたから。 「おめでとう、アデリナ……! よく、頑張ったな。」 「あ、ありがとう、ございます……?」 そんな風に喜ばれたら……なんか。 本当にローランドが子供を欲しがっていたみたいで、こっちまで嬉しくなってしまう。 頑張ったな、なんて言われたら…… やっぱり本当に愛されてるみたい。 勘違いしちゃいけないのに。 あれからローランドの親密度が全く見れなくなってしまった。 他の人のは見えるのに。 どうして………?バグなんだろうか? 「おめでとうございます、国王陛下。王妃陛下。」 その場で、一緒に仕事をしていたランドルフがくいっと眼鏡を持ち上げた。 [ランドルフ▷ローランドの最側近 27歳 Lv 47 ローランドの政務補佐を担う 文官として非常に優秀でローランドに固い
誰かから大切にされるっていいな。 私も誰かにそうされたい人生だった………… 「アデリナ。信じてくれるかは分からないが… 私にとってお前は大切な存在なんだ。 心から————」 ◇ あれからさらに、どれくらい時間が過ぎたんだろう。 暖炉の火の勢いが弱まってきているのに、私達は全く寒くなくて、むしろ熱く火照っていた。 今何時くらいだろう? カーテンの隙間から赤い日差しが漏れている気がするのは…気のせい? 「っ、はあ……っ、アデリナ。 身体はきつく、ないか?」 「ん、っ、ローランド、あ、あのっ、そろそろ止めた方がいいんじゃないかなと……」 やばい。声が枯れてるし、体がもう限界を超えている気がする。 なのにローランドは、本気で申し訳なさそうな顔をしながらもやめてくれない。 ……こんなに優しいローランドの描写はなかったよねって、思った私がバカだった。 「……すまない。アデリナ。けどあと少し。 もう少しだけ。」 吸い付くようなキスを背中に落とし、ローランドはまだ動き続ける。 「ろ、ローランド……ま、待っ…」 確かに熱は出なかったよ? でも……ローランドが元気すぎる!!! アデリナパパが持ってきた秘薬のせい? これ、一体どうしてくれるの……!!! 「アデリナ、逃げるな。もう少し、だけ。」 ………い、いや。優しいなんて誰が思った? 意識がぶっ飛びそうになりながら、ステータスを確認してみる。 [ローランドの状態▷ア