Masuk2つの運命を背負う猫耳族のルルア。申し子として転生されてきたロザンとの出会いが彼女の運命を変えていく。 一緒にこの景色を見ながら支え合いながら生きていくーー その願いを抱きながらも残酷な運命が二人を翻弄していく。 本格派ファンタジー
Lihat lebih banyakロザンはルルアの問いかけを聞かなかった事にしたら、背中に向けて、右手を掲げた《かか》げた。 ふと何もなかったはずの空間に目が見えし、黒い渦がぐるぐると満ちている。手にしてないのに、一瞬彼の右手には聖剣《せせぬ》ガイアが闇色《やみいろ》に輝きながら存在感を現している《現れている》。「……ロザン?」「……」ようやく事が出来ると思っていたのに、そうは簡単にうまくいかない。自分に見向きも消した彼の意識に語りかけようが、結果は悲惨な敗北《ざんぱい》だった。「私の名はロザン――今、闇王《えんおう》の名の下に異界《いかい》の勇者として命令を下《くだ》す。帝国《ていこく》ミミリアをそしてこの世界の住人共《じゅうマインドも》の魂を喰う」 《く》らえよ」高《たか》らかに宣言《せんげん》する彼に言葉が出ないルルア。 あの時、一瞬彼の心に触れる《ふ》れる事が出来たと感じたのは錯覚《さっかく》だったのだ不安。受け入れ、前世のように異界《いかい》へ繋《つな》がる最終門《さいしゅうもん》を発生させてしまった。ルンガの村の裏手《うらて》に隠されていた門とは違い、この門は世界の終焉《しゅうえん》を予言する力を持っている。「我が片割《かたわ》れの勇者に旋律《せんりつ》を――」ロザンが口にすることで聖剣《せせかえ》の姿が変化《へんい》していく。う》の体制《たいせい》まで整《ととの》行ってゆく。戦いたくない。一番は話合いで解決できればどれ程良いかだけ。こんな状況になるなんて想像する事もなな彼女の希望の光が砕けた《くだ》かれた瞬間だった。進んで現実に打ちのめされていると、ルルアに追い打ちをするように、闇の雨が降ってきた。 黒い炎は殺気《渦》を纏い《まと》いながら、彼女の体を貫こうと牙《きば》を剥《む》いた。 数十の刃がルルアの全身に突き刺さっていく。「闇炎《やみえん》の剣の味はどうだ? その刃は一度あったと魂《たましい》に侵食《しんしょく》する。君が君でいられる時間は限界《かぎ》されていく」「ふ……こんな痛くもなんともないわ。お前の意見に比べたら」カノンからもらった《モラ》った死の泉の原液《げんえき》を飲み干していたの。う通り飲めない状態で闇炎の剣を受けて今の彼女はいないかもしれない。門を塞ぐ《ふさ》ぐ事は難しい《むずか》しいだろう。一方ロザンの暴走《ぼうそう》を食い止める事
予感はあった。自分が飲み干した液体が何なのか。ルルアは闇に飲まれそうになりながらも抵抗《ていこう》を続ける。心の奥底に湧《わ》き上がってくる力は一体何なのだろう。額に脂汗《あぶらあせ》を垂《た》らしながら考えている。苦しみの中にいるルルアを見ているカノンは彼女が闇に打ち勝つ姿を確認するように見守っていた。 「乗り越えられないと、お前の願いは叶わない」 カノンがルルアに託《たく》した思いはそこにある。自分には決して出来ない役柄《やくがら》を率先《そっせん》して受け入れようとしていた。ルルアの脳裏《のうり》に焼き付いているのは前世の記憶。自分とロザンが正反対の道を選び、敵対関係として成《な》り立つもう一つの世界線がそこにある。 「同……じ事は……繰り返さない!」 自我《じが》を保つ為に心の言葉を口にしていく。すると彼女を支配しようとしていた闇は見る見るうちに姿を失い、彼女の右目の奥底に取り込まれていった。ドッと疲れを感じた彼女は、はぁはぁを見出した呼吸を整《ととの》える。 第一段階をクリアする事が出来た。その事に安心したカノンは感情を抑えるようにルルアを力強く抱きしめた。ふるふると震《ふる》えそうな体を支えてくれる温もりを感じながら、妹のバリスの事を思い出すーー 二人は同じ世界を生き抜き、冒険を知った。その先に待っているのがどれ程、過酷《かこく》な現実だとしても、諦める事はしない。その思いを受け継《つ》いでいるのがルルアだった。カノンにとって彼は家族よりも深い繋《つな》がりを感じる存在なのだろう。 「耐えきる事が出来たな。後はお前に託《たく》す」 「任せて。きっと彼を取り戻す」 ルンガの村を襲《おそ》い、定期的《ていきてき》に姿を見せてくるロザン。その足取りは簡単には終えない。闇の力を秘めた彼は、今では全ての力を思うように自由に扱《あつか》う事が出来る。一度、自分の性質《せいしつ》を受け
昔の事を思い出しながら自分の背負った十字架《じゅうじか》を魂に刻《きざ》んでいく。ミミロウにかけて貰《もら》った優しさを捨てなければ受け止める事が出来なかったロザンは、彼が魂を込め打ち続けた聖剣《せいけん》ガイアを暗黒の世界へ掲《かか》げると、異界《いかい》へ繋がる門が顔を覗かせた。 「駄目よ、ロザン!」 「……」 あの時よりも大人の雰囲気《ふんいき》を漂《ただよ》わしながら、ルルアが叫んだ。一緒に歩こうと誓《ちか》い合った約束を忘れてしまったのかと言わんばかりに。太陽のように希望に満ちていた彼はもういない。ミミロウが彼の立場を世界の事実を告げた事により、本当の自分の居場所が何処《どこ》なのかを知ってしまった。 隣でいたはずのルルアの笑顔も優しさも、バリスの愛しさも……全てを否定して、最初からなかった事のように記憶から排除《はいじょ》していく。最初は悲しくて苦しかったロザンも、同じ事を繰り返し、人々の悍《おぞ》ましさ、恐ろしさを体験する事で、作られた価値観が崩壊《ほうかい》し、昔のロザンへと戻していく。 ルンガの村はこの世界の中心に聳《そび》えている。その中から終焉《しゅうえん》の魔術師から受け取った宝石を使い、守護《しゅご》の村へと替《か》えていた。表面から見たら鍛冶屋《かじや》が集う村だが、奥側に埋め込まれていたものは世界を司《つかさど》り力を与える大樹《たいじゅ》の祠《ほこら》として清《きよ》められている。 無くしたものを取り戻す事が出来たロザンはあの時と同じように、ルンガの村を襲《おそ》うと、炎で満たしていく。結界《けっかい》の核《かく》を壊す事に成功した彼を止める者は何処《どこ》にもいない。少年だったロザンが大人になった姿を懐《なつ》かしそうに悲しそうに見つめているミミロウは、自分のしてしまった過《あやま》ちの大きさに気づくのだった。 「この村の裏手《うらて》
急に倒れたルルアを覗《のぞ》き込《こ》んでいるロザンは昔にも同じ事があったのを思い出していた。昔は何が原因なのか分からず、慌《あわ》てふためくしか出来なかった。少し大人になった彼は、環境の変化により彼女の精神に負担《ふたん》を与《あた》えてしまったのではと思っている。慣《な》れ親しんだ環境から未知の世界に足を踏《ふ》み込んだのだ。そうなるのも仕方ないかもしれない。バリスに忠告《ちゅうこく》はされていたが、こんなにも早く現れるとは思っていなかった。村を案内してくれたラウンには申し訳ないが、事情《じじょう》を話して泊まらせてもらっている家へと向かう。こういう時、俊足《しゅんそく》のスキルがあればあっという間だろう。生憎《あいにく》ロザンはスキルを所有《しょゆう》していない。普通なら適正《てきせい》を持ちながらに生まれた肉体はスキルを生成《せいせい》する事が出来る。しかしロザンはその当たり前の事が出来ない、唯一《ゆいいつ》の人物だった。この事はルルアも知らない。事実を把握《はあく》しているのは彼以外にバリスだけ。これから生きていく為には黙っていた方がいいと指摘《してき》を受け、それから口にした事は一度もない。「……すぐに休もう。俺も側《そば》にいるから」この時のロザンは隠れている事実に気付けないでいる。ルルアがこうなるのは彼の存在に原因があるからだ。彼はこの世界で唯一《ゆいいつ》の勇者として召喚《しょうかん》されたはず。しかし時は流れ、世界は変化していった。ヒューマンとしての勇者は存在しない。彼の存在は異質《いしつ》で、受け入れられる事はないだろう。その反対にルルアは全ての獣人族《じゅうじんぞく》の力を使用出来るチートスキルの持ち主。バリスの魔法によって隠されているが、この事実を猫耳族《ねこみみぞく》に周知《しゅうち》されると、勇者以上の立ち位置、そして女神としても祀《まつ》られる。より強い力を引き出し、自分のものに出来た時には蛇神《じゃしん》と同じように崇拝《すうはい》されていく。それ程《ほど》の存在だ。2つの対立《たいりつ》している力が
最初はミミロウの武器を打つ姿を見ていようと考えていたルルアは残念そうな表情《ひょうじょう》を浮《う》かべながらトボトボと歩いている。彼に紹介《しょうかい》された息子ラウンは二人を客人としてもてなしてくれた。ルンガの村はそれほど大きくない。その代わりに村を守るように聳《そび》え立つ鉱山《こうざん》があった。裏手《うらて》の通りを進んでいくと辿《たど》り着《つ》くと説明を受ける。鉱山《こうざん》と聞いた事はあったが、実際《じっさい》身近に感じたのは初めての事だった。 「ルンガ村は鉱山に守られているんだ。この地形のお陰《かげ》で盗賊《とうぞく》の被害《ひがい》も殆《ほとんど》どない」 ラウンはそう言い切ると、ミミロウと同じ笑顔を見せてきた。意識《いしき》して観察《かんさつ》すると父親にそっくり。若い頃のミミロウもラウンのようだったのか、と想像を膨《ふく》らませていた。 「盗賊《とうぞく》がいるのか?」 「ああ。ここは大丈夫だけど隣の町には出るみたいだね。役人《やくにん》達がいるからどうにか保《たも》ってるみたいだよ」 盗賊《とうぞく》もいて、取り締《し》まる役人《やくにん》もいる。本で読んだ通りの事が外では起きている。そう考えると、バリスに守られていた自分達は幸せだったのかもしれない。新聖域《しんせいいき》から出てはいけない、この決まり事さえ守れば、後は自由に過ごしていい。その当たり前がここでは歪《いびつ》に感じるだろう。 「盗賊《とうぞく》……か」 引っかかりを覚えたルルアはそう呟《つぶや》くと、考え込む。ラウンは村の細《こま》かな説明をし続けて、ロザンは楽しそうに聞いている。そんな二人の背中を見ながら、ゆっくりと着《つ》いて行った。 意識は現実から遠《とお》のき、見た事のない景色《けしき》に紛《まぎ》れ込《こ》んでいく。今とは違う姿を見せる彼女は目の前の光景《こうけい》に涙しながら、歯痒《はがゆさ》さを噛《か》み砕《くだ》いた
ミミロウはカンカンと金槌《かなずち》を振るっている。鉄の塊《かたまり》に熱を加《くわ》えながら、原型《げんけい》を壊していった。どれくらいの時間が経過《けいか》してのか分からない。一々《いちいち》、作業を中断《ちゅうだん》して確認する程《ほど》でもないと自分に言い聞かせながら、集中力を高めていく。久しぶりに腕を振るうミミロウは、昔に戻ったように没頭《ぼっとう》していた。年老いてからは村長としての立ち位置を優先《ゆうせん》していたから。余計新鮮に感じているよう。「……ふう。体力が落ちたわい」自分の弟子たちは今では立派な鍛冶師《かじし》に成長している。ガヤガヤしていた昔の景色は、遠い昔のように思えた。元々弟子を取るタイプではなかったミミロウだが、必死に頭を下げる若者達を無下《むげ》に追い返す事は出来なかった。「今ではワシ一人じゃか。時が経つのは早いの」ブツブツと誰かに聞かせるように独り言を呟《つぶや》いている。そんな姿をこっそりと見ている二人がいるとは知らずに、思い切り金槌《かなずち》を振り下ろした。「……邪魔しちゃ悪いよな」「招待《しょうたい》してくれたんだから……大丈夫でしょ」ルルアとロザンは扉の隙間《すきま》を作り、彼の背中を見つめている。村長としてのミミロウしか知らない二人は、珍《めずら》しそうにキラキラと目を輝かしていた。どんな武器になるのだろうかと思いながら、ロザンの背中に体重をかけていく。すると、バランスを崩《くず》したロザンは小さく「わっ」と漏らすと、ドサッと前に崩れていく。多少の音なら彼の集中をとぎらす事はなかっただろう。思ったよりも大きな音を立ててしまったようだった。ビクリと背中を震《ふる》わせながら手を止める。完璧《かんぺき》に集中力が切れてしまったミミロウは音のした方向に振り向いた。「……何をしておる、お前達」「ははは」「来たなら来たと言わんかい。ビックリするじゃろ」近くにある机に金槌《かなずち》
Komen