ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜

ルルアの冒険録〜異質な存在の二人〜

last updateDernière mise à jour : 2025-10-19
Par:  空蝉ゆあんComplété
Langue: Japanese
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2つの運命を背負う猫耳族のルルア。申し子として転生されてきたロザンとの出会いが彼女の運命を変えていく。 一緒にこの景色を見ながら支え合いながら生きていくーー その願いを抱きながらも残酷な運命が二人を翻弄していく。 本格派ファンタジー

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Chapitre 1

第1話 異世界転生者

同じ景色を見ながら、この関係性が永遠に続くのだと信じていた。

あたしは彼の背中を見つめる事しか出来ない。

剣と剣がぶつかり合う音がついさっきの事のように思えて仕方なかった。

草原に包まれていた世界は反転し、ロザンを闇へ迎えようとしている。黒い渦に吸い寄せられるように、前進し続ける彼を止める事が出来ない。

「……待ってロザン! 行かないで」

彼の剣技、瞬間相殺《しゅんかんそうさつ》によって負傷してしまった体は思うように動いてくれない。

二人の冒険の終焉《しゅうえん》がこんな残酷なものになるなんて──

振り返る様子もないロザンは帝国ミミリアを捨て、魔王によって作られたもう一つの帝国リニアへ足を踏み入れていく。

表と裏で繋がった2つの世界は崩壊と再生を望むように、私達を切り裂いていった。

第1話 異世界転生者

この世界は帝国ミミリアを中心に成り立っている。あたし達、猫耳族が統率を取る前までヘブンスレイス国家を支配していたのはヒューマンと呼ばれる種族だった。

彼らはあたし達猫耳族と違って頭脳明晰だった。どこから情報を手に入れてきたのかの記述は残されていない。

戦術《せんじゅつ》は勿論、国を統治《とうち》する力の配分、そして民の動かし方を熟知していた。

記述には書かれていない事を知るきっかけになったのは先読み師のバリスばあやの昔話からだった。

繰り返し語られる一つの物語の中には、複数の登場人物が出てくる。幼かったあたしは魅力的な物語にドキドキしながら聞いていた。

藁で編み込まれた掛け布団にくるまりながら、沢山の妄想と夢を見ていた事が、今となっては懐かしい。

「ルルアも大人になると冒険に出るのだろうね。私は心配だよ」

「ばあや?」

バリスばあやからしたら、素直で人の事を疑う事のないあたしの未来を思い描いているよう。微かに猫耳がしょんぼりと下がっている。

「大丈夫だよ、あたし立派な冒険者になるから。そして勇者を導く凄い人になるんだから!」

「……そうか、楽しみだねぇ」

にっこりと向けた笑顔がバリスばあやの心の不安を攫っていく。先を考えても現実は変わらない。

ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ばあやの腕に抱かれている。両親の代わりに育ての親として、あたしの全てを支えてくれる。

それがどれだけ大切な日常だったかを知るのは大人になってからだった。

元々、猫耳族は獣人族《じゅうじんぞく》と呼ばれていた。あたし達の種族以外に五つの種族が存在していたからだ。

ワイバーン族、犬族、魚人族、精霊族、そしてあたし達猫耳族で構成されていた。本来ならこの種族達は、ヒューマンと違って長命だ。最低500年~数千年生きるのが当たり前だった。

長い月日をかけて猫耳族以外は滅び、もう生まれる事もない。

奴隷として生きてきた先祖達は、どんな思いでヒューマンの支配下で生きていたのだろう。

全ての時代背景で生きてきた獣人族は、本当の意味で解放されたのかもしれない。

スヤスヤと寝息を立て始めたあたしを確認すると、バリスばあやは与えられた使命の為に、支度を始める。

今日は満月の日だ──

この世界の本当の姿を取り戻す為に、選ばれた存在の申し子がこの世界に生を受ける。猫耳族だけが残るこの世界に、異質と言わんばかりの彼が満月から生み出されるように、地上へ降りていった。

□□

黒髪を靡《なび》かせながら、満月の一部として封印されていた彼は、数億年ぶりに人として動く事を許された。子供の体の中には青年の魂が宿っている。

天使サミエルは過去の繰り返しを阻止する為に、魂の中心に組み込まれていた闇の因子を取り除き、再び勇者としての役割を与えた。

一度染まった魂の穢《けが》れが元の形に戻る事はないのに、それでもヒューマンとしての彼の生い立ちに同情してしまった。

天使は神々から命を与えられ、世界と世界を繋ぐ架け橋になっている。

「二度目のチャンスですよ、上郷《かみごう》ロザン。貴方がこの世界のヒューマンとして転生したのは二度目です。今になっては覚えていないでしょうが……」

亜空間から帝国ミミリアへ転送された彼にはサミエルの言葉は届かない。彼が生きてきた過去の記録を懐かしそうに見つめながら、全ての繋がりを切断していく。

「私が手助け出来るのはここまでです。後は運命に委ねましょう」

サミエルの立場なら彼の動向を観察する事は出来る。しかし禁忌を犯してしまった魂を再構築させ、ヒューマンとして、勇者としての転生を促した罪により、制限をかけられている。

神々から気づかれないようにしていても、全てを見ている。そこから逃れる事は不可能だった。

自分の子供のように見守り続けてきたロザン。本当の意味で自分の手元から旅立っていったのだろう。

天使の涙を零すと、ほんのりと小雨が降り始める。準備を終え、全ての魔力を解放させる為に、ロザンの目の前に現れたばあやは呼吸を整えながら、呪文を唱えた。

ザクリア・リ・ロウ

ばあやの先読み師としての未来を透視する能力は本物だ。この先の申し子──ロザンの運命を光へと導く為に、裏側に潜んでいる脅威に影響されないように、光魔法を展開していく。

人の悪意は勿論、裏切り、悲しみ。それらの感情が引き金となり、申し子は別の存在に変貌してしまう。

その全てを希望へと、世界の発展の為に、そしてロザン自身の為に、彼の心を守る為の上位結界魔法を描いていった。

「私に出来るのはこれぐらいしか……後はルルアに任せるしかない」

どんなに未来へと繋がるシナリオを改変しても、あたしと彼の縁が切れる事はない。繰り返し見続けてきた複数の未来の先に待ち受けるのは、残酷な現実なのかもしれない。

それでも自分が生きている以上、この力に思いを託す。それが猫耳族を守る事へ繋がるのだから。

小雨が揺れ、地面に吸い込まれていく。まるで地盤が水を欲しがっているように見える。

水はじんわりと滲みながら、魔法陣を生成していく。

全ての光景を満月の光が祝福するように、照らし続けていた。

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第1話 異世界転生者
同じ景色を見ながら、この関係性が永遠に続くのだと信じていた。 あたしは彼の背中を見つめる事しか出来ない。 剣と剣がぶつかり合う音がついさっきの事のように思えて仕方なかった。 草原に包まれていた世界は反転し、ロザンを闇へ迎えようとしている。黒い渦に吸い寄せられるように、前進し続ける彼を止める事が出来ない。 「……待ってロザン! 行かないで」 彼の剣技、瞬間相殺《しゅんかんそうさつ》によって負傷してしまった体は思うように動いてくれない。 二人の冒険の終焉《しゅうえん》がこんな残酷なものになるなんて── 振り返る様子もないロザンは帝国ミミリアを捨て、魔王によって作られたもう一つの帝国リニアへ足を踏み入れていく。 表と裏で繋がった2つの世界は崩壊と再生を望むように、私達を切り裂いていった。 第1話 異世界転生者 この世界は帝国ミミリアを中心に成り立っている。あたし達、猫耳族が統率を取る前までヘブンスレイス国家を支配していたのはヒューマンと呼ばれる種族だった。 彼らはあたし達猫耳族と違って頭脳明晰だった。どこから情報を手に入れてきたのかの記述は残されていない。 戦術《せんじゅつ》は勿論、国を統治《とうち》する力の配分、そして民の動かし方を熟知していた。 記述には書かれていない事を知るきっかけになったのは先読み師のバリスばあやの昔話からだった。 繰り返し語られる一つの物語の中には、複数の登場人物が出てくる。幼かったあたしは魅力的な物語にドキドキしながら聞いていた。 藁で編み込まれた掛け布団にくるまりながら、沢山の妄想と夢を見ていた事が、今となっては懐かしい。 「ルルアも大人になると冒険に出るのだろうね。私は心配だよ」 「ばあや?」 バリスばあやからしたら、素直で人の事を疑う事のないあたしの未来を思い描いているよう。微かに猫耳がしょんぼりと下がっている。 「大丈夫だよ、あたし立派な冒険者になるから。そして勇者を導く凄い人になるんだから!」 「……そうか、楽しみだねぇ」 にっこりと向けた笑顔がバリスばあやの心の不安を攫っていく。先を考えても現実は変わらない。 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ばあやの腕に抱かれている。両親の代わりに育ての親として、あたしの全てを支えてくれる。 それがどれだけ大切な
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2話 物語として語り継いで 無意識の中に隠れているのは意識的に繋がる空間だった。見えない力に縛られているロザンはバリスの能力により彼女の腕の中へ、スポンと堕ちていった。 満月には見えない力が宿っていると言われている。そんな昔の伝承を思い出しながら、彼を受け止めていく。 見えない糸に操られていたように空中に浮いていた彼はどこにもいない。バリスはあどけない姿の少年を見つめている。 見た目は少年なのに、中身は全く違う。それが申し子の特徴だった。見た目だけで判断する事は出来ない。先読み師である彼女だからこそ出来る技だった。 「彼はヒューマンなのね」 長い年月を生きてきたバリスは若かかりし頃の記憶を思い出していく── □□ 弓矢を射る姿が輝いている一人の女性がいた。彼女は猫耳族の族長の娘、呼び名は射抜き屋のバリと呼ばれている。 彼女には弓の才能があった。どこまでも見る事が出来るスキル千里眼を持ち、どんな強敵にも屈する事はない。 「バリ。今日も調子いいな」 「ええロウ。貴方こそ調子よさそうじゃない」 バリはロウと呼ばれている戦士と共に旅を続けていた。本当の事を言っているのかは、自分にしか分からない。お互いの内情を隠しながらも、互いの長所を補いながら、この世界を生き抜こうとしている。 「今日はいつも以上に獲物が多いな。こいつらを使役しているのはヒューマンだろう」 「でしょうね!普通なら人達を襲わないはずよ。危害を加えれば別だけど」 いつものように背中合わせに戦う二人はどんなパートナーよりも息がぴったりだ。100年以上一緒にいる事もあって、互いの戦術を心得ていた。 彼はヒューマン。普通ならここまで生きる事は出来ない。神の加護を持っている選ばれた存在として生まれてきたからこそ、特殊な体質を手にしたのかもしれない。 後に彼の存在を申し子と呼ぶようになっていく。 猫耳族の中でも一番若いバリは1000年間時間が止まったように若い頃のまま。二人はこれ以上年齢を重ねる事なんてないんじゃないかと思う程だった。 全ては申し子の傍にいるからこそ、この現象が起きている。その事に気づいたのは、ロウが封印されてからの事だった。 今まで通り名しか聞いていなかったバリは彼の本当の名前を知る事になる。 聖剣バラメキアに選ばれたロ
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3話 ルンガの村へお邪魔しまーす
新聖域《しんせいいき》での暮らしに慣れていた二人は、今まで感じた事のないワクワク感を胸に抱きながら小道《こみち》を進んでいく。ここから一番近いのはルンガの村だ。この村は鍛冶屋《かじや》の集落《しゅうらく》になっている。勿論《もちろん》、全員猫耳族だ。その中でも背丈が低い人達が殆《ほとん》ど。昔からルンガの村で産まれた猫耳族は小さいのが特徴《とくちょう》として語られている。バリスと暮らしていたルルンは他の街には勿論《もちろん》行った経験がない。首都《しゅと》帝国《ていこく》ミミリアさえも知らないのだ。外の世界と遮断《しゃだん》していた二人からしたら、全ての景色が新鮮《しんせん》そのもの。周囲からしたら当たり前の景色《けしき》でも、違うように見えている。まるで他の国に来たような錯覚《さっかく》を感じながら、髪を揺らしていった。ピョンピョンと跳ねる度に、しっぽが高速で回転している。余程《よほど》嬉しいのだろうーーそんなルルアを見ていると、ふと和《なご》んでいるロザンがいる。種族《しゅぞく》が違っても、二人は見えない絆で結ばれている。姉と弟と言う関係性を越えて、別の感情を抱いている事に、お互い気づけない。それ程なくてはならない存在だった。ルルアはお転婆《てんば》で目の前の光景が楽しくて仕方がない。ロザンはそんな姉の姿を観察しながらも、見守っている。すぐ目を離すと何を仕出かすか分かったもんじゃないと言わんばかり。新しい戦闘服《せんとうふく》と茶色のブーツ、そしてバリスから渡された秘剣《ひけん》ミツルギ。それらがより彼女を興奮《こうふん》へと高めていく。「はしゃぐのはいいけど、足元気をつけろよ。ルルアは鈍臭《どんくさ》いんだから」ロザンは煽《あお》るように忠告をすると、ルルアの頬がみるみる膨《ふく》れ上がっていく。妙に大人ぶっている姿を見ていると、なんだか負けているようで、悔《くや》しい様子。「ロザンと違って大人ですか
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4話 懐かしい優しさ
右足に違和感を感じて、緊急《きんきゅう》停止するルルア。人のお腹のような柔《やわ》らかいものを蹴《け》った気がした。遠くから呻《うめ》き声が聞こえてくる。ルルアは何が起こったのか分からず、呆然《ぼうぜん》としていた。「こんな所に突っ立って、何をしてるんだ?」急に走り出したルルアに追いついたロザンは真っ青になっている姉の様子を心配しつつ、状況《じょうきょう》を確認しようとする。すると、遠くから老人がお腹を抑え、蹲《うずくま》っているのが見えた。一瞬の事だった。吹っ飛ばされたミミロウは建物《たてもの》に激突《げきとつ》し、周囲に破壊音を齎《もたら》していく。なんだなんだ、と村人達が音に引き寄せられるように家から出てきた。自分達と老人しかいなかったのに、村人全員が勢揃《せいぞろ》い。「あー。ミミロウ村長、どうしたんですか?」「大丈夫……じゃ。わしは……」村人の一人がミミロウの元へ駆《か》け寄り、安否確認をする。プルプル震えている体を庇《かば》いながら、体制《たいせい》を整えていく。驚異的《きょういてき》な破壊力を体験したミミロウは、この子達を預《あず》かるのか、と心の中で呟きながら、頭を抱《かか》えるしか出来ない。まさかここまでじゃじゃ馬とは思いもしなかったようだったーー「ルルア、お前何をしたんだ?」「さ、さぁ?」「……はぁ」初めての村で大変な事をしてしまった姉の代わりに、村長へ謝罪をしようと近づいていく。ルルアはその様子をぼんやりと眺《なが》めながら、体から魂を飛ばしていった。□□眠っているルルアがいつ目を覚ますのだろうか。トラブルはロザンがどうにか収《おさ》め、ミミロウは勿論《もちろん》、村人達にも許してもらう事が出来た。彼がいなかったら、どうなっていたのだろうか。想像すると悲惨《ひさん》な末路しか見えてこない。
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5話 不思議な体験
長い時間、夢の中にいたルルアは鶏《にわとり》の鳴き声に叩《たたき》き起こされた。バチッと瞼《まぶた》を見開くと、知らない天井が見える。どうしてベッドで寝ているのか、思い出そうとするが、記憶は曖昧《あいまい》だった。考えても仕方ないと感じたのか、勢いよく起き上がると、んーと背伸びをしていく。 「ふぁあ、良く寝た」 ベッドで寝る事のなかった体は、全ての疲れを吹き飛ばし、ルルアに異様《いよう》な力を与えていく。睡眠がいいとここまで体調的にも精神的にもいいのかと実感する事が出来る。周囲の様子を考えずに、勢い良く起きてしまった。ふと横から寝息が耳を掠める。引き寄せられるように視線を落とすと、横で気持ちよさそうに眠っているロザンがいる。 起こしてしまったかもしれないとアタフタしていたが、小さく声を零すと、再び熟睡《じゅくすい》モードに入った。内心ホッとしたルルアは、起こさないようにベッドから這い出ていく。 ここは何処《どこ》だろう。見た感じ宿屋《やどや》と言うよりも、誰かの家のように見える。部屋の隅《すみ》に置かれた生活感、溢《あふ》れる作業着が目に入る。ここは鍛冶屋《かじや》の村と言われている。引っ掛《か》けられている作業着も鍛冶屋関連のものなのだろう。少し鉄の匂いがしている気がする。 自分の状況を把握《はあく》するように、周囲を観察する。ベッドが置かれている位置の裏手《うらて》にドアが隠れていた。最初裏戸だと思ったが、装飾《そうしょく》を見ると、どちらかと言うと部屋に続くものに思えて仕方ない。 軽くコンコンとドアを叩いてみる。中に人がいるかの反応を待っていた。数分、猶予《ゆうよ》を与えてみるが、何の反応もない。自分の考えが外れているのだろうか、と不思議そうに見つめた。疑問を解消《かいしょう》する為に、行動に起こそうとするルルアがいる。 「誰もいない……気になるわ、この先」 冒険心を止める事が出来ないルルアは、覚悟を決めると
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6話 相容れる事の出来ない二人
月夜の姿が風と共に消えていく。元の空間に置き去りにされたルルアは、前世の記憶を手にする前とは確実に変化した。心がざわついて、安定する事が出来ない。今までのルルアとしての自分ならこんな感情を抱く事はなかっただろう。 一つの体に自分とは違う人格《じんかく》が生まれた。受け入れるかどうかを決めきれないルルアは、ただその姿を呆然《ぼうぜん》と見る事しか出来なかった。そんな姿を見ている月夜は困ったように微笑むと、最低限《さいていげん》のサポートを発動させていく。 「私にはこれくらいしか出来ない」 彼女に見せないように結界《けっかい》を張り、詠唱《えいしょう》していく。聞いた事のない言語で呪文《じゅもん》を唱《とな》えると、空間の流れが極端《きょくたん》に遅くなっていく。結界の中に時間が止まった状態で立っているロザンの姿が残っている。月夜はソッと彼の頬に手を添えると、耳元である呪《のろ》いを呟いた。 月夜の存在はルルアにとっては光の道へと示《しめ》す守り神。しかしロザンにとっては全く正反対の意味を持つ存在として認識《にんしき》される事になる。毒に毒を注ぐと、中和《ちゅうわ》されて慣れていく。いや正確には麻痺《まひ》していくのだ。 「君は幾ら望んでも元の立ち位置に戻る事は出来ないだろう。それは君が自ら望んだ未来の形だ。幾ら姿を変えて転生したとしても、同じ結果しか生まれないーー」 ロザンは月夜の姿を目視《もくし》出来ないが、あの魔法陣を見てしまった。闇に染まったはずの彼にあの光景が見えているのなら、何かしらの術《じゅつ》と誰かの干渉《かんしょう》によりロザンとしてやり直すきっかけを与えられたのだろう。 しかしルルアが居る限り、彼に明るい未来は訪《おとず》れないーー 「本来転生者は一人のみ。それが二人も選ばれる……それが何を意味するのか理解出来ているのか?」 記憶を持ちながら生きる事が出来るロザンと転生前の記憶を失う事でより
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7話 鍛冶師ミミロウ
ミミロウはカンカンと金槌《かなずち》を振るっている。鉄の塊《かたまり》に熱を加《くわ》えながら、原型《げんけい》を壊していった。どれくらいの時間が経過《けいか》してのか分からない。一々《いちいち》、作業を中断《ちゅうだん》して確認する程《ほど》でもないと自分に言い聞かせながら、集中力を高めていく。久しぶりに腕を振るうミミロウは、昔に戻ったように没頭《ぼっとう》していた。年老いてからは村長としての立ち位置を優先《ゆうせん》していたから。余計新鮮に感じているよう。「……ふう。体力が落ちたわい」自分の弟子たちは今では立派な鍛冶師《かじし》に成長している。ガヤガヤしていた昔の景色は、遠い昔のように思えた。元々弟子を取るタイプではなかったミミロウだが、必死に頭を下げる若者達を無下《むげ》に追い返す事は出来なかった。「今ではワシ一人じゃか。時が経つのは早いの」ブツブツと誰かに聞かせるように独り言を呟《つぶや》いている。そんな姿をこっそりと見ている二人がいるとは知らずに、思い切り金槌《かなずち》を振り下ろした。「……邪魔しちゃ悪いよな」「招待《しょうたい》してくれたんだから……大丈夫でしょ」ルルアとロザンは扉の隙間《すきま》を作り、彼の背中を見つめている。村長としてのミミロウしか知らない二人は、珍《めずら》しそうにキラキラと目を輝かしていた。どんな武器になるのだろうかと思いながら、ロザンの背中に体重をかけていく。すると、バランスを崩《くず》したロザンは小さく「わっ」と漏らすと、ドサッと前に崩れていく。多少の音なら彼の集中をとぎらす事はなかっただろう。思ったよりも大きな音を立ててしまったようだった。ビクリと背中を震《ふる》わせながら手を止める。完璧《かんぺき》に集中力が切れてしまったミミロウは音のした方向に振り向いた。「……何をしておる、お前達」「ははは」「来たなら来たと言わんかい。ビックリするじゃろ」近くにある机に金槌《かなずち》
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8話 二人のルルア
最初はミミロウの武器を打つ姿を見ていようと考えていたルルアは残念そうな表情《ひょうじょう》を浮《う》かべながらトボトボと歩いている。彼に紹介《しょうかい》された息子ラウンは二人を客人としてもてなしてくれた。ルンガの村はそれほど大きくない。その代わりに村を守るように聳《そび》え立つ鉱山《こうざん》があった。裏手《うらて》の通りを進んでいくと辿《たど》り着《つ》くと説明を受ける。鉱山《こうざん》と聞いた事はあったが、実際《じっさい》身近に感じたのは初めての事だった。 「ルンガ村は鉱山に守られているんだ。この地形のお陰《かげ》で盗賊《とうぞく》の被害《ひがい》も殆《ほとんど》どない」 ラウンはそう言い切ると、ミミロウと同じ笑顔を見せてきた。意識《いしき》して観察《かんさつ》すると父親にそっくり。若い頃のミミロウもラウンのようだったのか、と想像を膨《ふく》らませていた。 「盗賊《とうぞく》がいるのか?」 「ああ。ここは大丈夫だけど隣の町には出るみたいだね。役人《やくにん》達がいるからどうにか保《たも》ってるみたいだよ」 盗賊《とうぞく》もいて、取り締《し》まる役人《やくにん》もいる。本で読んだ通りの事が外では起きている。そう考えると、バリスに守られていた自分達は幸せだったのかもしれない。新聖域《しんせいいき》から出てはいけない、この決まり事さえ守れば、後は自由に過ごしていい。その当たり前がここでは歪《いびつ》に感じるだろう。 「盗賊《とうぞく》……か」 引っかかりを覚えたルルアはそう呟《つぶや》くと、考え込む。ラウンは村の細《こま》かな説明をし続けて、ロザンは楽しそうに聞いている。そんな二人の背中を見ながら、ゆっくりと着《つ》いて行った。 意識は現実から遠《とお》のき、見た事のない景色《けしき》に紛《まぎ》れ込《こ》んでいく。今とは違う姿を見せる彼女は目の前の光景《こうけい》に涙しながら、歯痒《はがゆさ》さを噛《か》み砕《くだ》いた
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9話 ミミロウの願いと運命の分かれ道
急に倒れたルルアを覗《のぞ》き込《こ》んでいるロザンは昔にも同じ事があったのを思い出していた。昔は何が原因なのか分からず、慌《あわ》てふためくしか出来なかった。少し大人になった彼は、環境の変化により彼女の精神に負担《ふたん》を与《あた》えてしまったのではと思っている。慣《な》れ親しんだ環境から未知の世界に足を踏《ふ》み込んだのだ。そうなるのも仕方ないかもしれない。バリスに忠告《ちゅうこく》はされていたが、こんなにも早く現れるとは思っていなかった。村を案内してくれたラウンには申し訳ないが、事情《じじょう》を話して泊まらせてもらっている家へと向かう。こういう時、俊足《しゅんそく》のスキルがあればあっという間だろう。生憎《あいにく》ロザンはスキルを所有《しょゆう》していない。普通なら適正《てきせい》を持ちながらに生まれた肉体はスキルを生成《せいせい》する事が出来る。しかしロザンはその当たり前の事が出来ない、唯一《ゆいいつ》の人物だった。この事はルルアも知らない。事実を把握《はあく》しているのは彼以外にバリスだけ。これから生きていく為には黙っていた方がいいと指摘《してき》を受け、それから口にした事は一度もない。「……すぐに休もう。俺も側《そば》にいるから」この時のロザンは隠れている事実に気付けないでいる。ルルアがこうなるのは彼の存在に原因があるからだ。彼はこの世界で唯一《ゆいいつ》の勇者として召喚《しょうかん》されたはず。しかし時は流れ、世界は変化していった。ヒューマンとしての勇者は存在しない。彼の存在は異質《いしつ》で、受け入れられる事はないだろう。その反対にルルアは全ての獣人族《じゅうじんぞく》の力を使用出来るチートスキルの持ち主。バリスの魔法によって隠されているが、この事実を猫耳族《ねこみみぞく》に周知《しゅうち》されると、勇者以上の立ち位置、そして女神としても祀《まつ》られる。より強い力を引き出し、自分のものに出来た時には蛇神《じゃしん》と同じように崇拝《すうはい》されていく。それ程《ほど》の存在だ。2つの対立《たいりつ》している力が
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10話 命の泉死の泉
昔の事を思い出しながら自分の背負った十字架《じゅうじか》を魂に刻《きざ》んでいく。ミミロウにかけて貰《もら》った優しさを捨てなければ受け止める事が出来なかったロザンは、彼が魂を込め打ち続けた聖剣《せいけん》ガイアを暗黒の世界へ掲《かか》げると、異界《いかい》へ繋がる門が顔を覗かせた。 「駄目よ、ロザン!」 「……」 あの時よりも大人の雰囲気《ふんいき》を漂《ただよ》わしながら、ルルアが叫んだ。一緒に歩こうと誓《ちか》い合った約束を忘れてしまったのかと言わんばかりに。太陽のように希望に満ちていた彼はもういない。ミミロウが彼の立場を世界の事実を告げた事により、本当の自分の居場所が何処《どこ》なのかを知ってしまった。 隣でいたはずのルルアの笑顔も優しさも、バリスの愛しさも……全てを否定して、最初からなかった事のように記憶から排除《はいじょ》していく。最初は悲しくて苦しかったロザンも、同じ事を繰り返し、人々の悍《おぞ》ましさ、恐ろしさを体験する事で、作られた価値観が崩壊《ほうかい》し、昔のロザンへと戻していく。 ルンガの村はこの世界の中心に聳《そび》えている。その中から終焉《しゅうえん》の魔術師から受け取った宝石を使い、守護《しゅご》の村へと替《か》えていた。表面から見たら鍛冶屋《かじや》が集う村だが、奥側に埋め込まれていたものは世界を司《つかさど》り力を与える大樹《たいじゅ》の祠《ほこら》として清《きよ》められている。 無くしたものを取り戻す事が出来たロザンはあの時と同じように、ルンガの村を襲《おそ》うと、炎で満たしていく。結界《けっかい》の核《かく》を壊す事に成功した彼を止める者は何処《どこ》にもいない。少年だったロザンが大人になった姿を懐《なつ》かしそうに悲しそうに見つめているミミロウは、自分のしてしまった過《あやま》ちの大きさに気づくのだった。 「この村の裏手《うらて》
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