2つの運命を背負う猫耳族のルルア。申し子として転生されてきたロザンとの出会いが彼女の運命を変えていく。 一緒にこの景色を見ながら支え合いながら生きていくーー その願いを抱きながらも残酷な運命が二人を翻弄していく。 本格派ファンタジー
View More2話 物語として語り継いで 無意識の中に隠れているのは意識的に繋がる空間だった。見えない力に縛られているロザンはバリスの能力により彼女の腕の中へ、スポンと堕ちていった。 満月には見えない力が宿っていると言われている。そんな昔の伝承を思い出しながら、彼を受け止めていく。 見えない糸に操られていたように空中に浮いていた彼はどこにもいない。バリスはあどけない姿の少年を見つめている。 見た目は少年なのに、中身は全く違う。それが申し子の特徴だった。見た目だけで判断する事は出来ない。先読み師である彼女だからこそ出来る技だった。 「彼はヒューマンなのね」 長い年月を生きてきたバリスは若かかりし頃の記憶を思い出していくーー □□ 弓矢を射る姿が輝いている一人の女性がいた。彼女は猫耳族の族長の娘、呼び名は射抜き屋のバリと呼ばれている。 彼女には弓の才能があった。どこまでも見る事が出来るスキル千里眼を持ち、どんな強敵にも屈する事はない。 「バリ。今日も調子いいな」 「ええロウ。貴方こそ調子よさそうじゃない」 バリはロウと呼ばれている戦士と共に旅を続けていた。本当の事を言っているのかは、自分にしか分からない。お互いの内情を隠しながらも、互いの長所を補いながら、この世界を生き抜こうとしている。 「今日はいつも以上に獲物が多いな。こいつらを使役しているのはヒューマンだろう」 「でしょうね。普通なら人達を襲わないはずよ。危害を加えれば別だけど」 いつものように背中合わせに戦う二人はどんなパートナーよりも息がぴったりだ。100年以上一緒にいる事もあって、互いの戦術を心得ていた。 彼はヒューマン。普通ならここまで生きる事は出来ない。神の加護を持っている選ばれた存在として生まれてきたからこそ、特殊な体質を手にしたのかもしれない。 後に彼の存在を申し子と呼ぶようになっていく。 猫耳族の中でも一番若いバリは1000年間時間が止まったように若い頃のまま。二人はこれ以上年齢を重ねる事なんてないんじゃないかと思う程だった。 全ては申し子の傍にいるからこそ、この現象が起きている。その事に気づいたのは、ロウが封印されてからの事だった。 今まで通り名しか聞いていなかったバリは彼の本当の名前を知る事になる。 聖剣バラメキアに選ばれた
同じ景色を見ながら、この関係性が永遠に続くのだと信じていた。 あたしは彼の背中を見つめる事しか出来ない。 剣と剣がぶつかり合う音がついさっきの事のように思えて仕方なかった。 草原に包まれていた世界は反転し、ロザンを闇へ迎えようとしている。黒い渦に吸い寄せられるように、前進し続ける彼を止める事が出来ない。 「……待ってロザン! 行かないで」 彼の剣技《けんぎ》瞬間相殺《しゅんかんそうさつ》によって負傷してしまった体は思うように動いてくれない。 二人の冒険の終焉《しゅうえん》がこんな残酷なものになるなんてーー 振り返る様子もないロザンは帝国《ていこく》ミミリアを捨て、魔王によって作られたもう一つの帝国リニアへ足を踏み入れていく。 表と裏で繋がった2つの世界は崩壊と再生を望むように、私達を切り裂いていった。 第1話 異世界転生者 この世界は帝国ミミリアを中心に成り立っている。あたし達、猫耳族《ねこみみぞく》が統率《とうそう》を取る前までヘブンスレイス国家を支配していたのはヒューマンと呼ばれる種族だった。 彼らはあたし達猫耳族と違って頭脳明晰《ずのうめいせき》だった。どこから情報を手に入れてきたのかの記述は残されていない。 戦術《せんじゅつ》は勿論《もちろん》、国を統治《とうち》する力の配分、そして民の動かし方を熟知《じゅくち》していた。 記述《きじゅつ》には書かれていない事を知るきっかけになったのは先読み師のバリスばあやの昔話からだった。 繰り返し語られる一つの物語の中には、複数の登場人物が出てくる。幼かったあたしは魅力的な物語にドキドキしながら聞いていた。 藁《わら》で編み込まれた掛け布団にくるまりながら、沢山の妄想と夢を見ていた事が、今となっては懐かしい。 「ルルアも大人になると冒険に出るのだろうね。私は心配だよ」 「ばあや?」 バリスばあやからしたら、素直で人の事を疑う事のないあたしの未来を思い描いているよう。微かに猫耳がしょんぼりと下がっている。 「大丈夫だよ、あたし立派な冒険者になるから。そして勇者を導く凄い人になるんだから!」 「……そうか、楽しみだねぇ」 にっこりと向けた笑顔がバリスばあやの心の不安を攫っていく。先を考えても現実は変わらない。 ゴロゴロと喉を鳴らしながら、ばあやの腕に抱かれている。両親の代わり
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