聖衣の召喚魔法剣士

聖衣の召喚魔法剣士

last updateDernière mise à jour : 2026-03-16
Par:  KAZUDONAEn cours
Langue: Japanese
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召喚獣と真に心を通わせた者だけが身に纏う鎧を聖衣《ドレス》というんだ! VRが革新的な発展を遂げた西暦2125年。 それはVRMMOにも絶大な進化を及ぼしていた。 Vivid Arcadia Online VAOと呼ばれる人気VRMMOを楽しむのが日課の一色和士(イッシキ ナギト)もまたその一人だった。 メインキャラ(男キャラ)をやり込んだので、今度はサブキャラ(女性キャラ)でこれまでと違ったプレイを楽しんでいたらとんでもない事態に!? 大変なことに巻き込まれながらも前向きに楽しんでいく、 マイペースでポジティヴシンキングなゲーム内ライフ、スタートです!

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Chapitre 1

0   プロローグ

 西暦2125年。VR技術は、人間の生き方そのものを変えてしまった。

 今や、誰もが満員電車に揺られる必要はない。国が支給する専用のVR端末とネット環境さえあれば、学校も職場も、すべて仮想空間の中に存在する。

 授業も会議もログインひとつ。人々は通勤の苦痛から解放され、タイムパフォーマンスという言葉が新たな価値になった。

 もちろん、いいことばかりではない。交通機関の利用者は激減し、現実の商業施設や観光業は軒並み打撃を受けた。

 それでも、誰もこの便利さを手放せなかった。

 ——現実(リアル)なんて、ログインすれば事足りる。

 そうした新時代を、誰よりも自然に受け入れている青年がいた。現在大学生活を謳歌する、一色和士イッシキナギト。彼の日常は、ほとんどVRの中で完結していた。

 朝起きて端末を装着し、仮想キャンパスにログイン。授業を受け、サークルの仲間たちと会話し、放課後には少しゲームをする。

 実際に外へ出るのは、アルバイトかスポーツをするときくらいだった。だからこそ、現実の空気を吸うたびに「懐かしい」と思う。VRの生活が当たり前になりすぎていた。

 ——いや、もしかしたら、彼にとって現実のほうが“逃避”だったのかもしれない。

 和士には、忘れられない過去がある。

 幼いころは海外で育ち、父は一流のサッカー選手だった。しかし、突然の事故で父を失い、母と共に日本へ帰国。その母も心の傷から立ち直れず、早くに亡くなってしまった。

 それでも和士は、父の背中を追ってサッカーに打ち込み続けた。ユース日本代表に選ばれるほどの有望株。

 けれど——試合中の事故で膝と足首を壊した。

 何度も手術を受けたが、元の動きは戻らなかった。夢は潰えた。十代の終わりにして、世界から取り残されたような気分になった。

 そんな和士を救ったのが、友人の一言だった。

「まあ、息抜きだと思ってやってみろよ。面白いからさ」

 そう言われて始めたのが、ファンタジーVRMMORPG、Vividヴィヴィッド Arcadiaアルカディア Onlineオンライン——通称VAOだった。

 最初はただの暇つぶしだった。

 だが、初めて体験する“もう一つの現実”は、あまりにも鮮烈だった。

 広大な世界、美しい景色、そして数えきれないほどの冒険者たち。

 和士は夢中になった。サッカーで失った「戦う感覚」を、再び手に入れた気がした。VAOが、正しくVividな鮮やかで、Arcadiaの楽園のような体験をOnlineで和士に提供してくれたのである。

 学業はしっかりと好成績で修めていたので、志望校への合格は問題なかった。それ以外の時間、これまでの怪我で夢破れた鬱屈とした気分を晴らす様にVAOの世界にのめり込んだ。サッカー以外で夢中になったのはこれが初めてだった和士が廃人の様にネトゲにはまるのは仕方なかったのかもしれない。フルダイヴの中で自由に動けて自由な目的を目指すプレイが和士には実に充足感に満ちていたのである。数年でトップランカーにまで肩を並べるほどにやり込んだ。

 だがVAOにはこれまでのVRMMOにはない、独特のシステムがあった。通常はレベルを上げて行けばスキルやアビリティなど、スキルポイント等を振り分けて職業ごとに見合った能力が手に入るのだが、VAOにはこれといった定番のシステムが存在しないのである。特定の条件を満たさなければ、スキルやアビリティが入手不可能なのである。そのため、多くのプレイヤーがオリジナリティを求めて独自の育成を試していった。

 その独特、いわば尖りすぎているシステムが良くも悪くも話題になり、スキル取得に成功した先達らによってSNSや攻略サイトは盛り上がりを見せた。和士もそれらに夢中になっていた時期があったが、独自のプレイスタイルを構築してからは、偶にしか目を通すことはなくなった。先人たちの通った道をなぞるのでは面白くないという思いが、彼の中では大きくなってきたのである。

 彼が最初進めていた職業はいわば聖騎士パラディンというものだった。屈強なフィジカルで敵を受け止め薙ぎ払う。巨大な片手用の大剣に大盾、全身鎧というスタンダードなものだった。PNプレイヤーネームはカーズ。和士をもじって作った屈強な筋骨隆々なキャラだった。もう怪我をしたくないという、彼の深層心理の表れだったのかもしれない。そして彼はゲーム内で知り合った友人達と国を創り、そこの騎士団長というロールを預かることになったのである。

 VAOには広大なオープンフィールドがあり、1プレイヤーが国家を創設することもできる。莫大な資金や国民となってくれるプレイヤー達の支持が必要になるが、不可能ではない。国営が上手くいけば資金も莫大になるし、どこかの国に所属したいというプレイヤー達が集まり、勢力も大きくなる。他国と戦争というPvP対決をすることもできるようになり、勝利すれば得られる領地や互いが最初に賭けた資金も総取りでき、旨味があるのである。MMOが最終的にはPvPに行き着くのはある意味仕方がないのかもしれない。

 ゲーム内の友人カシューが創設した国は<エデン>。Arcadiaという桃源郷の中に<至上の楽園>を創るとはいかなるネーミングセンスであろうかと当時の和士は思ったものだが、目立つことで散々戦争というPvPに巻き込まれて美味しい思いをしたので、今では悪くないと思っている。いや、むしろ愛着すらある。荒んでいた頃と比べれば、不健康かもしれないが、VAOの中での体験は和士にとって掛け替えのないとまではいかないまでも、大事なものになっていた。あの頃の彼は、現実の痛みを忘れ、ただ純粋に楽しんでいたのだ。

 エデンが落ち着いてからは、他の遊び方も模索しようと思い、サブキャラを作成することにした。聖騎士然としたカーズというキャラがある意味理想的な筋骨隆々な自分なら、真逆なものを創ってみようということになり、どうせVRの中だけだからということで女性キャラを創ってみるのもいいかもしれないと思い、かなり細かいキャラ造形まで可能な安い課金アイテムをアルバイト代で賄って、細部にまでこだわって作成した。

 今回は比較的身軽な装備で進めようと思い、片手剣と刀、魔法も習得して魔法剣士の様な感覚で育成した。それでもイマイチ何かが足りないなと思っていた頃、召喚魔法のアップデートが行われた。召喚獣を使役して戦わせるというスタイルだった。育成に行き詰まっていたところに思いもよらないアップデート、しかもVAOは普段ほとんどアップデートがないので、乗るしかないと和士は思った。そうして育成は進み、かなりの強キャラの作成に成功したのだった。

「ナギ兄ちゃん、もうすぐ晩御飯だよー」

 従妹の一色忍イッシキシノブが自室に彼を呼びに入って来た。丁度VRサークレットという厳つい眼鏡の様な機器を外したところだった和士は忍に応える。

「ああ、うん、もうちょいしたら行くよ。ありがとう、ばあちゃんにすぐ行くって言っておいて」

「まーたゲームやってる。へー、ふーん、そういうのがナギ兄ちゃんの好みの女の子なんだ? はー、そりゃそんなVRにいるみたいな美人いないもんねー、そりゃ恋人の一人も作らない訳だわ。好意を持ってる子達可哀想にー」

 PC画面を覗き込んで、キャラクター選択画面にいる女性キャラを見ながら忍が不躾なことを言った。

「おい、勝手に見るなよ。って誰だよ、好意持ってる人なんかどこにいるんだよ?」

 和士は数年前に幼馴染の恐らく片思いだった女の子を病気で亡くしている。それ以来どうもその手の話が苦手になっていた。でもいつかは折り合いを付けないといけないとは思っていた。しかし、和士はどうしようもない程恋愛事情に疎い。好意を向けられても気付かずに華麗にスルーすることが多々あった。

「さあねー、誰でしょうか? もしかしたら近くにいるかもしれないよー。じゃあ、早く降りて来なよー」

 忍は思わせ振りなことを言いながら、部屋から出て行った。階段を降りる足音が遠ざかる。

「身近な人? 余計わからん。あ、やり忘れたクエがある。サクッとやってから行くか、腹も減ったし」

 もう一度VRサークレットを装着し、ログインコマンドを唱える。

「Connection——on!」

 次の瞬間、視界が真っ白に染まり、意識が落ちた。

 ◆◆◆

 視界が光に包まれたあと、和士の身体はふっと浮いた。

 ——ログイン、完了。

 風と足元の草の感触。いつものフィールドだ。

 エデンの都から南に数キロ進んだところにある平原。この夕暮れの時間帯になると緑色の皮膚をした小鬼、いわゆるゴブリンが爆湧きする。低レベルのモンスターだが、この時間制限クエストの報酬はなかなかに美味しい。早速南からゴブリンの大軍が押し寄せて来る。しかし、普段ならこの報酬狙いで来ている他のPプレイヤーCキャラクター達が全くいない。

「珍しいな。ここ、いつも混んでるのに」

 妙だなと思いながらも、目前に迫ったゴブリンの群れに向かって駆け出す。和士は左利きのため、腰の右にある鞘から左手で刀を抜刀、刃が夕日を受けて光る。そうして次々と斬り伏せていく。

「誰も来ないってことは総取りだな。やったぜ」

 刀を一振りするたびに何匹ものゴブリンを斬り裂く。草を踏みしめる音、金属がぶつかる感触。手応えが、やけにリアルだ。だがいつもなら他のPC達が多く集まるため、取り囲まれることなどないのだが、今回はソロのため、あまりにも多勢に無勢が過ぎて切りがない。

「仕方ない、奥の手を使うか」

 敵陣から後ろへ跳び、右手に魔力を集中させる。

「舞い踊れ火炎よ、バレッテーゼ舞踏・フレア火炎!」

 グギャアアアアアアアアアアア!!!

 炎の渦が大地を焼く。

 ゴブリン達の悲鳴が重なり、空気が震えた。放たれた炎の舞によって前進するゴブリン共は焼き払われたが、屍を諸共にせずに次々に敵の波が押し寄せて来る。

「まいったな、湧きすぎだ。召喚で押し切る!」

 低レベルとはいえ、これは少し骨が折れると感じた和士は両手を広げ詠唱、召喚魔法を発動させる。

「さあ力を示せ、出でよ、サラマンダー火蜥蜴にアイスリザード氷蜥蜴!」

 グルウウウウウウウゥ!!! ガアアアアアアアアァ!!!

 和士の前方に展開された魔法陣から、全身に炎を纏い業火を噴き出すサラマンダーと周囲を凍てつかせる凍気を纏った氷で形作られたかの様なアイスリザードが召喚され、吐き出した炎と氷のブレスが敵陣を蹂躙する。更に味方戦力の能力を向上させるために、蠱惑的な衣装を身に纏った背中に翼が生えたセイレーン海魔女を召喚し、傍らに控えさせる。

「お呼びですか、御主人? なるほど、ゴブリンの群れですね。ならば士気を高めるために歌いましょう」

「話が早くて助かる」

 セイレーンの透き通る歌声が響き渡り、召喚獣と和士の能力が底上げされ身体が軽くなる。サラマンダーの炎は赤々と燃え、アイスリザードのブレスは鋭さを増した。

 完璧だ。それでも本来なら複数人で挑むクエストのため、ゴブリンの数はまだまだ多い。セイレーンを後ろに下がらせてから、和士は再び剣を取って敵陣に飛び込んだ。

 ◆◆◆

 和士と召喚獣達がゴブリンの大軍を圧倒していたとき、エデン王国からゴブリン討伐の任務を負った騎士達が遅れて平原を見下ろせる小高い丘の上に集結していた。彼らはそこから、たった一人でゴブリンの大軍を圧倒する何者かがいることを発見する。斥候に向かっていた兵士が、軍の隊長格の男に話しかけた。

「ライアン副隊長、状況ですが……」

「見ればわかる、何者だあれは? たった一人であの数のゴブリンを蹴散らすとは……。しかも連れているのは召喚獣なのか? しかも同時に3体も使役しているとは」

 彼らは騎士である。国、エデン王国という母国の為ならば喜んで殉じる覚悟がある。だが、それでもあの業火と吹雪の吹き荒れる中に割って入っていくのは恐怖だと感じていた。それでも、どう見ても小柄な一人の戦士に全てを任せてここから高見の見物をすることなど、彼らの矜持が許せなかった。

「行くぞ、あの者がかなりの使い手だとしても一人に任せて見物していたなど、エデン王国騎士団の名が廃る!」

 ライアンはそう言うと、数十人の配下を引き連れ丘を下って和士の下へと馬を走らせた。

 ◆◆◆

 大半の敵を蹴散らし、セイレーンの下まで バックジャンプで戻る。ふっ、と呼吸を整えてから恐らくこの群れを率いているボスモンスターが現れるのを待つ。そのとき吸い込んだ空気に妙な臭いがすることに気付いた。斬り裂いて弾き飛ばしたゴブリン共の死体が消えていない。臓腑をぶち蒔き、斬り飛ばした胴体や手足からは血が流れている。血の臭いと炎で肉が焦げた臭い。これまでのVR体験、VAOでは感じたことがなかった感覚である。青と白のデザインの冒険者装備にも無数の返り血がかかっている。それに、皮膚に当たる熱も冷たさも、痛いほどリアルだ。

「何だ、これ……? いつもはエフェクトで消えるのに……」

「何ってー、御主人が斬った敵の返り血ですよ? うわー、臭い」

「……返り血?」

 セイレーンはさも当然という様な反応を示している。これは自分がおかしいのか、それともいつの間にか妙なアップデートでもされたのだろうか? どの道このままではあまり気分が良くない。サラマンダーとアイスリザードを手前まで下がらせる。考えるのは後に回そう、そう切り替えて呼吸を整える。

「これは……、どうなっているんだ?」

 背後からエデン王国の黄金の獅子の紋章を掲げた騎馬に乗った騎士団が到着した。団長らしき大柄な男が馬から降りて和士の方へ歩み寄って来た。敵意を感じないため、召喚獣達は大人しく待機している。

「ああ、すまない。俺はエデン王国騎士団副団長のライアンってものだ。討伐任務をこなしに来たら、こんな少女が一人で戦ってるときたもんだ。しかし、よくここまでやったな……」

 騎士団ということはNノンPプレイヤーCキャラクターということだろうか? それにしては口調が余りにも本物の人間らしい。それに副団長とは……、なるほど、最近はインしていなかったが、そもそも隊長は和士のメインキャラである。しかし、NPCに名前などつけてあっただろうか? だが彼の声も表情も、NPCにしてはあまりに“生々しい”。

 汗の光、息遣い、装備の金属音。全部が現実としか思えなかった。

 色々と腑に落ちないことがあるが、先ずはここから出現するボスモンスターの討伐が先である。

「召喚獣達の御陰だよ、俺一人だともっと梃子摺ってた。そんなことより、ここからが本番だ。ボスが出て来るぞ」

 和士の一言によって騎士団に緊張が走る。全員下馬し、ライアンの後ろに隊列を組んだ。準備は万端ということだろう。だが、この騎士団のステータスが見えない。もしかしてバグだろうか? そんなことを考えている和士の眼前に10mはある羽を生やした黒い魔物が跳躍して来た。両手に巨大な漆黒の鎌を装備し、両側頭部から上向きの太い角が伸びた異形の姿。全身にも頑丈そうな鎧を纏っている。

「悪魔……! 間違いない、こいつは悪魔だ。しかもかなり上級の……」

「あ、悪魔だって?! ゴブリンを率いているのは普通ロードとかキングゴブリン程度だろ!? 何だってこんなところに……!?」

 ライアンの驚きは当然の反応である。VAOで悪魔と言えば、上級ダンジョンやクエストのボスモンスターが定番である。こんな場所に出現していい魔物ではない。しかも複数人で連携して戦うランクの怪物である。

「出ちゃった以上仕方ない。アンタ達は下がっていてくれ、俺と召喚獣達でやる」

 腰が引けた以上は戦いの場に出すのは危険過ぎる。例えNPCでも目の前で死なれては目覚めが悪い。和士の指示で後方へと退避した騎士団を確認してから、悪魔へと向き直る。

「あれだけいたゴブリン共が、全く使えぬな。初めから我一人が出て来ていれば人間の掃討など造作もないというのに。カカカカッ! 小娘、余計な真似をしてくれたな! 貴様から血祭りにしてやる!」

 喋った——!?

 悪魔が嗤い、鎌を構えた瞬間、和士の背筋に冷たい汗が伝った。これはイベントじゃない。演算では説明できない“存在感”がある。妙だ。この悪魔も所詮は魔物というNPCのはず。その割によく喋る。しかも状況に合った台詞を違和感なく喋るのが更に不気味に感じられる。どこまで大掛かりなアップデートが実施されているのだろうか。しかも再びログインするまで大した時間はなかったはずである。

 しかし小娘とは、サブキャラとはいえ丹精込めて作成したのを馬鹿にされるのは嫌な気分になる。

「よく喋るNPCだな。まあ大型アプデが来たんだろ。けど、面白い。上等だ、折角面白いものが見られた礼だ。上級悪魔程度なら一人でぶっ潰してやるよ」

「NPC? とは何だ? 訳の分からぬことを抜かしおって。我の階級を教えてやろう。伯爵だ。さあ恐怖の中で死にゆくがいい!!!」

「歌え、セイレーン。天上より来い、ペガサス! リザード達は俺の剣になれ!」

 セイレーンの歌声が響き渡り、和士の能力が大幅に上昇する。サラマンダーが炎の剣にアイスリザードが氷の剣に姿を変える。そして空から白銀のペガサスが舞い降りて来て、嘶くと同時にその身体が光り輝き、白銀の鎧へと姿を変える。

「「な、何だこれはー!?」」

 悪魔とライアンの驚く声が同時に鳴り響いた。鎧が和士の身体を軽装の冒険者服の上から覆い、装着される。まるでペガサスそのものが和士の一部になったかと思われるような荘厳な鎧。額から上をカバーするサークレット。左右のショルダーアーマーに両腕のガントレット。胸部と腰回りを頑丈にガードするプレートに、スリットスカートの足元に見えるブーツを覆う様なレッグガード。そして背に展開する純白の翼。デザインも神秘的なものになっている。

 さらに剣に姿を変えたリザード達をそれぞれの手に握り締める。騎士団も悪魔も初めて見るその姿に度肝を抜かれていた。

「これが何だと言ったな? これは召喚獣と真に心を通わせた者だけが身に纏うことができる鎧、聖衣ドレスというものだ。さあいくぜ!」

「うおおおおおおっ!?」

 和士が遥か上空までジャンプし、その勢いのままで急降下。スピードに目が追い付かなかった悪魔の顔面に雷鳴のような衝撃音と共に強烈な左足の蹴りが直撃した。

「ペガサス天馬の・ギャロップ駆け足!」

 呻き声を上げ、もんどりうって後ろへ吹っ飛ぶ悪魔。地響きと砂塵が舞う。それでも悪魔は立ち上がった。

「おのれ小娘ぇぇぇぇ!!!!!! ならばこの死神の鎌の威力を見せてくれる!」

 ガキィイイイイインッ!!!

 巨体が放った一閃を、和士は左腕のガントレットの部分だけで受け止めた。そして両手に装備した氷炎の剣を構える。

「くそがっ! だがそんな鈍らなど我が鎌で防いでくれるわあっ!」

 鎌を水平に構えて防御姿勢を取った悪魔に、和士は剣を振りかざして跳躍する。

「氷炎剣技・リザード・ファング!」

 カッ! 

 灼熱と凍結の剣閃が上下から悪魔を鎌ごと斬り裂いた。

「か、カカカカカカッ!!! ガハアアアアア!!!」

 両断された巨大な悪魔が業火に包まれて燃え尽きたと思われた直後、その全てが凍り付き、次の瞬間には粉々になった。和士は剣を下ろし、息を吐いた。

「終わり……か。いいぞ、お前達。ご苦労だったな、またよろしく頼むよ」

 和士の言葉を聞くと、召喚獣達は元の姿に戻り、一鳴きすると星の様にキラキラと輝きながら消えて行った。セイレーンだけがふわりと笑い、「またね、御主人」と言って姿を消した。

「さて……飯行かないと。忍に何を言われるか。悪魔が出て来たのは予想外だったけど、公式に何か情報出てるんだろうか?」

 唖然とする騎士団を残したまま、ログアウトのためにステータス画面を開こうとする。

 ——が、開かない。

「……あれ?」

 もう一度試す。反応なし。

 メニューも、ログアウトも。どのコマンドも動かない。

 胸がざわつく。冷たいものが背を伝う。

「まさか——閉じ込められた、とか……?」

 風が止み、夕暮れの空が不気味に赤く染まった。

 和士の世界は、静かに、現実から断ち切られた。

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1   召喚士は絶滅危惧種?
 ログアウトできない? 不安と焦りが変な汗となって背筋を伝う。ステータスさえ見ることができない。お腹も減って来た。どうしたものかと腕を組んで考える。「あー、考え事してるところ悪いんだが……」 戦いが終わったので、騎士団のライアンが話しかけて来た。まるで本当の人間であるかのような反応。これも違和感がある。「お嬢ちゃんは召喚士なのか? しかも剣技に体術までこなせるとはな。召喚士は今や絶滅危惧種だというのに。その若さでそれ程の使い手がいるとは、世界は広いな。しかも使い魔をその身に纏うなど聞いたこともない」「絶滅危惧種? どういうことだ?」 と返答をしたところで、和士は自分の声が少々勝気な雰囲気の少女然としたものであることに気付き、今の自分がサブキャラの女性キャラだということを自覚させられた。 しまった、何でよりによってこんな状況に陥っているときに女性の姿なのだろうか。こんな目に合うのならメインの男性キャラでログインするべきだったと思ったが、最早後の祭である。まさかこのような事態になるなど誰が予想できただろうか。 もしかしてこのままログアウトできなければずっと女性のまま過ごさなければいけないのか? またしても嫌な汗が流れ落ちる。そして汗が流れる感触やエフェクトなどなかったことにも今更ながら気付かされる。「あ、ああ。召喚術は習得するのがかなり難しい。ここ数十年間はまともに召喚術を扱う人間など見たことがないからな」「? ここ数十年??? 今の年代を教えてくれ!」「? アルカディア歴2225年だ。そんなことも知らないのか?」 アルカディア歴は現実で言うところの西暦に当たる。現実と齟齬が生まれない様に西暦と同じに設定してある。今は西暦の2125年のはず、バグでなければ100年後の未来にログインしてしまっていることになる。和士は頭がクラクラしてきた。 どうなっているんだ? ログアウトできない状況、100年経っているゲーム内世界。現状理解が追い付いていかない。頼れるのは目の前の騎士ライアン達くらいである。「俺がインしたときは2125年のはず。はっ、ならエデン王国は? カシューはどうしているんだ?」 カシューは和士と一緒にエデン王国を創ったときの国王をやっていたフレンドである。100年経っていてもまだ彼が国王をやっているのだろうか?「カシュー王を呼び捨てと
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2   カシュー王との謁見
 エデン王国。 その王宮の玉座がある広間の奥にある執務室のデスクで、カシューはフレンドリストを開いていた。そしてそこに表示された<カリナ>の文字が白く光っている。これはその者がログインしているという証拠である。 ステータス機能などのゲームの機能の大半が消失してしまったが、PCなら誰もが左手首に装着している<冒険者の腕輪>に設置されている赤いボタンを押せば、今でもフレンドリストや現在位置を示すマップ、所属しているギルドなどの情報を確認することができた。だが、インしたばかりで混乱の最中にあるカリナはそのことを失念している。「あはは、まさかカーズではなくてカリナのキャラで戻って来るとはね。こいつは揶揄い甲斐がありそうだ。早く僕の元に来てくれないかなー」 騎士団の諜報部からの報告から、南の平原でゴブリンの群れと共に悪魔が出現し、それをたった一人で退けた召喚魔法を操る魔法剣士が現れたことは既に耳に入っている。 まさかと思い確認したらそれが友人であり、現在は行方不明扱いになっている、この国の騎士団長カーズのサブキャラ、カリナであったということだ。そして今は王国騎士団と共に此方に向かっているという。 VAOが突然現実になり、歳を取ることもなく100年が経過した。国に集っていたフレンドかつ重臣行方知れずの中、これは予想外の朗報だ。 自由気ままにプレーしていたカリナには特に役職を与えている訳ではないが、所属はこのエデン王国になっている。PCはゲーム開始時点では、初期の5か国のどこかに所属することに決められている。その後は他のPCが創設した国家に所属するか、自ら国家を樹立するなど、選択肢は分かれる。 問題があるとすれば、PCはどこかの国家に所属していないと様々な恩恵が受けられないということだろう。買い物をするにしても高くつくし、国家からクエストの報酬を受け取れなくなる、戦争PvPに参加できない、等々である。そのため、カリナも建前上はエデン王国所属である。 夕日が眩しくなり始めた執務室の窓の外を眺めながら、カシューはカリナの到着を心底待ち遠しく思った。  ◆◆◆  騎士団の騎馬隊の後ろをユニコーンに跨って揺られ続けること数刻、一行はエデン王国の王都に到着した。夕刻にもかかわらず、国内は帰還した騎士団を迎え、一目その勇士を見ようと多くの人々で賑わっていた。
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3   着せ替え人形
 執政官のアステリオンに連れられて城内を歩く。玉座の間を出てから廊下を右に曲がり、階段を昇った先に城仕えの役人達が住む居住区が備えられている。 かつて自分が騎士団長としてのロールをこなしていた時期に何度も来た場所だが、100年の月日の変化が感じられる。当時とは比較にならないほど快適になっていた。居住区の一番奥の豪華な一室がカーズ時代に与えられたものだった。「ここです。鍵はこれを。では準備が整いましたら迎えを寄こしますので」 カードキーを手渡され、恭しくお辞儀をするとアステリオンは来た道を引き返して行った。当時は普通の鍵だったのが進歩したものである。手にしたカードキーを扉にかざすと両開きの扉が自動的に開いた。 中に入ると、自室は当時のまま残されていた。壁には鎧姿のカーズの勇ましい自画像。棚にはカシューから受勲した数々の勲章が所狭しと飾られている。「ここはしばらく来てなかったけど、何だか懐かしく感じるな」 とりあえず謁見で無駄に疲れたので、巨大なベッドにダイヴしようかと思ったが、今の自分は返り血などで装備が酷く汚れている。飛び込みたい気持ちを抑えながら、まずはなんとなく催して来たのでトイレに向かう。今のこの状況が現実ならば、ログアウトして自宅のトイレに行くこともできない。覚悟を決めてトイレに入り、スカートをたくし上げて洋式の便器に座り、下着を降ろした。「我慢がまんガマン……」 普段とは違う感覚で小便が流れて行く。なんてことだろうか、これからはこの身体と現実的に向き合わなくてはならなくなってしまったのかもしれない。何とかしてログアウトする方法を見つけなくてはならないという思いが一層強くなった。と同時に自分の身体とはいえ何とも言えない罪悪感が駆け巡る。 自己嫌悪しながら便器に座っていると、突然トイレのドアが向こうからバタンと開けられた。独りだと思って鍵をかけるのを完全に忘れていた。「カーズ様なのですか?! え? 女の子……?」 カリナの方を見て驚いた顔をしているのは、長い銀髪ストレートで美しい翠眼にメイド服を着たエルフとは異なる妖精族のルナフレアだった。 エデンの幹部には側仕えの世話役があてがわれる。彼女はカーズに仕えていたNPCであるが、今目の前にいる彼女はまるで本当の命を吹き込まれた一人の人間の様に感情が感じられた。しかし、今はそんなことを悠長に
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4   執務室にて
 ルナフレアに見送られて、玉座の間の裏手にある王の執務室までやってきた。カリナが廊下を歩いている間、やたらと兵士や城仕えの侍女達に「可愛い」「あの子がカーズ様の妹君か」などと噂話をする声が聞こえてきた。ひらひらの衣装を着ているだけで恥ずかしいのに、何とも言えない気分になる。 執務室の入り口のドアの両脇にはアステリオンと近衛騎士団長のクラウスが待っていた。「気にし過ぎですよクラウス。陛下とも顔見知りのようでしたし、カーズ様の妹君なら滅多なことなど起こりませんよ」「いや、あの娘は何か異常な力を持っている。俺の剣が掴まれただけで動かせなかったのだ。妙な力を使ったに違いない。何かあれば我々が陛下をお守りしなければ……」「陛下がそう簡単にやられるとは思いませんが……。おや、到着ですね。カリナ様、では此方へどうぞ」 アステリオンがドアを開けて中へ導いてくれる。クラウスは憮然とした表情でカリナの方を見た。「妙な真似をするなよ。陛下に何かあれば許さんからな」「いや、ただ呼ばれたから話をしに来ただけなんだけど」「そんな衣装を着て、陛下を誘惑でもする気なのか?」 カリナの来ているファンシーな衣装を見て、クラウスは意味不明なことを言い、右手を剣の柄にかけている。カリナはそんなことを想像するだけで気持ち悪くなった。「いや、しないから。話するだけだから」 アステリオンに一礼をして、クラウスをじとーっと見た。「お前達、いつまで私を待たせる気だ!」 中からカシューが怒った演技の声を出した。「「申し訳ありません!」」 二人は謝罪をすると、カリナを部屋の中に送りドアを閉めた。 執務室のデスクにいるブルーの髪色をしたカシューがカリナの方を見て、もう邪魔は入らないなという風に笑顔になった。100年経過しているということだがまるで年老いていない。かつて共に冒険をしたときの姿のままだ。「国王のロールプレイをこなすのも大変そうだな」 デスクの前のソファーにどかっと腰掛けてからカリナが言った。「そうなんだよね、我ながらよくやってると思わない?」 カシューは恰好を崩した口調で答えた。一応国王をやっているので、配下の前では威厳のある態度で通しているのだ。それが久々に現れた友人の前で素に戻る。「そう思う。俺には無理だ」「だったらもっと褒めてよー。君達がいない間大変だったん
last updateDernière mise à jour : 2025-11-22
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5   災害のエクリア
「お、マジでいるじゃんー! しっかしすごく可愛らしい格好させられたもんだな。似合ってるぜ、ぷくくっ!」 笑いながら入室して来たエクリアはそのままカリナの向かいにあるソファー、カシューの隣に腰掛けた。「うるさいな。ってお前もいたんだな、ネカマのエクリア」「まあな、でも俺が戻って来たのは30年前くらいかな。カシュー一人でてんてこ舞いだったからなぁ、今は国の復興やら各地に湧く魔物討伐とかしてるんだよ」 この一人称「俺」の女性は旧知の仲であると共に、初期から女性キャラでエンジョイしている生粋のネカマである。今の状況は彼、いや彼女にとっては願ったりかなったりの状況であるかもしれない。ずっと女性姿で過ごせるのだから。「世界が変わっちまったから俺はずっと女のままだ。まあ部下の前ではちゃんと女言葉使ってるから安心しな」「心配なんかしてないぞ。喜んでロールプレイしてるんだろ?」 にししと笑いながらテーブルに置いてあったポットからカップに紅茶を注ぐ。一飲みしてから、また喋り続ける。「で、今まで何してたんだよ? こっちは色々大変だったってのに」「ついさっきログインしたらこの状況だったんだってさ。さっき聞いたよー」 カシューが口を挟む。彼にとっても友人達3人と過ごす時間は和やかなもので心地良い。「で、幹部はエクリアだけなのか? それに各地に魔物がそんなに大量に湧くなんてそうそうなかっただろ? それをエクリアが討伐してるのか……、毎回地形が変わって大変そうだな」 エクリアの戦いは特に派手な魔法を連発する。そのせいで周囲は毎回地面が抉られ、クレーターが出来上がる。そのせいで付けられた二つ名は「災害」。自然環境を崩壊させるその戦いぶりは周囲の仲間も巻き込みそうになる程のものだった。「しかし、サブキャラでインしたところに巻き込まれるとはついてねーな。女だと色々大変だぞー」「大変って、まさか……。これが現実ならゲームでは起きなかった体の生理現象が……?」 カリナは嫌な汗が背筋を伝うのを感じた。そこまでの覚悟はさすがにできていない。「にしし、ご名答。アレは大変だぞー。痛いのなんのって、なあ?」 自分のお腹を押さえながらカシューの方を見る。「僕に振らないでくれないかな? わかるわけないでしょ。でもエクリアが月一で使い物にならなくなるのは知ってるけどね」「マジかよ…
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6   告白
「実は伝えたいことがあるんだ」 カリナはルナフレアの目をじっと見て言った。「伝えたいこと? ですか?」 きょとんとした表情をするルナフレア。そんな彼女の手を取って自室のリビングへ向かう。そこで向かい合って座り、カリナは切り出した。「実は、信じられないかもしれないが……、俺がカーズなんだ」「え?」 当然の反応。目の前にいる少女はあのムキムキのカーズとは似ても似つかない。 さてどう説明すれば良いのだろうか? ゲームの中でもう一人作ったキャラが自分でカーズのサブキャラとでも言えばいいのだろうか? だが今のこの世界は現実である。本来NPCのルナフレアにそんな説明が通用するはずがない。まるで理解が出来ないだろう。 手頃な喋れる召喚獣を呼び出して説明してもらうか? いや、彼らも本来カリナの所有する召喚体であり、カーズとは何の縁もない。アカウント共有の倉庫は使えないので、カーズのコレクションのアイテムを見せるのもダメだ。妹という設定である以上、兄から譲り受けたと言われればそれまでである。 これはもしかして詰んだかもしれない……。「あの、もしそれが本当なら何か証拠はありますか?!」 ルナフレアが必死な顔でテーブル越しに身を乗り出して来る。「俺がカーズだという証拠……。サブキャラで同じアカウントだという証拠ならあるんだが……」「サブキャラ? アカウント?」 やはりその手の類の説明は通用しない。彼女の今の反応からして、ここが本来VRMMOの世界だという認識すらないだろう。うむむ、と頭を捻る。「ルナフレア、妖精族のルナフレアとの間の証拠……」 そのとき、はっと一つの考えが浮かんだ。同じアカウントであるということは同一人物が中にいるということにはなる。ならば……。「君はカーズに妖精の加護を与えていただろう? 俺が同じアカウントの同一人物であるなら、もしかしたらその加護の更新が可能になるかも知れない。これはある意味賭けだ。もしできなければ……、俺はただの大嘘つきだ。笑ってくれてもいい。でもチャンスをくれないだろうか?」 そう言って右手の掌を広げて彼女の方へを突き出す。「確かに、私はカーズ様に妖精の加護をお与え致しました。もしカリナ様がカーズ様と同一人物であるのなら、その加護の更新が可能になるかも知れません。試してみる価値はありそうです」 そう言ってル
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7   悪魔討伐へ
 玉座の間の入り口に立つと、衛兵たちが扉を開けてくれた。そのままカシューが座る玉座まで移動する。「よく来てくれたね。今日はちょっと厄介ごとがあってね」 砕けた口調でカシューが切り出した。王としてのロールプレイはどうしたんだ?「ほう、厄介ごととは?」「ここから西の高原に悪魔が出現したという報告があってね、ちょっと行って討伐して欲しいんだ。それと……」「私も同行する。いかにカーズ様の妹とはいえ、まだ私はその実力を認めたわけではないからな」 王の右隣に立つクラウスがそんなことを言った。それを見て、やれやれという顔をするカシュー。なるほど、召喚士としての力を示せということなのだろう。「承知した、カシュー王よ。それならば二人で向かえばいいのか?」「魔物の大軍もいるみたいだから、もう一人従者を付けるよ。エクリアの代行魔法使いのレミリアにも同行してもらう。エクリアには許可ももらってるし、彼女は今東の防衛に向かっているからね。現場まではうちで造った車で向かうといいよ。戦車隊隊長のガレオス、お前は三人を現場まで案内してやってくれ」 クラウスの隣にいた魔法使い然とした衣装にローブを身にまとった茶髪の女性が一礼する。そしてカリナの後ろから黒い軍服を着た黒髪の青年が言葉を発した。「御意。では城の前に戦車を止めてありますので、そこまで参りましょう」「ふん、小娘の化けの皮を剥がしてやるからな」 憮然とした態度のクラウス。これはギスギスした旅になりそうだなと、カリナは少々うんざりした。さっさと討伐して帰還しようと思うのだった。 ◆◆◆  城を出ると、門の前に近代的な見た目をした黒い車が止めてある。だが戦車というよりは頑丈な造りをした乗用車という感じだ。カシューはこんなものまで開発していたのかと感心するが、世界観ぶち壊しの代物に妙な違和感も覚えた。馬車とかじゃないのかと。まあ早く現場に着くのならそれに越したことはない。「さあ、こちらが我が国の技術を詰め込んだ最新鋭の戦車です。四人乗りなのでレミリアとカリナさんは後ろに乗って下さい。クラウスは助手席で構わないですよね?」「私はどこでも構わん。さっさと討伐に向かうぞ」「では私達も乗り込みましょう、よろしくお願いしますね、カリナさん。エクリア様からお噂は聞いておりますわ」「私の噂をエクリアから? どうせ碌でもないも
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8   新作と今後の予定
 悪魔の討伐が完了し、ガレウスの荒い運転で再びエデンに帰還した。カリナの力を認めたクラウスとは終始和やかな雰囲気で会話が弾んだのだった。 そして今は謁見の間。カシューがクラウスに話しかけている。「カリナの実力はどうだった? クラウスよ」「はっ、見事な召喚術に魔法剣士としての腕前でした。私の考えが至りませんでした」 カシューはくすりと笑い、カリナの方を見た。「わかればよい。私の目が節穴ではないということがわかっただろう?」「そ、それは勿論でございます。陛下の決断に素直に従わなかった私の責任でございます」 跪いて深々と頭を下げるクラウス。何はともあれ、これでカリナに無駄に反発する者はいなくなったのである。「ふむ、まあお前も近衛騎士として見ず知らずの者を私に近づけるのを危惧していたのであろう。だが、もう心配は無用だ。私はこの後カリナと執務室で今後のことについて話がある。カリナよ良いな? それとレミリアとガレウスもご苦労だった。下がっても良いぞ」「承知した、カシュー王よ」「「はっ、ありがとうございます!」」 いつもの王と配下のロールプレイを済ませ、レミリア達は頭を下げた。そのままカシューに連れられて執務室に移動する。 ◆◆◆ ソファーに二人で向かい合って腰掛けると、カシューが口を開いた。「そろそろお昼だね。何か持って来させよう。それと……」 手元にあったベルを鳴らすと、王直属のメイド隊が扉を開けて「失礼します」と入室して来た。カシューは昼食の準備と何やら隊長のリアに耳打ちした。「畏まりました。ではカリナ様はお連れ致しますね」「お、おい、何を言った?」 カリナが青ざめた顔をすると、カシューはにこやかに笑い、「いってらっしゃい」と手を振った。そのままカリナはメイド隊達に引きずられて、侍女達の部屋に連れていかれた。「何だなんだ?」 そこでリアが取り出して来たのは新作の衣装だった。昨日の今日で余りにも早い仕事である。そのまま拒否権はないと自覚したカリナは着せ替え人形と化すのであった。「これは……、また派手な衣装だな……」 頭にはメイドの被るようなヒラヒラのヘッドドレス、身体の前方が大きく空いた、袖にリボンがたくさんついたピンクのコートに、インナーはバストの上から膝上までの長さの黒と赤のボディコンの様なワンピース。下はガーターベルトに黒い
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9   お風呂
 自室の扉を開けると、奥からルナフレアが出て来て出迎えてくれた。「お帰りなさいませ、カリナ様。今日はお早いのですね」「ああ、討伐任務だけだったし、その後はカシューと今後のことについて話し合いしたくらいだけだしね」 そう言うカリナの服装が出発前とは違うことに気付き、ほうほうと眺めるルナフレア。「そうでしたか。それにしてもまた可愛らしい衣装ですね。リアさん達やりますね。カリナ様の可憐さをしっかりと引き出している素敵な服です」 服を褒められているのか自分を褒められているのかよくわからなくなったカリナは妙にそわそわした。「また無理矢理着せられたんだよ。新作だってさ。これからは新作ができる度に着せ替え人形にされる予感しかない」「いいではありませんか。私などいつもここに努めているのでこのメイド服ばかりですよ。たまにはお洒落をしてもみたくなります」「そうか……。あ、だったら明日は城下に用事があるから一緒に行くか? ルナフレアの私服も見てみたいしな」 その言葉にルナフレアは目を輝かせた。「本当ですか?! カリナ様とデートでしたら思いっきりおめかししないといけませんね」「いや、別にデートでは……、ってまあいいか。明日はギルドに用事とその他にも色々と回ってみるつもりだから。楽しもう」 喜ぶルナフレアを見るとそれ以上は何も言えなくなってしまった。これまで寂しい思いをさせていた分、明日はしっかり満足してもらえるようにしようと、カリナは心の中でそう誓った。「まだ早いですけど、お風呂になさいますか? 討伐任務だったのならどこかしら汚れているかもしれませんから」 くんくんと自分の匂いを嗅いだが、新しい衣服の匂いしかしない。だが、折角だし頂くとしようと思い、彼女の意見に同意する。「それほど汚れてはないかもしれないけど、髪の毛とかはわからないし、それならお先に頂こうかな」「はい、お風呂はいつでも綺麗になっておりますよ」 そう言って笑ったルナフレアを見て、カリナは浴場に向かった。 ◆◆◆ 更衣室。カリナは衣装を脱ぐのに苦戦していた。無理矢理着せられたので、どのようにして脱げばいいのかイマイチわからない。「むぐぐ、脱げない。どこかに紐やら留め具があるのか?」 四苦八苦していると、ルナフレアが更衣室に入って来た。「どうなさいましたか? ああ、脱ぎ方がわからない
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