LOGIN召喚獣と真に心を通わせた者だけが身に纏う鎧を聖衣《ドレス》というんだ! VRが革新的な発展を遂げた西暦2125年。 それはVRMMOにも絶大な進化を及ぼしていた。 Vivid Arcadia Online VAOと呼ばれる人気VRMMOを楽しむのが日課の一色和士(イッシキ ナギト)もまたその一人だった。 メインキャラ(男キャラ)をやり込んだので、今度はサブキャラ(女性キャラ)でこれまでと違ったプレイを楽しんでいたらとんでもない事態に!? 大変なことに巻き込まれながらも前向きに楽しんでいく、 マイペースでポジティヴシンキングなゲーム内ライフ、スタートです!
View Moreカチコチカチコチ……
静まり返った応接間に、秒針の音が聞こえてくる。
重厚なカーペットが敷かれた室内はとても広く、調度品はどれも高級なものばかりだ。しかし、それもそのはず。
ここは『ドレイク』王国の中でも屈指の財力を持つテイラー侯爵家だからだ。 「……」先程から緊張した面持ちで、1人の女性がソファに座っている。
彼女は見事なプラチナブロンドの長い髪に、宝石のような緑の瞳の女性だった。そして彼女の正面に座る男性は、真剣な眼差しで書類を見つめていた。彼はシルバーブロンドに琥珀色の瞳が特徴の美しい青年である。
27歳の彼は、この屋敷の当主であるニコラス・テイラー侯爵その人だ。
これから、2人は重要な取り決めをすることになっている。「ジェニファー・ブルック。これが、君の全ての釣書か?」
不意に声をかけられた女性――ジェニファーは顔を上げると、丁度ニコラスが書類をテーブルに置いたところだった。
「はい、そうです」
「そうか……現在、25歳。完全に行き遅れだな」
行き遅れ……その言葉にジェニファーの顔がカッと熱くなる。
「今まで何故結婚しなかった? ずっと家で家事手伝いだけをしていたようだが……それで出会いが無かったのか?」
ズケズケと尋ねてくるニコラスの目はとても冷たいものだった。
「家事手伝いだけをしていたわけではありません。シッターの仕事もしていました。ただ、殆どボランティアのようなものでしたので、釣書には書きませんでした。結婚しなかった……いえ、出来なかったのは……貧しくて持参金を用意……出来なかったからです……」
持参金を用意できないということは、致命的な問題だった。
「君は、仮にもブルック男爵家の長女なのだろう? それなのに持参金を用意できなかったのか?」
「釣書にもありますが、私は両親を8歳のときに亡くしています。そして叔父夫婦が私の後見人として、3人の子供たちを連れてブルック家に来ました。全員私よりも年下です……今では人数が増えて5人になっています」
「なるほど、ブルック家を食い潰されてしまったというわけか? それだけじゃなく家事手伝いまでさせられているということだな?」
「そ、それは……」
確かにニコラスの言う通りではあったが、肯定する訳にはいかなかった。そんなことが叔父夫婦の耳に入れば、大変なことになってしまう。
「まぁいい。そのお陰で亡き妻の遺言通り、君と結婚することが出来るからな。尤も、こちらとしては少しも望んではいないが……持参金は用意する必要は無い。どうせお互い望まない結婚だろうから」
ニコラスはため息をついた。
「お互い望まない、結婚……?」
その言葉にジェニファーは疑問符を投げかける。
「そうだ、俺は亡き妻の遺言を守る為。そして君はブルック家の財政難を立て直すためなの結婚なのだから、当然持参金など用意出来るはずも無い。違うか?」
「いえ……その通り、です……」
「そういう訳で、結婚式はしない。何しろ、こちらは妻が亡くなってまだ1年。君にしたって彼女は従姉妹にあたるのだからな。……それにしても何故妻は自分が亡くなった後の後妻に君を指名したのだ? まさか、君の差し金か?」
うんざりした様子でニコラスが尋ねてきた。
「いいえ! そんなはずはありません! だ、第一……私は……」
そこでジェニファーは言葉を切った。
(言えないわ……結婚式にも葬儀にも呼ばれていないなんて、そんなこと。言えばきっともっとニコラスを怒らせてしまうことになる……)
「まぁいい。お互い、嫌なことはさっさと終わらせてしまおう。結婚式を挙げるつもりは無い。この書類にサインしてくれ。俺の名前はもう記してある」
テーブルの上には婚姻届とペンが置かれている。
ジェニファーはペンを手にすると、早速自分の名前を記入した。「……書きました」
「よし、これで結婚手続きは終わりだ。用が済んだなら、出ていってくれ。後で執事を部屋に寄越すから、必要な話は彼から聞くように」
これ以上、ここにいてもニコラスの機嫌を損ねてしまうだけだろう。ジェニファーはおとなしく従うことにした。
「分かりました、失礼致します」
席を立ち、部屋を出ていこうとした時。ニコラスのつぶやきが耳に届いた。
「……全く。名前だけではなく、外見まで……妻と似ているんだな」
その言葉に一瞬ジェニファーの肩がピクリと跳ねるも、無言で部屋を後にした。
――パタン扉を閉じ、廊下に出るとため息をついた。
「ニコラス……本当に、貴方は変わってしまったのね……。子供の頃はとても優しかったのに……」
思わず目頭が熱くなりそうになる。
ジェニファーは泣きたい気持ちを必死で我慢し……ニコラスと始めて出会った頃を思い返した――
アリアの部屋を辞したカリナは、重い足取りでカグラと隊員が待つ貴賓室へと戻ってきた。 扉を開けると、そこには既に豪勢な昼食がテーブルいっぱいに並べられていた。アレキサンド名物の肉料理や、彩り豊かな野菜のテリーヌ、そして数種類の果物。カグラは優雅にフォークを動かし、隊員は口の周りをソースで汚しながら夢中で肉にかぶりついている。「おかえりなさい、カリナちゃん。どうだった?」 カグラがグラスを置き、振り返る。その茶色のミディアムヘアがふわりと揺れ、穏やかな表情の中に鋭い知性が光っていた。「こちらは一応、資料から禁忌の術などの解析が終わったわ。恐ろしい術式ばかりだったけれど……今後はこれが悪用されないように、対策を練らないとね」「ああ、お疲れ様。……悪い、私も少し食べるよ」 カリナは空いている席に座り、まだ温かいローストビーフを皿に取り分けた。一口食べ、その旨味に少しだけ心が安らぐのを感じながら、カリナは静かに口を開いた。「彼女は……間違いなく『女神』だ。この世の理の常識を遥かに超える存在だ」 その言葉に、カグラの手が止まる。「何か分かったの?」「ああ。彼女が探している人物は、私である可能性が高い。だが、この世界ではアバターという仮初めの姿が邪魔をして、魂にある目印がはっきり見えなくて、そこまで確証が持てないらしい」 カリナはナイフを握る手に力を込める。「それに……この世界から次元を斬り裂いて脱出することなど簡単だ、とも言っていた。私達が必死に生きているこの世界の理屈など、彼女にとっては取るに足らないことなんだろうな」「次元を斬り裂く……? まるでSF映画ね」「笑えない話だがな。……それと、彼女はその人探しの合間の暇潰しに、このVAOをプレイしていたPCの一人でもあるそうだ」 カリナが告げると、カグラは目を丸くし、やがてクスクスと笑い出した。「ふふっ、あはは! 神様がネトゲをするなんて、ずいぶんと俗っぽいのね。親近感が湧くような、畏れ多いような……」「全くだな。だが、その力は本物だった」 カリナは表情を引き締める。ここからが、アリアから聞いた最も重要な情報だ。この世界が虚構であり、悪魔以上のとんでもない存在が創った実験場であること。それをカグラに伝えようと、口を開きかけた瞬間――。「――っ……ぐぅっ……!」 ドクン
「いらっしゃい、カリナさん。まあ、立ったままではなんですし、掛けたらどうですか?」 アリアは優雅な仕草で、向かいの席を手で示した。テーブルの上には、既に湯気を立てる二つのティーカップ。最高級の茶葉の香りが、部屋の中に満ちている。まるで、カリナがこのタイミングで訪ねてくることを、最初から知っていたかのような準備の良さだった。 カリナは一瞬躊躇したが、意を決して椅子を引き、アリアと対面する形で腰を下ろした。「いただきます」 勧められるままに紅茶を一口含む。渋みがなく、花のような芳醇な香りが鼻腔を抜ける。それは、毒など入っていない、純粋なもてなしの一杯だった。カップをソーサーに戻し、カリナはその碧眼を細めて、目の前の美女――自分と瓜二つの髪色を持つ、違いはカリナの毛先が金髪くらいの、謎の存在を見据えた。「……単刀直入に聞く。あなたは一体、何者なんだ? なぜ私のことを知っている? そして……先ほど言っていた『女神』というのは、本当なのか?」 矢継ぎ早に繰り出された質問に、アリアはカップを口元で傾け、ふふっと楽しげに笑った。「せっかちですねぇ。でも、答えは先ほど言った通りですよ。――女神です」 またしても、はぐらかすような返答。だが、その言葉には嘘の匂いがしない。それどころか、彼女が纏う空気そのものが、人知を超えた何かであることを雄弁に物語っていた。 カリナは深呼吸をし、ずっと胸の内に秘めていた「確信」をぶつけることにした。「……私は以前、ある場所で『真実』の一端に触れた」「ほう?」「『死者の迷宮』の最深部……そこにあった祭壇の鏡だ。私はそこで、現実世界で死に別れたはずの幼馴染――『彩』と再会した」 カリナの脳裏に、あの時の情景が蘇る。鏡の向こうで微笑んでいた、懐かしくも切ない少女の姿。「彼女の髪は、生前のような赤茶色ではなく、透き通るような銀髪に変わっていた。そして彼女は言ったんだ。『女神様に、別の世界に転生させてもらった』と」 アリアの手が、わずかに止まる。「さらに彼女はこうも言っていた。『その女神様が、今、あなたのことを探している』と。……今の私がいるこの世界では因果が正しく回っていないため、私がトラブルに巻き込まれやすくなっているとも教えてくれた」 カリナは畳み掛けるように言葉を続ける。「それだけじゃない。先日、私の
謁見の間には、レオン王の宣言が重々しく響き渡っていた。 一週間後に開催される剣術大会。それは、人類の脅威に対抗するための精鋭を選抜する重要な儀式でもある。しかし、カリナには一つ、どうしても確認しておかなければならない懸念があった。「陛下。剣術大会ということは……まさかとは思いますが、真剣を使う訳ではないのですよね?」 冒険者ギルドの訓練や一般的な模擬戦では、刃引きをした剣や木剣を使うのが通例だ。Aランクの実力者同士が真剣でぶつかり合えば、手加減をしたとしても事故は避けられない。だが、レオン王は鷲のような鋭い瞳でカリナを見据え、短く答えた。「いや、真剣での立ち合いになる」「なっ……真剣、ですか?」 カリナが眉をひそめると、隣に控えていたカグラも扇子で口元を覆い、懸念を示した。「陛下。いくら腕に覚えのある者同士とはいえ、真剣勝負となれば、下手をしたら死傷者が出る恐れがございますわ。未来の戦力を選抜する場で、有望な若者が命を落としては本末転倒では?」「うむ、そなたらの言い分はもっともだ。だが、案ずることはない。それについては、ここにいるアリア殿が、特別な『魔道具』を準備してくれているのだよ」 王の言葉を受け、アリアが一歩前に進み出た。彼女が何もない空中に手をかざすと、誰も見たことがない未知の魔法陣が展開され、そこに闘技場の様子を模した鮮明な立体映像が投影された。「ご心配には及びませんよ。私が開発した、この『身代わりの水晶』があれば、誰も死ぬことはありません」「身代わりの水晶……? ずいぶんと大きいな」 カリナが驚くのも無理はない。投影された映像では、闘技場の舞台の両端に、優に人ひとり分の大きさがある巨大な水晶が設置されていたからだ。「はい。大会には大観衆が押し寄せますから、遠くの客席からでも状態が視認できるよう、このサイズに設計しました」 アリアはカリナ達に向き直り、落ち着いた丁寧な口調で説明を始めた。「これは対象の魔力と生命力をリンクさせる特殊な魔道具なんです。勝負の前に、この水晶に自分の魔力を流して記憶させておけば、戦闘で受けたダメージは全てこの水晶が肩代わりしてくれますよ」 アリアはニッコリと微笑み、続ける。「例えば、腕を斬られたとしましょう。その瞬間、痛みと衝撃は走りますが、肉体には傷一つつきません。代わりに、舞台の端に設
アレキサンドの朝は、澄み切った青空と共に始まった。 石畳を踏みしめる音を響かせながら、カリナ達一行は街の北端に位置する小高い丘を目指す。そこに鎮座するのは、この国の象徴である巨大な王城だ。 近づくにつれ、その威容が露わになる。 エデンの城が近代的な白亜の優美さを誇るなら、この城はまさに「鉄壁」。切り出された巨大な灰色の岩石を積み上げて作られた城壁は、無骨ながらも圧倒的な重厚感を放っている。 城壁には、エデンの「黄金の獅子」とは異なる、この国の国章――『交差する二振りの剣と鉄壁の盾』を描いた旗が翻っている。装飾は最小限に抑えられ、実用性を重視した矢狭間が並ぶ様は、ここが武を尊ぶ騎士の国であることを無言のうちに物語っていた。「へぇ、近くで見ると迫力が違うわね。飾り気はないけれど、そこがいいわ」 カグラが城壁を見上げ、感心したように扇子を揺らす。やがて、巨大な鉄格子の城門の前に到着した。「止まれ! 何用か!」 屈強な鎧に身を包んだ門番達が、鋭い眼光と共に槍を交差させる。カリナは一歩前に出ると、懐から先日カシューに託された招待状と、自身のAランク冒険者カードを取り出した。「エデン国王カシュー陛下の使いで参りました、冒険者のカリナです。レオン・アレキサンド国王陛下より、招きを受けております」 続いてカグラも、流れるような所作で自身のカードを提示する。「同じく、エデン筆頭相克術士のカグラよ。同行者として許可を頂いているわ」 門番は招待状の封蝋にある王家の紋章と、二人のカードを確認すると、即座に姿勢を正した。槍を引き、ガシャンと音を立てて踵を揃える。「はっ! 失礼致しました! カリナ様、カグラ様ですね。陛下よりお話は伺っております。どうぞ、中へ!」 重々しい音と共に城門が開かれる。 一歩足を踏み入れると、そこは静謐な空気に包まれていた。城内もまた、質実剛健な造りだった。磨き上げられた石の床、壁には歴代の戦いを描いたタペストリーや、交差した剣と盾の紋章が飾られている。 煌びやかなシャンデリアの代わりに、魔法石を埋め込んだ鉄製の燭台が通路を照らし、すれ違う騎士達は皆、規律正しく黙礼して通り過ぎていく。「エデンとはまた違った緊張感があるにゃ……。おいら、背筋が伸びるにゃ」 ケット・シー隊員が、シルクハットの位置を直