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ローランドの怒り

Author: Kaya
last update Last Updated: 2025-06-26 19:00:00

 しかし、私の頭を悩ますのは国の問題だけではなかった。

 ◇

 「夕食も……食べない、だと?」

 「はい……陛下。王妃陛下はこれから、朝夕どちらも陛下とはお食事を共にしないという事でございます。」

 食事の部屋の扉前に立ち、強張った表情でホイットニーが告げる。

 「陛下、良かったですね。

 これからは煩わされずに済みます。」

 側にいたランドルフが嬉しそうに耳打ちする。

 気まずそうに俯いていたホイットニーは下がらせた。

 「あ、ああ…そうだな。」

 私はランドルフに、煮え切らないような返事をした。

 煩わされずに…確かにそうだ。

 大した会話もないくせに、毎回毎回私と食事をするアデリナ。

 あの何とも言えない、監視するような瞳を向けてくるアデリナ。

 そのくせ、目が合えばすぐ逸らすアデリナ。

 寝室に続き、あの薄青紫の目で食事中に監視される事もない。

 煩わしさから解放されたのだから、喜んでいいはずなのに。

 小さな炎がつくように胸の片隅に怒りが湧いた。

 「おやすみなさいませ。」

 「ああ。」

 ランドルフが扉を閉めると、一気に寝室に静寂が訪れた。今夜もまた一人。

 ゆっくりとベッドに転がって息を吐き、ふと瞼を閉じた。

 護衛兵達は扉の向こう側で待機中だ。

 今この瞬間、私の眠りを妨げる者はいない。

 広々としたベッドを使えるのだ。

 性悪妻に腕が当たる心配をする事も、鼾が煩くて眠れない思いをする事も、誤って抱きつく心配をする必要もない。

 時々気を遣ってアデリナを抱いた。

 子供を作るのは王族としての義務だから仕方ない。

 嫌ともいいとも言わないアデリナを抱くのは、とにかく気を遣った。

 普通の王族にしてみれば、回数は少ない

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     「今……アデリナは何してる?」 怒りのまま、壁際に立つランドルフを問い詰めれば。 「王妃陛下は体調を崩して、寝込んでおられるそうです。」 困惑した様子のランドルフ。 怒りが収まらない。 「どうせ仮病だろう。」 あの性悪妻はついに、一大行事を欠席してまで私を貶める気か? 母国の加護を盾にやりたい放題か。 本当に許せない……アデリナ! ◇ それ以降、廊下ですれ違えば互いに睨みつけ合う。 あの日以降真っ直ぐに私を睨むアデリナ。 腹が立って仕方ない。 しかも……「フッ」と私を馬鹿にしたように鼻で笑う始末。 腹立たしい気持ちを抑える努力も忘れ、私はアデリナとは逆方向へズカズカと歩いた。 「行くぞ、ランドルフ!」 「は、はい、陛下……」 何だその目は、その態度は。 まだ私を貶め足りないのか? 何がしたい? 一体あの女は何がしたいんだ? 「離婚しましょう。」 あの日の言葉。あの日の真剣な眼差しがあれ以降何度もフラッシュバックする。 一人の夜。一人の食事。 政務を邪魔される事も、無理矢理買い物や演劇、オペラに付き合わされる事もない。 何者にも煩わされない時間。 穏やかな時間のはずだ。 性悪妻が私の側にいないのだから。 まるで私への興味をごっそり失ったみたいに。 ………私への興味……だと? あの女が?いや…あの女は私に興味など。 ただ便利で金蔓《かねづる》のような私を都合よく使っていただけのはず。 それ故に私を振り回していたはずだ。 ……なのに、近頃は本

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     しかし、私の頭を悩ますのは国の問題だけではなかった。 ◇ 「夕食も……食べない、だと?」 「はい……陛下。王妃陛下はこれから、朝夕どちらも陛下とはお食事を共にしないという事でございます。」 食事の部屋の扉前に立ち、強張った表情でホイットニーが告げる。 「陛下、良かったですね。 これからは煩わされずに済みます。」 側にいたランドルフが嬉しそうに耳打ちする。 気まずそうに俯いていたホイットニーは下がらせた。 「あ、ああ…そうだな。」 私はランドルフに、煮え切らないような返事をした。 煩わされずに…確かにそうだ。 大した会話もないくせに、毎回毎回私と食事をするアデリナ。 あの何とも言えない、監視するような瞳を向けてくるアデリナ。 そのくせ、目が合えばすぐ逸らすアデリナ。 寝室に続き、あの薄青紫の目で食事中に監視される事もない。 煩わしさから解放されたのだから、喜んでいいはずなのに。 小さな炎がつくように胸の片隅に怒りが湧いた。  「おやすみなさいませ。」 「ああ。」 ランドルフが扉を閉めると、一気に寝室に静寂が訪れた。今夜もまた一人。 ゆっくりとベッドに転がって息を吐き、ふと瞼を閉じた。 護衛兵達は扉の向こう側で待機中だ。 今この瞬間、私の眠りを妨げる者はいない。 広々としたベッドを使えるのだ。 性悪妻に腕が当たる心配をする事も、鼾が煩くて眠れない思いをする事も、誤って抱きつく心配をする必要もない。 時々気を遣ってアデリナを抱いた。 子供を作るのは王族としての義務だから仕方ない。 嫌ともいいとも言わないアデリナを抱くのは、とにかく気を遣った。 普通の王族にしてみれば、回数は少ない

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     だが、やはりアデリナはその時も何も言って来なかった。 その代わりに私に近づくな!と言わんばかりに凄い形相で睨みつけてくる。 恐ろしい顔だ。伝説の魔女のようだ。 何を要求するのかと待ち構えていたが、向こうは本気で私と会話するのが嫌だとでも言わんばかりにプイッと目を逸らした。 そのまま怒ったようにズンズンと、反対側に大股で歩いていく。 いや………あの女はあんな風に大股で歩く女だっただろうか? 何だかあの日以来アデリナは、マナーというか、王妃としての気品が欠けている気がする。 侍女のホイットニーだけが申し訳なさそうに振り返り、頭を下げた。 一体何なんだ。 何がしたい? いつもの様に、私の腕にわざとらしく纏わりつく事もないのか。 まさか昨夜の事を怒ってるのか? どうせ離婚する気など無いくせに。 その態度。こちらこそ不愉快だ……! ◇◇◇ 行政庁から戻り、軽めの昼食を取る。 昼食だけはいつも一人で食べる事ができた。 だから自室の隣にある執務室に昼食の準備をさせる。 早い話、仕事をしながら簡単な食事をするのだ。 「陛下………もっと、まともに昼食を取られては? この所働き詰めです…できたら休息もなさって下さい。」 一緒に目の前の膨大な書類を片付けていたランドルフが、そう促した。 「いや、この所仕事が増える一方だから、休んでなどいられない。 この前起きた、森林火災による西部地区の救助活動と、建物被害の復興活動も十分ではないし、東部地方での厄介な山賊の討伐にも、人員が必要だ。 それに例の汚職疑惑の書類についてもまだ」  この国は小国だが、自然災害や人的災害はそれなりに起きる。 解決するのもまた、王である自分だ。 必要な場所に必要な人員を采配し、援助

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     さすがは性悪妻。 自分自身の事は自分で解決できるらしい。 だから私は放っておいた。 なのに……… 「陛下。少しよろしいでしょうか? 実は昨夜から王妃陛下が妙なのです。 いつもなら当たり前のように私達侍女に嫌がらせをしたり、暴言を吐いたりするのですが、なぜか今朝に限って何もしてこなかったのです。 それにいつもは気合いを入れて朝食に行くはずなのに、陛下と食事を共にしないと仰るのですから……不気味………いえ、一体何を考えていらっしゃるのかと。」 侍女は、真実に悪意を織り込みながら話をしているようだった。 時々あの嫌な感じの嘲笑が見えるから。 なぜだ。 なぜ……この侍女の態度が不快に感じる? 「誰が発言していいと許可をした? 勝手に喋るな、不愉快だ。」 「ひっ………!」 無意識に侍女を睨みつける。 敵意を剥き出しに。 私は氷の王という異名を持つ男だ。睨まれたら誰でも怖気付くだろう。 「王妃は私の妻だ。 お前如きが嘲笑できる相手ではない。 下がれ。」 「ひ、っ、大変失礼いたしました!」 気分を不愉快にさせた侍女が真っ青になって部屋を出て行った。 ふうっ、と溜息を吐いてふと周りを見渡す。 護衛兵に給仕達が皆一様に驚いたような顔をしていた。 その中でも、一番驚いていたのはランドルフのようだった。 陛下が王妃陛下を庇った……?という目をしていた。 確かにそうだ。 なぜ私は咄嗟に、あの女を庇ってしまったのだろうか?  ◇ 朝食後、日課の行政庁に向かう途中、太い円柱の柱が何十本と並んだ広々とした廊下でアデリナに出くわ

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     ここ数日、私は非常に怒っていた。 突然離婚宣言をしたあの夜、アデリナは本当にこれまで一緒に使っていた寝室を訪れなかった。 夜中に眠れずに侍女を捕まえると、アデリナは大人しく自室に一人で寝ているという。 あの時癇癪まで起こしたくせに一体何を考えているんだ?  さっぱり分からない。 分からないから困惑した。 あの女の真の狙いが何なのか見極められないから。 だが、きっとまたロクでもない事だろう。 また私に何か高価な物を買わせる作戦かも知れない。    だったらこちらはあの女の事をとことん無視してやる。  あの女の訳の分からない我儘に付き合う必要はどこにも……  ◇ 「陛下。今日、王妃陛下がご一緒に朝食を食べないと仰られていますが……」 翌日アデリナは、自らが決めた朝食を一緒に食べるという約束を破った。  言ってきたのは、アデリナのお気に入りの侍女ではなかった。 気まずそうに言ってきたこの女もまた、この国の貴族で王妃付きの侍女だ。  確か侯爵家の……名前は知らないが、髪は金色に近く、いつも派手な色の口紅をしている。 「そうか。分かった。」 口ではそう言いながら、またピリッとした怒りが胸の片隅に湧いた。 あの女は自分で決めた事も守れないのか? そんな私の態度に気づいたかは知らないが、侍女はまだ部屋から下がらず、ランドルフや他の給仕達がいる中、一歩前に足を進めた。 「本当に……王妃陛下はご自分でお決めになられた事すらも、守れぬお方なのですね。」 クスッとその女から嘲笑が聞こえた。 その瞬間……なぜか別物の怒りを覚える。 実はこれまでも何度か、専属侍女達のアデリナに対する態度が悪いという噂を耳にした事があった。 だけどその度にアデリナは、侍女の頭から酒をぶっかけたり、足を引っ掛けて廊下で転ばせたりしたのだと言う。 大人しくやられるだけの女ではなかった。

  • 愛のために我が子を失った悲劇の王妃に憑依したみたいです。推しの息子と二人で幸せに暮らすため、夫はヒロインに差しあげます!   避けてるのに何で追ってくるんですか?

     本来なら、この先数年後にローランドがリジーと不倫するからそれが一番の離婚事由なんだろうけど…さすがにまだ起きてもない事を理由に離婚するわけにはいかないし。 それに最悪、アデリナに生活能力も財産もなかったとしても……確か実の父親には溺愛されてたよね? だったら離婚したら実家に帰ればよくない? 実家暮らし駄目なの? なんか無いかな。 こう!って言う最もな離婚理由が! 「あ……これだ!王国法・王族の離婚に関する法律。 《第108条・伴侶に対し、精神的苦痛を与える、または著しく相手の尊厳を踏み躙るような行為をした場合。 傷つけた相手に罰金を支払い……》あ!罰金って慰謝料かな!」 ついに見つけた!大興奮して私は本を手にして席を立ち上がる。 「そうか!そうよね? 何もローランドの悪い部分を探す必要はない! 理由はアデリナでいい! だってアデリナは性悪妻だから! ねえ?ホイットニー! 逆にアデリナの悪事を理由に罰金を払ってローランドと円満離婚すればいいの……」 「ほお。………私に自ら罰金を払うと? それで私と離婚をすると?」 あれ?いつの間にホイットニーがあんなに遠くに? そしていつの間にローランドがそこに!? ◇ 睨み合う私とローランド。 図書室には隅に震えるように佇むホイットニーと、その横に(あんたもいつ来た?)澄ましたような顔をして立っているランドルフ。 すぐ隣には、私を敵のように睨みつけるローランドの姿。 サラッサラの薄水色にも見える銀の髪。 相変わらず丁寧に一本に纏められている。 鋭い目つき。口元のセクシーな黒子。 今日も無駄にくっそイケメン。 ピシッとした濃い緑色に、繊細な刺繍が施された上下服が似合ってる。

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