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愛の末に選ぶのは、別れ
愛の末に選ぶのは、別れ
Author: 飛べないライスヌードル

第1話

Author: 飛べないライスヌードル
南月が人生で一番後悔していることは、自分の叔父を愛してしまったことだった。

十歳のとき、南月は初めて白羽に出会った。背の高い白羽は両親を亡くした彼女を抱きしめて、「これからは俺がずっと守ってやる」と約束してくれた。

十五歳のとき、白羽はいじめに遭っていた南月を救って、加害者をその場に跪かせて謝らせた。

十八歳のとき、ミッションに失敗して瀕死状態の白羽に、南月は医者の反対を押し切って彼に肝臓を提供した。

その日、南月は白羽にそっとキスを落とした。ちょうどその瞬間、白羽が目を覚ました。

だが、甘い展開なんてなかった。ただ白羽の驚きと、それに続く冷たい疎遠だけがあった。

そして、白羽の憧れ続ける女が重病になったとき、唯一適合するのは、南月の腎臓だった。

いつも冷たい白羽が彼女を訪ねてきた。「腎臓をくれたら、君の願い、何でも叶えてやる」

南月は沈黙で拒絶した。その結果、小林柔音(こばやし やわね)は手術中に命を落とした。

白羽は一滴の涙も流さなかった。まるで何事もなかったかのように。

だが、柔音の一七日のとき、白羽は南月が彼に抱いた恋心を綴った日記を世間に公開した。

「叔父が好きだった女」という烙印を、南月の人生に刻みつけた。

南月の誕生日、白羽は彼女に薬を盛って拉致した。南月は他の人にいじめられてしまった。

白羽はただ立ち尽くし、冷たく言った。

「俺がお前に近づくわけないだろ。汚らわしい」

最後に、気を失いかけた南月に、白羽は冷水を浴びせて目を覚まさせた。

薄れる意識の中、南月は刃を手にした白羽が近づいてくるのを見た。

そして、彼は刃が振り下ろした。「これは、お前が柔音への借りだ」

再び目を開けたとき、南月は、腎臓提供の話があったあの日に戻っていた。

……

「お願いだ、この腎臓が君にはたいしたことないが、柔音はこれがないと死ぬ。

腎臓をくれたら、君の願い、何でも叶えてやる」

耳に響く白羽の懇願の声で、南月は我に返った。

彼女は生まれ変わったのだ。

前世、彼女はこの日に彼を断ったことで、死亡の結末を迎えてしまった。

でも、あのとき彼女は白羽のためにすでに肝臓を失っていたのだ。もう一つの腎臓を提供する余力なんてなかった。

だけど今の南月は、何もかもが悟った。

提供しないと死ぬ結末だった。どうせ死ぬなら、この腎臓で、白羽の十一年間の恩を返した。これで、彼女は白羽との縁が完全に終わった。

そう思うと、南月は手のひらをぎゅっと握りしめてきっぱりと言った。「あげるよ」

言いかけていた言葉が白羽の喉に詰まり、隣にいた医師が慌てて止めに入った。

「中尾さん、本当にいいんですか?臓器を二度も提供するなんて、通常なら絶対に勧められません。手術のリスクも死亡率も跳ね上がります」

だが、それを聞いた南月は強く頷いた。

そのリスク、彼女は誰より理解していた。けれど、白羽と縁を切れるなら、命なんて惜しくなかった。

サインを終えた南月を見て、白羽はようやくほっと安心した。

てっきり彼女が騙しているのではと疑っていたのだ。まさか、本当にためらいもなくサインするとは。

そう思うと、彼は表情を緩めて南月に言った。

「腎臓をくれた以上、俺も約束は守る。希望を言え」

「一つだけ。藤村家との縁を切ってほしい。これから、私はもう藤村家の人間じゃない」

白羽は眉をひそめた。「本気か?」

南月がこの機に乗じて「自分と結婚して」と迫ると思っていたのに、まさか、彼女の願いは彼と縁を切ることだったとは。

南月は白羽を見つめて、冷たく言った。「本気だよ」

数秒間、白羽は彼女を疑うように見つめて、顔を曇らせた。

「南月、君の小細工、もうやめろよ。藤村家と縁を切ったからって、俺と何かあるって思ってんのか?

そんなことなんて、絶対にない。俺の心の中にいるのは柔音だけだ。君じゃない」

その言葉に、南月の睫毛がかすかに震えた。「わかってるよ」

前世でのあの仕打ち、忘れるわけがなかった。白羽がどれだけ柔音を愛していたか、彼女が一番わかっていた。

だからこそ、今世の南月は、もう彼を愛さなかった。ただ、彼から遠ざかりたかった。それだけだった。

それを聞くと、白羽の目が彼女に数秒留まった。

どこか違和感を感じたが、理由がわからなかった。

白羽は何かを言おうとしたそのとき、病室の奥から柔音の声が聞こえた。

反射的に、白羽は病室へ駆け込んだ。南月も顔を曇らせてその後をついていった。

柔音は咳き込みながら涙ぐんでいた。

「白羽、もう中尾さんを困らせないで。中尾さんがあたしのこと嫌いって、知ってるよ。だから、彼女が腎臓をくれないとしても、あたしは恨まないよ」

柔音はまだ何かを言おうとしたが、白羽は彼女の手を強く握り、喜びの声を上げた。

「柔音!南月が承諾してくれた!これで君は助かる!」

柔音の言葉が止まった。彼女は驚きの目で南月を見つめ、そして目が赤く染まった。

「白羽、彼女の条件って……まさか、あなたと結婚することじゃないでしょわね?」

白羽が返事をする前に、柔音が南月に平手打ちした。

南月の顔に真っ赤な手形が浮かんだ。柔音は胸を押さえながら怒って言った。

「中尾南月、恥を知れ!白羽はあんたの叔父よ!そんな下劣なこと、よくもまあ……

白羽、もしあなたが彼女と結婚するなら、あたし、今すぐ死ぬわ!」

柔音の感情が爆発した。白羽は、頬を腫らした南月を無視して、ただ柔音を抱きしめた。

「柔音、愛してるのは君だけだ。この一生、君だけと結婚するんだ。他の女なんて、考えたこともない」

痛い頬を押さえながら、南月は自嘲の笑みを浮かべた。彼女はすぐにその場を離れた。

だが、背中越しに聞こえてしまった。

「彼女はもうあなたに肝臓まで提供してくれたのよ?今度また腎臓なんて、大丈夫なの?」

南月の足が止まった。彼の返事を少しだけ期待したが、次の瞬間、その期待が破滅してしまった。

「柔音、わかってるだろ。君以外の他人の生死なんて、俺にはどうでもいい。君さえ助かれば、それでいいんだ」

病室を出た南月は、数秒間落ち着いてから、携帯を取り出して指導教官の番号を押した。

「もしもし、先生。この前おっしゃってた教育支援プロジェクト、参加したいです」
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