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第4話

Author: ととまる
恭介の表情はほとんど変わらなかった。

だが、真帆には分かった。

わずかに顎が強張っている。

彼が不機嫌なときに見せる癖だった。

案の定、次の瞬間、恭介は湯呑みを置き、スマホを取り出して、素早くメッセージを送った。

その様子を見ていた真帆は、ふと以前の出来事を思い出した。

結婚して間もない頃、真帆は奈緒とクラブへ遊びに行き、羽目を外していた。そこへ、険しい顔をした恭介が迎えに来た。

当時、真帆の周りには何人ものホストが集まり、競うように気を引こうとしていた。

恭介は何も言わなかった。ただ、後ろに控えていたボディーガードへ、無言で目配せをしただけだった。

翌日、あの男たちはひどい目に遭わされ、この街から追い出されたと聞いた。

あのとき、処理を命じるメッセージを送っていた恭介も、今とまったく同じ顔をしていた。

では、今は――

和香がお見合いに行ったことが気に入らないのだろうか。

嫉妬して、縁談を台無しにするよう命じたのだろうか。

胸の痛みが、次第にはっきりとした輪郭を持ち始めた。

真帆は視線をそらし、もう恭介を見ないよう自分に言い聞かせた。

やがて食事が始まり、食卓では親族たちがにぎやかに言葉を交わしていた。

だが真帆には、何を口にしても味がしなかった。ただ、この時間が一刻も早く終わることだけを願っていた。

食事も半ばを過ぎた頃、玄関のほうから急に物音がした。

帰ってきたのは和香だった。

目の縁は赤く、泣いたあとのようだった。

いつもきれいに整えている髪も、少し乱れている。

加奈はすぐに席を立った。

「和香?どうして帰ってきたの?お見合いはまだ終わっていないでしょう?」

和香は唇を噛み、恭介をちらりと見た。だが、すぐに目を伏せ、傷ついたような声で答えた。

「最初は……何も問題なかったの。でも途中で、突然何人ものボディガードたちが押し入ってきて、理由も言わずに会場をめちゃくちゃにしたの。テーブルも椅子も全部倒されて、招待した人たちも怖がって帰ってしまって……」

「何だと?」

孝宏が怒りに任せて声を荒らげた。

「誰がそんなことをしたんだ!すぐに調べろ!」

「調べなくても大丈夫よ」

和香は小さな声でそう言いながら、真帆へ視線を向けた。

「先頭にいた人に、直接聞いたから。その人が……真帆に命じられたと言っていたの」

一瞬で、食卓が静まり返った。

全員の視線が、一斉に真帆へ向けられる。

箸を持つ真帆の手が止まった。

真帆は顔を上げ、和香を見据えた。

「何を言っているの?私はお見合いがあることさえ知らなかった。まして、会場を荒らすよう誰かに命じるはずがないでしょう」

和香の目から、ぽろりと涙がこぼれた。

「そう言って否定すると思っていた。だから……会場に押し入った人を、ここへ連れてきたの」

和香が軽く手を叩く。

すると、黒いスーツを着た男が、うつむいたまま部屋へ入ってきた。

その顔を見た瞬間、真帆の心臓が大きく沈んだ。

その顔には見覚えがあった。恭介のもとで働くボディーガードだ。

男はまず恭介へ一瞬だけ目を向けた。

それから真帆に向き直り、深々と頭を下げる。

「申し訳ございません、真帆様。ご指示いただいた件ですが……うまく処理できませんでした」

その瞬間、真帆の全身から血の気が引いた。

ようやく、すべてを理解した。

和香のお見合いを潰したのは、恭介だった。

和香がほかの男と結婚することに耐えられず、自分の部下を送り込んだのだ。

だが、恭介は和香の義理の弟にあたる。

自分の名でそんなことをすれば、二人の関係を疑われ、和香の評判にも傷がつく。

だから、すべてを真帆の仕業にした。

自分の妻に罪をかぶせ、悪者に仕立て上げたのだ。

「真帆!」

孝宏が勢いよくテーブルを叩き、立ち上がった。

怒りで顔が青ざめている。

「本当にお前がやったのか?和香にようやくまともな縁談が来たというのに、なぜ邪魔をした!姉が幸せになるのが、それほど気に入らないのか!」

加奈も怒りに身体を震わせていた。

「真帆、どうしてそこまでひどいことができるの?和香はあなたの実の姉なのよ!」

周囲の親族たちも、次々に声を上げた。

「さすがにやりすぎでしょう……」

「昔から和香のものを欲しがっていたけれど、今度は結婚相手まで奪うつもりなの?」

「恭介さんもお気の毒に。こんな性格の妻を持って……和香とは比べものにならないわ」

ひそひそと交わされる言葉が、鋭い針のように耳へ突き刺さった。

真帆は怒りに満ちた両親の顔を見た。涙を流し、被害者のように振る舞う和香を見た。そして最後に、恭介へ目を向けた。

彼は変わらず席に座り、ゆっくりと食事を続けていた。

まるで、目の前で起きている騒ぎなど、自分には何の関係もないとでもいうように。

恭介は一度も、真帆を見なかった。

言葉では表せないほどの悔しさと怒りが、胸の奥からこみ上げてきた。

説明したところで、何になるのだろう。

誰も真帆の言葉など信じない。

恭介の部下が証言し、和香が涙を流し、両親は最初から姉の味方だ。

真帆が何を言っても、嘘だと決めつけられるだけだった。

それなら、もういい。

真帆は静かに箸を置いた。

顔を上げ、両親をまっすぐに見つめる。

その声は、不自然なほど落ち着いていた。

「そうよ。和香のお見合いを台無しにしたのは、私。和香が結婚するのが気に入らなかった。私より幸せになるのが嫌だった。嫉妬したのよ。これでいい?満足した?」

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